2005年12月03日
いい家が欲しい
剛は仕方なくその本を読み出した。少し難しい内容だったが読み始めるとかなりすらすらと読めた。そしてそれだけでなく家創りのことをまったく違った視点から知ることが出来た。それこそ剛にとって目からうろこのような情報だった。剛はなんとなく亜紀子の気持ちがわかったような気がしてきた。今まで考えてきた家創りがすべて否定された気分だった。下がっていたテンションも一気に上がってきた。剛は早速その本に書いてある工法(外断熱二重通気工法ソーラーサーキット)をインターネットで調べた。そして一番近くでその工法をやっている工務店に行き着いた。ホームページを見ているといろいろな情報がのっていた。その中で現場見学会というコーナーを見つけた。二日後の日曜日だった。これに行こうと剛は思い、まずはあの頑固親父に電話した。親父を説得しなければ家創りは上手くいかないと思っていたからだ。親父はしぶしぶながら了解した。剛は日曜日に亜紀子をむかいに行った。多少気まずかった剛であったが親父と一緒だったので亜紀子も意地を張るわけには行かなかった。とりあえず子供たちは実家に留守番してもらい三人で現場見学会に行った。
2005年11月17日
しばらく実家へ帰ります
剛が会社に出た後、亜紀子は子供二人を連れて置手紙を書いて家を出た。なんと実家へ帰ったのだ。亜紀子はよっぽど剛の態度が頭にきたのだろう。実家に着いた亜紀子にびっくりした両親ではあったが、久しぶりにみた孫の顔でそんなことはもうそっちのけだった。普通であれば心配でしょうがないはずであるが亜紀子を信頼しているのか訳を聞こうとはしなかった。夜が来ていつもより早めに帰宅した剛だった。昨夜のことが少し後ろめたかったのだろう。ドアを開けると部屋は真っ暗。明かりをつけいつもと様子の違う家を不思議に思い、強盗にあったのではと心配になった。用心深く各部屋の明かりをつけ様子をうかがった。リビングについたときセンターテーブルにあった置手紙を見つけた。そこにはこう書いてあった。「しばらく実家へ帰ります。この本を読んで考え直してください。」たったこれだけだった。手紙の横には今朝方一蹴したあの本が直立していた。剛は本にこれだけ存在感をもったのは初めてだった。しかたなく剛はこの本を読み始めた。
2005年11月14日
わからずや
もう夜中の一時をまわったであろうか。亜紀子が眠れないままアイロンをあてていると剛が帰ってきた。かなり酔っ払っているみたいで剛は亜紀子に言った。「まだ起きてるのか、水水をくれ。」亜紀子は仕方なく水を汲み机についた。剛は一気に飲み干した。亜紀子はここぞとばかり切り出した。「この本を読んでみて。家つくりの大事なことが書いているから。」剛は差し出された本を突き放し「家つくりはそんな簡単じゃないんだ。本なんかに惑わされるな。いいかげんにしろ。」と言い放った。いつもの剛の気性からは想像できないものだった。亜紀子は食い下がったが剛は取り付く暇も無く布団に入ってしまった。亜紀子は腹が立ってしょうがなかったが剛が会社で何か嫌なことに会ったのだと思い我慢して寝ることにした。なかなか寝付かれなかったがなんとか眠りについた。翌朝剛が二日酔いの様子で起きてきた。亜紀子はいつものように朝食を作っていた。二日酔いの剛のために温かいお味噌汁とご飯を用意していた。剛は昨日のことは何も覚えてないかのように普通に朝食をとった。亜紀子が一息ついてる剛に家の本のことを話した。剛はその本のタイトルを見るや否や「亜紀子は本に踊らされている。家のことは俺に任せろ」と言って家を出て行った。亜紀子はショックだった。そして剛の態度に憤りを感じた。
2005年11月05日
ある本との出会い
月日は経つのは早いもので家つくりを考え始めた正月からもう半年になろうとしていた。剛一家は家つくりのテンションがさがったままだった。そんな時本屋で亜紀子がある本のタイトルに魅せられて衝動買いしてきた。その本のタイトルは「いい家が欲しい。」という単純なタイトルだった。亜紀子にとってはまさにいい家を欲しいと思っていたわけで渡に船だった。早速家に帰ってその本を読み始めた。ちょっと難しさを感じたものの読みやすく一気に読み終えた。今まで聞いたことの無いようなことがその本には書かれてあり、目からうろこというか、亜紀子はショックだった。自分たちの進めてきた家つくりが何だったのか、今まで何をしてきたのだろうか、など後悔のの波に飲まれてしまった。しかし女性は強いものでその日の夜にはすっかり立ち直りそれどころか剛にその本を読んでもらいたくて剛の帰りをひたすら待っていた。亜紀子の家つくりのテンションが一気に上がったのだ。待っていると剛からメールが入った。「上司と飲んで帰るので遅くなります。先に寝といてください。」こんな時に限ってと亜紀子は思ったが、テンションが上がってしまった亜紀子は眠れるはずもなく剛の帰りを待つことにした。
2005年11月02日
佐藤石橋断念
あれから予報どおり雨はしばらく降らなかった。佐藤と石橋は成功法でとにかく足を運んだ。かれこれ何回運んだだろう。そして何回門前払いを受けただろう。訪問自体は数分にとどまっていたので仕事の全体からしてもたいした労力にはならなかったが、精神的にはかなりへこんでいた。マニュアルも石橋の経験も頑固親父には屁のツッパリにもならなかったのだ。いつしか石橋は佐藤に任せるようになり佐藤も半ばあきらめ管理客のリストに入れてDM対応にしていった。剛一家にもこのことを報告せず、ハウスメーカーは剛家新築計画から去っていった。その間剛は頑固親父の勧める工務店というか大工さんみたいな人と打ち合わせを数回進めていたがぜんぜんといっていいほどフィーリングもプランも合わず、剛一家は家つくりのテンションが極限まで下がっていた。
2005年10月30日
あいたたた
いよいよ決戦の朝を迎えた。予定通り雨が降っていた。石橋も佐藤もしたり顔で出社した。出社した石橋と佐藤は下準備をし颯爽と会社を出た。なんとさっきまで降っていた雨がやみすっかり晴れ上がりお日様がここぞとばかりに輝きを放っていた。二人は会社の前で呆然とし顔を見合わせた。二人は高笑いして会社へ入った。もう笑うしかなかったのだろう。石橋は早速ネットを開け週間天気予報を見た。冬ということもあり、雨マークは無くそれどころか曇りマークでさえなかった。あいたたたといった一日となった。
2005年10月21日
べたな作戦会議
会社に戻った二人は作戦を練った。手紙を読んでくれたと想定して次の手を考えていった。次の日に行くのは相手も思っているはず。一日ずらして行けば、意表をつくことになる。手紙を見た親父は少し佐藤たちを待つ気持ちになるであろう。望んでもいないのに何故か待っている。そんな状況を手紙で作り出すのだ。一日空けて訪問することにした。天気予報を見ると朝のうち雨で午後から晴れてくる模様だった。決まった。朝、雨のうちに行こう。石橋が言った。雨の日に傘を持って行かずにいこう。おそらく門前払いになるからそこでしばらく立っていよう。もし雨が降らなければ降るまで立っていよう。そうして作戦が決まった。少し古臭い作戦かもしれないが彼らは自信たっぷりだった。そしていよいよ朝を迎えた。
2005年10月17日
頑固親父
石橋と佐藤は剛の親父の家に着いた。インターホンを石橋が押した。担当は佐藤だがマニュアルからは上司が押すことになっていた。「ピンポーン」と甲高い音が鳴った。「はい」と低い声が聞こえてきた。石橋がすかさず言った。「息子の剛さんの家創りを相談うけているものです。」これもマニュアル通りだった。会社名は言わない。相談と言う言葉で営業色を消す。石橋も佐藤も完璧だと思った。しかし親父は一筋なわではいかなかった。「剛の相談をうけてるのは俺だ。失礼なことを言うな」と言ってインターホンを切ってしまった。石橋は「帰ってくれ」という言葉を想定していたのでぜんぜん慌てなかった。そのために用意していた感動の手紙を用意し一時間後にポストに投函しに行き会社に戻った。さあここからが勝負である。二人は気合をいれ次の手を考え始めた。
2005年10月16日
作戦会議
佐藤と石橋は会社に戻った。今月の売上げにはならないが来月の売上げには一番近いお客さんということもあって、ミーティングが始まった。住宅メーカーともなると、マニュアルの量が膨大だ。昔は資料室に行き応戦マニュアルを片っ端から読み漁り対応策を探し出していたのだが、今はパソコンで情報の共有が出来ており簡単にデーターを引っ張り出せた。いろいろな事例が出てきてその度に営業マンがどう対処したか成功例失敗例が書かれてあった。佐藤と石橋は剛の父親を分析し、いくつかのパターンにあてはめることが出来た。さあいよいよ説得だ。準備が出来た二人は剛の父親の家に車を走らせた。
2005年10月13日
一夜明けて現実がやってきた
剛は目覚めた。昨夜のことは夢であってくれと願いながら目覚めた。夢ではなかった。現実だった。亜紀子は昨夜のことを受けて少し気分がすぐれなかった。剛は自分の父親のために亜紀子が、という思いで、とてもつらい思いをしていた。そんな剛の気持ちを察したのか亜紀子は明るく振舞った。今日契約予定だった佐藤さんに思いきって電話した。佐藤さんは何がなんだか理解できない様子で「とにかく今から行きます。」といって電話を切った。30分もたったであろうか。佐藤さんが上司の石橋さんを連れてやってきた。上司の石橋さんが開口一番こういった。「よそのメーカーが値段をもっと下げてきたのですか?うちはいくらだったら契約できるのですか?」といつもの落ち着きでは想像できないほど興奮していた。石橋さんの中では久しぶりの大どんでん返しだったのだ。剛は本当にあったことを正直に話し石橋さんに説明した。月末の締めを迎えたメーカーの営業マンにとって絶望的な話だったのだ。しばらくして冷静さを取り戻した石橋さんと佐藤さんは剛と亜紀子とゆっくり話した。「もしお父様を説得できたらうちで建ててもらえますか?」亜紀子は言った。「もちろんです。お願いします。」剛も「なんとか石橋さんからも説得してください。」と続いた。石橋さんは剛と亜紀子に必ず説得してみせると約束し帰っていった。