2005年07月04日

『主婦之友花嫁講座 お惣菜料理』(昭和16年)

f417342d.jpg 6月24日の古書展以来、古書探索に出ていないので、とりあえず24日に買って手元にあるものをもう少し紹介したい。「食」関係の本と雑誌には、つい手が出てしまう。
 写真の本は、主婦之友社発行の『主婦之友花嫁講座 お惣菜料理』である。ブルーの地に鮮やかな野菜のイラストが描かれた表紙が、何ともいえずかわいい。この装幀は、現在見ても少しも古くないという気がする。吉邨二郎の装幀だった。巻頭にはカラーページがついていて、カラフルな料理の写真が載っている。「日曜日のお昼」という見出しで、「サンドウィッチにブラマンジ」が取り上げられているなど、ずいぶんモダンだ。
 巻末の広告を見ると、このシリーズは正続全20巻出ていて、この『お惣菜料理』が第一巻で、以下、生花と茶の湯、洋服裁縫、洋食と支那料理、和服裁縫(上)、和服裁縫(下)、お作法と美容、お客料理、家庭経営法、実用手芸と染色、婦人衛生と育児、毛糸編とレース編、健康料理、食料品とお菓子、和洋小物裁縫と編物、洗濯と衣類整理、習字兼用手紙の書き方、家庭医学、家庭園芸、住宅の知識、と続いている。
 奥付を見ると、初版の発行日は昭和14年5月だが、この本は2年後の昭和16年6月で50版になっている。昭和16年というと、かなり戦局が切迫してきている時期だ。そんなときに、よくこうした本が出版できたものだと不思議に思ったのだが、おそらく初版本の内容にほとんど手を入れずにそのまま重版したのだろう。
 最初の「贈る言葉」というのは、初版に載ったままのものだと思われるが、そこには、結婚して家庭を持ったばかりの女性たちに贈る言葉として、「主婦之友社では、このたび花嫁講座の一つとしてこの本を発行するに当り、一人の花嫁さんと膝を突き合せて相談しながら、お惣菜料理についての一切の知識をお授けするつもりで著わしました」というように書かれている。この「贈る言葉」には、初々しい花嫁たちに対する先輩からの暖かいエール、というものが感じられる。
 だが、やはり戦時下を伝える文章もあった。巻末に載っている次の文章は、昭和16年頃の版になってから、書き加えられたものなのではないか。初版本を調べたわけではないので、あくまでも推測だが……。

  全日本の婦人に告ぐ!!
 『主婦之友花嫁講座』正続廿巻は、国防国家体制下の日本婦人に必要欠くべからざる知識一式を網羅した大全集です。
 これからの日本婦人の最大任務は街頭に進出することでもなければ、職場の第一線に活躍することでもありません。まづ『完全な主婦』となることです。優秀な家庭婦人となつて、健全明朗な国民生活の母胎を築くことです。強く賢い母となつて、健やかな第二国民の育成に当ることであります。なんといふ輝かしい使命ではありませんか。(以下略)

 「贈る言葉」と「全日本の婦人に告ぐ!!」のメッセージの違いに驚かされる。同じ1冊の本に書かれている文章とはとても思えない。こうして国家総動員体制がつくられていくわけで、重苦しいものを感じずにはいられない。


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