山田耕筰作品集校訂日誌

2015年は山田耕筰の没後50年にあたります!! 総合音楽制作会社クラフトーンの文化事業の一環として2005年から開始された、山田耕筰の作品の校訂、普及事業にまつわるこぼれ話や演奏会情報などを紹介。

山田耕筰のピアノ音楽

 山田耕筰はほぼ全てのジャンルに作品を残しているが、その創作期はジャンルごとにかなり明確に別れており、山田の代表的ジャンルである歌曲でさえも、主要作品のほとんどが1920年代に集中している。この期間を「歌曲の時代」とすると、室内楽や管弦楽などの器楽作品が創作の中心だった1910年代を「器楽の時代」、そして20年代の「歌曲の時代」を経て、1930年代には彼の音楽の集大成ともいえる「オペラの時代」が訪れる。
 ピアノ曲の創作は「器楽の時代」の中でも特に1914年から17年の間に集中的に行われている。この時期、山田はほぼピアノ曲しか手がけておらず、「ピアノの時代」ともいえる期間となっていたが、彼の作風はこの期間に劇的な変化を遂げるのである。
 ベルリン留学を終えた山田耕筰はロシア経由で帰国したのち、日本初の交響曲となった『かちどきと平和』を披露したり、支援者であった岩崎小弥太男爵の特命を受けて日本初の常設オーケストラを組織するなど、西洋音楽のパイオニアとして八面六臂の活躍を見せる。
 だが、その一方で彼は、自身の創作については行き詰まりを感じていた時期でもあった。帰国途中にモスクワに滞在し、そこで接したスクリャービンの音楽に感銘を受けた山田は、自身の作品に何ら魅力を感じなくなってしまったのであった。「…いくら筆をあらためても、いかように想を練っても、それまで書き上げた私のもののうちには、1つも「私」が見出せなかった。それは全て借り物であった。発見ではなく、反映であった」と後に回想するほどのスランプを抱えていた山田は、ベルリンで魅了されたイサドラ・ダンカンの舞踊芸術に傾倒し、自らも振付の研究をするなど、現代舞踊の世界に活路を見出そうとしたことすらあった。そんなさなかに天啓は突然舞い降りたのであった。
 「…その年(1914年)の3月である。陣痛の痛みに悩みあぐんでいた私に、一道の光明が与えられた。3月の20日ではなかったろうか。私は一気に7つのピアノ小品を書き上げた。舞踊詩『彼と彼女』がそれである。私のその時の喜びは真に筆紙に絶するものであったといっても過言ではない(フィルハーモニー回想/1926より抜粋)」
 山田本人にここまで言わしめるほどの出来栄えとなった『彼と彼女 7つのポエム』は、もはや無調としかいいようのない斬新な和声や激しい強弱の対比、静と動のめまぐるしい交錯に彩られるなど、前年に書かれた2作の交響詩ではまだ萌芽状態であった山田音楽の特色が、鋭い緊張感とともに全面的に表出している。さらに、音色旋律へのアプローチとなる、片手の単旋律からピアノ音域を十全に活用した幅広いレンジに至る増幅と減縮、響きが減衰するピアノの構造を活かした音の空間形成など、さらには邦楽にも通じるような書法もそこに見出すことができる。山田本人が語る、西洋音楽への「(自己)反映」から、独自の音楽への「発見」が、本作において見事に開花したのであった。そしてこのピアノ曲が持つ「強弱の対比」「静と動の交錯」という運動性は、音楽を通して試みられた舞踊へのアプローチでもあり、「音による舞踊」という新しい形式の創造でもあった。山田はこの後「舞踊詩」という言葉を発明し、舞踊家の石井漠、演出家の小山内薫らと「舞踊詩運動」を展開していくのだが、『彼と彼女』はそうした山田の新たな運動へのターニングポイントとなった作品である。
 1915年は前述のオーケストラが本格始動した年でもあり、多忙を極めていたためか、完成した作品は『若いパンとニンフ 5つのポエム』と連作『日記の一頁』の最初の1章のみであった。『若いパンとニンフ』においては、響きの斬新性は控えめになったものの、新たにユーモア的要素が添加され、前作とはまた異なる奥行きを見せる。
 1916年2月には、山田が心血を注いだ日本初のオーケストラ、東京フィルハーモニー会管弦楽部は解散の憂き目に遭うのだが、その一方で山田のピアノ曲への創作熱は爆発し、翌17年末までの間に今日知られるピアノ曲のほとんどが書き上げられている。後にアメリカで初演された舞踊交響曲『マグダラのマリア』のスケッチもこの時期に書かれており、「器楽の時代」のピークであったといって良いだろう。
 ちょうどこの頃、山田とある夫妻との交友が始まる。著名な林学者である寺崎渡とその妻悦子である。悦子は四男五女の母として家庭を守る一方、日本の古典文学に造詣が深く、短歌を詠むことを愉しみにしていたという。その悦子が、近所に住んでいた山田にピアノのレッスンを受けるようになったことがきっかけで、家族ぐるみの交際が始まったらしい。山田は彼女の持つ豊かな国文学の知識や詩的感覚に大いに刺激を受けたようで、書き上げるピアノ曲は次第に文学的な表題を持つようになり、詩的な叙情性を湛えた作品が増えていく。1917年には、日本の古典文学をモチーフにした唯一のピアノ連作『源氏楽帖』が書かれるが、これは寺崎悦子からの示唆を受けて作曲されたものであるという。この時期に書かれた多くのピアノ曲が寺崎悦子に捧げられていることをみても、彼女との親交が創作に与えた影響の大きさを推し量ることができよう。そして山田はさらに彼女の詩をテキストにした歌曲集の筆を執る。1917年9月12日に完成させた連作歌曲集『澄月集』は、寺崎悦子のテキストに見られる古典文学的な表現を十分に反映すべく、日本の伝統音楽の語法や音階を取り入れ、さらには歌と伴奏の間にも、これまでの作品にはなかった、時間軸にとらわれない“間”を持ち込むのである。歌と伴奏の緻密な融合は本作をもって本格的に始まったともいえ、1920年代の「歌曲の時代」の原点はこの『澄月集』にあるといっても過言ではない。山田の音楽にこれほどの影響を与えた女性は後にも先にも寺崎悦子のみである。しかし両者の関係がどこまでのものだったのかは不明であり、彼らの交流は1917年末に山田が渡米したことによって途絶えた。なお、寺崎悦子は後に夫の渡と離婚し、1928年に病死する。
 山田は渡米中の1919年に『澄月集』に英訳歌詞を付け、「A cycle of five Japanese Love - songs」というタイトルで出版したほか、寺崎悦子に捧げた『夜の歌2』『夢噺』『みのりの涙』の3曲のピアノ曲をまとめて『プチ・ポエム集』として出版している。悦子のために書かれた作品群を日本人の目の届かないアメリカで出版しているのは、どこか暗示的である。
 「ピアノの時代」の前期に支配的であった舞踊的躍動と前衛的和声に彩られた斬新な作風は、悦子との交流の中で得た詩的叙情性、そして古典文学を媒介した伝統音楽への接近により、新たな展開を迎える。
 1920年に完成させた山田の代表的管弦楽曲『明治頌歌』や、北原白秋との出会いから大きく開花した、山田の黄金期ともいえる「歌曲の時代」は、この「ピアノの時代」なくしては語れない。山田歌曲の特徴の一つに、ピアノ・パートが非常に充実していることが挙げられるが、それは「ピアノの時代」において多彩な表現のパレットを獲得したからであり、そこで得たピアノの豊潤な響きが、歌曲の充実度をさらに高めているのである。
 1920年代以降、山田はピアノ独奏曲を散発的にしか手がけなくなった。しかしその一方で、創作の中心になった歌には必ず“山田の響き”を持ったピアノ譜がついてくる。ここで奏でられるピアノの響きは単なる伴奏の枠を越え、声と一体化したような満足感をピアニストに届けてくれるのである。山田歌曲がピアニストの間でも人気が高いのは、ピアニストにとっても弾きがいのある“ピアノならでは”のスコアだからであろう。
 「ピアノの時代」の楽曲には、そうした山田耕筰の音楽の原点ともいうべき響きが詰まっている。

交響曲「かちどきと平和」演奏情報!

来週、7月23日、名古屋のプランタン管弦楽団さんの定期演奏会にて山田耕筰の交響曲「かちどきと平和」が演奏されます。

演奏会まで一週間となり、中日新聞に紹介記事が掲載されました。


中日新聞朝刊20230715


団員のみなさまがたの音楽への愛情と演奏会への熱意が伝わってくる、とっても素敵な記事ですね。
当日会場に足を運べないことがとても残念でなりません。
演奏会のフライヤーも貼っておきますが、プログラムがとてもユニーク。
ドヴォジャークの交響曲第6番!!

ご興味ある方はぜひ足をお運びください。

20230723-21th-flyer


読売新聞の記事より

昨日7月14日の読売新聞の夕刊に、
「ピアノにみる山田耕筰ルネサンス」
CDが紹介されておりました。
アマゾンでの在庫状況も11セットあったものが8セットに減っていましたね。
素敵なCDです。
ご興味ある方はぜひご購入ください。


読売新聞0714夕刊

山田耕筰ピアノ作品全集CD情報

リリースからずっと在庫なしになっていたアマゾンの
「ピアノ作品にみる山田耕筰ルネサンス」
ようやく在庫有りになりました。
ご興味ある方はお早めにお買い求めください!!

こちらでご購入できます。

追悼、栗山昌良先生

新国立歌劇場で山田耕筰のオペラ「黒船」が上演されたのが2008年2月。
私は2006年にこの上演ニュースを聞きつけてから、頑張って楽譜の整備を目指しましたが、1年後に出来上がったのは序景のみ。本編まで整備することはかないませんでした。
それから15年、新国立劇場では過去の上演作品のアーカイブを閲覧することができるのですが、なぜか「黒船」のみが権利関係の問題などで宙に浮いてしまい、今まで見ることができかったのが、今年に入りようやく可能になりました。さらにコロナが5類になったことで、閉鎖されていた情報センターも再開され、さらに今月からはミニシアターのような上演スペース(ビデオシアター)も可能になり、本日、日本楽劇協会の山田浩子様と一緒に閲覧に伺いました。


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情報センターは歌劇場の5階にあり、だれでも無料で入れます。
中にいらっしゃる方々もとても親切な方々でした。
本当は演出の栗山昌良先生も、ずっと「黒船」のアーカイブ閲覧を希望されていていらっしゃったのですが、ご高齢ですぐにお出になれなかったこともあり、今回は私と山田様でとなりましたが、栗山昌良先生、昨日の6月23日にお亡くなりになってしまわれました。せっかく閲覧可能になり、コロナも一段落した矢先のことで、あまりに残念でなりません。

しかも、私は本日この情報センターで山田様から訃報を伺うまでそのことを全く知らないまま、たまたま話題のネタにと栗山先生にサインを頂いた「黒船」序景のスコアを持参していました。

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本日は30人まで入れるビデオシアターをご用意くださっており、私と山田様の2人でゆったりと拝見させていただきましたが、隣のシートには栗山先生のサイン入りのスコアを置いて、「黒船」の
映像をともに見させて頂きました。

これはゲネプロ直前に客席でご挨拶してくださった際に、栗山先生から頂いたサインです。


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当時のこともブログでだいぶ熱っぽく書いておりました。
なにしろ私もまだ30半ばでした(笑)。

ちなみに2月22日のプレミアの記録がこちら

映像で見る「黒船」は、客席とはまた違い、それぞれのキャストのアップが入ったり、間奏や場面転換時にはオーケストラピットの演奏風景に切り替わり、若杉先生の指揮姿などなど、映像ならではの場面がたくさんありました。そしてなによりも素晴らしいのが、この演奏が初の完全ノーカット版であるということ。山田耕筰自身も序景ナシでの上演であった上に、その他の上演でも20分以上ある序景が冒頭の盆踊りのシーン5〜6分のみで、さらに本編もあちこちに短いカットをを加えているものばかりでした。新国立劇場のアーカイブのものが唯一無二のものであると皆さんが認識してくだされば、今後そうしたカット演奏は登場しなくなるのではないでしょうか。無駄なところはありません。
そして、栗山先生の見事な演出!!
とりわけ序景の冒頭、20人近い合唱団が2階建ての舞台で披露する盆踊りの躍動感、証明を巧みに用いた陰影のある舞台、舞台人ほとんどが和装という、オペラでは殆ど無い環境での人々の所作までものすごく緻密に作られています。
このシーンを見るだけでも栗山先生の演出の凄さに畏怖せざるを得ません。
一度しかお会いすることは叶いませんでしたが、その短い挨拶の間にもとてもフレンドリーに演出の様々な裏話を聞かせて下ったこと、今でも忘れられません。

本当になんてタイミングだったのでしょう。
もしかしたら、栗山先生、私達と一緒に鑑賞してくださっていたかもしれないですね。
今回、久しぶりに「黒船」に接したことで、私も大仕事をやりかけのまま止めてしまっていたことに改めて気付かされました。
そしてこのオペラがやはりものすごい傑作であることも改めて気付かされました。
かなり大規模なオペラですので、この先も上演機会にはなかなか恵まれないと思いますが、少なくとも楽譜さえ揃っていれば、なんらかのアクションの一助にはなります。現在はほぼ上演不可能の状況でもありますから。
3分の1の規模の「あやめ」ですら7年近くかけてしまったのに、「黒船」なんてどんだけ時間がかかるんだろうと気が遠くもなりますが、小さな小さな一歩でも少しずつ積み上げていきたいと思います。

栗山昌良先生、素晴らしい舞台を残して下さり本当にありがとうございました。

栗山昌良

山田耕筰ピアノ全集CDリリース!

音楽学者の瀧井敬子氏がてがける音楽振興プロジェクト「グラチア・アート・プロジェクト」の第7弾として企画された山田耕筰のピアノ全作品の録音計画。2019年にスタートしながら、コロナ禍などもはさみつつ、ようやく6月20日に4枚組のCDがリリースされました。
演奏は気鋭のピアニスト、佐野隆哉さん。

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CDのタイトルは「ピアノ作品にみる山田耕筰ルネサンス」とあり、ぱっと見、全集などという文言が見当たらないのがわかりにくいのですが、私が校訂した東京ハッスルコピー版のピアノ全集に収録しているオリジナル作品だけでなく、私が全集に採用しなかった編曲ものや、留学前の習作なども採用した、正真正銘のピアノ作品全集です。

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佐野氏は、私が校訂した東京ハッスルコピー版のピアノ譜を採用してくださり、丹念に読み込んだ上で様々な疑問点を提示して下さり、そこで以前にこちらにも挙げたようなたくさんの誤植も発見して頂きました。
また、ハッスルコピー版に未収録の、「日本組曲」や「京の四季」などといった編曲作品、「無言歌」や「憧憬の歌」などという、東京音楽学校時代に書かれた習作は、本プロジェクトのために新たに私が譜面を作成しましたので、いずれ「ピアノ全集補遺」として、楽譜を敢行するかもしれません。
録音は2020年5月に岡山県のエスパスセンターのホールで行われる予定でしたが、まさにコロナが猛威を振るっているさなか、初めての緊急事態宣言で国民の殆どが家にこもっていた状態。プロジェクトもやむなく延期となり、その後同年の11月、そして翌2021年5月の2回に分けて行われました。人的移動の制限がある中で、感染するかもしれない、感染させてしまうかもしれないリスクと恐怖を抱えながらの録音セッションは大変なご苦労があったとお察しします。

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しかしながら、できあがった録音を聴いてみると、前衛的で鋭角的な響きを持った初期の作品から次第に水彩画のような透明感のある響きに変わっていく、作風の変化に合わせて、非常に細やかにニュアンスを構築していく佐野氏の演奏技術にまずは舌を巻きます。古典文学をモチーフにした連作「源氏楽帖」では幽玄とした響きの他に、どこかユーモラスな動きを伴ったフレーズが登場するが、そうした部分においても見事なタッチで弾き分けられており、彼の見事な解釈とそれを実際の響きに昇華するだけの力量は見事という他ありません。
そしてとてもふくよかな響きをもたらすエスパスホールと、その響きをしっかり拾い上げたN.A.Tさんの録音技術も素晴らしい。
なお、私はCDのブックレットのエッセイ「山田耕筰とピアノ音楽」と、楽曲解説の方も書かせていただきました。

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現在CDの販売はアマゾンのみのようで、先ほど覗いてみたら一時的に品切れとなっておりましたが、おそらくすぐに品切れも解消されると思いますので、ぜひ入手してみてください。
近々配信も行われるようです。

アマゾンのページはこちら

山田耕筰のピアノ作品というと、以前にイリーナ・ニキーティナさんがコロンビアからリリースした「山田耕筰ピアノ作品全集」がありましたが、こちらは全集といえどもだいぶ曲数が少なく、「源氏楽帖」すらはいっておりませんでた。
その後、最近では杉浦菜々子さんが「山田耕筰ピアノ作品集」「知られざる山田耕筰のピアノ音楽」という2種類のCDをリリースされました。杉浦さんは当初から初期の習作なども積極的に紹介されたり、未完の作品を補筆して演奏するなど、とても興味深いアプローチをされています。
ただ、まずは山田先生ご本人がしっかり完成させた作品を聴いてみていただきたいです。
本CDではディスク1から3に留学後に作曲家として本格的に活動を開始してから晩年に書かれた最後のピアノ曲「前奏曲ト短調」までが収録され、ディスク4では編曲や習作など、山田先生が様々な試行錯誤の末に形になったものがまとめられています。まだ日本では本格的に作曲を学ぶすべがなく、山田先生は先達の模倣などもしながら試行錯誤を繰り返しながら作曲を独習していきますが、そうした作品群を見ていくと、作品をまとめながら、少しずつ西洋音楽史そのものをたどっているようにも見えるのがとても興味深いです。
日本の近代音楽史の縮図ともいえるような、資料的価値もさることながら、とにかく楽しくて素晴らしい曲が目白押しです。ぜひ一度聴いてみていただき、次にピアノのある方が音を鳴らしてみてください。とても素敵な体験が待ち受けているはずです!

追悼、坂本龍一さん

昨夜、坂本龍一さんの訃報という衝撃のニュースがとびこんできました。
日中はずっとでかけていて、ニュースを見たのが夜中近く。
大好きだったアルバム「1996」や、地雷問題を扱った「Zero Landmine」などを聴いていたら涙が止まらなくなってしまいました。
ちなみに、最初に坂本龍一の音楽に接したのは、ムツゴロウさんが監督した映画「子猫物語」のサントラでしたが、小学生でほとんど記憶なし。
次がアニメ「オネアミスの翼」のサントラ。こちらはかなり印象的で、のちに図書館のCDコーナーにサントラCDがあったのを見つけて、テープにダビングしました。
映画「ラスト・エンペラー」は高校1年。映画もサントラもかなり夢中になりましたが、実はYMOとはほとんど結びついてなく、彼の全体像に触れたのが、だいぶ先のアルバム「1996」、さらに当時深夜帯でアルバイトしていたお寿司屋さんの板前さんがYMOが大好きで、私がキーボードが弾けると聞いたら喜んでYMOのワールドツアーのヴィデオとテープを持ってきて、これをスタジオで一緒にやろう!と頼まれ、「The End Of Asia」や「コズミック・サーフィン」などを譜面化する中、自分も当時のテクノ音楽にのめり込みました。

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そんななかで登場したのがこちらの2冊。
坂本龍一全仕事。
こちらは「シェルタリング・スカイ」までの作曲メモや構想ノート、様々な雑誌などへのインタビューが載った一冊。
坂本龍一音楽史の方はもっとコアで、坂本龍一にとって音楽とはなにかというのを少年時代からのメモや楽想スケッチ、さまざまなインタビューなどでまとめたもの。
浮かんだ楽想をただ紡ぐだけでなく、そこに思想的、思考的な裏付けを用意する、彼の姿勢は、
たとえば山田耕筰の「作るのではなく生む」という考えと逆なのかもしれません。
「作るのではなく生む」は、作曲家はデバイスであり、無の中に存在している「ある音楽」を、その形通りにこの世に登場させる行為と読めます。
坂本龍一は自ら創作をコントロールした、思考する音楽を目指したようにも感じられます。若い時に計算で音楽を作る試みやコンピュータで音楽を作る試みをするために東大にも足を運んだといいます。それでいて、彼の音楽はものすごく自然に響きます。特に後年はメロディーすらもほとんど登場させず、響きの変化だけで豊潤な音楽世界を作り上げました。心の移ろい、空気の変化のような、目に見えないものを音に昇華できたのは彼だけだったのではないでしょうか。「戦場のメリークリスマス」も「energy flow」も素敵な音楽ですが、彼のたどり着いた独自の境地に、もっと皆さんが注目してほしいと思います。
上記の本は私が22〜3ぐらいの、ふらふらしていた時代に購入しましたが、1冊7〜8千円する本をどうやって買ったのかあんまり憶えてない(笑)。あの頃はお金がなくていつもお腹をすかせていましたが、本やCDはわりと迷わずに買ってしまっていたので、そんな感じだったのでしょうね。今は手に入らない幻の本になっているようですね。今でも大切な本です。
坂本龍一さんの本は他にも「時には違法」とか、「友よまた会おう」(村上龍さんとの対談集)、自伝などなどほとんど読みましたが、彼の正確な言葉選びには常に感銘を受け、自分もそうありたいと思ったものでした(全く無理でしたが)。
また、坂本龍一さんは山田耕筰の音楽がとても好きだったそうで、彼の和声感の斬新さについても触れられています。
心よりご冥福をお祈りします。
素敵な音楽を有難うございました。

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ピアノ・トリオのアルバム「1996」のマッチングスコア集。
こちらも今は入手困難です。


山田耕筰「交響詩〈曼荼羅の華〉」演奏情報

今週の土曜、3月25日にはオーケストラ・ニッポニカのコンサートで
山田耕筰作曲「交響詩〈曼荼羅の華〉」が演奏されます!
指揮は野平一郎先生。
この日は、他にも武満徹の「Winter」や
野平先生の新作の初演など、
興味深い楽曲が目白押しのすごいプログラムになっています。

野平先生には山田耕筰ピアノ全集の刊行の際に帯のキャッチにとても素敵な文章を寄せてくださいました。改めて感謝致します。

難曲揃いでものすごく熱量の要るコンサートなのですが、チケットはまだ残っていると関係者より聞きました。お時間の取れる方はぜひお誘い合わせの上、お越しください。

ニッポニカ



今年はさらに7月23日に名古屋のプランタン管弦楽団というアマチュア・オーケストラの方々が、
交響曲「かちどきと平和」を演奏してくださいます。

プランタン管弦楽団第21回定期演奏会
[日時] 2023年7月23日(日)
12:45開場 13:30開演
[場所] 愛知県芸術劇場コンサートホール
  (地下鉄栄駅より徒歩3分)
[指揮] 中村暢宏  
[曲目]
L.v.ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番
山田耕筰:交響曲ヘ長調「かちどきと平和」
A.ドヴォルザーク:交響曲第6番ニ長調 作品60

ドヴォジャークの第6とか、
実演ではなかなか聞けないけど、とっても面白い楽曲も聴けるのは、音楽愛ゆえに集まったアマオケならではですね。もちろん「かちどきと平和」もそうです。
ドヴォジャークの第6は第1楽章などはブラームス第2への愛があふれているというか、かなり影響を受けた感じになってますが、第3楽章のフリオーソなどはまさにドヴォジャーク!!私も一度実演に接してみたいです。



10年前には考えられなかった

山田耕筰作品演奏会情報:交響曲「かちどきと平和」

最初にお話があったのはたしか2021年の秋ことで、随分先のお話だなあと思いながら伺っておりましたが、時は流れて2023年・・・・。

秋山和慶先生が日本センチュリー交響楽団を指揮されて、山田耕筰の交響曲「かちどきと平和」を演奏されます。

センチュリー豊中名曲シリーズという演奏会の
vol.25「100年後のたのしみ」
3月18日15時開演
山田耕筰:交響曲「かちどきと平和」
ガーシュウィン:ラプソディー・イン・ブルー
ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)

ラプソディー・イン・ブルーのピアノはなんとあの角野隼斗、かてぃんさん!
さすがは人気ピアニスト、チケットは早々に完売されていました。
この中では山田耕筰作品が一番知名度がないでしょうけど、それだけに名曲やかてぃんさん目的でいらっしゃった方々に、こんな作品もあると聞いてもらえるのはとてもいいですね。

ちなみに作曲年代は
交響曲「かちどきと平和」が1912年。
(山田耕筰:1886年生)
ラプソディー・イン・ブルーが1924年。
(ガーシュウィン:1898年生)
火の鳥が1909年。
(ストラヴィンスキー:1882年生)

だいたい同じ年代の日本、アメリカ、ロシアの代表的作曲家の約100年前の作品というコンセプト。
とてもユニークで面白い企画ですね。
会場にいらっしゃられる方、ぜひお楽しみいただきたいと思います。

「山田耕筰ピアノ全集」誤植の報告3

東京ハッスルコピー刊
「山田耕筰ピアノ全集」の三分冊の3巻目の誤植報告です。
ピアニスト佐野隆哉さんのご協力を得て、全曲再度詳細に検討しなおした結果、かなり多くの誤りが見つかってしまいました。まだかなりの在庫があるので、私が生きている間に再販の可能性はほとんどありませんが、こちらにご報告しつつ正誤表のPDFもダウンロードできるようにしておきます。


http://www.craftone.co.jp/~hisamatz/YamadaPiano_ListOfErrata.pdf

上記のアドレスをコピーしてブラウザにペーストしてください。


● Volume III P.6
「聖福2」
メトロノーム記号
vol.3_聖福2


● Volume III P.8
「ソナチネ」
2、14小節目:スラーの終点を2拍頭に。
vol.3_ソナチネ1

● Volume III P.8
「ソナチネ」
8小節目:1小節挿入し、1番カッコ、2番カッコとする。
vol.3_ソナチネ2

● Volume III P.12
「子供とおったん」
2.[目かくしごっこ]
25小節目 : 左手2拍目は[C, G, C]ではなく[E, C]。
vol.3_こどもとおったん1

Volume III P.18
「子供とおったん」
6.[静かな午后]
20小節目 : 左手2拍目は[A]ではなく[G]。
vol.3_こどもとおったん2

● Volume III P.20
「子供とおったん」
7.[奴の彌次郎兵衛]
7小節目 : 2拍目は[D]ではなく[Dis](シャープを追加する)。
vol.3_こどもとおったん3

● Volume III P.64
「前奏曲 変ホ長調」
5小節目 : 3拍目B音のタイは下声だけではなく、上声部にも必要(6小節頭はBを打鍵しない)。
vol.3_前奏曲変ホ長調

● Volume III P.64
「春夢」
19小節目 : 右手最終音[Es]を追加(前の音と同じ)。
vol.3_春夢

● Volume III P.67
「前奏曲[聖福]」
3小節目 : 右手3拍目、下声の[B]にタイを追加。
vol.3_前奏曲「聖福」

● Volume III P.67
「前奏曲[聖福]」 15小節目 : 右手3拍裏下声は[Des]ではなく[Es] 。
vol.3_前奏曲「聖福」2

● Volume III P.67
「前奏曲 ト短調」
13小節目 :左手4拍目は[C]ではなく[Cis] 。
vol.3_前奏曲ト短調


演奏の際にはぜひご注意ください。
山田先生、間違えた楽譜を刊行してしまい、本当にすみませんでした・・・。
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