2018年09月22日

慢性子宮内膜炎と着床障害

最近慢性子宮内膜炎(Chronic Endometritis)との関係が注目を集めております。以下は9月8日の朝日新聞デジタルの記事です。

子宮の内側の粘膜に炎症が続く慢性子宮内膜炎(内膜炎)の女性について、抗菌薬での治療によって妊娠率が向上することが、東京大学などの調査で分かった。内膜炎の女性の妊娠率や出産率は、内膜炎が無い女性より大幅に低いことも判明した。原因不明の不妊の一部には内膜炎が影響している可能性があり、治療の可能性が開けてきた。

 東京大学医学部付属病院の着床外来を2006年6月〜08年7月に受診した女性128人のうち80人(約63%)に内膜炎があったが、抗菌薬を2週間のむ治療で9割は治った。よくなった後の状況が把握できている49人中29人(59%)が妊娠した。これは同病院の着床外来の患者で、内膜炎の無い女性の妊娠率44%より高かった。同様の結果は、国内外の他の病院からも報告されている。

 同外来の患者は他の不妊クリニックで問題のありかが判明しなかった女性が多いという。東大の広田泰講師(女性診療科・産科)は「内膜炎は自覚症状がほとんどなく、原因不明の不妊症の多くは内膜炎が原因の可能性がある」と指摘する。不妊原因が不明の場合、専門外来での内膜炎の検査を勧めている。

当院でも希望があれば慢性子宮内膜炎の検査を施行しております。
また、ERA検査(子宮内膜着床能検査)と同時に行うことも可能です。

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2018年09月18日

奈良県初タイムラプス培養開始します!

本日タイムラプス培養器が搬入されました。
業者さんに尋ねてみたところ奈良県の不妊治療クリニックとしては初めての導入となるらしいです。
当院ではアステック社製の『iBIS受精卵観察システム』 という機種で待ちに待っての稼働です。

タイムラプス胚培養とは・・・

胚に優しく安定した環境を提供することでストレスを最小にします

卵管の中で『受精』した胚は5日〜6日間細胞分裂を繰り返しながら卵管から子宮へと『移送』され子宮内膜に『着床』します。卵子や受精卵にとって体外での受精・培養は想像以上に過酷で少しでも胚へのストレスを減らす事は治療を成功させる上で大変重要です。

通常は媒精(ふりかけ法)・顕微授精施行後約16〜18時間後に受精の確認を行い、その後24時間毎に培養士が顕微鏡下で胚を観察し評価を行います(定点観察)。しかしながらこの作業により培養液中のpHの変化や温度変化が起こり胚にストレスがかかる懸念があります。これに対してタイムラプスは一定間隔で自動的に写真撮影しそれらを繋ぎ合わせる事によって動画のようにする装置です。タイムラプスを使用することによって胚を培養器外に取り出すことなく連続した胚観察が可能となります。すなわちより母体に近い優しく安定した環境を提供できると考えています。

また受精にかかる時間が少し早い場合には細胞内に出現した前核が一度消失するので、定点観察では受精したのかしなかったのかが正確に判断つかないこともあります。タイムラプス培養器は連続的に卵子の状態を観察・記録してくれますのでこのような心配はありません。

胚からのメッセージを逃さず優れた胚を判定することが出来ます

近年、胚発育の経緯がその後の発育、妊娠の予測に役立つことが知られておりタイムラプスによる胚培養で、成長速度や異常な受精・分割が明らかとなります。それらと形態的な胚のグレード評価を組み合わせて良好胚を選択することができ、妊娠率の向上が期待できます。

最近の知見としては、、、

受精後前核が出来てからその後前核が消失して第一卵割までの時間が長いと異常の胚である可能性が高くなる。
⇒今年の受精着床学会でも報告されておりました。

直接3細胞以上に分割する胚は異常である可能性が出てくる。

多核は異常率が上がるという報告があるが、多核に関しても様々な形式があり多核のでき方により妊娠率に影響するもの、そうでないものがあるという事もわかってきております。

当院では10月からの採卵に関しては全例タイムラプスによる培養を施行し胚の観察をおこなってまいります。




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体外受精で出生 50万人超す

2016年に国内で行われた体外受精により、過去最多となる5万4110人が誕生していたことが日本産科婦人科学会のまとめでわかった。17人に1人が体外受精で生まれたことになる。国内で初めて体外受精児が誕生した1983年以降、累計で53万6737人となり、50万人を突破した。

 体外受精は、卵子に針を刺して精子を注入する方法や受精卵を凍結保存する技術が開発されるなど、進歩してきた。特に凍結保存は妊娠時期を調整できることから利用者が多く、16年の体外受精で生まれた子どもの8割を超える4万4678人がこの方法だった。

 埼玉医科大の石原理教授(産婦人科)は「体外受精で生まれる子どもは、もはや珍しい存在ではない。不妊に悩む人たちの有力な選択肢として啓発することや経済的支援など、環境整備が必要だ」と話している。

(2018年9月12日 読売新聞)

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2018年09月08日

北海道胆振東部地震に遭遇しました

このたびの台風21号および北海道胆振東部地震で被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。

9月6日(木)から7日(金)にかけて北海道旭川で日本生殖医学会学術集会が 開催される予定でした。例年11月に開催されるのですが、今年は北海道ということで時期を繰り上げての開催予定となっておりました。あいにく旭川へは関西方面からの直行便がなく新千歳空港を経由してJRで向かうか羽田空港経由で旭川空港まで向かうかのどちらかになります。5日は午前中診察があり夕方の便にしか乗れないため羽田経由は時間的に難しく伊丹から新千歳に向かいそこからJRで旭川に向かうことにいたしました。旭川駅到着は22時25分予定でしたが学会は翌日からなのでその日のうちに現地に入ればよく7日(金)を休診とさせていただき7日の夜にこちらに帰ってくる予定でした。

当初台風21号が接近していたため予定通り飛行機が飛ぶかどうか不安でしたが途中で速度を上げ4日には本州を通過しました。ご存知の通り高潮による関空滑走路への浸水とタンカーが連絡橋に衝突する事故のため関空便が欠航となりました。私の予定していた伊丹便は通常通りのフライトでしたので19時には新千歳空港に降り立つことができました。 ところが20時発のJRに乗ろうとしたところ改札口は閉鎖されており入場を待つお客さんで改札前は長蛇の列。駅員さんに事情を尋ねたところ台風による倒木のため朝からずっと不通状態とのこと、やっと20時30分発から再開とのことでしたが札幌へ向かう電車のみで旭川方面は依然として再開の見込みは立っていないと言われました。このままでは今日中に旭川に入れないため、仕方なくタクシー乗り場に向かいました。行ってみると乗り場は大混雑で待機のタクシーは一台もありませんでしたが、たまたま空港へ乗客を降ろすためにやってきたタクシーに運良く乗ることができたので旭川まで向かってもらうことになりました。北海道の車はよく飛ばすとは聞いておりましたが高速を平均130キロぐらいで約2時間で旭川まで運んでくれました。結果JRに乗るより早く着くことができました。

空港に着くなりいきなりバタバタしましたが、とりあえず翌日の学会には十分間に合うのでひと安心。最近のビジネスホテルは清潔ですし最上階には温泉大浴場も完備されており快適、夜食のラーメンのサービスもあり長旅の疲れも取れたので明日からの学会に備えて早めに就寝しました。そしてゆっくり朝まで熟睡zzz、、のはずが夜中に大きな揺れに襲われました。ベッドがガタガタッと何度か強く小刻みに震えた途端に非常灯が点灯したためすぐに停電とわかりました。私の部屋は9階でエレベーターが停止すると階段を使わねばならず、停電中はおそらく洗面もトイレも使えないので心配にはなりましたがなにぶん夜中の3時過ぎのこと、睡魔に襲われそのまま寝てしまいました。ところが翌朝になっても停電は解消されておらず、当然水は出ないしエアコンも照明もつかずテレビも映らず情報が全く得られません。取りあえず非常灯のみの薄暗い階段をおそるおそる降りてロビーまで行きました。館内は学会に出席する予定の先生方が大勢いましたが皆さん一様に不安げな面持ち。レストランではパンとサラダとジュースのみが提供されていました。想像以上に大きな地震だったらしく午前中の学会は中止との連絡が入ったため、また階段を登って部屋まで戻りました。ネットの情報では全道で停電、飛行機とJR、バスなどの公共交通機関は全面ストップしており、復旧の見込みはたっていないとのこと。もし明日中に帰ることができなければ土曜日の外来や処置に支障をきたすことは確実で、事の重大さに学会どころではなくなり早速スタッフにメールしカルテを調べて患者さんに連絡してもらい診察の延期やキャンセルなど可能な限り調整してもらうことにしました。同時に私は如何にして北海道を脱出するかを考えねばなりませんでした。

初秋の旭川は台風一過の影響もあってか太陽が眩しく空気は澄み渡り、格子状に綺麗に区画整理された街並みと自然の風景が溶け合い、周りに高層建築がないので9階からでも遠くの山並みが隅々まで見渡せました。窓からは乾いた風が適度に吹き込み緊張のため少し火照った肌には心地よく、わずか数時間前に地震があったことなど信じられないほど清々しい朝に思えました。しかし近くに視線を移せば停電のため信号機が消えており、幹線道路の交差点ではなんと警察官が手旗信号で車を誘導しているありさま。ホテルの迎えにコンビニがあったのを思い出し窓から覗いて確認するとどうやら営業中のようで慌ただしく出入りする人影が確認できました。売り切れる前にと慌てて買い出しに行きましたが食べ物はすでに完売しており、仕方なく水とお茶を大目に買い込んだのですが大きなペットボトルを数本抱えて9階まで階段を登るのはかなり応えました。

空路がダメでJRも不通、信号機が作動せずバスも全て運休。旭川空港からは通常通り飛んでいるらしいということで検索しましたが案の定全て満席。最後は船便かとフェリーを検索したところ苫小牧から3社が1日7便本州へのフェリーを通常運行していることがわかりました。ところが考えることは皆さん同じなようで瞬く間に席が埋まっていき、大洗や仙台へのフェリーは既に満席、やっと7日の朝9:30発の八戸行きのフェリーが予約できました。ほっと一息つきましたが苫小牧港までの交通手段はやはりタクシーのみ、フロントで相談すると高速道路も所々で閉鎖しているため地道も利用することになりひょっとしたら4〜5時間かかるかもしれないとのことで夜中の3時にタクシーを手配して頂きました。8時間船に乗ってもまだやっと青森かと考えるとぞっとしましたが、その後は八戸から新幹線で東京に向かうことになるので旭川駅までJRのチケットを購入しに向かいました。駅周辺では多くの利用客が疲れきった表情で椅子や地面に座っていましたが近隣の店はコンビニも含めてほとんどが臨時休業、公衆電話は無料でしたが利用者は見当たりません。一方無料充電サービスには長蛇の列ができており時代の流れを感じました。そのうちに事情が少しずつわかってきました。地震の影響で火力発電所が全て緊急停止、それを動かすために水力発電所を緊急稼働中とのこと、夕方には札幌と旭川で一部復旧し始めました。不思議なもので同じ地域なのに発電所からの電気の供給が一律ではないのか信号機が灯いてるところと消えているところがあり、飲食店もたまたま復旧している何軒かが開店しているという状態。日が沈むと真っ暗になりそうなので少し早めに食事をして部屋で仮眠をとり3時過ぎに到着したタクシーに乗り込みました。

今回の運転手さんも法定速度を大きく上回る神風運転で結局2時間半ほどで苫小牧港まで運んでくれました。到着したのは6時前だったかと思いますが、すでに大勢の人がソファで寝そべったり椅子に座って乗船を待っていました。港内放送ではすでにこの船も満席とのことでした。ネット情報では飛行機もJRも午前便の欠航及び運休が決定、お昼から再開予定とのことだけで確定した情報は何も得られず、千歳空港から私の予約している夕方便が飛ぶのかどうかわかりません。フェリーは9時半には出港するので予定通り乗るべきか、キャンセルし再度空港に向かうべきか迷いに迷いましたが、万が一欠航したり再度余震が発生したりという可能性を考えると確実なのはフェリーを利用することではないかという結論に至り予定通りに乗船しました。最終的に定刻通り飛行機は飛んだのですがフェリーでは2日ぶりにお風呂にも入れて仮眠も取れましたのでまあこれはこれで良かったのかなと思います。その後八戸から東北新幹線で東京へ向かい品川駅前のホテルに宿泊し、翌日の始発の新幹線に乗り何とか無事に診察開始時間までに帰ってくることができました。

後日談ですが病院のすぐ近くのホテルではすぐに電気が復旧したとのこと。残念ながら私の宿泊先はずっと真っ暗なままでした。冷静に考えればこういう非常事態には空港や都市部の重要インフラの復旧を最優先事項として対応するはずで、そもそも飛行機は飛ぶ可能性が高く何も行動を起こさなくても予定通り帰宅することは可能だったのかもしれません。まあそれはあくまでも結果論。常に最悪の事を考え行動する必要がありましたが、そのせいでスタッフや患者様方には大変ご迷惑をおかけすることになりました。あらためてお詫び申し上げます。

本当に人生にはいろいろなことが起こります。わざわざ北海道まで被災しに行ったようなものですし、結果的に学会は中止となり長い時間とお金をかけていろんな乗り物に乗っただけでした。リスク管理や危機管理の難しさを痛感したと同時に、我々の生活はインフラがやられるとあまりにも脆いという現実、ライフライン(特に電気)への依存度が半端ないこと、普段の当たり前の生活の有り難さも再認識できましたし、何よりタワーマンションには絶対に住まないと心に決めました。

ちなみに旭川空港は真冬も含めて離発着率99%ということでどうしても北海道に来たいときは旭川空港を利用してくださいとのことです。ご参考まで。

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2018年05月10日

GM-CSF含有培養液の使用を始めました

GM-CSFとは顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子のことでこれを含有する培養液が反復着床不全・反復流産・反復体外受精不成功例に対する新しい治療戦略として注目を浴びています。

GM-CSFはサイトカイン(細胞が他の細胞に働きかける活性タンパク質のことで細胞活性因子あるいは細胞増殖因子とよばれる)という物質の一つで、主に女性の卵管や子宮内膜などで分泌され受精卵の分化・増殖、および胚盤胞の形成や着床時の免疫反応の抑制に関与しています。
最近の研究で化学的妊娠、初期流産を繰り返す方や着床不全の方の中にはGM-CSFの発現量が少ないことがわかってきました。また受精卵の発育停止もGM-CSFの発現量の減少が一因と考えられています。

この細胞増殖因子であるGM-CSFと細胞接着因子であるヒアルロン酸を配合した培養液を使用することで、自然妊娠が成立する着床時期の子宮内膜及び子宮内環境に近づけることが出来ると考えられています。海外ではこのGM-CSF含有培養液(EmbryoGen)を使用し流産経験者の着床継続率が44%改善したとの報告(14施設1332症例D3移植での妊娠7週における着床継続率)があり、難治性の方には朗報といえます。一方、国内では40歳以上の方の妊娠率が8.1%から20%まで上昇したとの報告(第62回日本生殖医学会発表)もあります。また胚盤胞での使用を目的としたBlastGenという培養液もありますが、最近媒精から初期胚・胚盤胞まで継続して使用できるSAGE 1-STEP GM-CSFが発売されましたので当院ではこれを使用しております。

以前、Enbryo Glue(エンブリオグルー)という培養液が脚光を浴びた時期がありました。これは細胞接着因子であるヒアルロン酸が含有されており、確かに着床率は上がるようなのですが妊娠継続率に関しては従来とあまり変わらないとの報告もあり現時点では意見の分かれるところです。GM-CSF含有培養液はヒアルロン酸はエンブリオグルーに比して4割程度の含有量とのことですが細胞増殖因子が含まれている点が受精卵の成長や子宮内膜とのクロストークを良好にさせこのような結果につながっているのではないかと思われます。

採卵時の受精卵の培養の際や、凍結受精卵の融解胚移植の際にも使用できますので関心のある方はお問い合わせ下さい。

使用期限が短いため希望を伺ってからの発注となりますのであらかじめご連絡いただくようにお願いします。


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2017年12月11日

DuoStim・double OPU

先日、日本生殖医学会に参加してきました。高齢不妊患者さんに対する治療法の工夫についての演題が多く、日本は超高齢化社会に伴って晩婚化・少子化が喫緊の課題となっています。11月に日本産科婦人科学会が2015年度のARTに対する報告をまとめてHP上にアップしましたが、我が国のART実施数は40万件を超え、出生児数は5万人を突破してます。新生児の19人に1人がARTでの妊娠と報告されていますからそのうち1クラスに2人ぐらいがART出生児のお子さんとなりそうです。国内での実施件数は41〜42歳でピークを迎えています。一方米国でのピーク年齢は35歳と報告されておりますのでいかに我が国で高齢不妊患者さんが多いかがわかります。実際40〜44歳の出産数は1985年は8,224人でしたが、2015年では52,577人と6.4倍にも増加しています。しかしながら43歳女性の生産率は1.8%と極端に低く、またせっかく妊娠に至っても流産率は50%を超えています。ただし40歳前後の出産の20%近くがARTによるものであるとの報告もあり、このことから高齢患者さんにもARTが一定の治療効果をもたらしており福音となっていることは間違いなさそうです。

年齢が高くなりますと老化に伴う卵子の質の低下、および卵子数の減少といった二つの側面から良好胚を得ることが困難になり成功率は低下の一途をたどります。卵巣の反応性が低いとHMGなどによる過排卵刺激も行いにくく、クロミッド、レトロゾールなどの内服薬にシフトする傾向が高くなります。その際に主席卵胞と2次卵胞の卵胞発育の速度が大きく異なり採卵時には2次卵胞は採卵できないか、あるいは回収されても受精できる段階まで成熟していない事をよく経験します。通常は主席卵胞をターゲットにするため2次卵胞からの卵子の回収はあきらめざるを得ないのですが、今回の発表では主席卵胞を回収する際には2次卵胞をそのままにしておいて、少し時間をあけて再度刺激をしてから2次卵胞の成長を待って後日あらためて採卵するというもので、1周期に2度刺激と採卵を行うのでDuo StimまたはDouble OPUと命名されていました。この方法でpoor responderの方でも採卵数が増え(平均1.3個⇒2.5個)確実に凍結が行えるようになったとの報告や、1度目の採卵後黄体期になり体温も上昇するのですが、この時期に2度目の採卵した卵子でのみ胚盤胞にまで到達したとの報告もありました。高齢患者さんの場合はある意味時間との闘いですからどうしても採卵と採卵の間隔はあまりあけたくはありません。時間短縮と採卵数の増加という観点からは有意義な面もあり一つの選択肢と思われました。

一般に採卵に向けて卵巣を刺激する場合、月経周期3日目からスタートするのが原則と思われていますが、これは新鮮胚移植を前提にしたスケジュールの場合です。子宮内膜が受精卵の成長と同期するタイミングで採卵する方法で、培養技術や凍結技術がまだまだ未熟であった体外受精黎明期に諸先輩方がいろいろと工夫し確立された方法です。今は培養技術及び、凍結・融解技術の進歩に伴い一旦受精卵を凍結し、周期をまたいでホルモン補充周期で胚移植することが非常に多くなっています。この場合採卵の時期は内膜の状態に関わらずいつでもかまわないということになります。実際に卵巣はどの時期でも刺激さえしてやれば卵胞を発育させますし、私自身20年近く前に子宮外妊娠の患者さんに卵巣刺激を行った苦い経験がありますが、その際も卵胞はしっかりと成長し成熟卵子を回収することができました。妊娠中でも排卵誘発剤で卵胞が発育するという常識を覆す結果で私の上司が学会で発表し論文も出されました。

高齢患者さんの場合にはいかに多くの受精卵をストックできるかということはその後の治療成績に大きく関わってきます。なんとか良好胚を多く手元に残すためにそれぞれの患者さんに一番合った治療法を見つけていきたいものです。

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2017年10月03日

カルシウムイオノフォアを用いた卵活性化併用ICSI

体外受精を実施されている患者さんの中には顕微授精を行っても受精率の低いことがあります。この原因はいろいろと考えられますが、卵子の老化や精子の機能的な問題などがあります。受精率を向上させる一つの手段としてカルシウムイオノフォアを使用した顕微授精がありますので今回はこの方法についてご説明いたします。

卵子は排卵直後の段階ではまだ完全には成熟していませんが、精子と出会うことにより活性化され成熟を完了(第2減数分裂)させます。卵子は成熟してはじめて受精(卵子と精子の核の融合)が可能となります。通常、自然に受精が起こる段階では精子が卵子にたどり着くと精子因子が卵細胞内に流れ込み、それによって卵細胞内にカルシウムイオンの放出が起こり、一定時間カルシウムイオン濃度が上昇した状態が続きます。放出されたカルシウムイオンは卵子の中で波状に広がるのですがこの現象をカルシウムオシレーションと呼びます。カルシウムオシレーションにより卵子の活性化がおこるため、受精の際には細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇が必須となります。

一方、顕微授精(ICSI)では人為的に精子が卵細胞内に注入される際に、同時に精子因子も卵子内に持ち込まれ卵子が活性化されて受精が起こるため、一般的には通常の体外受精(c-IVF)より受精率が約10〜20%高いことが報告されています。ところがまれに精子因子の異常により卵子の活性化が起こらず、顕微授精をしても受精しないことがあります。こうした場合に、カルシウムイオノフォア(カルシウムイオンを細胞内に流入させる物質)を使用することで、細胞内のカルシウムイオン濃度を一時的に上昇させることができ、卵子活性化に有効な場合があります。通常の顕微授精では受精率が低い場合には試してみる価値のある方法と言えます。

ただし、卵子側に問題があって受精が起こらない場合や精子頭部の脱凝縮の異常など、カルシウムイオノフォアが有効でないこともあります。また通常の体外受精では精子が卵子に入り込むタイミングが特定できないため、カルシウムイオノフォアは使用できません。

この活性化を行うことがその後胎児へどのように影響するかに関しては不安があるところですが、胎児への安全性についてレトロスペクティブ(後方視的)に調べている論文がありましたのでご紹介いたします。

[方法、結果]
2006年から2014年にかけて顕微授精後にカルシウムイオノフォアで活性化処理を行った症例を検討しています。
対象となった症例は793例でそのうち678症例を追跡調査しています。
仝家授精単独群595症例(88%)
顕微授精にカルシウムイオノフォア処理をした群83例(12%)
両群間において先天奇形率に統計的な差は認められませんでした。
染色体異常や構造異常、奇形(心臓、泌尿生殖器、四肢)においても両群間で有意差は認めませんでした。
出生体重、生まれた週数、性別も両群間で差は認められませんでした。

[結論]
顕微授精で受精障害がある場合にカルシウムイオノフォアで卵子の活性化処理を行うことは合理的な方法と思われます。

Oocyte activation by calcium ionophore and congenital birth defects: a retrospective cohort study
Fertil Steril. 2016 Sep 1;106(3):590-596


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2017年09月29日

葉酸について

妊娠中あるいは妊娠前からの葉酸摂取についてご質問をお受けすることが多いので少し解説いたします。

[葉酸とは]・・・ビタミンB群に属し食品から摂取した栄養素を身体に必要な成分に変えたり、エネルギー代謝に必要な微量栄養素です。ビタミンは体内で生成することができないため必要量を食事にて摂取せねばなりません。特に葉酸は細胞を作る拡散を合成したり、また赤血球を作る作用があります。

[葉酸と妊娠との関係]・・・これまでの研究で十分な葉酸の摂取が胎児の神経管閉鎖障害(二分脊椎、無能症など)のリスクを減らす可能性のあることがわかってきました。神経管閉鎖障害とは脳や脊髄を作る「神経管」が妊娠のごく初期に正常に形成されないために、脊髄に異常が起こって運動機能に問題を生じることもある二分脊椎(現在1万人の出生時に対し、6人がこの病を発症するといわれています)や、脳が正常に形成されない無脳症という病気のことを言います。厚生労働省は葉酸を十分に摂取することによって、二分脊椎症などの神経管閉鎖障害のリスクが70%軽減するとしています。

[葉酸摂取量と摂取時期]・・・厚生労働省の提供情報によると、リスクを軽減させるために必要な葉酸摂取量や摂取時期は以下のようになっています。

1)通常の食事に加え栄養補助食品等から毎日0.4mg(400μg)の葉酸を摂取する。
2)妊娠を計画している場合よりリスクを軽減させるために妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで間、葉酸を適量摂取し他にもビタミンなどの栄養のバランスのとれた食事をとる。
3)神経管閉鎖症障害児の妊娠歴のある女性は妊娠1か月以上前から妊娠3か月の間、医師管理のもと葉酸の摂取が必要である。
4)栄養補助食品は簡単に摂取できるため過剰摂取するケースに注意する。 1日あたり1mg(1000μg)を超えることはしない。

先天異常の大半は妊娠直後からおよそ妊娠10週以前に発症します。中でも中枢神経系は妊娠7週前に発症されることが知られています。ところが妊娠全体のうち、計画的な妊娠は約50%に満たないといわれています。また通常妊娠を疑い産婦人科を訪れる女性は、生理が遅れて初めて受診されますので早くてもすでに妊娠5週以上となります。実際にはこの時期を過ぎてからの葉酸摂取では遅いと考えられることから、妊娠する可能性のある女性は常に葉酸を摂取しておく必要があることになります。

[摂取方法]・・・経口摂取が基本となります。しかしながら厚生労働省が推奨している摂取量を賄うにはたとえ葉酸が豊富な食品であってもかなり多量に摂取する必要があります。しかも妊娠を計画中の女性や妊娠の可能性がある女性の場合ではさらに多くの葉酸が必要となり、これを食事のみで摂取することは実際にはそれほど容易なことではありません。そのため通常はサプリメントなどで付加的に摂取することになるのですが、ここで問題となるのはサプリメントが『食品』であるということです。基本的に経口摂取するものは全て『薬』と『食品』のどちらかに分類されます。法律上『薬』の製造販売元にはその成分を全て表記することが義務付けられているのですが『食品』に関してはその義務は課せられていません。したがって『食品』であるサプリメントには表記されていない未知の成分が含まれている可能性があり、このことはアスリートの間で常に問題となります。自分が服用したサプリメントの中にドーピング検査に陽性反応を起こす成分が紛れている可能性があるためです。ドーピングに関しては全てが自己責任となりますので「知らなかった」は通用しません。そのためアスリートには極力サプリメントではなく成分が明らかな『薬』を摂取するよう勧められています。例外的にJADA(日本アンチ・ドーピング機構)が推奨しているサプリメントもあるのですが種類は限られています。もちろん我々はアスリートではありませんので本来サプリメントに関してそれほど神経質になる必要はないのですが、葉酸は服用時期が『妊娠前期の器官形成期いわゆる絶対過敏期』であることを考慮しますと『成分不明なものが含まれているかもしれない食品を妊娠初期に長期間摂取する可能性がある』ということになり、その摂取に関してはどうしても少し慎重になってしまいます。

当院ではこういった心配を少しでも軽減するため海外の一部の国で『薬』としての販売実績のある製品を取り扱っております。製品に関する情報が豊富でエビデンスが充実しているため少しは安心して摂取していただけると思います。関心のある方は受付にお尋ね下さい。

よければ以前の関連ブログもご覧下さい。
http://blog.livedoor.jp/hisanaga_cl/archives/2007-05.html


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2017年09月13日

2段階移植法とSEET法

2000年秋、私は神戸で開催された第45回日本不妊学会(現日本生殖医学会)のシンポジウムに参加していました。お目当ては『胚による胚受容能誘導の観点から考案した新しい胚移植法-2 Step Embryo Ttansfer-』という演題でどういったものなのか興味津々でした。今では2段階移植法は各施設で一般的に施行されておりそれなりの妊娠率が報告されていますし、有用な治療法の一つであると認識されていると思われます。

ずいぶん前のことなので詳細には覚えていませんが、まずマウスの動物実験で卵管の子宮起始部を結紮し卵管膨大部に受精卵を置くと受精卵が存在しない時に比べて子宮内膜が受精卵を受け入れる態勢を整えていることがわかったというものでした。これはおそらくサイトカインという免疫物質が子宮内膜に液性因子として作用し内膜環境を整えると考えることができます。一般的にはわかりやすくシグナルを送るという表現をされていることが多いようです。すなわち受精卵はただ受動的に細胞分裂を繰り返しながら卵管内を子宮に向かって移送されているだけではなく、自らが能動的に子宮内膜を刺激していることの証左といえます。これを専門用語でクロストーク(cross talk)と言うのですがこの作用を人の受精卵に応用し、最初に初期胚を2個子宮に戻しておきその3〜4日後に胚盤胞1個を再度胚移植するというものでした。実際にそれまで何度良好な初期胚や胚盤胞を移植しても妊娠に至らなかった反復不成功例の患者さんに治療が奏功し現在妊娠継続中との報告でした。内膜を刺激する目的だけならば最初の胚移植は1個でいいはずで、なぜ初期胚2個なのかはよくわかりませんでしたが、当時は胚移植は3個まで認められていましたので胚盤胞を2個移植するよりは多胎率が下がるのかなと思って聞いておりました。もちろん今は胚移植数は多くて2個までと制限されていますので初期胚1個、胚盤胞1個という胚移植になります。S医大のG先生が演題を発表された後にその教室のN教授が追加コメントとしてさらに症例を重ねた結果、その後2段階移植を施行した5例の患者さん全員に妊娠が認められしかも継続中であります、と少し紅潮しながらも満面の笑みでお話しされたとき会場からは『ほぉーっ』というある種感嘆のどよめきがあがったことを今でも鮮明に記憶しております。

この発表を聞いてすぐに私も反復不成功例の患者さんに同意を得て2段階移植を実施しましたが確かに非常に優れた妊娠率でした。しかしながら妊娠率が高い反面、多胎率が高いという欠点があることと、培養技術の向上や培養液の改良に伴い胚盤胞単独でも融解胚移植の成績がかなり向上し、またその後学会の規約が変更となり胚移植数が原則1個となったため少し実施回数は減少したように思われました。その後2段階移植の弱点を補うものとしてSEET法が考案されました。SEET法とはstimulation of endometrium embryo transferの略で初期胚を移植する代わりにその際の培養液を凍結しておき、胚盤胞移植の3〜4日前に融解し子宮に注入するものです。培養液の中にも子宮内膜を刺激するサイトカインが存在するという観点からのアプローチです。この方法では移植数が1個で治療が可能となりますので今まで初期胚で凍結や胚移植をしていた受精卵も胚盤胞まで培養継続し観察することも可能になります。成功率が高く多胎率は低いので反復不成功例の方のみならず初回から実施して良い方法ではないかと考えます。

詳しくは当院の培養士から説明をお受けいただくことも可能ですのでお気軽にお問い合わせ下さい。

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2017年08月17日

近況報告(医者が患者になって)

7月末で免疫抑制剤が終了しました。直後には嘔吐、下痢、発熱などがありましたが今は落ち着いています。少し肌の乾燥と掻痒感がありますが保湿用のローションでコントロールできています。まだステロイド(プレドニン5mg)は1日1錠服用していますし抗菌薬も使用していますが、いずれmedication freeになる日も近いのではないかと前向きに考えています。7月1日から再開した外来診察も何とか順調にこなせており、明日からは夜診も始まります。少しずつですが患者さんの数も増えており、人工授精、採卵、胚移植なども始まり、ようやく従来の診療内容に近づきつつあります。久しぶりにお会いした患者さんからは私の身体を気遣うお言葉だけでなくお花やお菓子を戴く事もあり、嬉しくもある反面大変心苦しくもあります。復帰後第一例目の人工授精を施行した患者さんが無事に妊娠され先日紹介状をお書きしました。またp-FSHで排卵誘発した方にも胎児心拍が確認できました。幸先の良いスタートに職員一同大喜びです。時間のたつのは早いもので闘病生活に入る直前に胚移植した方々からの出産報告も次々と頂いております。わざわざお子さんとご一緒に来院してくださる方もありいやがおうにも私の仕事に対するモチベーションは高まりつつあります。復帰できて本当に良かったです!!

当院の培養士はなかなか勤勉で向上心も高く、私が休んでいる間に日本臨床エンブリオジスト学会認定臨床エンブリオジストと日本不妊カウンセリング学会認定体外受精コーディネーターの資格を取ってくれました。おかげで事務的なことも大半は任せることができますし、患者さんに対する説明なども彼女に窓口になってもらって私の負担軽減に繋がっております。少しでも受精率、着床率を高めるためにカルシウムイオノフォアーの使用やSEET法の準備、培養液や胚移植の際のチューブなど新しいものを積極的に取り入れて試してくれているので私としては本当に心強い限りです。以前私の先輩に「上が頼りないと下が育つ」と聞かされていましたが、まさに頼りない上司をしっかりした頼もしい部下が支えてくれている図式のようです。

私の父は敬虔な仏教徒でよく物事の因縁というものについて話を聞かされたものです。全ての事象には原因と結果がある、因果応報とでもいうべきものでしょうか。入院中病室の天井を見上げながら、「何故自分が」、「何故この病気に」、「何故この時期に」、など色々と自問自答していました。もちろん明確な答えなど出てくるわけではありません。何かこんな大病になるような悪いことでもしたのかな、などとぼーっとした頭で色々な過去の出来事に思いを巡らせていました。ところが病気について調べていくうちに自分の罹患した疾患は成人よりむしろ若年者に多いことがわかりました。純粋無垢な子供達が因縁でこんな大病を患い死線を彷徨うような辛い治療を受ける必要はないはずです。世の中には因果応報や自業自得などで説明のつく事象は確かにありますが、ただしそれらはほんの一部にすぎず病気になるなどということは『複雑系』に支配されているのではないのかと思うようになりました。我々はこの世の出来事はすべて因果関係で成り立っていると思いがちですが、実はそうでないことのほうがほとんどです。天候や自然災害、病気や事故、株価や為替相場などは複雑すぎて近未来の予測すら不可能です。同様に個々の細胞が相互作用を及ぼしつつ全体を構成する人体というシステムもまた『複雑系』です。このような人体という複雑怪奇なものを診断・治療しようとする医療現場もまた『複雑系』だといえます。経過を正確に予測できない疾病や外傷を扱う場合、その場その場で最善の手を打ち続けるということを続けざるを得ません。

世の中は決して公平や平等などではなく、理不尽や不条理に満ちあふれています。まずはそのことを理解し受け入れて初めて自分自身と向き合うことができると気づかされたように思います。そして私個人に関して言えば今回病気を患ったことはおそらく必然なのだろうと思っています。自分が病に伏して立場や環境が激変し、そのおかげで新しく見えてきたことが数限りなくありました。結果として価値観や人生観が大きく変わりましたし、このことが人間としてのまた医師としての自分に良い影響を与えてくれたことは間違いありません。今では人生の中で自分をステップアップさせるためにある意味どうしても必要なプロセスだったのだろうと素直に受け止められるようになってきました。

hisanaga_cl at 08:21|Permalinkclip!