2005年09月

2005年09月24日

久生十蘭を探して(8)

少し間が空いてしまいました。十蘭関係では著作権管理人と一緒に函館に行ったり、個人的にもいろいろと行事が詰まって時間を取られていました。

前回は、十蘭のフランス滞在の頃の渡仏を日程の面で調べてみました。その後、横浜の日本郵船歴史博物館で開催されていた「昭和11年欧州への船旅―高濱虚子『渡仏日記』より―」展を見に行ってさらに情報を得ることが出来ました。

まず、民間航空会社が発達していなかった当時の欧州への主要なルートを西回りの海路と、シベリア横断鉄道の二つだと思い込んでいたのですが、このほかに東回りもあったのです。

横浜などからアメリカのシアトルまで船で行き、そこから大陸横断鉄道で東海岸へ渡り、再び船に乗り換えて大西洋を渡るもので、意外なことに西回りの船旅よりこちらの方が日程も少なく、料金も安かったのです。

ただ、西回りの船旅の方がアジア、中近東を観光しながら行けるので人気があったようです。時間と懐具合に余裕があった人は往路を西回りで、帰路を東回り、いやこれはおかしいですね、そのまま西に進んでアメリカ大陸を経由して戻ってくるという贅沢を楽しんでいたようです。

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2005年09月18日

久生十蘭の仕事部屋から(10)

df281a48.jpg今回は仕事部屋の話題から離れて、9月10日に日帰りで出かけた函館訪問についてご報告します。函館市文学館の企画展「函館『不良文学』は元町育ち −長谷川海太郎・久生十蘭・水谷準−」(9月16日〜11月13日)に先立って行われた講演を聞くのが目的です。

こっそり出かけていって、講演が終わってから「実は私は・・・」と名乗り出ようと考えていたのですが、大島館長が「従軍日記」など展示資料を東京まで取りにこられたときに、つい「講演会にうかがいます」と口を滑らせてしまい、函館空港にはわざわざ文学館の北村巌さんが迎えに出てくれていました。

お昼は由緒あるレストラン・五島軒で「鴨カレー」をご馳走になりました。国際港だった函館の雰囲気は、明るく開放的で横浜に似ていると思います。私にとっては27年(?)ぶり、3度目の訪問です。父の出身地なので、ある種の感慨はありますが、街のことはよく知りません。

北村さんは車で十蘭の家があった場所なども案内してくれました。今は別の家が建っています。隣は何と亀井勝一郎の家。ちょうど元町カトリック教会の筋向いあたり。こちらは建て替えてはいないそうです。亀井勝一郎は、父親から「決しておとなりの正雄ちゃんのような不良になるな」といわれていたそうです。「正雄ちゃん」とは阿部正雄、十蘭のことです。

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hisaojuran at 21:51|PermalinkComments(0)TrackBack(0)久生十蘭の仕事部屋から 

2005年09月09日

久生十蘭の仕事部屋から(9)

3525f9ec.JPGこのコラムのタイトルは「久生十蘭の仕事部屋から」となっていますが、私が整理に格闘している部屋は、十蘭が亡くなってから建てられたマンションの1室です。かつてはかなり広い芝生の庭を持つ日本家屋だったのですが、叔母が分譲マンションに建て替えました。

以前もちょっと触れましたが、叔母が倒れたのは2年前のクリスマスの朝のことでした。鎌倉の聖ミカエル教会に通う熱心なクリスチャンで、玄関の上がり框のところには、小さなクリスマスツリーや可愛らしいサンタクロースの人形などが並んだままになっています。

そこには、縦55センチ、横31センチの大きなエッチングが架かっています。銅版画家・清原啓子さんの「久生十蘭に捧ぐ」という作品です。細密画のようなタッチのモノクロの図柄は、幻想的で一種霊的な印象を与えます。

叔母宛の古い郵便物の中に、清原さんからの手紙がありました。1984年3月3日から中野の画廊で開催された「清原啓子 銅版画展」の案内です。この版画家についてを調べてみると、87年に31歳の若さで夭逝していました。「文学を創作の源とし、埴谷雄高、久生十蘭など敬愛する作家達に触発を受けた」画家だったそうです。

私が十蘭の小説を読み始めて知ったのは、著名作家や有名文芸評論家が十蘭を非常に高く評価しているということです。さらに、あちらにもこちらにも熱烈な“隠れファン”(?)がいるということです。画家の清原さんはそんな一人でした。一般読者を楽しませるだけでなく、芸術家にインスピレーションを与えられる作家。稀有の才能というのかも知れません。(つづく)


hisaojuran at 07:18|PermalinkComments(4)TrackBack(0)久生十蘭の仕事部屋から