2006年02月28日

久生十蘭の仕事部屋から(22)

4c5296d7.jpgブログ(19)のコメント欄で、企画中の全集への注文などを書いてくださるようにお願いしたところ、熱心な読者からいろいろご提案をいただきました。コメントを書いてくださった方、ありがとうございます。江口先生にお伝えしました。

30年前に全集を出版した三一書房は、労使紛争があって重版も8刷で終わっているようです。「今度の全集は百年間もつ全集に」と、編集にかかわる方々もかなり気合が入っていると聞いています。このブログも読んでくださっているようですので、皆さん、この先もドシドシご意見やお考えをお書きくださいね。

さて目下、私は写真の整理中。デジカメで撮影するとフラッシュで画像が光るので、スキャナーで読み込み年代順の表を作っています。叔母はとても几帳面だったので、ほとんどの写真に年月日が書いてあるのですが、親しい者だけが見ることを想定していたようで、省略もあります。

私の手元には、2冊のアルバムがあります。その1冊は、全てが十蘭の告別式の写真で埋まっています。知らない人がかなり写っているので、従兄に聞きながら整理していくつもりです。今回は、私が目を通した写真の中の「お宝」を1枚お見せしましょう。


写真の左端が折れていたので、何気なく裏を見ると、万年筆でこう書かれていました。

昭和十六年九月三日 犬吠(?)海岸にて 
さっちゃんへ 十蘭


(上記『犬吠』海岸はgreyさんのご指摘で『犬若』海岸であることが判明しました。greyさんありがとうございました。亜子十郎 拝)

「さっちゃん」とは、叔母・幸子の愛称です。幸子の長姉の夫は、十蘭の函館時代からの親友、竹内清の弟・竹内精吾です。十蘭は独身時代、精吾一家が住む銚子の家の離れに住んでいたそうです。幸子は小学校、女学校時代は精吾一家と同居して学校に通っていました。

以前のブログ(8)で、十蘭の履歴書をご紹介しましたが、内容を覚えていますか? 書かれた年は昭和十五年とありました。同じ封筒に入っていた叔母の履歴書も、昭和十五年でした。二人が履歴書を交換したとすると、その翌年ということになります。

この写真の日付から1カ月後の10月に、十蘭は雑誌「新青年」編集部の要請で、摂津茂和と共に中支に派遣されます。従軍記者となれば、どんな危険に巻き込まれるか分かりません。十蘭は「この写真を僕だと思って、大切に持っていてくれ」と、幸子に渡したのではないでしょうか。

結婚するのは翌17年の7月14日です。十蘭は中支から無事に帰ってきたことになります。そんなことを想像していたら、他人のラブレターを無断で見てしまったような気分になって、何だかドキドキしてきました。(つづく)


hisaojuran at 07:57│Comments(4)TrackBack(0)久生十蘭の仕事部屋から 

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この記事へのコメント

1. Posted by 北狸亭主人   2006年03月01日 22:21
今回の全集、気合いが入っていそうなので、第1巻目の刊行が待ち遠しいです。
それでは、早速、要望ですが、十蘭の改稿癖はいろいろな人が指摘していることですが、それがこの全集でもわかる様な工夫をお願いします。たとえば、「湖畔」は、当然、戦前版と戦後版を載せてください。「刺客」と「ハムレット」も勿論ですね。あとは、翻訳類は、可能な限りに収録をお願いします。しかし、完全主義に徹すると刊行までこぎ着けない懸念も出てきます。とりあえずは、まず1巻目の刊行を。
2. Posted by grey   2006年03月02日 17:00
貴重な写真と資料、そして活きたお言葉、興味深く拝見させていただいております。たまたま、銚子の写真が載せてありましたので、銚子在住のものとして、ご参考になればとお邪魔しました。十蘭が立っているこの海岸は、犬若海岸と呼ばれ、犬吠埼の海から半島をまわって屏風ヶ浦に向かう途中にあります。小舟に乗って逃れてゆく義経に向かって、やむなく置き去りにされた飼い犬が主人を追って吠え続け、そのまま海の岩になった、という伝説の海岸です。ほんとうに犬そっくりの形をした大きな岩があり、昔は大潮の時だけそこまで歩いて渡れました。この写真には犬岩のお尻と尻尾の部分が写っています。このあたりは写真とほとんど変わらずに現在でも波が寄せています。以前から銚子に住んでいたという十蘭の作品を、なにか親しみを感じて読んでおりました。これからも楽しみにしております。
3. Posted by 著作権管理人   2006年03月02日 20:25
著作権管理人です。

北狸亭主人さん、ご要望についてはどれだけ反映できるかわかりませんが、検討していただけると思います。コメント、ありがとうございました。

greyさんは、銚子にお住まいなのですね。私は銚子に行ったことがなく、全く知らない場所なのですが、伝説をとても興味深く読ませていただきました。

写真の裏に十蘭が書いていた文字ですが、「犬」は読めたのですが、次の文字はくずしてありました。「犬芝」のように読めたので、地図で銚子近辺の地名を探してみたのですが、ありませんでした。(当たり前デス。)仕方ないので、苦し紛れに「犬吠?」とクエスチョンマークを入れたのです。場所名が分かってスッキリしました。これもブログの威力ですね。ありがとうございました!
4. Posted by 亜子十郎   2006年03月03日 20:02
greyさんのご指摘を受け、本文に注記を入れました。greyさん、ご指摘大変ありがとうございました。

ちなみに亜子十郎は現在、久生十蘭の韜晦に惑わされ、「久生十蘭を探して」を書けないでおります。お待ちの方はいらっしゃらないとは思いますが、今しばらくお時間を頂きたくお願いいたします。

                     亜子十郎 拝

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