2007年09月14日

久生十蘭「従軍日記」が来月4日、講談社から発売!!

愛読者の皆さん、久生十蘭の「従軍日記」が10月4日、講談社から発行されることになりました! 10月6日は十蘭の50回目の命日。この記念すべき時に、このビッグニュースです。ブログを最初から読んでくださっている方なら、“十蘭の仕事部屋”から、存在が知られていなかった「従軍日記」が発見されたことは、すでにご存知のことと思います。

本心を吐露することのなかった十蘭が、従軍記者としてどのような体験をし、また何を思ったのか、それが綴られています。日記の翻刻(解読)は北海道教育大学函館校助教授の小林真二先生にお願いしました。2年前の秋、函館市文学館主催企画展「函館『不良(モダン)文学』は元町育ち—長谷川海太郎、久生十蘭、水谷準」で講演をされた時にお会いしただけですが、無理を承知でお願いしました。

わずか半年余の間に3冊の翻刻を仕上げるという作業は、並大抵のご苦労ではなかったと思います。外国語の単語も頻繁に使われ、おまけにつづりの間違いが多く泣かされたそうです。使われていた外国語はフランス語、インドネシア語、英語、オランダ語、ドイツ語、中国語、イタリア語、スペイン語、ロシア語でした。

「巻頭」は橋本治さんが執筆されています。若い頃に十蘭の全集を読んで大きな影響を受けたと朝日新聞社「一冊の本」で以前、書かれていました。装丁は注目のデザイナー、鈴木成一さんです。

どんな内容なのか、出版まで待ちきれないという皆さんに、“先取り”して最初の部分をご紹介しましょう。(以下は小林先生が翻刻された原文で、出版される「従軍日記」とは表記などが異なっています。)



二月廿四日(水曜)半晴、微風、三度。(東京―福岡)
 午前六時三十分、家を出る。高樹町* 停留場で母とボンズ(注:妻をこう呼んでいる)に別れる。双方で手を挙げる。
 七時、日比谷、日航案内所。バスにて羽田へ行く。
 九時、「伊豫」にて出発す。箱根上空、伊勢湾の上にて突風あり、大いに動揺す。ヘドをはく。不快なり。後、微睡す。少々気持よくなる。福岡に近く霙、霧あり、飛行機、大いに模索す。少々不安になる。
 午后一時丗分、雁ノ巣飛行場に到着。家へ安着の電報をうつ。バスにて福岡博多へ行く。途中長し。博多ホテルへ一泊。夕食、「山科」でふぐを喰う。バスにつかり匆々ねむる。室外やかましく仲々寝つかれず。小雨あり。温度八度に近し。

 廿五日(木曜)朝曇、後少々晴 (福岡―那覇―台北)
 午前五時半起床。日の出おそし、朝食、航空案内所へ行く。バスにて雁ノ巣飛行場に行く。また「伊豫」にて午前八時出発。今日は翼に近い右側の椅子に坐る。
 午前九時九分、甑島南端(釣掛崎)の上を通過す。高度二五〇〇、速度一三五節* 。十時二十五分、左方三十浬に奄美大島見ゆ。ウヰスキーを飲み、寿司を喰う、うまし。ぐっすり眠る。
 午前十一時四十二分、那覇に着、お茶を一杯飲み、三十分休憩してまた出発す。
 十二時三十二分、久米島南方二十浬上空を通過す。
 午后二時三十九分富貴角(台湾北端)見ゆ。高度、六〇〇米。
 二時五十分、台北、松山飛行場着、バスにて台北案内所へ行く。ハイヤーにて武官府へ行く。出発は次便(廿八日)となる。本町三ノ三五山口商店に泊ることになる。近藤君の出店なり。夕食、「竹の家」。防空演習にて、全市暗黒。夜、鼠出て足を噛む。耳も噛む。妙に優しき噛み方なり。

 廿六日(金曜)快晴、温度十六度。(台北)
 日の出遅し、午前八時にてようやく明るくなりかける。朝食、山口商店、台北のトマト、丹柑、バナナ喰う。白柚というはまだ出ぬよし。朝食后、ウイスキーを飲みて少々眠る。昼食、「中惣」。山かけ、ジャガイモカレー煮など喰う。牛肉、統制にてすこしもなきよしなり。
 午后より台湾神社へ行く。それよりガソリンカーにて新北投というところに行く。温泉なり。「佳山」という家へ行く。近藤、菅沼、僕三人なり。風強く冷たし。夜独りねて爽快なり。温泉に浸り俳句ひとつぐらい考えたき衝動しきりなれど、疲れしゆえねむる。連日の疲労ほとほとにきざせし態なり。(午后十一時)

(つづく)


hisaojuran at 00:08│Comments(3)TrackBack(0)久生十蘭の仕事部屋から 

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この記事へのコメント

1. Posted by pumpkin   2007年09月14日 21:39
ほんとに朗報です。楽しみにしています。関係者のご苦労に感謝します。

短いサンプルでも興味深いです。というのは、十蘭の書いたもので、生の感想など全くと言ってよい程ありませんから、普通の日記でも珍しく感じられます。

新全集も期待しております。
2. Posted by 十蘭ファン@岐阜   2007年09月15日 03:26
朗報ですね!
橋本治経由で久生十蘭を知ったので、2重にうれしいです。
3. Posted by 著作権管理人   2007年09月16日 10:13
pumpkinさん、岐阜の十蘭ファンさん、早速のコメントありがとうございます。

目下、休日返上で最終校正をしています。作家の生の文章をどれだけ残すか、本人の著作ではないわけですから、書き間違いなども直してしまうのか、非常に悩ましいところです。

「原文になるべく忠実に」という翻刻担当の小林先生と、「読者になるべく分かりやすく」という講談社の“エース校正担当”との熱い攻防が続いています。









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