2009年08月24日

久生十蘭の仕事部屋から(51)

長らくのご無沙汰、失礼いたしました。昨秋発行の「定本 久生十蘭全集」はすでに第4巻、今年6月発行の岩波文庫「久生十蘭短篇選」は3刷までいっています。「趣味は久生十蘭」を公言している私ですが、読みづらい戸籍の文字とジックリ対面する余裕がなく先送りにしていました。

さて、私が十蘭の出生に興味を持ったのは、年譜に「父親不詳」と書かれていたからです。ひょっとすると私生児か、と勝手に想像していたのですが、十蘭の姉・輝子の長女・栄子さんから「父親は小林善之助です」とうかがい、あっさり“謎”は解けました。

以前にも書いたことですが、十蘭の母・カン(日常的には「鑑」を使った)の実家は廻船問屋でした。番頭頭だったのが小林善之助です。十蘭が生まれた後に離婚したことから「父親不詳」となったようです。久生十蘭こと「阿部正雄」関連の戸籍は、以下のように記述されています。



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【戸主:阿部カネ】除籍の押印(注:カネは母カンの母方祖母)
本籍:北海道函館船(注:「船」のつくりは下が「ロ」でなく「ム」)場町二番地
父:亡板垣五郎七  母:(空欄) 長女
出生:文政拾弐年弐月弐拾壱日

明治弐拾九年四月六日函館區船場町二番地 阿部新七母分家届出仝日受附
明治参拾九年四月六日隠居届出仝日受附
仝年仝月仝日養子正雄家督相續届出仝日受附

司法大臣ノ命ニ因リ 昭和拾年八月弐拾六日 本戸籍再製ス

「養子:正雄」
父・小林善之助  母:阿部カン 長男
出生:明治参拾五年四月六日
明治参拾九年四月六日養母カネ分家シタルニ依リ入籍
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【戸主:阿部正雄】
北海道函館區船場(注:訂正跡)寿町弐(注:訂正跡)五番地
「前戸主:阿部カネ」
前戸主との続柄:阿部カネ養子
父:小林善之助 母:阿部カン 長男
出生:明治参拾五年四月六日
戸主トナリタル原因及ヒ年月日:前戸主養母カネ隠居ニ因リ家督相続明治参拾九年四月六日届出仝日受附

明治参拾九年四月六日(養?)母カネ分家シタルニ依リ入籍 
大正弐年参月?日??届出仝日受附
 三ッ谷サチと婚姻届出昭和参拾弐年六月拾八日受附
昭和参拾弐年拾月六日午後壱時五拾分 神奈川県鎌倉市乱橋材木座六百五十番地で死亡仝居の親族阿部サチ届出仝月七日鎌倉市長受附仝年拾壱月拾弐日送付除籍
 昭和参拾弐年法務省令第二十七号により昭和参十参年六月弐拾壱日本戸籍改制
 昭和参拾弐年法務省令第二十七号により昭和参拾七年弐月弐拾六日あらたに戸籍を編製したため本戸籍消除

「養母:カネ」
父:亡板垣五郎七 母:亡 長女
出生:文政拾弐年弐月弐拾壱日
明治参拾九年四月六日函館區船場町弐番地 阿部新七母分家届出仝日受附
明治参拾九年四月六日隠居届出仝日受附
大正八年壱月拾四日正午拾弐時四拾分死亡仝月拾五日届出仝日受附
(注:分家届出と隠居届出が同じ年になっている。)

「母:カン」
父:亡阿部新七 母:カシ 二女
出生:明治拾参年壱月拾日
 函館市春日町五番地戸主阿部氏廃家ノ上戸主阿部正雄母入籍届出昭和参年八月弐拾九日受附
 改製により新戸籍編製につき昭和参拾参年六月弐拾壱日除籍

「妻:サチ」
父:亡三ッ谷鉄藏 母:佐野とき 四女
養父:亡三ッ谷鉄藏
出生:大正拾年八月八日
 
 大正拾年八月八日函館区末廣町八十三番地で出生父三ッ谷鉄藏届出仝月拾参日受附入籍
 三ッ谷鉄藏の養子となる縁組養父及び縁組承諾者母佐野とき届出昭和拾年七月弐拾九日受附青森県青森市大字新町百六十八番地佐野威雄戸籍より入籍
 昭和参拾弐年六月拾八日阿部正雄と婚姻届出函館市末廣町八十三番地三ッ谷武雄戸籍より仝日入籍
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十蘭の年譜(江口雄輔先生作成)には「昭和17年7月14日、大佛次郎夫妻の媒酌で三ッ谷幸子と結婚」とあります。ところが、戸籍には婚姻届を出したのは昭和32年6月18日となっています。32年といえば、十蘭が亡くなった年です。

気になってこの年の年譜を見てみると、こうあります。「3月、食道の異常を訴える」「6月、食道癌の疑いで癌研究所に入院」「10月6日、午後1時40分、鎌倉の自宅で食道癌のため死去」、十蘭は享年55、幸子は36歳でした。(つづく)


hisaojuran at 09:40│Comments(5)TrackBack(0)久生十蘭の仕事部屋から 

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この記事へのコメント

1. Posted by 河崎早春   2010年06月15日 18:07
 こんな充実した久生十蘭のホームページがあることを知ってびっくりしました。
 実は、2010年8月31日〜9月5日、両国シアターXにて上演される、久生十蘭の戯曲「喪服」に出演することになりました。そこで、作家にについて調べていて、このページを見つけたのです。
 父の書庫に「新青年」の雑誌など古い本があったので、子供の頃からその時代の匂いがとても好きだったのですが、今回、調べていくうちに、久生十蘭という作家に、人物に、ますます興味をひかれています。まだ、稽古には入っていませんが、いまから楽しみです。
 もしよろしかったら、ぜひ劇場にもいらしてくださいませ。
 日本の近現代短編戯曲100本を上演しようという、シアターX「名作劇場」というシリーズです。
 稽古をしていて、疑問に思ったことなどが出てきましたら、アドバイスいただけたら幸いです。
2. Posted by souko   2010年09月19日 10:53
5 はじめまして。前々から何度かこちらをのぞかせていただいておりました。非常に充実したデータがあり、じゅうらにあんである私としては狂喜乱舞しておりました。
私は現在パリで音楽の勉強をしており、べんんきょうの合間に、本を持って十蘭が見たであろう場所などを逍遥としています。フランス語もこれから勉強しようと思っています。
ところで十蘭先生の著作はフランス語訳されていないのでしょうか?私は絶対フランスに紹介されるべき芸術作品だと思っております。もしも誰もなさらないようでしたら、数年がかりで、やってみようかとも思っています。
おわかりでしたら是非お知らせください。
私が、やりたい!とも思っているので!
3. Posted by 元著作権管理人   2011年02月13日 15:58
河崎早春様
コメントありがとうございます。せっかく書いていただいたのに、長らくご返事せずに失礼いたしました。実は、昨年5月に演出の川和先生にお目にかかり、「喪服」ご公演のお話をお聞きしていました。是非、うかがいたかったのですが、運悪く怪我をして外出がままならず、残念ながら拝見できませんでした。とても好評だったそうですね。
私は演劇も文学も門外漢なのでアドバイスなどは全くできませんが、「名作劇場」を拝見する折には、是非、ご挨拶させていただきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
4. Posted by 元著作権管理人   2011年02月13日 16:31
souko様

パリから9月にコメントをくださったのですね。ありがとうございます。皆さんにご披露する”お宝”も「戸籍」が最後のようになってしまい、すっかりこのブログから遠ざかっていました。失礼しました。

フランス語の翻訳本についてですが、3年前の6月に講談社文芸文庫「戦後短編小説再発見4 漂流する家族」がフランス語版で出版されることになったという連絡がありました。ただし翻訳には数年かかるとのことでした。出版社はEDITIONS DU ROSHERとのことです。(その後、連絡がないので、まだ、完成していないようです。)この中に「母子像」が収録されていますが、まだまだ面白い小説はありますよね。

以前、安部公房の小説がフランスでも読まれていると聞いたことがあります。安部公房がOKなら、十蘭も十分に受け入れられるのではないかと、以前から私も思っていました。是非、フランス人にも十蘭の小説の面白さを知ってほしいですね。ちなみに、次の本に十蘭のことが半ページ、紹介されています。ご参考まで。
Cécile Sakai著
HISTORIE DE LA LITTĒRATURE POPULAIRE JAPONAISE
(L'Harmattan)

フランスに関するさらに詳細な情報が必要でしたら、またご連絡ください。





5. Posted by 福岡けん   2014年05月31日 15:35
そうですか?

わかりました。


http://openwiki.pixub.com/

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