久生十蘭の仕事部屋から

2009年08月24日

久生十蘭の仕事部屋から(51)

長らくのご無沙汰、失礼いたしました。昨秋発行の「定本 久生十蘭全集」はすでに第4巻、今年6月発行の岩波文庫「久生十蘭短篇選」は3刷までいっています。「趣味は久生十蘭」を公言している私ですが、読みづらい戸籍の文字とジックリ対面する余裕がなく先送りにしていました。

さて、私が十蘭の出生に興味を持ったのは、年譜に「父親不詳」と書かれていたからです。ひょっとすると私生児か、と勝手に想像していたのですが、十蘭の姉・輝子の長女・栄子さんから「父親は小林善之助です」とうかがい、あっさり“謎”は解けました。

以前にも書いたことですが、十蘭の母・カン(日常的には「鑑」を使った)の実家は廻船問屋でした。番頭頭だったのが小林善之助です。十蘭が生まれた後に離婚したことから「父親不詳」となったようです。久生十蘭こと「阿部正雄」関連の戸籍は、以下のように記述されています。

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hisaojuran at 09:40|PermalinkComments(5)TrackBack(0)

2009年03月09日

久生十蘭の仕事部屋から(50)

亜子探偵の仕事ぶりがあまりにも素晴らしいので、呆気に取られたまま長い間、失礼しておりました。お約束どおり入手した戸籍謄本の内容をお伝えします。このブログは研究者の方も読んでくださっているようです。原本を見たい方はご連絡ください。

さて、個人情報保護法が施行されてからというもの、親戚といっても本人の承諾なしに他人の戸籍を調べることは出来ないのですが、「今、私がやらなければ、未来永劫、誰もしることができない」と思い、手を尽くして入手しました。

戸籍謄本はまず十蘭の母「阿部カン」に関するものからご紹介します。
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【戸主:阿部新七】(「除籍」の押印)
本籍:北海道函館市春日町五番地
父:阿部栄吉 母:亡ノブ (二男)
養父:亡阿部五平 養母:亡カネ (養子)
出生:安政元年拾月拾参日

新潟縣北蒲原郡乙村戸主阿部栄吉二男阿部五平仝ノ妻カネト養子縁組届出明治六年弐月壱日受附入籍
明治七年八月拾七日前戸主五平死亡ニ因リ家督相續届出
隠居届出大正八年九月参日受附
函館區春日町五番地戸主阿部光平父分家届出大正八年九月拾日受附
昭和参年壱月四日午前壱時函館市元町三十一番地ニ於テ死亡同居者阿部カン届出仝月拾日受附
昭和参年参月拾弐日阿部カンノ家督相續届出アリタルニヨリ本戸籍ヲ抹消ス
昭和九年参月拾壱日火災罹り滅失ニ付キ昭和拾年八月弐拾日本除籍ヲ再製ス
司法大臣ノ命ニ因り昭和拾年八月弐拾日 本戸籍ヲ再製ス○印

「妻:カシ」
父:亡阿部五平 母:亡カネ(長女)
出生:安政元年参月五日
大正八年九月拾日夫新七分家ニ付キ共ニ入籍
大正拾四年七月拾四日午前五時函館市元町三十一番地ニ於テ死亡戸主阿部新七届出仝日受附

「二女:カン」
父:阿部新七
母:カシ
出生:明治拾参年壱月拾日
函館區寿町五番地戸主阿部氏廢家ノ上戸主阿部新七二女入籍届出大正拾年四月壱日
受附
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この戸籍から分かることは、カンの父・新七は母・カシの実家に養子に入ったこと、娘のカンは父・新七が亡くなった後、家督相続をしていることです。「二女・カン」とありますが、なぜか「長女」の記述はありません。


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hisaojuran at 19:32|PermalinkComments(4)TrackBack(0)

2008年11月30日

ちょっと興奮してます

思わせぶりなタイトルで申し訳ありません。

大変な事実が判明し、それをもとにした推理がまたとんでもないことになっています。一眠りして頭を冷やしてから詳しいことを書きたいと思います。


亜子十郎

hisaojuran at 23:22|PermalinkComments(1)TrackBack(0)

2008年10月23日

久生十蘭の仕事部屋から(49)

皆様、長らくのご無沙汰にて失礼をいたしました。さて10月10日、ついに「定本 久生十蘭全集」(全11巻)の第1巻が発刊されました。(詳細は国書刊行会のサイトをご参照ください。http://www.kokusho.co.jp/news/index.html)

私の手元には数日前に届きました。700ページ近い厚さで、小型の百科事典といった感じです。上品なグレーの布張りで、ページを開くと目に優しいクリーム色の紙に二段組。活字の大きさと行間のもバランスもよく、何かとうるさかった十蘭も大満足ではないでしょうか。

小説、エッセー、翻訳等、ほとんどの作品を網羅し、1970年前後に出版された三一書房版の「旧全集」に比べると、約2倍の分量になるそうです。10月6日は十蘭の106回目の誕生日。「新全集」の発刊祝いも併せて、天国では妻と一緒に例年になく盛大に祝杯をあげているのではないかと想像しています。それにしても、歿後半世紀にして、これだけ立派な全集を出してもらえるのは、作家冥利に尽きますね。


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hisaojuran at 07:09|PermalinkComments(4)TrackBack(0)

2008年03月09日

久生十蘭の仕事部屋から(47)

先月、十蘭の「従軍日記」原本3冊と「戦闘詳報」「ノート」を函館市に寄付しました。ホコリだらけで本棚の隅に眠っていたノートが、貴重な資料として故郷の函館に受け入れられたことに、深い感慨を覚えます。

十蘭は渡仏前年、演劇を勉強するため岸田國士をたよって上京し、その後、一度も故郷の土を踏むことはありませんでした。その理由を友人の常野知哉が同人誌「海峡」第71号(久生十蘭追悼特輯号、1960年11月発行)「『生社』時代のエピソード」で、こう書いています。

(前略)往年、阿部自身が先輩(注:長谷川海太郎のこと)同様、文名を得て同じく鎌倉の材木座に、立派な邸宅を構えたが、その頃僕は函館新聞に関係して居たので、何とかして、此の有名な久生十蘭事、阿部正雄を、函新主催で、招待し、晴れの錦衣帰郷と言うやつをやらせようとして彼に相談した事があった。喜んで来てくれるだらうと思って返事を待って居たが、返事は意外にも辞退して来た。
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hisaojuran at 20:45|PermalinkComments(6)TrackBack(0)