12月になるとブルックナーが聴きたくなるのは、
あんたのせいなんだろう。

あんたはきっと、おれがいるこの部屋の、
天井のあたりとか、縁側の隅とか、
そのへんに降りて来てるんじゃないのか。

「お義兄さん、ブルックナー、かけてくださいよ」

とか言って。
その聞こえない声で。

じゃあ、何番がいい?

指揮者は誰がいい?

酒は何にする?

音もなく夜は更けてゆく。
おれとあんたの間に会話はない。

ただ静かに酔いどれながら、
黒々としたアダージョのなかに沈んで溶けてゆく。