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5月某日(牛)

 今年の振り落しが始まった。初日は高知のインストが全員揃って賑やかなスタートを切った。今年も千賀さんと僕との、’ひとひら’について考えたことが詰め込まれた作品になっている。振り付けについて注文したことは2つ。1つはフォーメーションについて(これは毎年確認する必須項目のようなもの)、もう1つは「順番に難易度が上がっていく振付をしてほしい」というものだった。少し珍妙な依頼だとは思ったが要するに、初めてよさこいを経験する人がちゃんと最後まで踊れるようになる仕組みを作りたい、という話をした。今年の楽曲は結構アップテンポだが、テンポが早いときにミュージシャンは「半分のビートで拍をとる」ことがある。それはとても自然なことなのだが、踊りでもそういう考え方でもって、序盤からいきなりバシバシ激しいようなものではなく、最初はゆったり、後半にビシバシくるようなものをと依頼したのだった。千賀さんはその意図を理解した振付を作ってくれた。振り見せ会(ひとひらスタッフが踊りを生で見るイベント)で「千賀さんの優しさを感じました」と言うと喜んでいたようだが、これはおべっかではなく心底そう感じたのだった。
 踊り、音楽には厳しいものもあれば、優しいものもある。指導についても厳しくすることもできれば、優しくすることもできる。僕も音楽の指導を生業にしているから、なんとなく両方の良さは分かる。’ひとひら’については、「優しさ」を追求していきたい。
 ともすれば厳しく指導すれば素晴らしい作品になると思いがちだ。だけども近年では、例えば青山学園大(箱根駅伝でおなじみ)のような科学的な論拠を元にした指導、フラットな感情論抜きの指導が効果的であることが実証されつつある。よさこいでもこういった理論的な指導法があるのではないかと僕個人は考えているし、恐らくインストスタッフもこの考えを共有していると思う。

 元サッカー日本代表監督のオシム氏は「どうやってグラウンドを走らせるか、それしかない」という談話を残している。この言葉に触れたとき、じゃあよさこいチームとして「走らせる」とはどういうことかを考えたことがある。まず思いついたのは『練習に出席すること』だった。どうすれば参加者が気持ち良く練習に出席してもらえるかを考えることはとても有意義だった。そして次に思いついたのは『練習外でどれだけ練習してもらえるか』だ。全体練習以外でも「1曲踊ってから寝よう」みたいな自主練ができる人が多いほど、チームの踊りは良くなるはずだ。
 この2点以外にも思うところはあるが、少なくとも’ひとひら’のようなカジュアルなチームにとって、選ぶべき指導方針は「厳しさ」ではなくて「優しさ」にシフトしたものであるべきだと考えている。その中で、どうやって踊りの楽しさや面白さを体感してもらえるか、踊りを見てもらう意識を高めるか、答えが明文化できない問いを試行錯誤し続けている。
 なにはともあれ、今日は大雨だが、今日インストの振り落しが始まった。