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天法律事務所 弁護士 人見 勝行 http://hitomilaw.net

2015年12月

既に多くの報道がされているとおり,最高裁判所は,平成27年12月16日,夫婦の同姓を定めた民法の規定が憲法に違反しないという判決を言い渡しました。しかしながら,最高裁判所の大法廷を構成する15人の裁判官の内,女性裁判官3名の全員が,夫婦の同姓を定めた民法の規定は憲法に違反するという反対意見を述べています。

興味深い点は,男性裁判官と女性裁判官では,言い渡す判決が異なる可能性のあることが明らかになってしまったことです。

仮に,最高裁判所の大法廷を構成する裁判官の過半数が女性裁判官であったならば,夫婦の同姓を定めた民法の規定は憲法に違反するという判決が言い渡されていた可能性もあるわけで,最高裁判所の裁判官という経験豊富で学識の豊富な方々でさえ,裁判官の「性別」という属性によって結論を異にしてしまうわけですから,最高裁判所に限らず,個々の裁判官の「信条」によっても結論を異にしてしまう可能性があるわけです。
そもそも,価値判断とは物理的な物差しで測る作業ではない以上,判決の内容が個々の裁判官の価値観に応じて異なりうることは必然といえるのです。

天法律事務所
弁護士 人見 勝行
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平成27年1月5日,スイス国立銀行がEUR/CHFの通貨ペアで公言していた無制限の外国為替平衡操作を以後は行わない旨を突然宣言し,短時間の内に,EUR/CHFのBID値が1.20から0.85前後まで下落したことは周知の通りです。

もっとも,本来であれば,各外国為替証拠金取引業者が定める約款に従って強制ロスカットが行われるべきであり,例えば「証拠金使用率が100%となった場合に強制ロスカットを行う」旨を定めている外国為替証拠金取引業者で取引をしていたのであれば,多少の滑りは生じるとしても,証拠金使用率が100%となった時点でポジションが決済されていなければならないはずです。

御承知のとおり,強制ロスカットとは,予め定めた割合以上の損失が発生した場合に,顧客の意思とは無関係に強制的にポジションを決済して損失を証拠金の範囲内に収める仕組みであり,強制ロスカットを各外国為替証拠金取引業者が行うことに対する顧客の期待は,合理的なものとして法的な保護に値します(平成20年7月16日東京地方裁判所判決,金融・商事判例第1871号51頁)。

問題は,強制ロスカットを行うことができなかったことについて,外国為替証拠金取引業者の責めに帰すべき事情があるといえるかです。何故ならば,各外国為替証拠金取引業者の概ね全てが,約款の中で免責条項を定めているからであり,免責条項の適用を排除するためには,外国為替証拠金取引業者の責めに帰すべき事情が必要となるからです。

そこで,スイスショックの件について考察を致しますと,
(1)スイス国立銀行は,平成21年3月12日に(おそらくは1.50を防衛ラインとして)外国為替平衡操作を明言して開始し,適宜,外国為替平衡操作を行ってきたにも関らず,同銀行の目的は達成されずに,平成23年8月9日には,1.00までEUR/CHFのBID値が下落していること
(2)平成23年9月以降に1.20を防衛ラインとして外国為替平衡操作を明言して行ってきたにも関らず,スイスフラン高が留まる気配はなく,却ってスイス国立銀行のバランスシートが悪化している
(3)平成26年12月19日にスイス国立銀行がマイナス金利を導入したにも関らず,スイスフラン高が抑制されなかったことについて同銀行が不満の意を発言していること
などに鑑みれば,EUR/CHFのBID値が大きく下落する予兆は存在したのであり,各外国為替証拠金取引業者としても,EUR/CHFのBID値が大きく下落した際に備えてカバー先を選定し,システムを構築するなどして,瞬時に強制ロスカットを行う義務を負っていたものということができます。

従って,スイスフランショックには予兆があり,各外国為替証拠金取引業者には,EUR/CHFのBID値が大きく下落した際に備えてカバー先を選定し,システムを構築するなどして,瞬時に強制ロスカットを行う義務が課せられていたのであるから,各外国為替証拠金取引業者が免責条項の適用を主張することは,信義則又は消費者契約法の趣旨に反して許されないということができるのです。

加えて,他社と比較してEUR/CHFの通貨ベアにおける保有ポジション数の上限を特に大きく定めていた外国為替証拠金取引業者に関しては,EUR/CHFの値の動向には特に重い注意を払う義務を負っていたものということができます。

また,仮に適切な強制ロスカットが行われていた場合に証拠金が残存していたのであれば,当該証拠金に該当する金額の支払を請求することが考えられます。

なお,SBI FXトレード株式会社のレポートによれば,EUR/CHFの通貨ペアの為替レートが急変した時にもEBSでは1秒たりとも途絶えることなくクロススイスのレートは売値と買値の建値が表示されており,インターバンク市場でも売値と買値の開きは通常時より広がっているとはいえ取引は行われていたとのことでありますから,仮に,各外国為替証拠金取引業者のカバー先からの為替レート配信が止まったとしても,免責条項の適用は許されないものと考えます。現に,SBI FXトレード株式会社だけでなく,ゲインキャピタル・ジャパン株式会社においても,適切なロスカットが行われていたようです。
SBI FXトレード株式会社のレポートは,以下のURLから閲覧することが可能です(平成27年12月16日現在)。
https://www.sbifxt.co.jp/suisureport9.html

以上の次第で,スイスフランショックによる追加証拠金を外国為替証拠金取引業者から請求されたとしても,直ちに支払う必要はないというのが私の主張です。

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弁護士 人見 勝行
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