平成30年1月26日,コインチェック株式会社において,不正アクセスを受けたことにより,約26万人の顧客の保有する仮想通貨のNEMを盗難されるという事件が生じました。そして,NEMを不正に取得した者には任意に返却をする利点が無く(不正取得直後に他の暗号通貨を購入するか,塩漬けにする旨を予想しておりましたが,むしろ,不正に取得したNEMを全く関係のない第三者に送り付けているようです),不正に取得されたNEMを追跡することは可能であるものの,NEM財団が盗難前の状態への巻き戻しを否定しているとのことですので,不正に取得されたNEMがコインチェック株式会社に戻る見込みは無いと考察することが合理的というべきです。

コインチェック株式会社は,同月28日,盗難の被害を受けたNEMの保有者に対して,自己資金で返金をする旨を発表しており,同年2月3日にも自社のホームページで日本円による出勤再開の予定のあることを告知しておりますが,「今回まだその時と場所の指定まではしていない(利根川)ことが気になります。

そもそも,自己資金で返済するためには,従前の取引所の運営により相当の利益を取得していなければならないはずですが,仮に,昨年に多額の利益を取得していたとしても,優先債権として租税公課の支払をしなければなりませんし,以後の運営により弁済の原資を確保するという計画を立案しているとしても,運営を継続するのであれば,仮想通貨交換業者として金融庁に登録を受けなければならないはずなのです。

コインチェック株式会社は,平成29年9月13日に仮想通貨交換業者の登録を申請しておりますが,現在まで登録はされておらず,みなし仮想通貨交換業者のままでありますので,仮に,金融庁がコインチェック株式会社の登録を拒否の処分をした場合には,業務を行えないということになってしまいます。

そして,仮想通貨交換業者として登録を受けるための条件としては,純資産がマイナスでないことという要件がありますので,顧客に対する返金の債務を計算に入れた場合,最悪の事態としては,金融庁が登録を拒否してコインチェック株式会社が業務を行うことができなくなり,破産手続の申請に至るという事態も想定されるところです。もっとも,金融庁から検査官が赴いておりますので,新たな資金の流出を避けることはできそうです。

もっとも,金融庁がコインチェック株式会社の登録を拒否した場合には,顧客に返金をできない原因の一端が金融庁にも存しうることになるため,金融庁としても難しい判断を迫られることは想像に難くありません。仮に,コインチェック株式会社が破産手続の開始決定を受けた場合には,申立代理人の費用,破産管財人の費用,及び,租税公課等の財団再建又は優先債権の配当を行った後,顧客に対して返金しなければならない額を按分して配当することになりますので,コインチェック株式会社の資産の状況によっては,昨年度に利確した取引の税金(雑所得になります)は支払わなければならないにも拘らず,コインチェック株式会社からは返金を受けられないので,顧客が納税資金に窮するという問題にも発展しかねません。

現在,有志の弁護士が被害者弁護団を結成して,何とかコインチェック株式会社の顧客の資産を取り戻そうと尽力されているようですが,仮に,コインチェック株式会社が破産手続の申請をした場合には,被害者弁護団としても,成す術が無くなってしますという懸念も残るところです。また,個別に弁護士に依頼して返金を請求する場合でも,訴訟手続の継続中にコインチェック株式会社が破産手続の開始決定を受けた場合には,訴訟手続が中断するため,弁護士費用が無駄になってしまう危険も考慮して頂く必要があるものと思慮致します。

国外の外国為替証拠金取引業者の中には過去に行方が知れなくなったり倒産した業者もありますが,仮想通貨交換業者に関しても,以後は,改正資金決済法の施行により,分別管理等を確実に行っている登録業者を選択する必要があるという御説明を申し上げます。

(追記)

後日,コインチェック株式会社より,不正に送金されたNEMの保有者に対して補償がなされたとのことで,私の危惧が杞憂に終わり,何よりの結果となりました。

しかしながら,同社がNEMの買い注文をした顧客に対して引き渡すためのNEMを入手した裏付が明らかにされていない以上,同社が「保有していない仮想通貨を顧客に売る」という呑み行為をしていた疑いを晴らすことができないというべきです。

金融庁が仮想通貨を暗号資産と呼称したことからも,仮想通貨自体に内在している危険を否定することはできないものと思慮致します。

天法律事務所
弁護士 人見 勝行
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