
「Down By The Salley Gardens ダウン バイ ザ サリー ガーデンズ」
/ 西山瞳(p)、安ヵ川大樹(b) デュオ
税込定価: 2,750円
品番: DMCD-27
レーベル: D-musica ※詳細はこちらをご覧下さい
発売日: 2014年5月28日
西山 瞳 Hitomi Nishiyama - piano
安ヵ川大樹 Daiki Yasukagawa - bass [web]
[収録曲]
1.Pescadores(Hitomi Nishiyama)
2.Softwind (Hitomi Nishiyama)
3.Hanagasa Ondo 花笠音頭 (Traditional)
4.Loca (Hitomi Nishiyama)
5.Down By The Salley Gardens (Traditional)
6.Epigraph (Hitomi Nishiyama)
7.Alma (Hitomi Nishiyama)
8.Tairyo Utaikomi 大漁唄い込み (Traditional)
9.Whispering (Hitomi Nishiyama)
2013/11/8 Recorded at Yamanakako Music Inn Studio
解説:島田奈央子
●オンラインショップ
D-musica HMV Tower Records Catfish Records Amazon
●レビュー
【Jazz Life 2014年7月号】
「さらなる進化をみせるピアノ&ベース・デュオ2作目」
前作『エル・カント・デルス・オセルス(鳥の歌)』から2年ぶりとなる西山瞳と安ヵ川大樹のデュオ・アルバムの第2弾。冒頭、西山オリジナルの「ペスカドーレ」の圧倒的名演により名盤確定と宣言していいだろう。胸を締め付けるような切ないメロディは、無駄な装飾を削ぎ落した完璧な旋律美を聞かせる。テーマの後の安ヵ川の情感豊かなベース・ソロ、溢れ出る美しいフレイズからエンディングに向かって見事に収斂していく西山のピアノ。すべてが完璧に構築された奇跡の6分間。日本が誇るコンポーザー型ピアニストであり、”女ピエラヌンツィ”の異名をとる西山の本領発揮の名曲だ。西山オリジナルが6曲に日本とアイルランドの民謡が3曲というユニークな選曲。民謡3曲では弓弾きベースを堪能できる。特に宮城県民謡8.でのアルコからピチカート・ソロに切り替わる瞬間は鳥肌ものだ。柔らかなメロディが心地良いアイルランド民謡5.でのピアノとベースが織りなす優しく温もりに溢れた雰囲気。ミディアム・テンポの6.は、ドラム入りのピアノ・トリオかと錯覚するほどスリリングなプレイで、西山の切れ味鋭い泣きのフレイズが炸裂する。レギュラー活動を通して磨き上げたふたりのインタープレイと、西山のソングライティングの上手さが際立った充実の作品。
【HMVレビュー4/23】
ベーシスト安ヵ川大樹とピアニスト西山瞳、日本を代表する2人によるデュオ。 前作『エル・カント・デルス・オセルス(鳥の歌)』からおよそ2年ぶりのリリース!
ベーシスト安ヵ川大樹とピアニスト西山瞳、日本を代表する2人によるデュオ。前作エル・カント・デルス・オセルス(鳥の歌)からおよそ2年ぶりとなる本作「ダウン・バイ・ザ・サリー・ガーデン」。タイトル曲でもあるアイルランド民謡の「Down By The Salley Gardens」 、花笠音頭、大漁唄い込みなどの日本民謡に加えコンポーザーとしても高い評価を受ける西山瞳のオリジナルが並ぶ。全編ゆったりと流れ、旋律を引き立たせるような懐の深い演奏とアレンジ、情熱的なまでの熱い安ヵ川大樹の演奏が際立つ1枚です。
●ライナーノーツ
春が一歩一歩近づいてきて、桜の蕾が膨らみ始めた頃、このアルバムの音源が私の手元に届いた。あまりの嬉しさに、タイトルも見ずにすぐさま再生。音が流れた瞬間から、私の部屋には緩やかな優しい風が流れこみ、新しい木々の香りがふわっと。また同時に、季節の移り変わりに感じる、あの騒めいた気持ちも込み上げてくる。 アルバムを聴き進めていくうちに、私の中で自然と言葉が浮かんできた。それは、「隣の庭」もしくは「庭のほとり」。でも、決して自分の家の庭ではなく、少し離れた場所にある、眺めのいい庭。季節によって華やいだり、寒さに耐えながら立っている木があったり、葉や花びらがひらひらと落ちていく瞬間だったり。曲が変わるたびに、色々な庭の風情が浮かんでくる。それこそ、ある時のピアノは木漏れ日のように、またある時のベースは木々が大きく揺れているかのようにさえ聴こえてくる。牧歌的なメロディも温かくて、どこか懐かしい。そんな風景を浮かばせるアルバムタイトルを、ふと知りたくなった。
『Down By The Salley Gardens』。
おもわず、目を見張った。イメージしていたままの"庭"だったとは…。歌のない音楽で、こんなにも聴き手に明確に想像させるなんて、それは、もう滅多にないこと。あまりの衝撃で嬉しさを超えて、ゾクゾクっとさえしてしまう。ちなみにこのタイトル曲は、伝統的なアイルランド民謡曲で、邦訳では「サリーの庭」や「柳の庭のほとりで」というらしい。アルバムにはこの曲以外にも、山形県や宮城県の日本の民謡音楽も収録されている。その土地に根付いた民謡音楽は、なんとなく土に張り付いた太い根っこや幹を思わせ、そこからまた庭を想像させるのかもしれない。その他の西山瞳さんのオリジナル曲との混ざり具合も本当に絶妙で、1枚を通して1つの物語が出来上がっていく。
そして、そろそろ2人の演奏の話に入りたい。ピアノとベースのデュオというよりは、アーティスト、西山瞳さんと安カ川大樹さんのデュオというのが、私の中ではしっくりとくる。それぞれの持ち味というのが強烈にあるし、もしも同じキャンバスに絵を描くとしたら、自分が思う色を使って、自由に大胆に絵が描けるお2人だと思うし、さらに相手の意欲を掻き立たせる何かを残していくような、そんな印象を持っている。また、演奏を聴いていて思うのは、2人のそれぞれの会話の雰囲気が、そのまま演奏に表れていること。落ち着きもあり、穏やかでもあり、でもウイットに富んでいて、豊かな気持ちにさせてくれる。デュオ演奏だからこそ、そんな会話をしているような雰囲気がダイレクトに伝わってくるのだと思う。またこのアルバムでは、安カ川さんの弓を使った美しいアルコ奏法をたくさん聴く事が出来る。「アルコによって、ソリストとピアノという形でも演奏が出来るし、普段ジャズではコントラバスは、リズム隊という役割に徹する事が多いけれど、このデュオではコントラバスを前面に聴ける」と、このデュオの魅力について、西山さんはこう話している。
そもそも2人がデュオ活動を始めたのは、2008年。最初はトリオでの活動もありつつ、徐々にデュオになっていったとのこと。2012年にはカタロニア民謡をタイトルにした『El Cant Dells Ocells』をリリース。このアルバムのレコ発ツアーや2年間の活動の中で、さらに進化したサウンドを録音したいという思いから、今回の新作の制作がスタート。このデュオには欠かせない民謡と、ライブで構築してきた楽曲とこのアルバムの為に書下ろした曲も用意した。
レコーディングは、山中湖から少し上がった山間のスタジオ。自然に囲まれた環境の中で、次々と生まれていった今回の楽曲たち。様々な情景が自然に思い描けたこと、そして民謡の曲では、ハートやソウルという部分で安カ川さんの強い部分が共振して、特別な印象を残す曲になったこと、その全てがこのアルバムに詰まっている。
まるで本のページをめくるように、物語が進んでいく世界観。出来れば自然の中で、散歩をしながらゆっくりと聴きたい。
音楽ライター・島田奈央子