今回のアルバムのApollo Soundsというレーベルは、ディレクター阿部淳氏がそれまでいたレコード会社から独立して始めた、ジャズのインディペンデントレーベルです。以前、「Travels」という作品でもお世話になりました。Apollo Soundsのこれまでにリリースした作品ラインナップも個性的ですが、音楽もビジュアル面も独特のセンス。従来のジャズマナーとは少し違う感覚だと思いますが、そのセンスはとても信頼しています。(おかげで凄いジャケットになりましたが、面白いのでOKです)

阿部氏自身は全くメタラーじゃないんですが、今回の企画は、メタラーじゃないからこそ、終始良きメンターでいてくれたと思います。阿部氏に提案されなかったら、いくらメタル好きでもやらなかったですしね。選曲も、あれ入れてこれ入れてとは全く言わず、完全に任せてくれました。だから、アレンジ制作過程で、逆にこちらからアレンジやリハを聴いてもらう機会を何度か作って、方針を確認しながら作っていました。

それで、唯一阿部氏からきた音楽的な注文が、「テクニカル系を真正面からやってくれ」ということ。
これは、確かにアルバムに欲しいネタではあるのですが、メタルでテクニカル系というと、ギターが速いかドラムが速いかみたいになってくるので、実はジャズのアンサンブルとしてピアノトリオでやるには、結構難しいことです。音楽自体が複雑だとプログレになってしまいますが、プログレに擦るものは、選曲に理由のあるIn the Dead of Night以外やりたくなかったので。

そこで、音楽的に非常に高度なことをやりつつ、なんだか終始のほほんとした空気を感じるANGRAから探してみたのですが、新譜が滅茶苦茶良かったので、新譜で一番舌を巻いた曲を選びました。

ANGRAに関しては、「Temple of Shadows」が本当に素晴らしいと思います。
自分の聴いている全てのジャンル、ジャズも含めて総合しても、このアルバムは本当に人生で出会ったアルバムの中でトップに入るアルバムなんですよ。ここまでのアルバムを作れる音楽的体力と冒険心は、畑違いの人間ではありますが、音楽家として最上級に尊敬しています。

ANGRAはブラジルのバンドなので、メタルバンドなのにサンバやっちゃったり笛が出てきたり、なんか不思議なミクスチャー感があって、2枚目のアルバム「Holy Land」なんかはパスコアールの引用とか出てきちゃったり、物凄い音楽ダイブしてる感がすっごく気持ち良いんです。メロスピで有名なバンドですし、決め曲はそういう曲が多いですけども、この音楽の懐の深さというかボーダーレス感こそが、ANGRAの本領だと思います。

新譜の「Secret Garden」は、このUpper Levelsが一番内容が濃くて、パーツが非常に多いのですが、その多さがテクニカルに繋がるかなと思ったのと、ブラジリアンな部分が多いので、ジャズからの距離もそう遠くないなと思って、トライしました。リハの一回目は、最初から最後までやっと辿り着いた感じで、そういう状況って普段まずないので、笑えましたね。6月のシークレットライブの時も、無事故で最後まで辿りつけるか不安でしたし(笑)。
アレンジは、パーツごとに中身は少し変えたり変えなかったりですが、構成は基本的にはほとんど変えていません。パーツの中身は、要所要所アドリブにしています。パルチードアルトみたいな部分は、皆聴いている譜割りが微妙に違っていたので統一しようとしたのですが、結局皆無理で(笑)、違うことを考えて弾いてます。ですが、そうすることで逆に本物に近い感じになったので、実際どう拍をとって弾いてるのか、メンバーに会えたら聴いてみたかったです。

レコーディングは、さすがにこの曲は時間かかるだろうなと思って、2日目に3、4時間見ていました。そして、パーツが多いので、部分的に録り直しなども入るだろうし、大枠を何回か録音して、編集ポイントを作って録り直しできる状況を作って、保険をかけてやればいいやと。
そう思ってたんですが、結局2回丸々演奏した2テイクしか録らなくて、30分ぐらいで済みました。しかもテイク1の方が集中と緊張感があってジャズ的に良かったので、収録テイクは一発目のテイク、勿論修正無しです。皆、ジャズミュージシャンだなあと思いましたよ、本当に。

ちなみに、ANGRAのキコ・ルーレイロからコメントを頂けたのは、偶然で全く想定外でした。
今回の録音、新譜に関してはまだカヴァーしている人がいないので、著作権管理団体の楽曲登録は確認していても、念のため録音許諾をアーティストサイドに事前に確認しておきたいと思っていました。特にUpper Levelsは曲が大変難しいので、録音したけれど収録できなかったなんてことになったら、もう泣いちゃいますからね。
そこで、いつも演奏している池袋のジャズライブハウスApple Jumpのオーナーが元々ビクターに勤務されていた方なので、洋楽の方と繋いで頂いて、ANGRAの出版管理の方まで繋いで頂いたんですよ。そして、録音が終わったらすぐ阿部氏がサンプルを出版管理の会社の方に送ったところ、すぐご本人たちに聴かせて下さって、そのご感想メールを頂けたのです。もうびっくりしました(笑)。あまりにも不意打ちだったので、しかもANGRAは好きで今年のツアーも名古屋まで聴きに行ってますし、キコ・ルーレイロはほんと好きでソロアルバムも持ってますし、もう地に足の着かない一日でした。阿部氏が、そのご感想メールを紹介していいですか?と確認しましたら、ちゃんとプロモーション用にコメントを下さるとのことで、ソッコーでコメントを下さいました。もう、これだけで、今回の私のご褒美は充分です(笑)。


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