短いが身近というお話

俳句、短歌そして読書、映画などなど・・・。なんでもつめこんで、やけくそに面白い!

原田マハ「暗幕のゲルニカ」

おお、カッコいい!!
原田マハお得意の美術展もの。
何度も何度も表紙の絵を眺め、
ときにはピカソの画集を取り出して読み進んだ。

簡単な構成の読みやすい小説であったが、
そんなこんなに夢中になり、
読了までひと月くらいかかったように思う。
読後も4,5日その浮遊感の中にいた。

暗幕のゲルニカ

 














ピカソの問題作「ベルニカ」の誕生を巡る
ノンフィクッションをも思わせる物語が
大きなひとつのテーマ。

ナチス・ドイツがスペインのゲルニカを無差別攻撃。
ピカソは怒り、ピカソの絵筆には火がついた。
絵に没頭するピカソ。それをじっと見守る愛人ドラ。
ピカソの並々ならぬ熱でようやく完成した「ゲルニカ」。
しかし、思った通りの評判は得られなかった。
ピカソの戦争反対の思いは十分に伝わらなかったのだが。

21世紀。MoMA(ニューヨーク近代美術館)のキュレーターで、
ピカソの研究をする八神瑶子は、あの9,11で夫を失う。
瑶子はスペイン、レイナ・ソフィアに所蔵されている「ベルニカ」を
戦争反対の意義を込めて、MoMAで公開したいと願い手を尽くす。
これがもうひとつのテーマ。

この20世紀と21世紀のドラマが
やがてひとつの流れに。

一瞬、瑶子がテロリストに捕まるという
ちょっと余計かもと思われるサスペンスも入る・・・。

ピカソの「ゲルニカ」はニューヨークで公開されるのか。
ピカソの戦争反対の願いは伝わっていくのか。

美術素人のワタシをすっかりピカソ愛好家に
してしまったこの小説。
心に残る一冊だと評価したい。


 

桐野夏生「猿の見る夢」

これまでの桐野夏生作品とは様相が異なる。
まず犯罪がない。
男が主役。
ややユーモラス、とてもペーソスな
辛い物語。
そんな桐野作品は記憶にない。

定年間近になると
誰もが考える将来への不安。
男の読者なら、その辛さに
きっとどこかで共感するはず。

猿の見る夢 
















大手銀行員である薄井正明は
銀行エリートたちは決して出向しない
アパレル会社に出向、その取締役。
その会社、運良くヒット作を生み出し、上場。
そこで薄井はなんとか生き残りをと
願っている。

銀行の社宅に住み、
20年近くのつきあいの愛人を持ち、
独立した息子と生まれ育った実家の土地に
二世帯住宅を建てて、老後を過ごしたいと
考えている。

そんな一見、セレブな感じの日常に
問題が発生する。

会社の会長はその娘婿である社長が
引き起こしたセクハラ問題を
どう解決するか、薄井に相談する。
薄井には、会長に取り入る絶好のチャンス?
ところが会長室に出入りするうちに
会長秘書に恋心。

一方、認知症で入院していた
母親が亡くなって大騒ぎ。
母親の介護を
実家の土地に家を建てて住む妹夫婦に
任せっきりだったため
薄井夫婦と妹夫婦が冷戦状態に。
母親の遺書には、財産のすべてを
妹にとあって、薄井大慌て。

ここに妻が連れてきた占い師が登場。
信じて従う妻。
なんとしても信じない薄井。

出向と出向先、
定年後の就職あるいは生活、
親の介護、遺産相続、・・・
概ね日本の社会では55歳を超えると
一度にそれら諸問題が迫ってくる。
桐野はそれをあるときはユーモラスに
あるときはオーバーに、そして、あるときは
哀しい現実としてとらえ
提示してくれている。

これは変だという部分もある。
それ以上に、いま抱えている問題を
素直に見つめてみようと思わされた。





 

「硝子の太陽R」「硝子の太陽N」誉田哲也

どっちがどっち?
読む前に、読んだ後に
どちらがどっちなのか
迷ってしまう。
装丁がこれだけ似ているのに
ほとんどつながりのないドラマの展開。
つながっているのは登場人物が数名。
事件の捜査の中で
つながっているよと主張するように
情報交換などを見せてくれる。

出版社は中公論新社と光文社。
装丁以外にページ数もほぼ同じ。

ひとつは刑事「姫川玲子」のシリーズ。
もうひとつは「ジウ」の流れ。

どっちがどっちだった?
企画モノもここまでくると行き過ぎ?
と、思いつつ読みふけってしまった。
                           
硝子の太陽R硝子の太陽N































「硝子の太陽Rルージュ」は誉田哲也の
ヒットシリーズ、姫川玲子警部補の警察ミステリー。
東京の住宅地で起きた一家殺人事件。
新生「姫川班」がその捜査にあたるが
なかなかの難事件。

一方の「硝子の太陽Nノワール」は
同じ誉田哲也の「ジウ」の流れを汲む。
テレビドラマで大ヒットした中村主水の
「必殺」シリーズの様相を帯びる。

どちらもエンターテイメントの極地ではあろうが
姫川シリーズが好み。

「ダ・ヴィンチ」7月号で
この「硝子の太陽」を中心に
誉田哲也が大きく取り上げられている。
(ちなみに「ダ・ヴィンチ」はKADOKAWAである)

ところで、この巨大?企画プロジェクトは
成功したのかどうか?


桐野夏生「バラカ」

久しぶりに書く。
前回の投稿から2ヶ月経っている。
多くの本が記憶から遠ざかりつつある。

こういう時は強烈な印象だった一冊から。

バラカ
















とてもとても複雑な展開の一冊。
章ごとに主役が変わっていく。
底流には「バカラ」という少女の「生」が
かかっているのだけれど。

そして、これから起こるかも知れない
社会的な問題、課題が
それぞれの展開の中で提議される。
たとえば、
・働く女性の問題
それは結婚しない女性、子供は欲しいという女性・・
限りなく女性の抱える、ひいては日本の抱える問題に
迫っていく。
・福島の原発問題
大地震以後、放射線の問題で住めなくなった東京以北。
首都は大阪に移り
東京は一種の廃虚化。
放射能で住めないことをアピールする人々が
「狩り」にあい、ひっそり、あるいは転々と
隠れながら生きているという視点。

他にも外人労働者、高齢者・・・
想像できる多くの将来の悲惨を
可能な限り満載し
それをこの人らしい、この人独特のタッチで
解きほぐしながらストーリー展開する。

とにかくの超大作でひとつひとつの
物語を把握し、読み進むのに
大きな時間が必要であった。

「社会派」とひとくくりの言葉で
この本を評価しては作者に失礼である。
予想もしない、予想すら出来ない
そんな未来が現実かも知れないと
思ってしまう貴重な作品。
挑むつもりで読んで欲しい。
 

黒川博行「悪菓」

久しぶりになりふり構わない小説を読みたいと
選んだのが黒川博行 。
前にも書いたかも知れないが
たまに行く小さなバーで氏を
よくお見かけした。

失礼ながら風貌とはまったく縁遠い
靜かな、紳士的なお酒の飲み方であった。

この小説「悪菓」が直木賞候補になったとき
氏はそのバーで受賞の知らせを待っていた。
いまかいまかと待つ報道陣の群れ。
しかし、時が経つに連れ、ひとり減り、二人減り。
最後にひとり残った氏は
「ここの勘定は誰が持つんや」と
おっしゃたとか、おしゃらなかったとか。

奥様の絵の展覧会に行ったり、
ある「朗読会」でご一緒したりと
氏はもうお忘れでしょうが
小さなご縁があった黒川氏。
直木賞を受賞されて以後、
お目にかかったことはない。

悪菓

















この小説、気分はきわめてアメリカンなのだが
中身的には、絶対的にジャパネスクな刑事物語。

暴力団担当の2人の刑事。
賭場開帳の現行犯で
多数を逮捕する。
そういった捜査情報を業界新聞に流し、
2人はそこから、そこそこの情報提供謝礼をとる。
しかし、この賭場事件を調べていくうちに
業界新聞の社主がクルマに轢かれ死亡。
思わぬ展開となっていく。

この一連の事件で2人の刑事は
犯人捜しを行い、大金をせしめる。
しかし、そのことが本部にばれる。
相棒を残し、ひとりは退職。
手に入れた金をもとに好き放題に
毎日を過ごす・・・。
警察に残った刑事は・・・?
この辺りが実はアメリカ映画風。

荒唐無稽のひとときを楽しみたいなら
もってこいの作品。


 

綿矢りさ「ウォーク・イン・クローゼット」

「いなか、の、すとーかー」と
「ウォーク・イン・クローゼット」の
二本立て。(この言い方、
昔の映画みたいで気に入っている)

タイトルから違和感がある。
電子書籍で読むから「いいか」って
感じで、読み始めた。
電子書籍と紙の本の読み方は
あきらかに違う。
電子書籍だといくぶん読み流す。
紙の本の時と比べると
慎重さにやや欠ける、気分。
だからといって、ちゃんと読んでいるつもり(なのだ)。

ウォークインクローゼット 
















二本立てのうち
「いなか・の・すとーかー」が好きだな・・。

突然、売れ始めた若い陶芸家石居。
故郷を背景にした作品づくりがテレビの
ドキュメンタリーに登場したりして
急激に忙しく なる。

この若い陶芸家の追っかけが登場する。
展覧会会場だけならよかったが
故郷の、田舎の工房にまでやってきて
一日中見はられている。
何も悪いことはしないのだけれど
遠くからずっと眺められている。
そのうち工房が荒らされるようになる。

陶芸家と幼馴染みの女子が
その仕業に憤慨し、怒る。
やややきもちもあるような。
陶芸家もこの幼馴染みには
好意をもっている。

もうひとり、幼馴染みの男子。
二人の間を取り持とうとする一方で
おっかけというかストーカーを
陶芸家から引き離そうと努める。

少しどんでん返しの結論になるのだが
ストーカーされる気持ちが
とても伝わってきて面白い。

もう一編の「ウォーク・イン・クローゼット」は
売れっ子モデルになった幼馴染みの話。

二作とも幼馴染みが脚光を浴びて
困る事態が起きてしまうところに
焦点が当てられている。
結局、作品としては
好きか嫌いかなんだけれど。
エンタメとして読めば面白い。
でも、この人、もっと思い詰めた作品を
書いていたのではないかな?

 

桜木 紫乃「ワン・モア」

北海道の暗い(寒い)土地を背景に
犯罪めいた作品ではないかと
想像できる幕開きの一章。
それが桜木の真骨頂だから。
しかし、想像とは異なり、テンポがいい。
暗い(暗そうな)大地での展開ではあるが
なぜか前向きになっていく小説である。

桜木ワンモア
















安楽死に関わって大病院から
小さな島の診療所へ左遷された女医美和。
その島で出会った元日本代表候補の水泳選手だった
漁師との不倫。
それは島中の誰もが知るところとなる。
評判の悪い美和のところへ
高校からの同級生鈴音から。
彼女の病院を手伝って欲しいという電話。
彼女は癌。
余命数ヶ月?
お互いに詳しい会話もなく
美和は鈴音の跡を継ぐ。

物語は鈴音の片腕の看護士、
鈴音の離婚した元夫などなどが
主役となって連作を構成していく。
そのたびに物語が前を向く。
この作者には珍しい展開?

そして最終章。
すべての登場人物が勢揃い。

この作家の本は暗くなるから
最近は遠ざけていた。
しかし、前述したように
とてもテンポがよく
もう何冊かは読めそうである。

 

本谷有希子「ぬるい毒」

ほとんどが一人称
あるいは一人称と思わせる
タッチで綴られるこの小説。
読んでいてずっと不愉快なのであります。
不愉快なのに読み続けていたい。
それほどの不合理さが
作者の狙いであるとしたら
まんまと嵌まってしまった読者は哀れ
そのものなのであります。

ぬるい毒
















突然、家に訪ねてこられ
同級生だったとか
お金を借りていたとか
言われたらどうしますか?
相手が同級生ではないような
気はするのだけれど、
とてもイケメンで、
可愛くなった、見違えるとか褒められて・・。
どうもお金を貸した覚えがなく
借用書みたいなものを見せられて
やっぱり私と違うと確信したのに、
知っている同級生の名前を出され
ちょこっと一緒に飲もうと誘われたら
ついて行きますか?

田舎を離れられない私に
東京のことを数多く語り
東京の洗練を見せつけられたとしても
言っていることが嘘だと判ったら
やっぱり引きますよね。

でも、私は残念ながら
東京の大学に通っている向伊という男の
言うとおりにしてしまう。
向伊の嘘に虜になり
恍惚感さえ覚えてしまう。

ストーリーとはいささか異なるかもしれないけれど
おおよそこんなことが
永遠に続くかのように書かれたこの作品。

あんまり気持ちはよくないし
読んで決してためにはならないし。
でも、この作家が改めて好きになる。

ほんと不思議な気分でありました。

 

誉田哲也「あなたが愛した記憶」

この著者 誉田哲也は
多彩なカテゴリーを描いて
幅広いファンを集めている作家である。

一躍有名になった姫川シリーズなどの警察もの、
剣道をテーマにした青春もの、
ノンフィクションタッチの社会派・・。
しかし、やっぱり、この作品のような
ホラーミステリーというか
荒唐無稽な匂いの中に
恐怖を覚える作品は
最高の読み答えである。

あなたが愛した記憶
















私立探偵曾根崎のところへ
飛び込んできた高校生民代から
出た言葉は「あなたの娘」。
ある男の所在を探してくれと
むりやり依頼される。

その頃、世間では残忍に二人の
若い女性が殺される事件が発生。
警察はその残忍さから
同一犯ではないかと捜査を始める。

自分の記憶がそのまま子供に
引き継がれるとしたら・・。
あなたはそれを望むか?

この著作のカギは
自分の記憶を次の世代に残したいと
願い、その能力を持つ人間が、
それを実践しようとすることが
犯罪につながり、さらには、
そこに信じがたい親子関係や
血縁関係が生じ
人間関係が複雑に絡まっていくという
ところにある。
そのことは、読み進むうちに
うすうす判っていくのだが
だんだん、それは薄気味悪さへと
発展していく。

カギのつくりかた、
ストーリーの追い込み方
これこそ著者独特のミステリーホラー
ではにだろうか・・・。


 

星野智幸「呪文」

まったく予備知識なしに
行き当たりばったりに 本を選ぶ。
それはまったく出来ない。
この本は電子書籍の「立ち読み」で
すらすらと読めた。
で、本編を購入した。

しかし、読み始めてみると
難関で、前へ進めない状態が
長く続いた。
そんな時、いわゆる、スランプの時
(そんなスランプなんてあるの?
と、言われそうだけれど
にっちもさっちもいかないことが
あるのです。)

この人のプロフィールを探した。

2002年、芥川賞落選。
で、芥川賞作家にはならないと自ら宣言、とある。
自信のある生き方やなあと、
この著(ここでは「著」)を再び、
読み進めることにした。
2回の後押しがあって、読了したということになる。
(いつもなら、積ん読になるところを回避でき
嬉しい限りだ。) 

呪文


















新興の商業施設の出現で
影が薄くなった古い商店街に
日本では無名のメキシコファーストフードの
店をオープンした主人公。
物珍しさからなんとか持ちこたえてきたが
もう限界。
この商店街を率いる
若いイタリアンレストラン経営者の店で起きた
小さなクレーム。
それはネットで風評拡大。
そこそこ成功していた店が暗転。
若い経営者は立ち上がる。
クレーマーを探し、風評の基を絶とうと。
と同時に、古い商店街の再建、
というか、新しいイメージづくり。
主人公もそのイメージづくりの運動の中に
取りこまれそうで、いまのところ、
組織外・・・。

リアリティな問題解決から
リーダーが繰り出すのは
なにやらマインドコントロール的な世界。

そうです。ここでこの本を
読み続けることができなくなったのです。

リアリティが薄れていくたびに
読書欲が削がれていく。
なかなかこういう描き方に
なじめなかったというのが
真相かも知れません。

 
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