短いが身近というお話

俳句、短歌そして読書、映画などなど・・・。なんでもつめこんで、やけくそに面白い!

黒川博行「悪菓」

久しぶりになりふり構わない小説を読みたいと
選んだのが黒川博行 。
前にも書いたかも知れないが
たまに行く小さなバーで氏を
よくお見かけした。

失礼ながら風貌とはまったく縁遠い
靜かな、紳士的なお酒の飲み方であった。

この小説「悪菓」が直木賞候補になったとき
氏はそのバーで受賞の知らせを待っていた。
いまかいまかと待つ報道陣の群れ。
しかし、時が経つに連れ、ひとり減り、二人減り。
最後にひとり残った氏は
「ここの勘定は誰が持つんや」と
おっしゃたとか、おしゃらなかったとか。

奥様の絵の展覧会に行ったり、
ある「朗読会」でご一緒したりと
氏はもうお忘れでしょうが
小さなご縁があった黒川氏。
直木賞を受賞されて以後、
お目にかかったことはない。

悪菓

















この小説、気分はきわめてアメリカンなのだが
中身的には、絶対的にジャパネスクな刑事物語。

暴力団担当の2人の刑事。
賭場開帳の現行犯で
多数を逮捕する。
そういった捜査情報を業界新聞に流し、
2人はそこから、そこそこの情報提供謝礼をとる。
しかし、この賭場事件を調べていくうちに
業界新聞の社主がクルマに轢かれ死亡。
思わぬ展開となっていく。

この一連の事件で2人の刑事は
犯人捜しを行い、大金をせしめる。
しかし、そのことが本部にばれる。
相棒を残し、ひとりは退職。
手に入れた金をもとに好き放題に
毎日を過ごす・・・。
警察に残った刑事は・・・?
この辺りが実はアメリカ映画風。

荒唐無稽のひとときを楽しみたいなら
もってこいの作品。


 

綿矢りさ「ウォーク・イン・クローゼット」

「いなか、の、すとーかー」と
「ウォーク・イン・クローゼット」の
二本立て。(この言い方、
昔の映画みたいで気に入っている)

タイトルから違和感がある。
電子書籍で読むから「いいか」って
感じで、読み始めた。
電子書籍と紙の本の読み方は
あきらかに違う。
電子書籍だといくぶん読み流す。
紙の本の時と比べると
慎重さにやや欠ける、気分。
だからといって、ちゃんと読んでいるつもり(なのだ)。

ウォークインクローゼット 
















二本立てのうち
「いなか・の・すとーかー」が好きだな・・。

突然、売れ始めた若い陶芸家石居。
故郷を背景にした作品づくりがテレビの
ドキュメンタリーに登場したりして
急激に忙しく なる。

この若い陶芸家の追っかけが登場する。
展覧会会場だけならよかったが
故郷の、田舎の工房にまでやってきて
一日中見はられている。
何も悪いことはしないのだけれど
遠くからずっと眺められている。
そのうち工房が荒らされるようになる。

陶芸家と幼馴染みの女子が
その仕業に憤慨し、怒る。
やややきもちもあるような。
陶芸家もこの幼馴染みには
好意をもっている。

もうひとり、幼馴染みの男子。
二人の間を取り持とうとする一方で
おっかけというかストーカーを
陶芸家から引き離そうと努める。

少しどんでん返しの結論になるのだが
ストーカーされる気持ちが
とても伝わってきて面白い。

もう一編の「ウォーク・イン・クローゼット」は
売れっ子モデルになった幼馴染みの話。

二作とも幼馴染みが脚光を浴びて
困る事態が起きてしまうところに
焦点が当てられている。
結局、作品としては
好きか嫌いかなんだけれど。
エンタメとして読めば面白い。
でも、この人、もっと思い詰めた作品を
書いていたのではないかな?

 

桜木 紫乃「ワン・モア」

北海道の暗い(寒い)土地を背景に
犯罪めいた作品ではないかと
想像できる幕開きの一章。
それが桜木の真骨頂だから。
しかし、想像とは異なり、テンポがいい。
暗い(暗そうな)大地での展開ではあるが
なぜか前向きになっていく小説である。

桜木ワンモア
















安楽死に関わって大病院から
小さな島の診療所へ左遷された女医美和。
その島で出会った元日本代表候補の水泳選手だった
漁師との不倫。
それは島中の誰もが知るところとなる。
評判の悪い美和のところへ
高校からの同級生鈴音から。
彼女の病院を手伝って欲しいという電話。
彼女は癌。
余命数ヶ月?
お互いに詳しい会話もなく
美和は鈴音の跡を継ぐ。

物語は鈴音の片腕の看護士、
鈴音の離婚した元夫などなどが
主役となって連作を構成していく。
そのたびに物語が前を向く。
この作者には珍しい展開?

そして最終章。
すべての登場人物が勢揃い。

この作家の本は暗くなるから
最近は遠ざけていた。
しかし、前述したように
とてもテンポがよく
もう何冊かは読めそうである。

 

本谷有希子「ぬるい毒」

ほとんどが一人称
あるいは一人称と思わせる
タッチで綴られるこの小説。
読んでいてずっと不愉快なのであります。
不愉快なのに読み続けていたい。
それほどの不合理さが
作者の狙いであるとしたら
まんまと嵌まってしまった読者は哀れ
そのものなのであります。

ぬるい毒
















突然、家に訪ねてこられ
同級生だったとか
お金を借りていたとか
言われたらどうしますか?
相手が同級生ではないような
気はするのだけれど、
とてもイケメンで、
可愛くなった、見違えるとか褒められて・・。
どうもお金を貸した覚えがなく
借用書みたいなものを見せられて
やっぱり私と違うと確信したのに、
知っている同級生の名前を出され
ちょこっと一緒に飲もうと誘われたら
ついて行きますか?

田舎を離れられない私に
東京のことを数多く語り
東京の洗練を見せつけられたとしても
言っていることが嘘だと判ったら
やっぱり引きますよね。

でも、私は残念ながら
東京の大学に通っている向伊という男の
言うとおりにしてしまう。
向伊の嘘に虜になり
恍惚感さえ覚えてしまう。

ストーリーとはいささか異なるかもしれないけれど
おおよそこんなことが
永遠に続くかのように書かれたこの作品。

あんまり気持ちはよくないし
読んで決してためにはならないし。
でも、この作家が改めて好きになる。

ほんと不思議な気分でありました。

 

誉田哲也「あなたが愛した記憶」

この著者 誉田哲也は
多彩なカテゴリーを描いて
幅広いファンを集めている作家である。

一躍有名になった姫川シリーズなどの警察もの、
剣道をテーマにした青春もの、
ノンフィクションタッチの社会派・・。
しかし、やっぱり、この作品のような
ホラーミステリーというか
荒唐無稽な匂いの中に
恐怖を覚える作品は
最高の読み答えである。

あなたが愛した記憶
















私立探偵曾根崎のところへ
飛び込んできた高校生民代から
出た言葉は「あなたの娘」。
ある男の所在を探してくれと
むりやり依頼される。

その頃、世間では残忍に二人の
若い女性が殺される事件が発生。
警察はその残忍さから
同一犯ではないかと捜査を始める。

自分の記憶がそのまま子供に
引き継がれるとしたら・・。
あなたはそれを望むか?

この著作のカギは
自分の記憶を次の世代に残したいと
願い、その能力を持つ人間が、
それを実践しようとすることが
犯罪につながり、さらには、
そこに信じがたい親子関係や
血縁関係が生じ
人間関係が複雑に絡まっていくという
ところにある。
そのことは、読み進むうちに
うすうす判っていくのだが
だんだん、それは薄気味悪さへと
発展していく。

カギのつくりかた、
ストーリーの追い込み方
これこそ著者独特のミステリーホラー
ではにだろうか・・・。


 

星野智幸「呪文」

まったく予備知識なしに
行き当たりばったりに 本を選ぶ。
それはまったく出来ない。
この本は電子書籍の「立ち読み」で
すらすらと読めた。
で、本編を購入した。

しかし、読み始めてみると
難関で、前へ進めない状態が
長く続いた。
そんな時、いわゆる、スランプの時
(そんなスランプなんてあるの?
と、言われそうだけれど
にっちもさっちもいかないことが
あるのです。)

この人のプロフィールを探した。

2002年、芥川賞落選。
で、芥川賞作家にはならないと自ら宣言、とある。
自信のある生き方やなあと、
この著(ここでは「著」)を再び、
読み進めることにした。
2回の後押しがあって、読了したということになる。
(いつもなら、積ん読になるところを回避でき
嬉しい限りだ。) 

呪文


















新興の商業施設の出現で
影が薄くなった古い商店街に
日本では無名のメキシコファーストフードの
店をオープンした主人公。
物珍しさからなんとか持ちこたえてきたが
もう限界。
この商店街を率いる
若いイタリアンレストラン経営者の店で起きた
小さなクレーム。
それはネットで風評拡大。
そこそこ成功していた店が暗転。
若い経営者は立ち上がる。
クレーマーを探し、風評の基を絶とうと。
と同時に、古い商店街の再建、
というか、新しいイメージづくり。
主人公もそのイメージづくりの運動の中に
取りこまれそうで、いまのところ、
組織外・・・。

リアリティな問題解決から
リーダーが繰り出すのは
なにやらマインドコントロール的な世界。

そうです。ここでこの本を
読み続けることができなくなったのです。

リアリティが薄れていくたびに
読書欲が削がれていく。
なかなかこういう描き方に
なじめなかったというのが
真相かも知れません。

 

宮下奈都「羊と鋼の森」

いまよく読まれている本のひとつらしい。
「本屋大賞」ノミネート作、
「キノベスト!2016」第1位、
テレビ情報番組年間大賞
そして受賞は逃したが、直木賞・・。

羊と鋼の森
 















調律師に次第になっていく話である。
ピアノが弾ける訳でもなく
音楽がとても分かるでもなく。
山村で育った素朴な少年が
ひょんなことから調律師の学校に行き
都会から離れた街の楽器店の
調律師に採用される。
ピアニストをあきらめて調律師になった
先輩達に囲まれながら
決して自分の音ではないけれど、
自分の調律を徐々に身につける。
このあたりでタイトルの「羊」と
「鋼」の意味が分かってくる。
鈍ではあるが静かな青年の佇まいが
二人に少女に出会ってから 
少し開け、次第に彩りをまとい始める。

若書きの印象であった。
内向的な展開が今風ではない気がした。
全体の静けさは漂ってくる。
清新な雰囲気もある。
そうか、この「清新さ」さを、
若いと思うのかも知れない。
(この作者はそこそこベテラン?)

眞山仁「海は見えるか」

2014年3月発表の
「そして、星の輝く夜がくる」の続編。

東日本大震災の応援教師として
1年間の期限付きで
遠間第一小学校に赴任した小野寺徹平。
もう1年期間を延長するかどうか
迷っているところから物語は始まる。

新しく担任になった6年生のクラス。
1年前の震災直後の生徒の時とは
いささか違う問題が勃発する。

海は見えるか
















 復興の応援に来ていた若い自衛隊員と
メールのやりとりをしていた女の子。
突然、メールが返ってこなくなって
すっかりふさぎ込んでしまう。

かっての松原の名勝に
防潮堤が建設されるのを知って
反対署名運動に参加し、
学校側から叱責される女の子。

町の野球部で4番とエースの兄弟は
地区大会前に父親の新しい仕事先の町へ
引っ越していかなければならない。
野球大会での勝利を
復興のシンボルとしたい学校や大人たち。
揺れる兄弟の心と同級生たちとの友情は?

復興と言いながら、
子どもたちは心の中で叫び
助けを求めている。
阪神大震災で妻と子供を失った小野寺先生は
それらをどう受け止めていくのか。

「5周年」のマスコミ報道が数多くあった。
残念ながら相変わらずの「復興」報道ばかり。
いま起きつつある、
あるいは、これから起きるであろう問題を
示唆した報道は・・・?
さらに、この著作で描かれているような
災害地でのデリケートな問題にメスをいれたものは
皆無であったように思う。

そういう意味で、
この著作はもう一つの「復興」を語る
入口になるかもしれない。

 

坪内稔典「四季の名言」、「自筆百句」

朝日新聞に
毎朝、鷲田清一の200字ほどの
ミニコラム「折々のことば」が掲載されている。
警句であったり、名言であったり・・。 
この「四季の名言」はそれに近い。
字数は1200字前後。
2004年から2015年まで仏教大学の
月刊誌に掲載されたものをまとめたもの。
*3月1日の「折々のことば」には
坪内稔典の俳句
『三月の甘納豆のうふふふふ』が
掲載されていた。


四季の名言 たとえば、春篇には
「自分は現在に、
未来に生きなければ
ならないのだ。」
(植村直己)

「春風や闘志を
いだきて丘に立つ」
(高浜虚子)
などなど。
言葉をもとに
坪内自身の
心の風景が語られている。

こんな人生訓のようなものを
かって読んだことはなかった。
歳のせいか、
これが染みる・・・。

この書がいつか座右の書となって
最近では暇があれば、適当にページを開いて
読んでいる。


ごく最近
「坪内稔典自筆百句」が上梓された。
ちょうど坪内100冊目の著編という。

自筆百句
 大学を退官し、
フリーになった坪内の
これまでとは違った活躍に
期待したい。 

因みに
我が書庫に
坪内の著編が何冊あるか
チェックしてみた。
87冊あった。
俳句関係以外のものが
欠けていた。
細く長くの50年のお付き合いだもんなあ・・。 

本谷有希子「異類婚姻譚」

著者が芥川賞を受賞したことを
本当に喜んでいる。
足かけ10年、この著者の作品を読み続けてきた。
初めて芥川賞候補になって
受賞できなかったときは
すぐに受賞できると軽く思っていたが
数度?落選。
この人の描くシュールなタッチは
芥川賞には向いていないのではないかと
思い始めていた。
この著者とは読者という関係以外に
なにも関係ないのだけれど
こうも受賞できないでいると
身内が希望大学に入れないでいるような気分もあって、
判官びいき(こんな言葉はきっと不適当なんだけれど)のような
なんとなく、弱者を応援したくなる気分で
この著者の作品を買い集め
読んだり、眺めたりしたものだった。
眺めただけで、積んでおいたものを
これから読まなくてはと
ようやくやる気に?なって
とりあえず、受賞作を。

ここまでの文章を書いたのは
芥川賞決定直後。
それからもう一と月も経つ。
この作品について何を書くのか忘れてしまった・・・。

本谷有希子異類婚姻譚
















ある日、自分の顔が夫の顔に似てきたと感じる
専業主婦の私。
夫は仕事に行くけれど、働く意欲はまったくなく
バラエティテレビとか、ゲームとか
天ぷら料理とか
まったく脈略もなく凝ってしまう。

私は同じマンションに住む猫好きに老婦と
なんとなく親しくなる。
その老婦は飼う猫が
あたり構わず排泄をして
その猫を捨てたいと思うようなり、
私はその協力をし、
山に捨てることにする。
一方、夫は新婚旅行で山、高山に
登ることが唯一の得意?
どうしよもない夫と
顔が夫に似るどころか
崩れていく私。
夫は山へ・・・・。

「人間と違った種類の存在と人間が結婚する」という
「異類婚姻」説を知らないと
このシュールさにはついていけない。
読みやすくなった分、
シュールさが強くなった本谷?




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