2010年10月11日

そこがこの世の果てだとしてもそれが悲観に値すべきかどうかはわかんないすよ。

先週金曜深夜、ラジオを終えて自転車で帰った。
家まであと2〜3分というところ、時間は2時過ぎ。
世田谷の住宅街はひっそりと静まりかえっている。
はずだったのだが・・・その時間、その場所にそぐわない風景が目に入ってきた。
「うぎゃあぁぁぁ〜うえぇぇぇん〜だぁぁぁ〜!!」
一歳半くらいの男の子が道端で街灯に照らされながら泣き叫んでいる。
ん!?なにこれ?オレも人に親なので深夜に夜泣きが止まない子供を
外に連れ出してしばらくおんぶか抱っこをしながら落ち着かせる、的な
子育てあるあるがあるということは知っている。
が、その男の子はどう見ても一人きりだ。
しかも足元を見ると裸足。
せっかん?に、してもこんな真夜中に外に放り出すのはどう考えても危ない。
しかもその道は赤堤通りから甲州街道への抜け道で住宅街とはいえ
タクシーなど深夜でも車の行き来が激しい。
しばらく傍観していたが親らしき人も現れない。
と、オレに気づいたかなんなのかわからんがその男の子が
泣き叫びながらオレとは逆方向に走り出した。
その先には赤信号。そのまま走ったら車に轢かれてもおかしくない。
オレは自転車を投げ出して男の子を追っかけた。
信号の手前で捕まえた。相変わらず泣き叫んだまま。
「どうしたどうした?お母さんは?ん?おうちは?ん?」
まだ言葉を覚えていないのかパニくっているのかはわからないが
なにも答えずに泣いたままだ。
間近で見るとその顔は相当な時間泣き続けたことがわかった。
「ん?泣かない泣かない、ほい、抱っこしよっか抱っこ」
と、両手を拡げるとその子はなんの躊躇もせずにオレに抱きついてきた。
そのまま立ち上がって2〜3分体を揺らしながら背中をトントンしていると
だいぶ落ち着いて泣き半分しゃっくり半分くらいになってきた。
周囲を見廻しても誰もいない。
なにこれ?どうしよう?110番?
とか考えていると、目の前の家の玄関が開いて初老のおじさんが出てきた。
「あんたお父さん?」
「いえ、違います、さっき通りかかって・・・」
「さっきからずっと泣いてたんだよ」
「あ、そうすか・・・」
「そのうち親が来るかと思ってたんだけどさあ」
「ああはい・・・」
「どうすんの?」
「あ、いえ、どうしようかと・・・あ、どこの家の子かわかんないすか?」
「わかんないよ」
「ああ・・・」
「警察電話しなよ」
「え?」
「この時間だからもうそれしかないだろ」
「まあそっすね・・・あ、なんか喉渇いてそうなんでコップに水とかもらえないすか?」
「え?」
「あ、水とか・・・」
「警察呼びなよ」
と、ドアを閉めてしまった。
男の子はだいぶ落ち着いてきて、抱っこをしている初対面のオレの顔をじっと見ている。こんな状況だから可愛いとかは思わんがまあ愛くるしい顔ですよ、そんなもん。
警察かあ・・・色々説明すんのもめんどくせえなあ・・・つーか親!
なにしてんの?どこにいんの?
とりあえずこの子の家っぽいところを探しつつ、抱っこしたままその辺を歩く。
長い時間泣いた子は喉が渇くからとりあえずなんか飲ませてあげたいなあ。
ふらふら歩いてうちに男の子はすっかり落ち着いて指をしゃぶりながら
オレの胸に顔をくっつけてきた。
あーもう愛情感じちゃったよー、もうめんどくさいー、警察とかやだー。
この時のオレ、自転車降りたままだったんで背中にバック背負って頭にはヘルメット。で、男の子抱っこ。なんだこのシチュエーション?そんで時間はもう2時半過ぎ。4〜5分歩いているうちにオレのマンションの近くまで来てしまった。
この子の家らしき場所は見つからない。
もう一度最初にこの子が立ってた場所まで戻ろうか?
喉の渇きが可哀想だから家まで連れてってなんか飲ませるか?
ん?この状況を美人妻になんて説明すんの?あーもうめんどくせえなあ!
とか思っていると、マンションの隣の隣の隣にある安アパートの一階の
奥の方にある部屋の玄関が30センチほど開いていて
中から蛍光灯の灯りが漏れている。
ん?あそこか?
「おうちあそこ?」と、聞いてみるが男の子は指をしゃぶってオレを
見るだけでなにも答えない。
まあとりあえず行ってみるか・・・違ってたら家に連れてってなんか飲ませて
それで警察呼ぼう、冷蔵庫にアップルジュースがあったはず・・・
とか考えながらアパートに入っていった。
安アパートらしくそれぞれの玄関の前には古い洗濯機やらボロい自転車やら
ゴミ袋やらサンダルやらが散乱している。
開きっぱなしの玄関の前に来るとそこにはベビーカーがあった。
あ、この子のベビーカーかも・・・
中を除くとまず玄関に脱ぎ捨てられた子供の靴やらハイヒールやらサンダルやら
が目に入ってきた。そして匂い、生活臭とたぶん猫のウンコの匂い。
あーたぶんここだなあ・・・
ドアを開けて声をかける。
「すいませーん」
部屋の中が見えた。キッチン4畳半・奥の居間6畳の、オレも20年前に住んだことがある典型的な安アパートの間取りだ。
キッチンにはゴミ袋と脱ぎ捨てられた衣服やらなにやらが散乱している。
そして奥の6畳には布団が3組敷いてあって電気は消えているが
テレビが点いていてそのブラウン管の灯りが、布団に横になっている8歳くらいの
女の子と、10歳くらいの男の子の寝姿を照らしていた。
母親もしくは父親らしき姿は見えない。
是枝監督の「誰も知らない」を観た人はわかると思うがあれです。あの部屋のまんまです。
女の子がぼお〜っとした顔でオレを見る。
「はい・・・」深夜の訪問者を警戒する様子は無い。
無いっつーか顔も声も無表情だ。オレは一瞬である程度の生活環境を察した。
「この子はここのおうちの子かなあ?」
「・・・・あ、はい、そうです」
「さっきね、外で泣いてたよ、裸足で」
「・・・あ、はい・・・」
「一人で外に出ちゃったのかな?」
「・・・あ、わかんない・・・」
「・・・・」
テレビからは能天気な深夜バラエティの音が聞こえる。
女の子はそのままで、おそらく弟であろうオレが抱っこしている子に
近づくそぶりも見せずタオルケットをかけたそのままの姿勢だ。
オレはふとキッチンの流しを見た。色々とこびりついたままの食器が
溢れかえっている。オレはさらに色々と察した。
う〜ん・・・厳しいなこの状況は・・・
答えは想像はついたが聞いてみた。
「お母さんは?どこ?」
「・・あ、いません・・・」
「どこ行っちゃったの?」
「・・・あ・・えっと・・カラオケ・・・」
「カラオケ?」
「はい・・・」
まあ、そんなもんだろうな・・たぶん3人の子供を寝かしつけて
近所のスナックあたりにカラオケに行っちゃったんだろうな・・
そんで目を覚ました一番下のこの子が、お母さんがいないことに気づいて
淋しくてパニックになっちゃって玄関開けて外に出ちゃったんだろうな、
鍵かけ忘れたかどうかはしらんがそのまま裸足でギャーギャー泣いてお母さん
探してるうちに通りにでちゃって怖くなっちゃってそこにオレが通りかかったんだろうな・・・
「カラオケってすぐ近く?」
「・・・わかんない・・・」
わかんないかあ・・・わかればそこ行ってこの子渡してそんで家に戻ってもらうんだけどなあ・・・
「すぐ戻ってくるかなあ?」
「・・・わかんないけど・・・たぶんまだ・・・」
まあそうだろうなあ・・・えっと、どーすっかな?
オレがこのまま家に上がって待つ?いやいや無いわさすがにそこまでは。
まあとりあえずお姉ちゃんは寝ぼけてはいるがちゃんとはしてそうだから・・・
この子を戻して、ちゃんと鍵かけさせて寝かしつけさせる。
まあそれでいいだろう。
それにしてもお姉ちゃん、なんでこっちに来ないんだろう?
「あ、この子喉渇いてるからさ、なんか飲ませてあげよっか?」
「あ、はい・・・」
「うん」
「・・・えっとじゃあコップそこです・・・」
と、お姉ちゃんは食器で溢れかえった流しを指差した。
「・・・でもほら、おじさんはここの家の人じゃないからさ、お姉ちゃんやってよ」
「あ、はい・・・」
と、お腹までかけていたタオルケットを外してお姉ちゃんは立ち上がった。
ん?なんか足元フラフラしてんな・・・ん?
暗い居間から蛍光灯が点いたキッチンに入ったお姉ちゃんの両足には
ギプスがはめられていた。フォレスト・ガンプが足の不自由な少年時代に
付けていたあれの現代バージョンだ。
うわあ・・・そういえば・・・さっきはベビーカーだけに目が行っていたが
見るとその横には小さな車椅子があった。
お姉ちゃんはぎこちなく歩きながら流しまで来て
コップを2〜3回ジャージャーと洗い、そのまま水道水を入れて
オレが抱っこしたままの男の子に飲ませた。
案の定、男の子はグビグビと喉を鳴らしてその水を飲んだ。
「・・・お姉ちゃん」
「はい」
これまた容易に想像できることをあえてオレは聞いてみた。
「お父さんは?」
「・・・いません」

弟をしっかりと寝かしつけること、オレが出たら玄関の鍵をしっかりかけること
をお姉ちゃんと約束してオレはアパートを出た。

ほっぽったままだった自転車を取りにいきながら湧いてきた感情は
母親に対する怒りでもあの子らに対する同情でも悲観でもない。
ただただ無情だ。
オレは偽善者でも偽悪者でもないと思っている。
なるべく物事をフラットに考えたいと思っている。
あのような環境でも彼ら彼女らにとってはそれが生活であり日常である。
そこには彼ら彼女らにしかわからない幸も不幸もあるだろう。
朝になったら警察に通報する?
連休が明けたら役所の児童相談所に電話する?
わからん。

離婚してあのアパートに住み、長男・身障者の長女・1歳半の男の子を育てるのは
そりゃ大変だろう。ストレスも溜まるだろう。
そのストレス発散の方向がカラオケだとしてもオレはそれを責める気にはならない。
例えばそれが子供への暴力や虐待などに向かうよりはマシだ。
ずっと抱っこしていた男の子は幼子らしい良い匂いがしたし
お姉ちゃんもやせ細ってなどはなく、顔色や毛艶は良かったと思う。
お兄ちゃんはずっと寝てたのでわからんが
とりあえずは食べさせるものは食べさせているのだとは思う。
風呂にもちゃんと入れているんだと思う。
だからうん・・・たまたまこんなことになってしまい
あの家のことを知ってしまったからって・・・

なに!?このどこにも持っていきようのない気持ち!!!

家に帰って風呂に入って当たり前だが眠ることなどできず
この前物産展で買って、祝い事や来客用にとってあった
ちょっと高い焼酎を開けてロックで飲んだ。
色々と考えているうちに外から微かに鳴き声が聞こえたような気がした。

!!・・・いや、大丈夫・・・鍵はかけたはずだ。
お姉ちゃんが弟を抱きかかえて玄関を閉めて、ガチャッと鍵をかける音を
確かに聞いたんだ。大丈夫大丈夫・・・・ん〜もう!めんどくせえなあ!

外に出た。4時。
アパートに向かった。
部屋の前まで行くと中の灯りは消えていて
ドアと柱のわずかな隙間を見ると確かに鍵はかかっている。
・・・でももし、あの男の子がもう鍵を中から開けるくらいの知恵を付けていたら・・・最初に裸足で外に出た時もそうやってたら・・・・
オレはお姉ちゃんの車椅子を玄関に立てかけて
子供の力では中から開けないようにしてアパートを出た。


あ〜オレ、どうすりゃいいんだろ?


「モテキ」が終わり、評判も良く、廻りになにかと誉められ
ちょっと調子こいてたオレに誰かが冷や水ぶっかけたの?
なにかを考えさせようとしてんの?



と、企画を立てて賛同者は現れたものの
頓挫してしまい、ほっぽったままだったこれを思い出した。
歌舞伎町のこころちゃん
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オレは↑をどこかでこの世の果ての物語だと思っていて
自分の生活環境にはまったく心当たらないフィクションとして
捉えていたのかもしれない。
全然違った。当たり前だ。この世の果てなんか身の回りに溢れかえっている。

Posted by hitoshione at 02:54