2012年10月30日

大人になっても

学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる
著者:せきしろ
エンターブレイン(2012-10-01)
販売元:Amazon.co.jp
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ここは退屈迎えに来て
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最近読んだドストライクな青春小説。
に、触発されて・・・というわけではないが
何年か前にスチャダラパー20周年ライブのパンフレット「余談」に書いた
オレの青春小説。ではないな、思い出エッセイ?長めのコラム?なんでもいいや。
暇だったらお読みください。2駅くらいは時間が潰せます。


【恥ずかしいことにほぼ実話私小説「大人になっても」】

1989年、テレビ番組の制作会社に就職したオレは地獄のようなAD業務に追われていたが、
先輩ディレクターが会社に内緒でやっていたカラオケビデオ制作にも付き合わされていた。
ある日、会社に内緒=内職=テメエの小遣い稼ぎという先輩の後ろめたさからか「お前にも1本撮らせてやるよ」と言われた。
当時抱いていた「AD業務をこなしながら夜中に脚本を書き日大芸術学部時代の友人たちと自主映画を作りそれがPFFでグランプリ、
海外のインディーズ映画祭でも脚光を浴び、ヨーロッパの映画バイヤーの目に留まりパリに移住、
以降和製レオス・カラックスと呼ばれ寡作ながらアンビエントかつラジカルな映画を撮り続けフランス人女優と結婚し離婚しドラッグに溺れて・・・」
という夢は一気に崩れ、オレは宮沢りえのデビュー曲「ドリームラッシュ」(TK作曲)のカラオケビデオで監督デビューした。
そもそも脚本など書いたこともなければ日芸どころか高卒だしレオス・カラックスの映画はいつも途中で寝てしまい最後まで観たこともない。
なのでまあカラオケビデオがオレのお似合いのデビューだったのだろう。
先輩はその後会社を辞めてしまい、カラオケビデオの仕事はそのままオレの小遣い稼ぎとなった。
1年ほど続けて30本くらい作ったと思う。
「カラオケ」という部分だけ除けば弱冠21歳にしてサザン、矢沢永吉、B‘Z、美空ひばり、ビートルズetcのビデオを手掛けたというかなり輝かしいプロフィールだ。
「カラオケ」を除けばだが。
当時のカラオケビデオは【1本50万の制作費でC級モデルを使い1日3本撮り】というのがオーソドックスなスタイルだった。
オンボロワゴン車に機材と技術スタッフとモデルを乗せ、オレの運転で都内〜近場の海を廻って朝から夜中まで撮り続ける。
ある日、横浜の倉庫街で撮影を終えて都内に戻り技術会社で機材とスタッフを降ろしたオレは眠気眼を擦りながらモデルの女の子を自宅まで送った。
沖縄出身の彼女はわかりやすく喜屋武という苗字で無口だったが動きや表情は良く、
私服のセンスもオレ好み、スタイルも抜群でオレはヘトヘトに疲れながらもなんとか家に着くまでに仲良くなろう、
リアクション次第ではそのまま・・・なんて下心ギンギン&愚息もギンギン状態で車を走らせた。
助手席に座っている彼女はずっとウォークマンを聴いていた。1日中一緒にいたもののプライベートな会話はほとんどしていない。
とりあえず会話の取っ掛かりとしてオレは話しかけた。
「なに聴いてるの?」
「え?」
ヘッドフォンを片方だけ外してこちらを向いた顔は、そうねえ今で言うと比企理恵?って全然今じゃねえか。
うーん、誰だ・・・まあAV女優のみひろちゃんあたりを想像していただきましょうか。
「ん、それなに聴いてるの?」
「えー、知らないと思いますよ」
「そんなことないよ、オレ音楽けっこう詳しいよ、なに?」
「絶対知らないですよ」
「いいから言ってみてよ、多分知ってるから」
「んー、スチャダラパー」
「・・・・」知らなかった。初めて聞く名前だった。
「知らないでしょ?」
「(やべえ超カッコ悪ぃ、どうしよう?よしっ、ここは知ったかぶりでいこう)なんか聞いたことあるなあ、なんだっけ?なんか若いバンドでしょ?」
「んー、バンドではないんですけど」
「あ、バンドじゃないんだ?へえー(やばいっ!バンドじゃない?じゃあなんだ?)あっ、じゃあちょっと聞かせてよ」
「え?」
「カセット付いてるからさ」
「ああ・・」
彼女がウォークマンから取り出したカセットを受け取りカーステのデッキに差し込むとまったく聴いたことのない音楽が流れてきた。
記憶は曖昧だが「N.I.C.E GUY」だったと思う。
HIPHOPだということはわかったが正直まだ10代のパンクス気分が抜けていなかったオレにとっては心のドアをノックするタイプの曲ではなかった。
というか、彼女の気を引くための言葉を考えるのにいっぱいいっぱいだった。
「へー、こういうの聴くんだ?」
「うん」
「HIPHOPでしょ、いいよね〜」
「・・・」
会話はそこまでだった。無言の車内に能天気なラップとバックトラックが虚しく流れ続けた。
東中野駅前の交差点の停まり信号待ちをしている時、B面が終わり「シャア〜」というカセットテープ独特の微かなノイズになった。
スチャダラなんとかに下心を打ち砕かれたオレは、どうでもいい会話に切り替えた。
「喜屋武さんはいくつ?」
「え?えっと23です」
「あ、そうなんだっ、年上じゃん」
「え?そうなんですか?」
「うんだってオレ21歳だよ」「えー!全然見えない!」
「え〜そっかなあ?(おっ、なんか良い流れ、いいじゃんいいじゃん)」
「えーじゃあスチャダラと同い歳くらいですよ」
「え?」
「さっきの」
「あ、さっきの?そんなに若いんだ?」
「うん、確かボーズくんが21」
「ボーズ?」
「ラップの、二人でラップやってるんですけどボーズくんがハタチでアニくんがいっこ上」
「あ、そうなんだ(ボーズ?アニ?変な名前っ)」
「DJのシンコがえっと18歳かな?」
「18?そんな若いの?」
「そう」
彼女はカセットデッキに手を伸ばし早送りボタンを押した。
オートリバースでA面に変わったカセットから「スチャダラマーチ」に続き「スチャダラパーのテーマPT.2」が流れた。
さっきとはまったく違う音に聴こえた。能天気でフザけた音楽だけどほぼ同い歳のヤツらがこんなにカッコ良いことやってるんだ。
カラオケビデオデビューとはえらい違いだ。
ちょっとショックを受けたオレは何かを誤魔化そうと窓を開けてタバコに火を点けた。
彼女も窓を開けてタバコを取り出した。バージニアスリムメンソール。
タバコの煙に混じって気持ち良い風が吹きぬけた。思えば季節はゴールデンウィーク明けの五月中旬だった。
しばらくして薄い煙を吐きながら彼女は言った。
「もう田舎帰るんですよ」
「え?」
「なんかこの仕事あんまり来ないし」
「そうなの?」
「中途ハンパなんですよねえ、背も低いし」
「そうかなあ?・・・沖縄だっけ?」
「はい」
「そっか・・・」
「・・・」
また会話が途切れた。相変わらずカーステからは能天気なスチャダラパー、このシチュエーションのBGMとしては大失格だ。
さらにしばらしてタバコを消しながら彼女がつぶやいた。
「うらやましいんですよ、スチャダラパー」
「え?」
「なんか子供のまんまじゃないですか」
「あ、うん」
「このまんまでずっとやっていって欲しいなって」
「・・・・」
それ以上の会話はもう無かった。
要町の交差点を過ぎたあたりで「あ、この辺で大丈夫です」と言われ車を停めた。
「え?家の近くまで行くよ」
「大丈夫ですここで」
おそらく所属プロダクションの教育なのだろう。思えばどのカラオケモデルも自宅前まで車を乗りつけることは無かった。
助手席を降りながら彼女はデッキに残っていたテープを思い出した。
「あ、テープ」
「あ、ごめんごめん」
オレはエジェクトボタンを押してテープを取り出して彼女に渡そうと手を伸ばした。
「あ、やっぱいいです」
「え?」
「あげますこれ」
「え、いいよいいよ」
「聴いてくださいよ、あたしCD持ってるし」
「そうなの?」
「じゃあおつかれさまでしたっ!」
ドアを閉めて歩き出した彼女は狭い路地に消えていった。
確かにモデルにしては背の低い後姿を見送りつつ「ケツの形は最高なんだけどなあ・・・」
と思ったオレの手にはラベルに【スチャダラ大作戦】と下手クソな字で書かれたテープが残った。
あれから20年、そのカセットテープはいまだにCDラックの隅っこにある。
そして彼女はといえば今は喜屋武ではなく大根という苗字に・・・・
なわけはなく、テープは何度か繰り返した引越しやら結婚やら離婚やらまた結婚やらの間にどこかにいってしまったし、彼女が今なにをしているかもまったく知らないだす。        おわり。
                                       
スチャダラ大作戦
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この記事へのコメント
この何も起こらない感がたまりませんね。

久しぶりの更新うれしいです。
ツイッターも拝見してますが、長い文章が楽しいです。
Posted by aqui at 2012年10月31日 08:56
味わいのあるいい話ですね。ぐっと来ました。

Posted by aeg at 2012年10月31日 11:21
先月から、制作会社でADとして勤めています。日々、ヘマして、凹んでますが、大根さんの話を拝読して、少し凹みが直りかけてます。

僕も大根さんのように、いつか、自分の作品を世に出せるようになりたいです。
Posted by 駆け出しのAD at 2012年11月03日 15:26
森山未来さんが出演している『夜明けのBEAT』をみて衝撃を受けました!
前から森山未来さんが好きで『ヘドウィグ&アングリーインチ』もみさせていただきました。
まさかミュージックビデオでも共演しているとは!!

もうひとり高橋愛さん(ダンスオブヴァンパイアで知りました)も最近注目してます。
http://www.tudou.com/programs/view/vv7AMfF-peM/
http://www.youtube.com/watch?v=L_Ot_OleuNU&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=vSWxSK3NDTA
http://www.youtube.com/watch?v=-kJxqT1mh-g&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=0MotJ59sLSA
http://www.youtube.com/watch?v=c8_5cBeaSkE
Posted by サラ at 2012年11月05日 13:39
さすがです!
Posted by 轟尚紀 at 2012年11月14日 04:10
始めまして。モテキにはまってる27歳ロックンロール好きの転がる石と申します。
モテキドラマ版の1話目のロックフェスのシーンで出てきた、土井亜紀の彼氏が来ていたジャケットに
ものすごいロックを感じ、入手したいのですが、検索しても見つからなく、教えていただけないでしょうか?
よろしく御願いいたします。。
Posted by 転がる石 at 2012年11月30日 14:01
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Posted by ��≪�潟�������若�������怨�� at 2012年12月25日 19:13
まほろの第二話見ました〜。なるほど。
Posted by けんちゃんまん at 2013年01月19日 09:58
羂������<�����������腥冴����g��������腟九ソ�����ャ�с�������� ��蚊�������冴�������с��������
Posted by Nike ��泣�������若�鴻����ゃ�� at 2013年02月25日 22:24
素晴らしい仕事。それを維持する。
Posted by アディダス ローズ正規品 at 2013年06月26日 21:07
「大人になっても」読みたいね!
Posted by あゆみ at 2013年08月09日 13:21