スクラップ・アンド・ビルド
羽田 圭介
文藝春秋
2015-08-07


[スクラップアンドビルド:羽田圭介:文芸春秋]

主人公は28才の男の健斗です。
母と87才の祖父と同居しています。
車のディーラーの仕事を辞めて、今は無職です。
職探しをしています。

祖父は体のふしぶしが痛み、補聴器の調子が
悪ければなにも聞こえず、原因不明の神経痛があり、
口ぐせは「早う迎えにきてほしか」です。

健斗は祖父の希望をかなえてやろうと思います。
過剰な介護で、祖父の頭をぼけさせ、体の筋肉も
衰えさせて、早く死ぬ手伝いをしたいと思います。
祖父を動かないようにして、体を衰えさそうと思います。

「健斗にもお母さんにもみんなに迷惑ばっかかけて
すまないと思っている。じいちゃん、早う迎えの来てくれる
ことば毎日祈っとる」
健斗は少しいらついた。
あくまでも受け身か。
目標をやり遂げるために努力するという、
自発的な覇気がまるで感じられない。

健斗は運動して、筋肉を鍛えています。
回復し、強くなっていく自分の肉体と
やせ細った祖父の肉体を比べて、
優越感を感じます。

祖父は健斗に戦争時代の話をします。
飛行機の特攻隊員だったとの話をします。
行く順番待ちをしている間に戦争が終わって、助かったと。
その話を母にすると、祖父は適正検査で落ちて、
飛行機の操縦はしていないはずだと言います。
真実がわかりません。

健斗が家に帰って来ると、祖父がベッドで苦しがっています。
健斗は祖父を車で病院に連れていきます。
祖父は助かるのでしょうか?

年を取って、肉体が衰え、ふしぶしが痛む祖父。
若くて健康な健斗。
その対比が面白いです。
「早う迎えに来てほしか」
これが祖父の口癖です。
介護している健斗と母親は苦々しい気持ちで
その言葉っを聞いています。
いつも受け身か。
自分で努力はしないのか。
健斗は祖父の希望をかなえるべく、
過剰な介護をして、祖父の動きを封じて、
祖父の頭と体を衰えさそうと思います。
健斗のもくろみはうまくいくのでしょうか?

老人人口の増えてきた日本。
老人との関係や介護について、
色々と考えさせる小説でした。
重いテーマですが、登場人物が
つきはなして表現されていて、
ユーモアさえ感じられる作品に
なっていました。
作者の力量があると思いました。