つまをめとらば
青山 文平
文藝春秋
2015-07-08



[つまをめとらば:青山文平:文芸春秋]

武士が主人公の短編が6編入っています。
どれも面白いです。

つまをめとらばを紹介します。

[つまをめとらば]
主人公は深堀省吾です。56才です。
もとは作事下奉行の役の武士でしたが、
今は家督を息子にゆずり、
隠居してますが、戯作を書いています。

幼馴染の山脇貞次郎が屋敷の庭にある
家作を貸してほしいと言います。
貞次郎も56才、隠居しながら貸本屋を
しているとの事です。

貞次郎は貸してもらった家で所帯を持つつもりだと
言いますが、女性が来る気配は有りません。

省吾は3回結婚しました。
最初の妻は子供が病死したショックから浪費する
ようになって、病死しました。
後に借金が残りました。
2番目の妻は結婚して1週間で実家に帰り、
そして離婚することになりました。
3番目の妻は不義密通をしたので、
離縁しました。
今は一人です。
戯作を書いて、借金を返しています。

以前、省吾の屋敷に佐世という20才の娘が
下女奉公に来ていました。
罪のない童女のような顔を、
罪ではちきれそうな躰の上に乗せている
女性でした。
佐世と中間の弥吉が心中をしました。
弥吉は死にましたが、佐世はほとんど
無傷でした。
省吾は佐世を罪に問わず、奉公を解いて、
在方に返しました。

佐世が江戸にいて、貞次郎と心中を図ったという
噂を聞きます。
屋敷内の出来事だったので、
なかったものとして始末されたという
噂です。
省吾は噂の真偽を確かめませんでした。

屋敷と離れに暮らす省吾と貞次郎の暮らしは
心を平和な幸せに満たすものでした。

貞次郎の結婚相手は来るのでしょうか。
省吾はもしかするとその相手は佐世ではないかと
思っています。

貞次郎が省吾に言います。
「お前は諦めがよい、というよりも、
揉め事がいやなのかもしれん。
というよりも、穏やかなのが好きなのだろう」
「言われてみれば、たしかにそのようだ。
事なかれ、ということだな」

省吾は思った。
穏やかな晩年を過ごすのに、女の助けを
借りなければならない、ということも
なさそうだった。
それに貞次郎との二人暮らしの日が重なるに
つれて、省吾も、自分がなにを一番欲して
いたのかに気づいていった。
それは、つまり貞次郎が言った、平穏だった。

三人の妻といるときは、平穏とは無縁だった。
常に、彼女たちなりの正しさに、
付き合わなければならなかった。
なにしろ彼女たちは、まちがっていないのであう。

爺二人の平穏な暮らしが描かれていますが、
女性はいつも自分が正しいと思っているとも
描かれています。
妻と暮らすときは、平穏とは無縁なのです。
女に苦労した省吾と、女と心中したという噂のある
貞次郎の平穏な暮らしが描かれています。
貞次郎の結婚相手は来るのでしょうか?
それは佐世なのでしょうか?


平易な文章に人生の深い味わいがある、
面白い小説です。
職人技の小説、そういう風に思いました。
女性と暮らすと、彼女なりの正しさに同意する
必要が有るので、疲れますよね。