年の残り (文春文庫)
丸谷 才一
文藝春秋
2012-09-20



[年の残り:丸谷才一:文春文庫]

主人公は男で69才の医師の上原です。

上原の中学時代の同級生の多比良は中学時代に画家を目指して
いましたが、断念して、家業のお菓子やを継ぎ、成功して
発展させました。

多比良は芸者と浮気はするし、妾も3人います。
芸者と交わった後、芸者の裸体をクロッキーと
水彩で描きます。
その絵を見せられて、上原はうまいとは思いましたが、
ロダンのクロッキーにはおよばないと思い、
多比良にロダンのクロッキーを見せます。
多比良は感心します。
多比良はクロッキーを描くのをやめようかと
思います。

その多比良が最近、猟銃自殺をします。
多比良は上原に、最近の勃起不全を話していました。
上原は、多比良の自殺の原因を考えます。
自分の時代が終わったと多比良が思ったことかも
しれないと思いますが、自分がロダンの絵を
見せたことが原因の一つかもしれないと思います。

上原の中学時代からの友人で、女子大教授を
していた魚崎はまだ健在です。
しかし魚崎の先妻の朝子は40年前に自殺し、
魚崎のいとこで新聞記者だった藤木も
かなり昔に戦地で亡くなりました。

生と死とは何か?
上原の回想は昔へとさかのぼっていく。
朝子の死については、上原だけが知って
いる事がある。

上原は朝子が睡眠薬自殺をした家に
藤木と駆けつけた日の事を思い出す。

多比良の妻は、多比良が死んだ現場を見ても
平気だった。だが、多比良が道ずれにした
多比良の愛犬の死体を見て、ショックを受け
失神する。
多比良の妻は言う。「多比良にとって、
妻は私でなくても良かったのでしょう」

上原は多比良の事を羨ましく思う事もある。
魚崎が言う。
「しかしヒロイックだね。多比良のこと。
快楽が味わえない人間は無意味な存在だと
考えて自殺するなんて、やはりヒロイックだ。」

上原は魚崎に言います。
「僕は自殺は肯定しない。
自分の意志じゃなくて生まれてきたのだから、
自分の意志じゃなくて死んでいくのが正しいと
思う」

上原は愛読書のマルクス・アウレリウスの言葉を
思い出します。

昨日はひとしずくの精液、明日はミイラか灰。
それゆえこの地上における束の間を
「自然」の意志のままに過ごして、やがて
安らかに憩うがよい。
ちょうど熟したオリーブの実が
自分を産んでくれた大地を祝福し、
自分を実らせてくれた樹に感謝しながら
落ちてゆくのと同じように。

現在と過去へ、上原の回想は行き来します。
平易な文章で、人生の奥深い諸相が語られます。
生と死について考えさせられます。
なぜ上原と魚崎は生き延びて、朝子と藤木は
若くして死んだのか。
年を取った人間は、オリーブの実のように
潔く落ちていくべきではないのか。
優れた小説を読む喜びを感じる作品です。
おすすめ本です。