兄弟 (文春文庫)
なかにし 礼
文藝春秋
2001-03




[兄弟:なかにし礼:文春文庫]
作家で作詞家のなかにし礼の自伝的小説
だと思います。

主人公は中西礼三です。
礼三の父は戦争中にロシアに
抑留されて死亡しました。

母と礼三と兄と姉は満州から命からがら
日本に帰ってきました。

兄は空軍の兵隊でした。
特攻の生き残りだと兄は言っていました。

子どもの頃の礼三には、男らしい兄が誇りでした。

戦争が終わり、日本に帰って来てから
兄は無茶をしているように礼三には
思えました。

会社を作ってはうまくいかずに倒産して、
借金を作ってはまた会社を作る。
その繰り返しなのです。

礼三はシャンソンの歌の訳詩を
作ったりしていましたが、
やがて日本の歌謡曲の作詞家として
認められ、ヒットを連発するように
なります。
女優の卵だった石田百合子と結婚します。

兄は礼三から借金するだけでなく、
礼三の実印を持ち出して、
手形を連発したりします。
礼三のお金を自分のように
使うのでした。

礼三の弁護士は兄を訴えるように
言いますが、兄弟だからそれはできないと
礼三は言います。

兄夫婦が、脳溢血で倒れた母の面倒を
みているという負い目が礼三にはあるのです。

銀座のクラブで遊ぶ兄、妻子がいるのに
次々と女を作る兄、会社を作っては失敗して
借金を増やす兄。
礼三は困ります。

兄の借金を肩代わりする事になった礼三は
3億の借金を背負う事になります。

礼三はどうなるのでしょうか。

「兄さん、あんた、この仕事、本当に
成功させるつもりでやっていたの」礼三が聞きます。
「俺にはどうも墜落願望みたいなものがあるんだな。
心のどこかだ感じてるんだな。きっと墜落するに
違いないとね」兄が言います。
「じゃ、よせばいいじゃないか」
「よしたら墜落ができない」
「墜落したいわけ」
「墜落しないと意味がないような、うん、そんな
感じかな」

兄の墜落願望に付き合わされる
礼三はいい迷惑です。


菅原洋一と中西礼三が出合うシーンも
描いてあります。
「知りたくないの」誕生のエピソードが
興味深いです。

兄が作ったすごい金額の借金を
働いて返したなかにし礼の執念と
才能と根性はすごいと思いました。
なかにし礼に石田百合子は寄り添っていました。

なかにし礼は兄を憎みながらも、愛しても
いたのです。
だから訴えたりはできないのでした。
兄の作った苦労に耐えたのでした。