コールドルーム















『コールド・ルーム』(83年ジェームズ・ディアデン)

17歳のカーラ(アマンダ・ペイズ)は、夏休みを利用して仕事の関係で東ベルリンで暮らす父ヒュー(ジョージ・シーガル)に会いに行く。
出発前、年寄りの教師からは第二次大戦前のドイツの地図を、親友ソフィー(ルーシー・ホーナク)からはマリファナを貰って幸先悪いなー。
でも到着したそこは思った以上に最悪だったのだ。
まず父からはテディベアをプレゼントされて子供扱いだし、検問所はマリファナ所持の所為でドキドキだし、ホテルは古くて気持ち悪いしで来たことを早くも大後悔、でも一番のショックは、父がいけ好かない女リリ(レネ・ソーテンダイク)と再婚したいなどとヌカしていることで頭からシーツを被るしかないカーラなのだった。
深夜、コツコツとヘンな音がしてネズミか?
しかしホテルのオーナー、ホフマン夫人(エリザベス・スプリグス)はネズミなんかいないとあっさり否定、じゃあ一体なんなの!
よく聴けばそれはノックの合図で、カーラはクロゼットをどかすと壁紙引き剝がす。
するとそこには人がいた。エリック(アンソニー・ヒギンズ)と名乗るその男はユダヤ人で、どうやらここに逃げ隠れている。誰から?ナチから
カーラは食事を運んでいるうちにエリックに好意を寄せるようになり、というか彼女は気が付けばクリスタになっていた?!
昨日まで嫌だ嫌だとあれほどホテルを嫌がっていた娘が別のホテルに予約を取ったことを話すと急にここがいい、ここでなきゃと言い出し、どころか部屋から一向に出ないので心配になってヒューは医者(ジョージ・プラウダ)に診せるが、父がその場から去ると安心して娘は医者にこう言ったのだ。
父にレイプされたんです、と。
娘を見てヒューは思う。カーラはまるで別人のようだ。

この映画はこの間から言及している第1回東京国際ファンタスティック映画祭(85年)で上映されたから観ている人はそれなりにいると思うのだが(allcinemaでは未公開の扱いになっていた)、さっきネットで検索したら最低映画に掛ってしまった。
しかし、アヴォリアッツ映画祭で評判を取って(審査員特別賞を受賞)招待されたという経緯だから、ある程度の品質は保証されていると言える。
なかなか奇妙な味のサイコスリラー(という呼称は当時なかったけど)で、箪笥の向こうの壁を通じてタイムスリップしてしかも当人が別人に成ってしまうという展開はまさしくファンタスティック。
ただし、どうして彼女がそうなったのかという描写が不足していて、たんにかつてここに彼女に似た女性がいたというだけでは首を捻らざるを得ないところもある。
しかもカーラは、ホテルに入る前にすでに妄想らしきものを見るのだ。
だからこれは異国旅行による精神的に不安定な状態(実際、途中までで連想した映画はポランスキ『袋小路』(66年)だった)のところに父親が再婚するというショックが加わりカーラの潜在能力(早い話が超能力ってやつ)が爆発した!という風にしか思えないのだが、どうか?
あるいはそういう部分は原作を読めば理解出来るのかも知れない。
原作者のジェフリー・ケインは、小説家としてのキャリアは知らないけど映画の脚本家としては少し知られていて、というのも『ナイロビの蜂』(05年フェルナンド・メイレレス)のアダプトでオスカーの候補になってるから。
ほかに手掛けた脚本には『007/ゴールデンアイ』(95年マーティン・キャンベル)『エクソダス:神と王』(14年リドリー・スコット)などがあり、割となんでも屋のようだ。
そんなケインの小説をアダプトしたのが監督のディアデンで、彼はやはり監督のベイジル・ディアデンの息子で、父親の方はイーリングコメディからキャリアをはじめた職人で『紳士同盟』(60年)『世界殺人公社』(69年)といった傑作を作った人だけど、このブログで記事にした映画だと『悪魔の虚像ドッペルゲンガー』(70年)がある。
その映画の詳細については記事に飛んで欲しいが、タイトルからも分かると思うが“もうひとり”の自分に出くわす映画で『コールド・ルーム』の方はそうではないけど、同じ人間がふたりいるという意味では似ていなくもない。
そういえば『悪魔の虚像』はTVシリーズ『ヒッチコック劇場』(55-61年)の一篇「ペラム氏の事件」(55年アルフレッド・ヒッチコック)の映画化だが、『コールド・ルーム』はアメリカではTVで公開されたという。
映画祭で受けても、それが劇場公開につながらないと思うと、切ない。
それにディアデンは、東京ファンタを振り返った小松沢陽一さんの『夢人間たちの共和国』によれば、来日した際に「プレゼントがある」と言って78年のベルリン映画祭の短編部門でグランプリを受賞した「コントラプション」(77年『ロッキー・ホラー・ショー』(75年ジム・シャーマン)の作者リチャード・オブライエン主演を持参して映画祭では『コールド・ルーム』と一緒に上映されたというからいい話だし、そんな奴、いい奴に決まっているのだ。たぶん。
その後、ディアデンは『危険な情事』(87年エイドリアン・ライン)の脚本を書いて一躍知られると、アイラ・レヴィンの名作ミステリを映画化した『死の接吻』(91年)を監督したり小松沢氏が予言したようにヒッチコックの後継者のひとりとして注目されていたが『マネートレーダー/金融崩壊』(98年)を製作も兼ねて作って以降、目立った活動は聞かなくなってしまった。

※下記書籍を参考にしています。