img_106674_21193898_0

































1955年9月30日、時速200キロで疾走していたポルシェ・スパイダーは、車の進路を横切ってきたフォードの横腹に激突した。
ハリウッドの若きスターは、本当に星になった。
『傷だらけの栄光』(56年ロバート・ワイズ)
ポール・ニューマンの場合。

ニューヨーク。貧民街で育ったロッキー(ポール・ニューマン)の将来はほとんど決まっていた。強盗か乞食。夢も希望もなく、ロッキーは感化院を抜け出してロモロ(サル・ミネオ)たち仲間と盗みを働く。その後、敵対するグループと乱闘中にパクられ、金を持っていたことから犯罪は露見した。
裁判所で母親(アイリーン・ヘッカート)は泣いた。なんとか現状を打破しないといけない。決意したロッキーだったが、模範囚として出所した直後に陸軍から召集命令が下される。なんだこれは?!上官を殴り倒し、ロッキーは脱走した。
しかし、行く当てなどない。そこで思い出したのが、刑務所で知り合ったフランキー(ロバート・ロジア)にボクシングを勧められたことだった。
ジムを訪れ、得意のパンチを披露すると、周囲は騒然、気がつけばロッキーはリングに上がっていた。
ロッキー・グラジアノという偽名(本名はバルベラ)を使い、勝利を重ねるが、やがて軍に見つかる。万事休す!・・・かと思われたが、意外なことを言われた。
「ボクシングを真剣にやれ」
再びリングに上がったロッキーは、名マネージャー、コーエン(エヴァレット・スローン)の巧みなマッチ・メイクも手伝い、順調にキャリアを築いていく。
妹の紹介で出会ったノーマ(ビア・アンジェリ)と幸せな結婚も果たし、万事快調。あとはチャンピオンになるだけだ!・・・ったのだが。懐かしい男の来訪。出所したフランキーだった。

ストリートファイト仕込みのラフなパワー・ボクシングで沸かせたロッキー・グラジアノの伝記映画。名作らしい邦題から堅苦しい感動作を想像するかも知れないが、職人作家ワイズの演出は、コミカルとサスペンスをバランスよく盛り込んでエンタテインメント性の高い普通に面白い作品となっている。
『ロッキー』(76年ジョン・G・アヴィルドセン)の元ネタ(ビア・アンジェリが驚くほどタリア・シャイアに似ている)でもある本作だけど、当初、ロッキー役にはジェームズ・ディーンが予定されていた。それが事故により、ニューマンに回ったのだ。
ディーンとニューマン。同じアクターズ・スタジオ出身のふたりは比較されることも多かったが、ニューマン自身がライバル視、というか意識していたのはマーロン・ブランドの方だった・・・この男、ブランドに顔が似ていないか?
映画に出はじめた頃、ニューマンはブランドの紛い物のような扱いを受けていた。
俺は俺、いつか個性を認めさせてやる!
本作こそはそのチャンスだった。ニューマンはロッキー・グラジアノの研究に没頭し、完全に彼に成りきる訓練をした。グラジアノは言う。
その小僧はスティルマンのジムでトレーニングする私につきまとい、拳で空を切っていた。彼はかつてかなりのところまでいったボクサーかもしれないと思わせる外見をしていた。が、今は、リングで闘うにはコンディションが悪すぎるといったふうで、そのパンチはずい分、のらくらしているようにみえた。このガキがなんだか哀れにみえたものだ。彼は街を中古のバイクで乗りまわし、つぎのあたったブルージーンをはいていた。コーヒーを飲みに行ったりするとき、勘定はいつも私が持った
その成果が映画には滲み出ていた。ニューマンは第2のブランドというレッテルを払拭し、新しいスターとしての才能を知らしめたのだ。めでたし、めでたし・・・って、おい、なにかが違うぞ。
なにが違うのか?グラジアノの話には続きがあった。
おそらく奴がつきまとい始めて一ヶ月ほどたった頃のある日、八番街を散歩しようといって私を連れ出した彼は、四十六丁目の所で劇場の看板を指さした。『ロッキー』と彼はいった。『あれが俺だよ。ここで仕事しているんだ』
その看板にはこうあった。マーロン・ブランド主演『欲望という名の電車』
そう、グラジアノにつきまとっていたのはニューマンではない。ブランドだ。ブランドは『欲望という名の電車』のスタンリー・コワルスキー役を演じるに当たり、グラジアノのキャラクターを取り入れていた。つまり、ニューマンとブランド、ふたりは同じモデルを元に演技していた!
だが、本人をそのまま真似たニューマンと、役を膨らませるためにキャラクターを拝借したブランドとでは、そのアプローチに決定的とも言える違いがある。
またしてもニューマンは、ブランドの二番煎じとして冷やかされることになるだろう。
あんなに頑張ったのに・・・。ポール・ニューマンは天を仰いだ。

※下記書籍を参考にしています。

ポール・ニューマン [単行本]