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本日息子が病院に行ったから・・・というワケでもないんだが。
『ヒポクラテスたち』(80年大森一樹)
ホラー、スリラー映画が続いたので青春映画。そして邦画。

荻野愛作(古尾谷雅人)は洛北医科大の最終学年6回生、オンボロ木造の学生寮に住んでいる。
医学部の最終学年は、ポリ・クリと呼ばれる臨床実習にその1年が宛てられ、6、7人のグループごとに、内科、外科、整形外科、小児科、泌尿器科、耳鼻科、眼科までおよそ17くらいの科を1週間ごとに回っていきながら現実の医療行為にはじめて触れていく。
愛作のグループの顔ぶれは、親が医者でなんとなく医大に進学した河本(光田昌弘)、ホンモノの医者への情熱に燃える大島(狩場勉)、すでに妻子持ちの年長者、加藤(柄本明)、投げて・打って・走れる医者を目指す野球少年上がりの王(西塚肇)、このところ自分の医者への適性に不安を抱いている紅一点、木村みどり(伊藤蘭)、それに愛作を加えた計6名。
医者の卵というよりは、まどほとんど卵以前の彼らが各科ごとに異なる表情を持つ具体的な医療の現場で日々出くわす様々な当惑や驚きや失敗や珍事の数々・・・他方、愛作の住む鴨川寮には、寮生活8年目の長老、本田(斉藤洋介)や、始終剣道の竹刀を振り回している神崎(阿藤海)、医者への初々しい志を抱く新入生の野口(宮崎雄吾)、左翼運動家の南田(内藤剛志)、映画狂いの高木(加納省吾)、寮長の渡辺(金子吉延)、精神医学を志す6回生の西村(小倉一郎)らがいて、ことあるごとに寮運営や現代医学の在り方について議論を繰り返していた・・・或る日の出来事。
ぬわんだって?!
産婦人科の試験問題である避妊法をクリアしたその日、愛作は彼女の順子(真喜志きさ子)から妊娠の可能性を告げられる。

自らも医大生だった大森が、臨床実習というモラトリアム期最後の時間を通して医大生たちの抱える悩みや問題をユーモアたっぷりに描き出した青春映画の佳作。
まず、医学生という設定がいい、のは、70年代における日本映画の青春映画で描かれる主人公は概ねアウトローであり、カジュアルな本作の医大生たちの方が共感度が高いから。
頭が良いという意味では全然種類の違う人たちだけど(自分とは)、とはいえたんなる若者に見えるところが所謂暴走族的な熱さとは無縁の空っぽさで、当時としてはかなり新鮮だったように思える。
ただし、今観ても充分訴える普遍性を備えてもいて、だから語り継ぎたい映画なんだな。
大森はATGに企画書を出したとき、フランス映画『美しき青春』(36年ジャン=ブノワ・レヴィ)という作品が同じようなテーマだから参考にすればどうかとシナリオを渡されたという。
しかしそれは大森の考える青春映画とは全然別物でまったく参考にならなかったのだが、さておきこの映画は出ている役者がみんないいのだ。
川本三郎さんは「顔がいい」と言っているけれど、撮影32日、編集1ヶ月、であるのにキャスティングには7ヶ月掛かったという事実は見逃せない。
当時、主に日活ロマンポルノで活躍していた古尾谷雅人を主役に抜擢しているが、当初は違うイメージだったと大森は語る。
シナリオを書く段階までは小倉一郎くんみたいな人だろうと思っていたんです。それを、いつもそうなんだけど、もうちょっと捻って、小倉くんの役を主人公に対して客観的な立場にして、主人公を最初から最後まで見届ける役にしたワケです。そうすることによって、自分自身も主人公を客観的に演出出来るんじゃないかと思ったんです。でも、主人公にだいぶ思い入れが入ってしまったみたいで、うまくいったかどうか分かりませんけど
また、手塚治虫鈴木清順北山修といった役者ではない人物をゲスト出演させているのも本作の見所のひとつだ。
そしてそれが全然嫌らしくない。
原田芳雄も同様のゲスト出演だが、彼についてはノンフィクション的台詞をフィクションの台詞を言う人が言うところが面白いと語っている。
以下、コメント。
台本には適当に書いておいたんですけど、公衆衛生の教科書みたいな台詞だったんで、それを原田流にしゃべって貰ったんです
愛作は順子に出来た子を無名の産婦人科で堕胎させるが、その堕胎医が違法の医療行為で摘発されたことを知ってぶっ壊れてしまう。
Paint It Black!
塗り潰されたのは白衣だった。
入院することを余儀なくされ、愛作は卒業を逸する。
ラストは、青春映画の代名詞『アメリカン・グラフィティ』(73年ジョージ・ルーカス)に倣い彼らのその後が字幕によって簡単に説明されるが、愛作が医者になったかどうかは分からないままである。
だが、大森によると、『そのあとのヒポクラテスたち』という続編の企画も構想されたことがあるという。
それが頓挫したのは古尾谷の自殺が一因だったというから、愛作は・・・。
最後に、伊藤蘭の可愛さと言ったら!
遠離るみどりのスナップに手を伸ばしたのは、俺だけではないはずだ。

※『キネマ旬報』80年11月下旬号No.797と下記書籍を参考にしています。