チャイナシンドローム















『チャイナ・シンドローム』(79年ジェームズ・ブリッジス)

自分はたんなる客寄せパンダなのではないか?そんなことを考えていたある日、KXUAの人気女性キャスター、キンバリー(ジェーン・フォンダ)は、キャメラマンのリチャード(マイケル・ダグラス)と録音係のヘクター(ダニエル・ヴァルデス)を伴い、ベンタナ原子力発電所の取材に出掛けた。
広報担当ギブソン(ジェームズ・ハンプトン)の案内で早速取材を開始した3人だが、ぐらぐらぐら・・・突如の地震!しかし制御室の中では技術士ジャック(ジャック・レモン)が冷静に指示を与えてさすがだったが、様子がおかしい。放射能が漏れているのではないか?リチャードはこっそりキャメラを回す・・・。

“チャイナシンドローム”とは、核燃料漏れでコンクリートを貫き、地中への落下を続けて裏側に出ちゃった!という意味のブラックジョークで原発事故以降、しきりに使用された言葉なので現在の日本では割に知られていると思うが、本来は業界用語で、当時は知る人が少なく、この映画のタイトルも最初は『目撃』とかだったが、これにしたことで、なんだそりゃ、下ネタか?と観客が来る、という狙いで付けられた。まあ、『あげまん』(90年伊丹十三)のようなことだ。
『カッコーの巣の上で』(75年ミロシュ・フォアマン)でオスカー受賞し、俳優よりも製作者として先に成功したダグラスは、だからプロダクションを作り、製作者としての道を歩もうとしていた。が、やはり俳優業は捨て切れず、実は製作して出演も出来る作品を探していた、ところ読んだのが、マイク・グレイによる本作の脚本で、本物のスリラーが作れる!そう思ったという。しかも、キャメラマンの役で出演も出来る。主演は、反核主義者として知られるジャック・レモンを起用しよう。で、もうひとりの主役のTVプロデューサーはリチャード・ドレイファスだ・・・って、もうひとりの主役?
その話をする前に、一方その頃、ジェーン・フォンダは活動家として活動していた。そんな自分に相応しい脚本はないかな?ジェーン・フォンダという女優は好きだけど、どうもこの人は、ヴェトナムに飛んで“ハノイ・ジェーン”と呼ばれる一方で女優業も忘れず『コールガール』(71年アラン・J・パクラ)に出演してアカデミー賞を獲ったりして信用し切れないところがあるがさて、ブルース・ギルバートとのコンビで『帰郷』(78年ハル・アシュビー)を作って次なるテーマはエネルギー問題よ!当時、反原発運動にも関与していたフォンダはカレン・シルクウッドの事件を扱った『シルクウッド』(83年マイク・ニコルズ)に出演を希望したが叶わず、そんなら自分で原発ものを作ろうと考えた。で、様々な活動で地方を訪れるうちに構想しはじめたのが地方局のキャスターを主人公にすることで、その原発ものに使えるのではないか?
コロンビアのロジリン・ヘラーは、ダグラスからグレイの企画を、ギルバートからフォンダ主演の原発ものを提案され、ふたつをひとつに纏めればよいのではないか?と考えた。丁度、ドレイファスが企画から降板したところで、そこに女性キャスターを当て嵌めれば、フェミニズムの問題にも言及出来るかも知れない。この映画は原発問題だけで語られることが多いが、それは仕方ないとして、女性映画の側面もある。パーティでキンバリーが上司にケツを触られる場面はカットされたが、たとえば彼女の部屋に、マリリン・モンローのポスターが貼ってあるのはなぜか?
フォンダによれば、モンローは女性にとっては両極の均衡に共感する人物なのだという。強さと弱さ、野心と脆さ、そして順応性。
そんなわけでこの企画には、様々な社会問題が盛り込まれ、これを纏められる監督なんているのだろうか?ギルバートには当てがあった。ジェームズ・ブリッジスだ。最初、ブリッジスはオファーを断った。が、「どんな話だ?」中身を訊いて来るので少し話した。で、再度願い出るとまた話を話せというので話しているうちに興味があることが分かった。3度目のオファーでブリッジスは引き受けるが、一体、どこに即断出来ない理由があったのか?
ブリッジスのパートナーだったジャック・ラーソンによれば、ブリッジスは撮影前に必ず祈りを捧げていたという。なにせ原発問題だ。告発するにはそれ相応の勇気が要る。加えてこれはスター映画でもあるが、ブリッジスはほかのどのキャストよりもレモンのキャスティングを心配していた。レモンはあまりにスターであり、レモンはレモンにほかならない。撮影前、ブリッジスはレモンと話し合った。「あまりレモン過ぎないように演じること」これがふたりの出した結論で、撮影中ブリッジスはレモンに何度もこう言った。「今のはちょっとレモン過ぎる!」
ブリッジスが、製作者だったジョン・ハウスマン『ペーパーチェイス』(73年)に起用してオスカーの助演男優賞をもたらしたことを思い出せば、レモン過ぎるの意味が分かるような気がするが、この映画は所謂傍役がとてもよく、たとえばジャックの同僚を演じるウィルフォード・ブリムリーなんてすごくいい。ブリムリーはこの後、『出逢い』(79年シドニー・ポラック)に出演してまたしてもフォンダと協働するが、今度はそこで協働したロバート・レッドフォード『ブルベイカー』(80年スチュアート・ローゼンバーグ)に出演して仲間から愛されているのだろう。
そのブリムリーが思いを吐き出し中継はカットされる。次に映し出されるのは電子レンジのCMで、チャイナシンドロームよりも強烈なブラックジョーク。



※blu-ray特典映像を参考にしています。