富士山麓の自然

富士山麓には、古くから「御厨(みくりや)」と呼ばれてきた地域があり、御殿場市、裾野市、小山町の一帯におよんでいます。そこには、日本の各地で絶滅危惧種に指定されている希少種が多数生息する貴重な自然が残されています。その一方で、気候変動の影響や開発、外来種の侵入などにより、年々変わりつつある「みくりや」の自然の現状も目にしています。この豊かな自然が長く保たれることを願いつつ、富士山麓の自然の生物多様性の一端をこのブログを通して記録していきます。

ナンバンギセル2026.09.13

裾野市のすすき野原でナンバンギセルを多数確認することができました。ナンバンギセルはススキなどの根に寄生する植物です。ススキ草原などの減少とともに生育環境が失われ、地域によっては非常に希少な植物となっています。長野県や山形県では「絶滅」、群馬県では「絶滅危惧I類」、宮城県・福島県・埼玉県・岐阜県では「絶滅危惧II類」に位置づけられています。また、『万葉集』の「道の辺の 尾花が下の 思ひ草 今さらさらに 何をか思はむ(道端のススキ(尾花)の根元に咲く思い草のように、うつむいてあなたを思う私の心。今さら改めて何を迷い思い悩むことがありましょうか(いや、もう悩みようがないほどあなたを思っています)。の「思ひ草」は、ナンバンギセルのことだと考えられています。万葉人はナンバンギセルがススキの根元の近くに咲くこともしっかり観察しています。

DSC_6478

8
21日に裾野市桃園でニホントビナナフシを確認しました。同所では昨年に続き、2年連続の確認となります。

ニホントビナナフシはブナ科などの樹木の葉を食べることが知られていますが、今回はクヌギの葉上で静止している個体を確認しました。

本種の生息には、餌となる樹木を含めた里山環境が重要だと考えられます。今後、里山の管理が行われなくなり植生が変化していけば、ニホントビナナフシの生息にも何らかの影響が及ぶ可能性があります。

また興味深いことに、同じ場所ではタイワントビナナフシも確認されています。両種が同じ環境に生息していることから、餌となる植物や生活空間をどの程度共有しているのか、また両種の間に競合関係があるのかどうかも気になるところです。

On August 21, I observed a Japanese stick insect (Micadina phluctainoides) in Momozono, Susono City. This marks the second consecutive year that the species has been recorded at the same location.

The Japanese stick insect is known to feed on the leaves of trees in the beech family (Fagaceae), among others. This time, I found an individual resting on a leaf of a konara? Wait: クヌギ is sawtooth oak (Quercus acutissima).

Satoyama environments, including the trees that provide food for this species, are thought to be important for its survival. If traditional satoyama management declines and the vegetation changes, the habitat of the Japanese stick insect may also be affected.

Interestingly, the Taiwan stick insect (Sipyloidea sipylus) has also been observed at the same location. Since the two species inhabit the same environment, it would be interesting to investigate the extent to which they share food plants and living space, and whether there is any competition between them.


821日に裾野市桃園で、翌22日には御殿場市鮎沢で、ハイイロチョッキリが落としたクヌギのドングリ付きの枝葉を確認しました。
こちらがハイイロチョッキリです。

ハイイロチョッキリP8150822

こちらが裾野市の確認した枝葉です。

裾野市桃園P8211864

こちらが御殿場市のものです。

御殿場市鮎沢P8221878

ハイイロチョッキリは、ドングリに穴を開けて産卵したあと、そのドングリがついた枝を「チョッキリ」と切り落とすという興味深い習性を持つ昆虫です。

今回見つかった枝葉はいずれも葉がまだ瑞々しく、落下して間もないものと考えられました。また、どちらの場所でも林縁のクヌギの下に多数の枝葉が落ちていました。このことから、少なくとも今回観察した裾野市と御殿場市では、ハイイロチョッキリの産卵と枝落としがほぼ同じ時期に始まった可能性があります。

ここで興味深いのが、二つの地域の標高差です。

御殿場市と裾野市では標高が異なり、それに伴って気温にも差があります。それにもかかわらず、ほぼ同じ時期に枝落としが確認されたのはなぜなのでしょうか。

昆虫が季節を知る手掛かりには、気温だけでなく、日の長さ、降雨、餌となる植物の状態など、さまざまな環境要因があります。なかでも興味深いのが光周期(日の長さ)です。気温は標高や天候によって変動しますが、同じ緯度であれば日の長さはほぼ同じです。

もしハイイロチョッキリが光周期を季節判断の重要な手掛かりとして利用しているとすれば、標高の異なる場所でほぼ同じ時期に行動が始まったことにも説明がつきます。

そして昆虫が光周期に反応する仕組みには、体内の概日時計(サーカディアン・クロック)に関係する遺伝子群が関与していることが、さまざまな昆虫で明らかにされています。

↑このページのトップヘ