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北斗七星 「北斗美学」(野尻抱影)
深夜に窓の外を見上げると東北の空に北斗七星が輝いていました。
秋も深まって美しい星空を見られる日が多くなると毎年決まって繙く本があります。野尻抱影の『星三百六十五夜』です。一年三百六十五日の日付順に、それぞれの日にふさわしい星の話題の文章が収められたエッセイ集です。北斗七星のことは三月六日の項に書かれています。
北斗美学 3月6日
北斗七星は今、東北の中空に斗魁(マス)の四辺形を上に、斗柄を下にして直立している。地平拡大の現像も伴っているが、今ほど雄大に見えることはない。ここで私なりの北斗の美感を述べてみる。
仮りに桝の口から星に1……7の名をつけると、12の間隔は角度で五度あって、それが2でほとんど直角に折れ、長さ八度で3に達する。ここがマスの底に当る。次ぎに3から4へ伸びるには、角を十度余りも大きく開いて緊張をゆるめ、かつ4の光度を一等級だけ落としている。そして、これにつづく柄を56と次第に内方へ曲げ、最後に一段と曲げて、7の星で受けている。この柄の長さも、マスの口の十度角に対して十六度である。
こうして星の相互の間隔と角度との変化により、上部の直線と直角との重さ、強さが快く柄に支えられて、今直立した北斗の全容にどっしりしたスタビリティーを与えている。七つの星の配置に、かく力と美とを調和させた自然の技巧は驚くほかはない。仮りに四星を正方形に、柄を一直線に立てたのでは、これほどの効果は現われないだろうと思う。
なお自然の技巧は、北斗七星の前に、北極星をふくむ七星にも小北斗ともいうべき形を与えて大小を対照させ、かつ前者に毎日一回、後者のめぐりを回転させている。
もちろん、この大小二つのヒシャクの形は、平面に宝石をセットして造ったようなものとは違う。と言って、等しい距離で空間に浮いている星々でもない。みな距離を異にして、北斗では柄のはしの7は光が私たちの眼にとどくに六百五十年を要するが、6は八十年、5と4は共に六十年、3は九十年、2は六十年、1は七十年である。だから大小のヒシャクといっても、共に偶然の見かけに過ぎない、とすれば、何という驚くべき偶然だろう。しかも大小相似の形を抱きあわせているとは! 私はどうも偶然では割りきれないのである。