2009年02月

2009年02月25日

Change! その3

自宅にネットが復活しました!
いやぁ、、、もう不便すぎました。ほんの10数年前までネットなしで何でもできていたのが信じられません。おかげでたまっていたDVD見れましたけどね。

さて、USA Hockeyの大改革の核心部分です。

競技人口とつぎ込んで入る資源に見合う育成の成果を求めて、USA Hockeyは既存の育成システムの大改革=American Development Model(以後ADMと略)に着手しています。具体的には試合数を減らし、練習の比率を上げること。さらに練習内容も技術中心にすること、、、などなどです。

問題はこの新しい育成の概念をどうやって普及させていくかということです。そのためにUSA Hockeyは既存のTierホッケー(いわゆるAAA、AAの競技ホッケークラブ)と併設してHigh Performance Clubs(以後HPCと略)の設立を宣言し、賛同するクラブを36チーム全米から募集し選考する予定です。

HPCはADMの根幹となる選手育成理論「Long-term athlete development (LTAD)」、つまりトップアスリートを若年期の目先の勝ち負けではなく長い目で見て効率的に育てる科学的理論、をアメリカホッケーの育成に適用するためのU14〜U18のクラブチームであり、LTADに沿ったチーム編成と指導をすることが義務付けられています。

HPCはU14〜U18のチームの一貫教育を行うだけでなく、その下部組織としてU8、U10、U12のチームを編成するか、それを補う既存のTierプログラムと提携することが義務付けられています。

36チームは全米6つの地域に分けられ、主に地域内で試合を行うことで移動コストを抑え、それに加えて年数回、地域にまたがるショーケース試合を行うことになっています。要するに現在各地に乱立するTierプログラムの中からUSA Hockey主導の育成プログラムに従う36チームを選抜して、集中して育成しようということです。

特筆すべきことは、HPCは下部組織も含めて、試合数や練習回数、練習の内容に従わなければならず、勝手に試合を組んだりあちこちに遠征することを制限されているということです。たとえばU8では

・滞氷回数は週2〜3回
・練習時間は1回50分
・シーズンは20週間、つまりシーズン50〜60回の滞氷回数
・試合は全面を使わず、リンクを3面か2面に区切るクロスアイスゲーム
・最低16試合、練習34回
・最高20試合、練習40回
・チームは9〜13人編成で、ゴーリーはシーズン通して固定しない。

これがU13〜U16以上になると

・滞氷回数は週4〜5回
・シーズンは9ヶ月
・練習120〜130回で試合は40〜50試合
・チームは16人のスケーターと2人のゴーリーで編成
・U13、U14は年間3回までのショーケース試合
・U15は年間4回までのショーケース試合
・U16は年間5回までのショーケース試合

のように細かく定められています。U18でも年間50〜60試合に抑えられており、今までとにかく試合をバンバンやって強くなり、そしてスカウトに見てもらう、という考え方を根底から覆す育成モデルであることが分かります。このHPCの育成方針を浸透させるために、USA Hockeyから巡回コーチみたいな人が来てクラブの育成状況をチェックする、なんてことも書いています。

素晴らしい計画だと、私なんかは思うのですが、当然Freedomの国アメリカのホッケー界は賛否両論の大議論になっております。HPC自体は応募して選抜する、という形式なんですが、もちろん将来的にすべてのクラブをHPCに準拠させようという意図はありありです。

「俺たちは現時点でじゅうぶん良いホッケー選手を育成してるんだから、USA Hockeyに支配されるような共産主義的な制度なんて絶対イヤだぜ!」

と反旗を翻す人たちも続々登場。特にホッケーが盛んな地域では新しい育成モデルに転換するのは至難の業で、すでにHPCに賛同しない意思を表明している地域も多々あるとか、、、そりゃ共産主義的なのは当たり前で、ADM自体がヨーロッパの育成理論、特にソ連の育成理論とクラブシステムを参考にしているからです。

子供の育成に一番大きな影響を持つ親たちの拒否反応はもっと強烈です、、、私も何人かの親と話しましたが、

「なんで練習や試合の回数を制限されなきゃいけないの?多く試合した方が上手くなるし、スカウトに見てもらえるチャンスも増えるし良いに決まってるのに、、、子供の成功の機会をさまたげるこんな制度はフェアじゃないわ!」

この育成理論が科学的な研究に基づいていて、ヨーロッパのホッケー強国で成功をおさめているということをまったく理解してもらえていない現状では致し方ない反応だと思われますが、たしかにアメリカ人気質には合いそうにない制度ではあります、、、そんなこんなでHPCの募集は今年度は見送られることになり、ADMの概念の更なる浸透を待って来年から募集することになったとか、、、前途多難ですね。

ま、、、でも彼らはちょっと気に食わないことには「フェアじゃない」少しでも上からコントロールが入ると「共産主義」って言いますから、、、このシステムで結果が出始めれば手のひらを返して大賛成ってこともじゅうぶん予想できたりします。

一つの国のスポーツの歴史は、その国自体の歴史や国民性の上に成り立ってきたので、理論的に優れた方法でも必ずしも成功するとは限りません。アメリカホッケーの育成システムも、今まで実にアメリカ的な競争心や資本力を基に発展してきたといえます。そのアメリカが、アメリカに合う合わないという議論を止め、人間とアスリートの成長段階という科学的な根拠に基づいたシステムを大胆に導入しようとしているというのは本当に画期的なことです。

そして、合理的で、正しいと信じることができる目標が見つかり、素晴らしいリーダーが現れたとき、とてつもない力を発揮するのもまたアメリカであるということも、歴史が証明しています。

アメリカホッケー一世一代の大改革、この先も注目していきたいと思います。
それでは。

2009年02月12日

Change! その2

アメリカホッケー一大改革プログラム「American Development Model」(以下ADM)、、、その目指すところはアメリカのホッケー選手育成プログラムの大幅な見直しですが、それでは一体何をするのでしょうか?

簡単に言うならば

「若年層の試合を減らし、質の高い技術練習を中心とした練習の回数を大幅に増やす」

ということです。具体的には練習と試合の比率を4:1から5:1にして、練習内容も細かな技術練習中心で、システマチックな練習はバンタム年代(日本なら中学生)以降に行うように変革しようと言うものです。
このような育成方法は、もちろんヨーロッパ的なあらゆる球技に共通の育成モデルを基にしており、USA Hockeyもはっきりと

「ヨーロッパ的な育成方法が我々よりも遥かに成功していることをこれ以上見過ごすことはできない」

と認めています。さらっと書きましたがこれは相当すごい改革です。なぜならアメリカやカナダのホッケーは、今までとにかくシーズン中は練習よりも実戦重視、小さいうちから試合しまくりっていう育成?を行ってきたからです。練習と試合の比率は1:1や2:3なんてチームもざらにあります。

たとえば99年生まれ(10歳)の全米ランキングを見てみると、上位あたりのチームは9月から2月の現時点にすでに50試合以上を消化しているチームはざらです。70試合に迫るチームもありますので、シーズン終了時には80-100試合近くなるでしょう。さらに最近は春や夏にサマーチームを結成してトーナメントに行くのが流行ってますから、1年で130試合くらいしてる10歳児がゴロゴロいるはずです。NHLだってオープン戦からプレーオフまでで最大100試合くらいなのに、これはもうどう考えても異常です。いや、この年代で全米ランキングとか作ることがそもそもアレですよ、、、

たしかに、どんな技術練習をしても試合で使わなければ意味がないんだから、いっそのこと試合をバンバンやって試合慣れしようぜ!という発想には一定の意味がなくはないのですが、、、実際には、親だって練習よりたくさん試合が見たい。子供は当然練習よりもプレーをしたい。試合をすればスカウトの目に留まる機会が増える。という程度の、本当の意味で子供の成長を考えていない理由で試合を増やしているに過ぎないように思えます。

これだけ試合をこなしながら行われる練習で、質の高い技術指導が行われることはまれで、実際子供の練習なのに試合間の調整みたいになっていたり、試合での勝利にこだわるあまり10歳の子供たちがシステムの練習に終始しているのをよく見かけます。競技人口が半端ではないですから、実際どんなやり方をしても上手い子供はある程度育つのですが、、、「競争>教育」になっていることは否めません。

「それでもいいじゃん、ホッケー大国なんだから」

と言い続けて来たアメリカホッケー界だったのですがUSA Hockeyは

「いや、今の少年ホッケーのあり方は間違っている。良い選手を生み出すシステムではない!」

と言い切ったのですから、これはものすごいことです。
これだけのこと言って、付いてきてくれる人たちは、そりゃまぁいるだろうけど、自由の国ですから当然反対勢力も膨大です。じゃあどうやってこの改革を形にするのか?それは次回に続きます。

それでは。

2009年02月11日

Change! その1

ここアメリカではオバマ大統領就任から早くも3週間、、、日本の皆さんに「オバマ大統領誕生でなにか変化ありましたか?」などと聞かれたりするんですが、さすらいのホッケーコーチの周囲は何事もなかったかのように時とパックが流れております。

さてオバマ大統領といえば選挙運動中の素晴らしいスピーチと、スローガン「Change!」が有名になりましたが、アメリカホッケーの管轄団体であるUSA Hockeyの若年層育成プログラムにも大きなChangeが断行されようとしています。

その名は「American Development Model

これはアメリカの少年ホッケーの育成プログラムへの根本的な大改革であり、従来の競技ホッケーシステムのあり方へのアンチテーゼとでも言える試みです。実はこの大改革の中心人物が、我がPF Chang's Hockeyのプログラムディレクターであるジム・ジョンソン、ということで、前々から話は聞いていましたし、彼がこの改革にかける信念を力説しているのも何回も聞いたことがあります。

というわけで、今後数回にわたって、今なぜこの大改革が行われようとしているのか?改革の目指すところは何か?予想される問題点は何か?などについて書いていきたいと思います。

<なぜ今大改革を行うのか?>
アメリカは言うまでもなく世界のホッケー大国の一つであり、現在IIHFで世界6位にランキングされています。オリンピックで2回の金メダル、ワールドカップでの優勝だけでなく世界最高峰のホッケーリーグNHLにも多くの選手を送り込んでいます。2007-08年の統計ではカナダの52.0%に次ぐ21.6%のNHLプレーヤーがアメリカ出身です。さらに過去11年US National Team Development Program (NTDP)で16-18歳のエリート育成に取り組み、NHLドラフトで2000、2006、2007年に全体1位指名を受けています(2007年は全体1位と2位!)。2006年にはNTDP出身者のなんと6人が1順目指名、2007年にはNTDP出身者が17名もドラフトされています。
まさに順風満帆!今後も安泰と言ってもおかしくないこの時期に、この大改革が行われる理由は、

「アメリカホッケーの発展への危機感」

からです。USA HockeyのKevin Mann氏は変革を訴える声明文の中で、

「アメリカのホッケーは莫大な競技人口や充実した設備に見合った発展をしていない!」

と非常に強烈な自己批判をしています。
IIHFの2008年統計資料によると、下の表のとおりアメリカのホッケー競技人口は世界2位の466,300人であり、登録人口に見合ったNHL選手を輩出しているように感じます。しかし実際には登録人口で圧倒的に少ないヨーロッパの国々が残りの26.4%のNHL選手を送り込んでいます。
たとえばチェコ、ロシア、スウェーデン、フィンランド、スロバキアという代表的なホッケー強国の競技人口を足してみると314,575人であり登録人口では15万人以上少ないながらNHL選手構成人数では21.7%とアメリカと互角です。(ちなみに某国は登録人口で世界9位だったりします、、、)

競技人口10,000人あたりのNHL選手誕生人数に換算するとカナダが9人アメリカが4人、チェコ6人、ロシア4人、スウェーデン8人、フィンランド6人、スロバキアはなんと23人です。

IIHF survey

人数以上に差があるのがタレントの質です。
昨シーズン2007-2008年のスコアリングリーダー(ゴール+アシスト総数)の上位10人はカナダ人4人とヨーロッパ勢6人で占められておりアメリカ人がいません。もちろん「派手なプレーで点を取るのはヨーロッパの選手。堅実なプレーでチームに勝利をもたらすのは北米の選手」という、ある意味事実ではあっても大事な現実から目を背ける意見も聞いたことがあります。しかしヨーロッパ選手にスキルがあるという事実は素人目にも一番明らかな部分であり、それは魅せることで大金を生み出すスポーツ興行としてのホッケーとして、無視することができないレベルに来ています。

NHL survey

近年ロシアリーグなどが財政的に潤沢になってきたのでトップレベルの選手が単純にNHLでプレーするというわけでもありませんし年次によってデータには少しばらつきがありますが、このままの勢いでヨーロッパのホッケーが発展すれば、アメリカのホッケーは確実に強国の地位を失っていく、、、というのがUSA Hockeyの持つ危機感なのです。

それでは、アメリカホッケーとヨーロッパホッケーの差はどうやって生まれたのか?そしてそれはどんなプログラムで埋められるべきなのか、米国ホッケー一世一代のプロジェクトの紹介は次回に続きます。

それでは。