2010年11月

2010年11月25日

大公開 その2

アメリカはサンクスギビングの週末を迎えています。日本ではなじみのない習慣ですが、北米では(アメリカとカナダのサンクスギビングはなぜか1ヶ月ずれていますが)クリスマスと並んで家族団らんで過ごす一大イベントです。当然このようなちょっとした連休には各地でホッケートーナメントが組まれており、ホッケー関係者のつかの間の休息はお預けとなるのでした、、、

さて、前回のレベル5小論文概要の後半です。

ここ20年でゴールテンディングの世界に急速に普及した「ひざをつく動作によってほとんどのシュートの対応する」システム、、、そもそもひざから下へのシュートを止めるために開発されたセービング法が、今ではほとんどあらゆる状況のシュートに対して使われており、ゴーリーの平均セーブ率を飛躍的に向上させました。

トップレベルのゴールテンディングで95%を超える頻度で使われている「ひざをつくセービング」ですが、その是非については現在でもあらゆるレベルで議論(と呼べるほどの次元ではないのですが)が絶えません。

「低いシュートはともかく、高いシュートについてひざをつくべきではない」
「いつもひざをつくことが分かっていると高めのシュートが入りまくる」
「サイズのないゴーリーはひざをつくセービングを多用すべきではない」

しかし、現実にNHLでは

「ゴーリーのサイズに関わらず(サイズとの関連も調査しました)、低いシュートでも高いシュートでも、ほとんどいつもひざをついてセーブしている」

のですから、ゴーリーたちは経験的にこのセービング法に何かしらのアドバンテージを見いだしているのです。私はひざをつくセービングの是非を問うのではなく、なぜひざをつくセービングがこれほど多用されるようになり、そして成功に結びついたのかということを演繹的に説明すべく、ある生理学的データにたどり着きました。

それが「選択肢と反応速度」です。人が目や耳から入ってきた情報を処理してそれに応じた動作をするまでの反応時間には一定の限界があることは知られています。さらに反応時間は対象物の

「認識」
「選択」
「その他の妨害要因」

によって増加することが実験によって明らかになっています。

つまり「真っ正面からグローブに飛んでくるシュートを、グローブでセーブする」と分かっている場合は一番反応時間が短くなり、逆に「どこに飛んできたか」を認識し、「どのようなセービングをすべきか」を選択するうちにシュートへの反応時間が増大し、さらにゴール前のスクリーンなどの妨害要因によってもシュートへの反応時間は増大すると考えられます。

ホッケーはとても素早い展開のゲームですので、シュートされる位置がゴールに近くなり、ゴール前が混戦になれば、シュートのコースを認識して正しいセーブの選択をする時間は極めて短くなります。一方、選択する動作が多くなるほど反応時間が長くなることも知られていますから、

「股下に来たシュートはバタフライでセーブする」
「左下に来たシュートは立ったままスティックでセーブする」
「右下に来たシュートは立ったままスティックでセーブする」
「左上のシュートは立ったままグローブでセーブする」
「右上のシュートは立ったままブロッカーでセーブする」

のように、選択肢が多いスタイルで正確に反応し続けるのはとても困難です。ですから、ほとんどのシュートに対してひざをついて対応することによって、一番失点する確率が高いボトムネットをバタフライで確実に塞ぎ、あとは「右上か左上か?」という単純な認識と「グローブかブロッカーか?」というセーブの選択に反応時間を割くことができます。

もちろんシューターもシューターでギリギリまでゴーリーの動きを見てシュートやパスをしているはずなので、シュートが来る前にひざをついてしまえばシューターにもより良いシュートを打ったりパスする時間を与えることになります。ですから「シュートされる前にひざをついてしまって良い」ということを言っているわけではなく、あくまでショットからセーブまでの限られた反応時間を有効に使うために、「上か下か、そして右か左か?」という選択肢を「右上か左上か?」に減らすことに意味があるはずなのです。ボトムネットを確実に塞ぐために正確に正対し、幅広いバタフライを作ること、ボトムネットの端を狙われたときにバタフライを微調整する能力が必要なことは言うまでもありません。

私は実際NHLのゴーリーと氷に乗ったときに

「ひざをつきすぎるのは良くないって言われながら、練習でも試合でも結局ほとんどのシュートにひざをついて止めているみたいだけど、どういうつもりでやってるの?」

と聞いてみると

「そりゃあすべてのシュートのコースを見てから反応できれば理想なんだろうけど、実際スロットの中から早いタイミングで打たれたらそんな時間あるわけないから、とりあえずひざついてボトムネットを塞ぎながら上のシュートに集中するしかないんだよねー、、、」

との答えでしたから、彼らも経験的に、より反応時間を有効に活用するスタイルに行き着いたのでしょう。

さて問題はこのスタイルが、ユースホッケーの指導の現場には明らかに適応し難いということです、、、なぜならば、、、続きは次回に、、、

それでは。

2010年11月17日

大公開 その1

先日USA Hockeyのコーチライセンス・レベル5の課題となった小論文、コメントをくださった皆様からの希望もありましたので、概要を公開します。実際提出して審査されたのはもちろん英文でしたので日本語化してみました。

小論文の題名は

"Evolution of Goaltending and Proper Development Methods and Environment for Youth Goalies"

つまり、

「ゴールテンディングの進化と、ユース年代ゴーリーの適切な育成および環境」

であり、まさに題名の通り、ゴールテンディングの進化に沿ったユース年代の育成を提案しています。

私は1992年以来ゴールテンディングの指導と研究をしてきましたが、世界のトップリーグで広く使われているゴールテンディングのシステムがほとんどの指導者の理解を得られていないで、子供達の育成現場での指導が実際にトップレベルで必要とされる「基本」とあまりにもかけ離れていることに悩ませられ続けてきました。子供達が将来必要な技術を身につけることができるために、現代のゴールテンディングを分析し、より良い育成環境を考えてみました。

さて、その「現代ゴールテンディングの基本」とは「両膝もしくは片膝ついてパックを止める」動作です。NHLの試合を分析した結果、近年のゴーリーたちは試合中、どこにどんなシュートが来ても、95%以上のシュートを両膝、もしくは片膝を氷に付けた状態でセーブしています。

これはかつて「立ったままでシュートを止めることが基本」時代に比べて著しい変化であり、実際1980年代には膝をつくセーブは約60%しか見られませんでした。

近年、ゴーリーがシューターより優勢の時代において、トップレベルで90%以上用いられていて動作を「基本」の一つと呼ぶことは極めて自然なはずです。そこで次に「なぜ膝をつくセービングがこれほど普及したのか?」を解明し、膝をつくセーブの優位性を明らかにします。

両膝を氷についてセーブする「バタフライセーブ」は、そもそも60-70%のシュートが飛んでくる、膝より下のボトムネットを守るために開発され多用されるようになりました。

「より多くシュートが飛んでくるエリアをより確実に守る方法を多用すればセーブ率が上がる」

というのが、世に言うバタフライスタイルの基本理念でした。しかし先の統計データで分かるように近年ではボトムネットに飛んできたシュートに限らず、どこにどんなシュートが飛んできても膝をついて対処するゴーリーがほとんどです。なぜ、どんなシュートに対しても膝をついてセーブした方が良いのか、ある生理学的データを元に解明する、、、という展開なのですが、、、

続きはまた次回に、、、
それでは。

2010年11月05日

レベルアップ!

昨日、USA Hockeyコーチライセンスのレベルが4から5に上がりました、、、

USA Hockeyでは競技ホッケーチームを指導するためにコーチライセンスの取得が義務づけられています。マイト(8歳以下)を指導するためにはレベル1、スクワート(10歳以下)ではレベル2、ピーウィー(12歳以下)、バンタム(14歳以下)、AAまでのミジェット(18歳以下)と高校チームの指導はレベル3のコーチライセンスが必要です。そしてミジェットAAAからジュニア(16-21歳)の指導にはレベル4が求められます。NCAA等大学リーグやNHL等プロリーグの指導にはライセンスは必要とされませんので、一般的なコーチに必要とされるライセンスはレベル4までとなりますが、より深くコーチングを勉強して指導的な立場になりたい人達のためにレベル5が設けられています。

レベル1-3のコーチクリニックはUSA Hockey各州の支部が担当し、シーズンに数回、州内で指導的な立場にいるコーチがUSA Hockeyのカリキュラムに従って行う講習会を受講することによってライセンスが発行されます。レベル4のクリニックは12に分けられた全米各地域でシーズンに1回行われます。講師陣もUSA Hockeyから派遣された大学ホッケーやプロホッケーの職業コーチが勤め、本格的になってきます。地域によっては講習会受講だけでなく、レポートの提出などを経てライセンスが発行されます。

レベル5のクリニックはUSA Hockey主催で2年に一回行われ、講師陣もNHLコーチや男女代表チームコーチばかりでとても豪華になります。
私は3年前にレベル4を取得しましたが、昨年夏にミネソタで開催されたレベル5クリニックを受講して、待つこと14ヶ月以上、、、やっとレベル5認定の連絡を受けました、、、なぜこんなにライセンスの発行に時間がかかるかというと、、、それは小論文の審査をしていたからなのです。

レベル5のライセンスを取得するためには、講義を受講するだけでなく、講義の内容に即して、かつ自らのコーチング実践の現場に関わる小論文を提出して審査を通らなければならないのです。小論文の締め切りが今年2月末日で審査終了が8月末の予定だったのですが、さすがに数百人の論文審査ということで2ヶ月遅れてしまったようです。

ホッケー大国の一つアメリカでは、アマチュアコーチの最高ランクであるレベル5だけでも2年に1度数百人が認定され、その下のレベル1-4では毎年ものすごい数のコーチが誕生しています。私はライセンス制度そのものは運転免許のようなもので、制度としてとても重要な物ではあってもペーパードライバーのゴールド免許では意味がなく、コーチングは実践の場で評価されるべきであると信じています。しかし重要なのは、「プレーヤーを育てる」という、ホッケーの将来を担う立場の人々が、なんの教育も受けずに手ぶらで教壇に上がることを認めず、教える人が学び続けることができ、さらに「教える人を育てる人」を育てるシステムを構築しているということです。指導者育成システムの伴わない選手育成システムから世界に通用する選手を輩出させるには、運に頼るしかないのですから、、、

というわけでレベル5に合格してしまった私の小論文の内容ですが、、、近日紹介する、かもしれません、、、

それでは。