2008年06月18日

ラ・フォル・ジュルネ −8 1828年3月26日のコンサート

今回のラ・フォル・ジュルネで最後に聞いたのは ”1828年3月26日のコンサート”、シューベルト最晩年の、そしておそらくは唯一の公式コンサートのプログラムを再現するもので、このような音楽祭だからこそ可能となった企画だった。
この伝説的なコンサートは単なる新曲発表会ではなく、あるいは観客を喜ばせるための興行でもない、シューベルトという作曲家が生きた証とでも言うべきイベントで、宮廷や教会に仕事を持たず、ということは公的な発表の場を持たなかったシューベルトにとって、ただ仲間内で楽しむためだけではないコンサートの持つ意味は大きかっただろう。

ここには当初のプログラムに記載されていた曲目をそのまま載せておくが、どういうわけか実演では#印の2曲の順番が入れ替わっていた。
確かに無伴奏男声4部合唱の「戦の歌」よりは、アルト独唱とピアノ伴奏もつく「セレナード」の方が”華”があってフィナーレ向きなのかもしれないが、この企画は”歴史的コンサートの再現”なのだから恣意的な変更はその趣旨に反するはず、別の説や幾つかの可能性があるのかどうか、少なくとも変更理由の説明は必要だろう。

”1828年3月26日のコンサートのプログラム”
シューベルト: 弦楽四重奏曲第15番 ト長調 作品161 D887より第1楽章
シューベルト: 「十字軍」 D932
シューベルト: 「星」 D939
シューベルト: 「さすらい人の月によせる歌」D870
シューベルト: 「アイスキュロスからの断片」D450
シューベルト: 「セレナード」D920(#)
シューベルト: ピアノ三重奏曲第2番 変ホ長調 作品100 D929より第2楽章
シューベルト: 「川の上で」D943
シューベルト: 「全能の神 」 D852
シューベルト: 「戦の歌」D912(#)
フィリップ・カサール(ピアノ)
シュテファン・ゲンツ(バリトン) 、クリストフ・アインホルン(テノール)
ヴァレリー・ボナール(アルト) 、岸上穣(ホルン)
プラジャーク弦楽四重奏団 、トリオ・ショーソン
ミシェル・コルボ(指揮)、ローザンヌ声楽アンサンブル

順序はともかく、全体を聞いた印象は選曲が渋く地味なこと。シューベルトのここまでのレパートリーの中からだったら、もっと人口に膾炙する曲を選んで一気にウィーンでの名声を獲得し、新しい仕事や楽譜の注文を受けたりすることだって可能だっただろう。
協力した友人たちはもしかしたらがっかりしたかもしれないが、しかしシューベルトはそんな社会的評価には興味がないといわんばかりに、本当に自分の今いる到達点をそのままに提示する。
”私は最後にこんなところまで来ました、皆さんが理解してくれるかどうか、正直なところ自信はありません。でも、これが今私が書きたかった音楽、歌いたかった曲、死ぬ前にどうしても形にして残しておきたかった思いなのです・・・”
そんな声にならない挨拶が聞こえてくるようだ。

特筆しておきたいのはトリオ・ショーソン による「ピアノ三重奏曲第2番 変ホ長調」の第2楽章、遠いものに憧れるような繊細な息づかいから、秘められた情熱がふつふつと滾りやがて高潮していく、その思いの深さが絶妙な緩急や強弱で余すところなく表現されていて、このコンサートのベスト・パフォーマンスに選びたいほど。
そしてフィリップ・カサール、キオスクにも登場していた気さくな感じのピアニストだが、変化に富む様々な曲によく対応して歌手たちを支え、このコンサートのプロデューサ−と言ってもいいような活躍、180年前のコンサートにおけるシューベルト本人の役を務め上げたことに、あらためて大きな拍手を贈りたい。

hokuto77 at 21:51│Comments(0)TrackBack(0)音楽の部屋 

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