キャビンの仕事が終わる頃、Bioshockというゲームをもとにした映画が、パイレーツオブカリビアンのゴアリビンスキー監督で始まることになり、その映画のメイクの造形部門のスーパーバイザーとして雇われることになりました。
ところがそれが始まって2週間で、予算があまりに膨らみすぎて打ち切りになってしまいました。
今まで何ども経験してきたこととはいえ、やはり突然仕事がなくなるのはまさにバイオショーック!!
しかしそれと同時にロサンゼルス決戦という映画に他のスタジオから雇われたのでした。
さて、その映画で何を造形したかといえば、その映画のエイリアンのCGスキャン用の原型です。
デザインはプロダクションに雇われたデザイナーのデザインがほぼ決まっていて、私はそれに基づいて粘土で原型を作りました。
しかし結構忠実に作っているのにかかわらず、造形の写真を送ると結構な数の修正要求が送られてくる。
そしてその項目を全てチェックして修正して再び写真を送ると、翌日にまた同じくらいの数の修正項目が、、、
その監督はなかなか意思を決められないというので結構有名らしくて、それが3回くらい続いた時、もうあかんと思ってスタジオの人と相談して、監督のオフィスで造形しようということになり、ソニースタジオの監督のオフィスに通うことになりました。
そこで監督と初めて対面し、話を聞いてみたら、なぁんだ!こうして欲しかったのね!ということがあっさりわかったのです。
この一件で大いに学んだことは、言われた指示をそのままこなすのではなく、なぜこの指示をしたのか、その根本を考えるのが非常に大事だということです。
監督やプロデューサーは、造形やメイクなどのプロではありません。素人です。
しかし、こんな風にして欲しいというなんとなくのアイディアは大概持っています。
そこで、もっとこんな雰囲気にして欲しいという漠然としたことを言ってもらえれば、こちらはプロなのだから、どこをどういじればいいというアイディアが出てきます。
しかし具体的に、ここをこう変えてくれとか言われたとしても、それは素人考えで、その通りに変えたとしても結果として彼らが欲しい雰囲気が出ない可能性も出てくるのです。
そこで永遠の変更ループに陥ったりするのです。
監督が欲しい雰囲気を具体的にするのはプロの仕事です。
プロが考えるべき "やり方" を素人が指示してくることでうまくいかなくなることが多いのだと思います。
何はともあれ今回は監督と直接会話して目の前で造形を見せたので、そのあとはかなりスムーズにことが運びました。
しかしその時に事件が起こりました。
私が派遣された特殊造形スタジオでは、自分が造形しているこのミニチュアバージョンを作った後に、等身大の(2mくらいある)エイリアンを製作する予定でした。
私が監督のオフィスで仕事をしていると、別の特殊造形スタジオのオーナーが訪ねてきました。
彼とは顔見知りなので、お互い"久しぶり!"って感じで挨拶を交わすと、彼は自分のスタジオのポートフォリオを持って監督のオフィスに入って行きました。
何か仕事をもらうようです。
そして彼が去ってから1時間くらい後でしょうか?
彼から私の元に電話がありました。
そして何と彼のスタジオで今私が作ってるエイリアンの等身大を作ることになったから、私を雇いたいと言ってきたのです。
私は一瞬何が起きたのかわからずに言葉を出せずにおりました。
自分が今働いている特殊造形スタジオで、自分がその等身大モデルを作る予定でいたからです。
薄々感じていたことですが、その後すぐに悟りました。
私が最初に雇われた特殊造形スタジオは、割と質が高いところだったので、等身大のエイリアンの製作費もかなり高かったようです。
ところがその日に来た別のスタジオのオーナーは、かなり安い値段で引き受けることにしたようです。
そのオーナーは、私が別のスタジオに雇われてここにいるということを知らずに、プロダクションに直接雇われていると思ったのでしょう。
事情を説明すると、先方も "やばっ" って感じになったけど、まあこれもビジネスの常だから、今話したことは発覚するまで黙っておくよと伝えて、自分の監督のオフィスでの仕事を終えたのでした。
そして元いた特殊造形スタジオに戻って別の映画の仕事をしながら、皆がロサンゼルス決戦が始まるのを待つ間、自分だけがその映画の等身大のエイリアンはここでは作られないという事実を黙ってなきゃならないという複雑な事情になってしまったのです。
結果的に私はそこのスタジオに残り、ダークフェアリーという映画の仕事をして、他のスタジオでのロサンゼルス決戦の仕事は断ることになったのでした。
会社を持って仕事を継続することの大変さが身にしみると同時に、フリーはやはり気楽だなぁ、選択肢が死ぬほどあるぜという軽い考えも身にしみるという体験をしたのでした。
おしまい
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