2006年05月01日
ライスター公開クリニックレポート 2006/04/16(日) 15:00〜
去る4月16日に、石森管楽器地下で行われた、カール ライスター氏の公開クリニックに行ってきました。来年には70歳を迎える氏ですが、年齢を感じさせない精力ぶりで指導する様が印象的だったので、自分の備忘の意味も含めて感じた事をレポートしてみます。
○さすがにこれだけしょっちゅう日本に来ているせいか、日本語にもけっこう慣れているらしく、しょっちゅうカタコト日本語が混じる。最初のうちはライスターの口から日本語が出る度に観客から笑いが漏れていたが、あんまり頻出するのですぐに受けなくなった。
○以前プリンツの公開クリニックがあった時は、プリンツは楽器に一切触らず、ひたすら言葉でアドヴァイスしていたが、ライスターは逆に常に楽器を手から離さず、隙あらば吹いてみせようと待ちかまえているようだった。自らお手本を見せると言うより、目立ちたがり?
○進め方も思い切りマイペース。とにかくしゃべり始めたら止まらない。通訳の谷尻さんはドイツ語は理解できても日本語に変換するのにちょっと時間がいる感じだったのに、とにかく訳す間を与えずどんどん機関銃のようにしゃべるしゃべる。谷尻さんは始終置いてけぼりを食っていた。
○吹くのを聴いてさすがと思ったのは、音符ひとつ決してないがしろにしない態度。受講生がちょいと荒い音を出そうものならすぐさま止めて自分で吹いてみせる。その際、見事なまでにむらのない、しっかりと制御された音で間違いなく吹いてみせる。「悪い見本」をあえてやってみせる時以外は音が炸裂するようなことは決してない。ブレスコントロールの完璧なこと、あきれるほどだ。
○一方、最近のライスターについてよく言われることだが、その音の小ささはやっぱり気になった。どれぐらいの力で吹いているのかははっきりしないが、クレッシェンドしてみせても「これだけ?」ってぐらい音量が上がらなかった。なんか最大音量でも小さい時とさほど変わってるとは思えない。もちろんピアニッシモでも楽器がしっかり鳴りきった素晴らしい音であることは確かなのだが、石森地下であれでは、大ホールでやったらどうなるのか…?
○もうひとつ気になったのは、アーティキレーション等は自分の考えと違うことはことごとく認めようとしないことだった。ブレス位置やスラーのかけ方など、自分の解釈と違うと容赦なく止めて、例のカタコトで「ないデス」と否定して、こうだとばかりに自分で吹いてみせる。中にはけっこう耳慣れない解釈もあって「えっ?」と思ったのだが――。その場でライスター校訂のモーツァルト クラリ ネット協奏曲の楽譜を売ってたので休憩時間に覗いてみたら、本当にそう書かれていた。まあ、40年にわたりクラリネット界のトップに立ち続けた自信がそうさせるのだろうが…。その後もなにかにつけて「ないデス」を連発。僕は密かにライスターのことを「Mr.ないデス」と名づけていた(というのはここだけの話)。
○もちろんハッとさせる所もいくつもあった。特に演奏のカラーを変えていくことにすごいこだわっているのに感心した。スタッカートからレガートのフレーズに移る時、フレーズの頭でタンギングせず(要はノンアタックで)吹き出すよう指示する場面に何度も出くわした。なるほどと思うけども前の調子でつい舌をついてしまうような所だからけっこう難しい。ライスターはこういう所をもう何度も何度も考えつつ繰り返し練習して自分のものにしたんだろうな、と彼の努力を垣間見たような気になった。
(どうもライスターはフレーズの頭をノンアタックで吹き出すことにけっこうこだわっているように見えた。)
その他、カラーを変えるために様々な替え指をとっかえひっかえ使わせようとしたりしていた。クラリオン音域のB音は指が4種類あるから、最初はこっちを使って次に出てくるここでは別の指を使って…なんて細かく指定してくる。「指の都合」だなんて言ってるのは未熟者の証拠だと言わんばかりに…。
○「ないデス」と共にライスターがよく発した言葉に「Freude」がある。大概両手を拡げて「Freude!」と大声で叫んでいた。要は音楽は「Freude(喜び)」である、喜びを持って演奏せよ、ということらしい。
以下、質疑応答。
Q.現在使っているマウスピースとリードは?
A.ヴーリッツァーのマウスピースにV12をつけている。
(これは前から噂は聞いてたけど、本人の口から確認が取れた感じです。ちなみにEsクラ用ではなく普通のB管用のリードだそうです)
Q.西欧では小さい頃にEsクラなど小さいクラリネットから練習を始めると聞いたが、ライスターさんもやはりそうですか?
A.自分がクラリネットを始めたのは12歳の時だから、最初から普通のB管だった。体がちゃんと成長してないうちからクラリネットを始めるのは感心しない。
Q.毎日やっている基礎練習はどんなものがありますか?
A.自分は10代の頃に猛練習した。(1日8〜10時間) その頃の蓄積があるので、今は会場に来てそこで吹く事自体が練習で、とりたててスケールなどはやってない(またその時間もない)。若い頃は楽しいこともたくさんあるけど、それを我慢してまだ体の柔らかいうちにしっかり基礎を積み上げる事が重要だ。成人してからあわてても遅い。(レイトスターターにはキツイ一言です)
とにかく若いうちはたくさん練習しなさい。タンギングの練習はとにかく舌の付け根(顎の奥)が痛くなるぐらい必死でやらなければ速くならない。
全体の印象としては、ライスター氏は唯我独尊と紙一重の所まで自信に満ち溢れていて、またそれに見合うだけの実力をきちんと持った人でした。ほんと、この人のブレスコントロールの妙だけは文句のつけようがありません。
○さすがにこれだけしょっちゅう日本に来ているせいか、日本語にもけっこう慣れているらしく、しょっちゅうカタコト日本語が混じる。最初のうちはライスターの口から日本語が出る度に観客から笑いが漏れていたが、あんまり頻出するのですぐに受けなくなった。
○以前プリンツの公開クリニックがあった時は、プリンツは楽器に一切触らず、ひたすら言葉でアドヴァイスしていたが、ライスターは逆に常に楽器を手から離さず、隙あらば吹いてみせようと待ちかまえているようだった。自らお手本を見せると言うより、目立ちたがり?
○進め方も思い切りマイペース。とにかくしゃべり始めたら止まらない。通訳の谷尻さんはドイツ語は理解できても日本語に変換するのにちょっと時間がいる感じだったのに、とにかく訳す間を与えずどんどん機関銃のようにしゃべるしゃべる。谷尻さんは始終置いてけぼりを食っていた。
○吹くのを聴いてさすがと思ったのは、音符ひとつ決してないがしろにしない態度。受講生がちょいと荒い音を出そうものならすぐさま止めて自分で吹いてみせる。その際、見事なまでにむらのない、しっかりと制御された音で間違いなく吹いてみせる。「悪い見本」をあえてやってみせる時以外は音が炸裂するようなことは決してない。ブレスコントロールの完璧なこと、あきれるほどだ。
○一方、最近のライスターについてよく言われることだが、その音の小ささはやっぱり気になった。どれぐらいの力で吹いているのかははっきりしないが、クレッシェンドしてみせても「これだけ?」ってぐらい音量が上がらなかった。なんか最大音量でも小さい時とさほど変わってるとは思えない。もちろんピアニッシモでも楽器がしっかり鳴りきった素晴らしい音であることは確かなのだが、石森地下であれでは、大ホールでやったらどうなるのか…?
○もうひとつ気になったのは、アーティキレーション等は自分の考えと違うことはことごとく認めようとしないことだった。ブレス位置やスラーのかけ方など、自分の解釈と違うと容赦なく止めて、例のカタコトで「ないデス」と否定して、こうだとばかりに自分で吹いてみせる。中にはけっこう耳慣れない解釈もあって「えっ?」と思ったのだが――。その場でライスター校訂のモーツァルト クラリ ネット協奏曲の楽譜を売ってたので休憩時間に覗いてみたら、本当にそう書かれていた。まあ、40年にわたりクラリネット界のトップに立ち続けた自信がそうさせるのだろうが…。その後もなにかにつけて「ないデス」を連発。僕は密かにライスターのことを「Mr.ないデス」と名づけていた(というのはここだけの話)。
○もちろんハッとさせる所もいくつもあった。特に演奏のカラーを変えていくことにすごいこだわっているのに感心した。スタッカートからレガートのフレーズに移る時、フレーズの頭でタンギングせず(要はノンアタックで)吹き出すよう指示する場面に何度も出くわした。なるほどと思うけども前の調子でつい舌をついてしまうような所だからけっこう難しい。ライスターはこういう所をもう何度も何度も考えつつ繰り返し練習して自分のものにしたんだろうな、と彼の努力を垣間見たような気になった。
(どうもライスターはフレーズの頭をノンアタックで吹き出すことにけっこうこだわっているように見えた。)
その他、カラーを変えるために様々な替え指をとっかえひっかえ使わせようとしたりしていた。クラリオン音域のB音は指が4種類あるから、最初はこっちを使って次に出てくるここでは別の指を使って…なんて細かく指定してくる。「指の都合」だなんて言ってるのは未熟者の証拠だと言わんばかりに…。
○「ないデス」と共にライスターがよく発した言葉に「Freude」がある。大概両手を拡げて「Freude!」と大声で叫んでいた。要は音楽は「Freude(喜び)」である、喜びを持って演奏せよ、ということらしい。
以下、質疑応答。
Q.現在使っているマウスピースとリードは?
A.ヴーリッツァーのマウスピースにV12をつけている。
(これは前から噂は聞いてたけど、本人の口から確認が取れた感じです。ちなみにEsクラ用ではなく普通のB管用のリードだそうです)
Q.西欧では小さい頃にEsクラなど小さいクラリネットから練習を始めると聞いたが、ライスターさんもやはりそうですか?
A.自分がクラリネットを始めたのは12歳の時だから、最初から普通のB管だった。体がちゃんと成長してないうちからクラリネットを始めるのは感心しない。
Q.毎日やっている基礎練習はどんなものがありますか?
A.自分は10代の頃に猛練習した。(1日8〜10時間) その頃の蓄積があるので、今は会場に来てそこで吹く事自体が練習で、とりたててスケールなどはやってない(またその時間もない)。若い頃は楽しいこともたくさんあるけど、それを我慢してまだ体の柔らかいうちにしっかり基礎を積み上げる事が重要だ。成人してからあわてても遅い。(レイトスターターにはキツイ一言です)
とにかく若いうちはたくさん練習しなさい。タンギングの練習はとにかく舌の付け根(顎の奥)が痛くなるぐらい必死でやらなければ速くならない。
全体の印象としては、ライスター氏は唯我独尊と紙一重の所まで自信に満ち溢れていて、またそれに見合うだけの実力をきちんと持った人でした。ほんと、この人のブレスコントロールの妙だけは文句のつけようがありません。
トラックバックURL
この記事へのコメント
1. Posted by なんくる 2006年05月01日 22:52
おっと、文責を入れ忘れました。
レポートはなんくるが担当しました。
レポートはなんくるが担当しました。
2. Posted by ヒマ人 2006年05月03日 19:25
この4月は無謀にもライスター強化月間として追っかけを敢行しましたので感想など。
東響との新作は指や跳躍や大変な曲でしたが全く不安を感じさせない出来。ただ、表現の幅がいまいち彼らしくない所もあり、もしや長旅の疲れ?
札響とのK.622は無料の演奏会なので3日全部聞きました。正にライスター節全開。しかも日を追うごとに調子を上げ、特に3日目は圧巻でした。
続く三重は大ホールでのリサイタルで、最後部の席ではさすがに残響が多すぎ、後半かぶりつきに移動しましたが、巨大な空間でも不足ない響きでした。小品やメンデルスゾーン(14歳!)のソナタなど非常に軽めのプログラムは、彼曰く「桜咲く今の季節に相応しい」というコンセプトとのこと。日本の新学期なども意識してるそうで、さすが日本通です。さらには「私が初めて来日したのはちょうど40年前の4月6日だった…」と強調していたのが印象的でした。
東響との新作は指や跳躍や大変な曲でしたが全く不安を感じさせない出来。ただ、表現の幅がいまいち彼らしくない所もあり、もしや長旅の疲れ?
札響とのK.622は無料の演奏会なので3日全部聞きました。正にライスター節全開。しかも日を追うごとに調子を上げ、特に3日目は圧巻でした。
続く三重は大ホールでのリサイタルで、最後部の席ではさすがに残響が多すぎ、後半かぶりつきに移動しましたが、巨大な空間でも不足ない響きでした。小品やメンデルスゾーン(14歳!)のソナタなど非常に軽めのプログラムは、彼曰く「桜咲く今の季節に相応しい」というコンセプトとのこと。日本の新学期なども意識してるそうで、さすが日本通です。さらには「私が初めて来日したのはちょうど40年前の4月6日だった…」と強調していたのが印象的でした。
3. Posted by ヒマ人(つづき) 2006年05月03日 19:28
ところで、石森でも言っていた「指の使い分け」ですが、実際札響とのモーツァルトでは数年前までの彼に比べ非常にフォークの指を多用していたのが印象的でした。以前の彼は指では原則に非常に厳格に従っており、運指上止むを得ない場合以外はフォークは使わないで吹いていたものですが(少なくとも私がこれまで日本で見た演奏はいつもそうでした)、伸ばしの音などで積極的にGabel-FやGabel-Bの指を使っていたのが目にとまりました。また、同じBの音で、右手のトリルキーではなく左手を細かなパッセージでも使っていたりという場面もありました。
そういえば、明日は有楽町でK.622ですね。聞きにいかれる方はいらっしゃいますか?
そういえば、明日は有楽町でK.622ですね。聞きにいかれる方はいらっしゃいますか?