連載: 草野球のマウンドで

2004年06月06日

草野球のマウンドで(3)

ヘロヘロになりながらも4回までは抑えてきた。草野球特有のたくさんのエラーもあったし、相手チームの拙攻にも助けられてる。レベルが低いのか高いのかわからないようなゼロ行進が続いた。

ナイターだと言っても8月の夜は暑く、どんどん体力は奪われて行く。5回になると、ただでさえ早くないストレートはスピードが落ち、決め球のドロップもキレがなくなったのか見送られる事が多くなってきた。
「誰が勝ち投手の権利を得られるのは5回を投げきった時だと決めたのだろうか? 」丁度、投手が辛くなてくる回にうまく設定されている。俺はマウンドで、そんな誰に向けた訳でもない愚痴を頭の中で考えて少し不機嫌になっている。

5回先頭打者は大きな幹線道路脇で普段はガソリンスタンドを仕事にしてる元コーチ。四球を与えてしまう。そして、次の打者はそのガソリンスタンドで働く同僚の若者。やはりボールが先行して四球を出してまった。なんと次の打者へもボール先行。そんな時に相手ベンチの酒焼けした赤ら顔の元コーチから俺に野次が飛ばされる。
「もうバテちゃったの? 足が上がってないよ!」
子供の頃は日焼けだと思っていたが、だたの酔っ払い親父だ。野次られて少しむっとしたのもあって、やはり四球で出塁させてしまった。なんと全部四球で満塁。さすがに味方も「打たせていけ!」と半分キレ気味になってる。

しかし、マウンドで俺は一息ついた時にさっきの野次がいいアドバイスになっていたのに気が付いた。さすが元コーチ、しっかり俺のフォームが小さくなって投げ急いでいるのに気が付いたみたいだ。次の打者からはしっかり足を上げ、腕を思い切り振るようにした。そして、ドロップの連投。腕が良く振られたときのドロップは良く決まる。自分でも驚きの三者連続三振!
あまりの自分の格好良さに酔いしれた。これだから投手は辞められない。


2004年06月02日

草野球のマウンドで(2)

例え草野球とは言え、俺はマウンドへ上がっていると性格が変わってしまう。もちろん口に出したり顔に出したりはしないけれど、かなり攻撃的になる。攻撃的と言うよりも、打者を見下していると言う方がぴったりかもしれない。打ち気満々の打者などみると、三振を取らないと気が済まない。

そして、今夜の対戦相手は子供の頃に俺を野球でしごいていたコーチ連中。きっと頭の中では俺たちが子供の頃の幼稚なプレーぶりが何度もVTRのように流れて、楽勝だろうと言う気持でいっぱいになっているだろう。そう考えると俺は「絶対パーフェクトやってやる」となんの技量の分析も裏付けもないにも関わらず、自信に満ちあふれ闘争心が燃え上がる。このマウンド上での気持は投手をやった事のある人にしか分からないかもしれない。でも、このアドレナリンが湧き出てくるような、この瞬間は投手としての醍醐味だ。

しかし、そんな幻想は続かない。子供の運動会で親子リレーに参加して、自分が走れる頃のイメージのまま走って体がついていかずに転んでしまうお父さんのように、俺もイメージと実際の投球が噛み合ずに打者と対戦していくうちにパーフェクトをあきらめ、ノーヒットノーランをあきらめ、なんだかんだ言ってヘロヘロになりながら抑えていく事になる。






2004年05月31日

草野球のマウンドで(1)

都内の外れ、区立公園脇の野球場。夏の終わりの暑い日に憧れのナイターだから、こんな日はみんな集まりがいい。おまけに相手チームは小さい頃にこってり絞られた少年野球コーチ連中ときてる。復讐と言う訳ではないけれど、目にもの見せてやりたい気持はいつもよりもみんなを興奮させる。自分がその頃のコーチ達と同じ年頃になり、まさかこうやって草野球で対戦できるなんて思ってもみなかった。同じチームでプレイしてた仲間と、こうやって20年以上も経った今も同じチームでプレイするなんて想像もしてなかった。妙なノスタルジックな気持になって、ちょっとした野球小説の主人公気分。

俺はあの人と同じ背番号14番を着け、あの人と同じ変化球を武器にマウンドへ上がる。子供の頃に遊んでいた庭球ボールで自然に身に付いた変化球の名前はドロップ。一般的には落差が大きく曲がりの少ないカーブの事で、高速スライダー、フォークボールやカットボール全盛の今の時代には絶滅寸前の変化球だ。

変化球は同じ変化をするとしても、人それぞれで握りも肘の使い方もまったく異なる。俺の場合は握りはストレートとまったく同じ。投げる時に親指と中指に力を入れて、その2本の指が水平になるように腕を振り、フォークのように指から抜く感じで投げる。まった捻ったりしていないのにこうすると、カーブのようなブレーキがかかりつつ、大きな落差がつく。

決して眩しくもなく、野球をするには最低限のカクテル光線の中で俺は投げ始める。投球練習ではドロップを投げずに温存しながら、コーチ連中のおやじ達にひと泡吹かせるのを考える。
さあ、プレイボール。

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