宿舎で食事がとれないのは、咲にとっては誤算であった。
しかしそれでも彼女はひそかに興奮し、感動していた。
それは昔を思い出した重い気持ちと、友人を差し置いてしまった罪悪感を一時忘れることができるほどであった。

実は今、咲は初めて都会のコンビニに入ったのだ。
また自炊か学食派の咲にとっては、一人でコンビニで弁当を買って食べるという行為自体も初めてであった。

田舎…と言ってしまっていい地元のコンビニとまず違うのは、狭い店内。
異様なほど縦長、かつ狭い通路。
しかし、その狭さに反比例する客の多さと入れ替わり。
そして何より違うのは、その客を捌ききれるほどの商品の数。

レジのそばにはたくさんのおにぎりが棚の奥までぎっしり並んでおり、次々と捌けていく。
隣の棚には色鮮やかなサンドイッチが並んでいる。
値段を見てみる。250円。
120円の菓子パンや惣菜パンが馴染みの咲にとっては少し気がひける金額である。
サンドイッチってこんなにいい値段なんだ…

でも。

今日は買ってもいい。買えるんだ。
IH用に貰ったお小遣いで、いつもより膨らんだ財布を見て、咲は少しほくそ笑んだ。

さらに隣の棚へ目を移す。並んでいるのはお弁当。
綺麗な幕の内弁当。男子が好きそうな肉がビッシリのお弁当。
半分焼きそば、半分チャーハンというとんでも組み合わせのお弁当…。
うわ凄い、カレーとかマーボー豆腐丼なんてあるんだ。

目を輝かせる咲の横から邪魔そうに手が伸び、男性が弁当を手にする。
あ、と咲は申し訳なさそうに弁当の棚から身を避けた。

気づくとさっきまで見ていた棚の前には、レジ待ちの長い列が出来始めていた。
パッと見、自分が列に並んでいるのか、商品を見ているのか分からない状況。
増える客。
なんだか焦る咲。
ひとまず人が並んでいない棚の前に逃げる。

「わぁ…」
すると咲から無意識に、感嘆の声が漏れた。
彼女の前に広がっていたのは、色とりどりの麺類だった。


コンビニの自動ドアが開くと、不快なほどの熱気が咲を包む。
帰ったら絶対、シャワーを浴びよう。
そう決意し歩き出した咲の手には、冷やし中華が入った袋が握られていた。