kunife damascus
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一般に剥ぎ取りナイフと呼ばれるものは、刀剣鍛冶見習いが最初に習う、基本形のナイフであるが、奥は深い。

切れ味、耐久性、硬度を高い次元で要求されるこの刃物は、新しい鉱石が見つかるたびに、常に進化していった。現在ミナガルデに普及する物は、銀色の刀身の表面に、美しい渦状の模様が浮かび上がっている物が主流だ。基本的に錆びないため、細かな手入れの必要がない。鉄を主成分としているが、それに加える金属は秘密にされており、鍛え方も特殊なため、大型の武器には応用できないらしい。

後年、「ダマスカス鋼」として再現される、この製法で作った剥ぎ取り専用ナイフは、肉厚で重量バランスに優れる。硬い竜の鱗でさえも楽に切断できるという。
モンスターハンターと呼ばれる一部の者達に愛用されるナイフだ。



私が気を失っている間に、1頭目のキリンが倒された。
今はガンが手際よく皮を剥いでいる。

「こいつ、死んでもビリビリするぞ。気を付けろ」
「・・・ああ」

大地に横たわり、骸と化した白い幻獣に歩み寄り、未だ光続ける角めがけて、剥ぎ取りナイフを振り下ろした。インパクトの瞬間に手首にスナップを効かせると、澄んだ音を響かせて、それは折れた。恐る恐る素手で触ると、一瞬だけ痺れを感じたが、持てない程ではなかった。至高の珍品「キリンの蒼角」である。

こんな物のために死にかけた。いや、死にかけた事は何度もあったが、死に恐怖したのは、村でハンターを始めた時の、リオレウス戦以来かも知れない。戦場の赤い大地は、あの火竜を思い出させる。こんな気持ちは久々だった。

「まだ、痛むのか?」
心配したガンが声をかけてくれた。

「いや、痛いのは身体じゃない」
「・・・そうか、なら大丈夫だ。心でも身体でも、痛いのは生きてる証拠だ」

うんうん、とうなずくガン。
なんだか騙された気がしたが、ちょっと元気が出た。
単純だな、私は。

キリンの蒼角をしまい、まだ震える手で切れ味の落ちた黒槍を研いでいく。あまりに硬い物を突いたため、砥石は一つでは足りなかった。

対岸の見渡しながら、最後に残った秘薬を飲んだ。電撃にさらされて、うずいていた頭と身体の痛みがすぐに消えていく。ガンの回復薬を2つ分けてもらい、腰のポーチの取り出しやすい所に入れた。

大きく湾曲した溶岩の川岸を走り、交戦中のタカとコジQに合流する。
こちらはいくらか余裕だったのか、手を止めてタカが話しかけてきた。

「向こうは終わったようだね。おっ?顔色悪いんじゃないのハニー・・・ぶわっ!!!」

タカが真横からキリンの突進を受けて吹き飛ぶ。私はあわてて生命の粉塵を振りまいた。コジQが笑いながら、タカを飛ばしたキリンに、激槍の突撃を繰りだしていた。


それからは危なげの無い戦闘になった。当初に予定していた陣形を組み、息を合わせた連携を繰り出し、数分の後にはこの雷獣をもついに仕留める事が出来た。


未知の幻獣討伐の成功。

全身全霊をかけた戦いに勝利した。途中、気を失っていた事は情けなかったが、それでも嬉しかった。




2匹目のキリンを解体した後、ギルドの迎えが来るまでキャンプに居た。
火を取り囲み、戦果や幻獣について話し合った。
電撃で気を失った事も詫びた。
気にするなと言われても、心は晴れない。




迎えはまだ来ない。朝になるだろうか。




戦闘の高揚も醒め、うっすらと睡魔が襲ってきた私は、簡易ベッドへ横たわった。
他の3人はまだ火を囲んでいる。時折豪快な笑い声が響いてくる。


頼もしい声を聞きながら目を閉じると、私を責めるもう一人の私が現れる。


今日は勝てた。でも、危なかった。私のせいでみんなが危険にさらされる。
私は今もお荷物なんだろうか。他のみんなの足を、引っ張っているのだけではないか。ここには私の居場所は無いのでは・・・



私を散々に責めたもう一人の私は、涙となって睡魔に追い出された。












この戦いの後、私達は各地に散らばって行った。
再会の日まで修行を重ねて、その時は胸を張って肩を並べたい。










そう誓った日からもう随分経った。
再会を果たし、短くも充実したひと時を過ごした。
そして今は、新たな旅が始まろうとしている。




「・・・・様、ご主人様・・・」

召使いのアイルーが呼びかけていた。

「ボールド産のブレスワインにゃ」

グラスに注ぎ、テーブルに瓶を置くアイルーに向かって声をかけた。

「今日はもういいわ、お休み」
「お休みなさいませご主人様。風邪に気をつけるにゃー」

とたとたと去る背中を見送って、私はグラスにくちづけた。










追憶の間に嵐は去ったようだ。

雲間には月が見える。
差し込む月明かりに、ワインの瓶が蒼くゆらゆらと光った。