カフェで本を読んだり眠ったり

カクヨムで小説を書いています。 読んだ本の紹介もしています。

詩 発熱歌 ヒート1

発熱歌 041 アポストロフィ

金

気になってないとは言えない
すごく気になるほどじゃない
あなたが飲み込んだいまの言葉
どうしてそこを飛ばしたの?
言いたいことがあったはずだけど
それじゃないことを言った
消えた言葉を聞きたかった
傷ついたりしないし、したとしてもあなたには言わないから

省略? なんのために?
余計なものは、いつも余計とは限らない

うれしそうにしているからって
本当にうれしいわけじゃない
わたしが知らないあなたの言葉
どこに隠してしまったの?
あとからまとめて出てくるのかな
洪水みたいに飲み込まれて
言葉の中で窒息するかもね
それでわたしが消えてしまったとしても、誰も気にしないでしょう

bana

発熱歌 040 閉じ込められて

木
きっといつか それは来る
来ないかもしれない
きっと来ない
あからさまな気持ちを押し込めて
だけどわかる 苦しいね

それはたぶん なにもしない
なにかするかもしれない
きっとしない
誰にもわからない感情を見せて
だからわかる 苦しいね

ああなりたくない だから
ああなるかもしれない
きっとならない
ふざけた考えを正しく掲げて
それでもわかる 苦しいね

君たちのことは
ぼくはなにも知らない
ぼくのことは
君たちはなにも知らない
だからって

こうしたいんだ むしろね
こうならないに違いない
なるかもしれない
まじめな気持ちをすべて捨てて
わかったふりをする 苦しいね

bana

発熱歌 039 カムフラージュ

水

隠すことなんてないのに
あんなに輝いていた時間が
すっかり闇に溶け込んでしまって
お互いに無口になっていく

知らなくたっていいのに
あれほど熱かった時間が
すっかり冷めて凍り付いて
お互いに見つめ合う

なにを怯えているの
なにをごまかしているの
なにを恐れているの
それは、ぼくのせい?

あばれなくたっていいのに
あれほど親密だった時間が
突然に仇同士になってしまって
お互いに向かい合う

それでもいいんだ
ここからなんだ
はじまったばかりだよ
終わりはずっと先だから
もう一度、最初から
やり直そうね
最初から

bana

発熱歌 038  歩きながらでいいよ

火
それを待っているのかな
ぼくは肩を寄せて歩く
弾むような気分で、空が青い
心の内は見せないけど
君の目は笑っているね
いいんだ、なにも言葉にせずに
こうして一緒にいれば
無敵でステキな筋書きを
めくるように

なにも期待していないのに
君の熱い気持ちが伝わる
突き抜けた気分で、風が香る
なんにも知らないままで
笑っている君を受け止める
いいんだ、なにも言葉にせずに
こうして一緒にいれば
豪華であでやかな服を
脱ぐように

歩きながらでいいよ
君もぼくもこれ以上はないから
飛び抜けてすごい、嵐の前に
すべてを知り尽すのさ
もう笑顔さえもいらないんだ
いいんだ、なにも言葉にせずに
こうして一緒にいれば
熱くもたつくきつい刹那を
試すように

bana

発熱歌 037 花籠の中の骨

月
いつから入っているのか
土の中に半分埋もれた白い骨
その白さはオフホワイトで
ややクリームがかっている
蛍光灯のせいかもしれないけど
本当は真っ白なのかもしれない
白を人間がはじめて意識したのは
雲だろうか、雪だろうか。
それとも骨だろうか

何年も前からそこにいた
微生物にも破壊されなかった骨
脆いはずなのに硬くて
誰も太刀打ちできない
よくある話だとは思うけど
生きていたときのことは誰も
知らないし、見ていないし
会ってもいないんだよ

すぐ答えを知りたがるのは
とても悪いクセだと先生が言った
わけのわからないものが
土に埋まっていたら誰だって
理由を知りたくなるんだけど
その答えを知ったところで
意味ないし、役に立たないし
なにも変わりはしない

花籠の中の骨はそこにある
ただそこにあるだけの存在だから
受け止めておけばいいんだ
死んだ者の魂を信じていて
甦らないことも知っているけど
ただそこにあればいいんだし
気にしても、気にならなくても
同じことなんだ

bana
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