名作の奥は深い

出口汪の「日本の名作」が面白いほどわかる [ 出口汪 ]


 カリスマ予備校教師出口汪氏が、夏目漱石の「こころ」や谷崎潤一郎の「春琴抄」など、いわゆる名作を深読みしてその面白さを広く伝えようというコンセプトの本です。
 取り上げてられている5作品のうち、私は「こころ」しか読んでいないので、深読みも何もあったものではないのですが・・・

 ただ、予備校で長年現代文を教えているだけあって、着眼点と読みの深さは流石だと思いました。
 具体例として、「こころ」は作中で、Kと先生の2人の自殺が大きな出来事として描かれていますが、その自殺の原因は明確にされていないとの指摘がありました(というか、本書の前半三分の一はその点の考察です)。
 私は、聞き役として登場する女子高生のあいかちゃんが唱えた「K、失恋による傷心自殺説」と「先生、良心の呵責に耐え切れず自殺説」で、深く考えもせずに読み通していました。
 解説を聞かせるために配されたキャラの考察ですから、当然本書における正解ではありません。
 そんな考察どおりに読み通してしまっていたのですから、「お前の読みは浅い!全く月並みである!」と落第点をつけられたようで、なんだか悔しかったです。
 けれど、本書では、作品の底を流れる明治の精神や乃木大将の殉死が持つ意味などを総動員して先生の自殺の理由に結論を出しているため、現代を生きる一介の読者には、ここまでの読みを求めるのは困難な気もします。
 本書のような解説書に頼らない場合は、現代の考え方や流行に沿った読み方をしても悪いことではないのではないでしょうか。
 自殺の理由がハッキリしないまでも、夏目漱石の文章に触れるだけで、なにやらすごいという迫力といい物を読んだという余韻は感じ取ることができるのですから。

 話は少し変わって、本書は、あいかちゃんという女子高生を聞き手に配すことで、非常に読みやすいものに仕上がっており、うまい仕掛けだと感じました。
 1つだけ苦言を呈するとすれば、あいかちゃんが鋭すぎて、あいかちゃんの気付きにも解説が必要そうなことくらいかと笑

 人生を変えるかもしれない一行
平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです。

 先生の言葉は、そのまま先生に返る。