原田恒男さんが今年の秋の叙勲で旭日小綬章を授与された。原田恒男といっても知る人は少ないだろう。キャピー・原田といったほうが通りがいいと思う。日米野球の架け橋として戦後活躍された方だ。私がキャピー・原田という名前を知ったのは石井代蔵「巨人の素顔」の中の「無国籍者の悲劇 力道山」においてであった。暁テル子のもとの亭主でGHQのマーカット少将の副官を勤めた人と紹介されている。原田氏は力道山が刺された夜、お付の一人として現場にいて、力道山を車で山王病院に運んだ。
この石井代蔵氏の作品は私が本屋で偶然見つけたものだ。本というものは自分の尊敬する作家とか評論家が激賞していたから買うという場合が多いと思うが、この本に関しては立ち読みで見つけた。しいて言えば同書に収められているもうひとつの作品「狂気か天才か 双葉山」の双葉山の69連勝という破天荒の記録に興味があったからかもしれない。石井氏の文体は私にとって非常に魅力的だ。構成が登場人物の回想などが混ざって、やや複雑だが読み返すたびに味わい深い。余談だが、私の好きな文体は萩原朔太郎の随筆、アフォリズム、岡本綺堂の「半七捕物帳」、延原謙訳のホームズ、蕗沢忠枝訳「ねじの回転」、川原栄峰訳「この人を見よ」、安部譲二などである。
力道山が人気絶頂の頃、力道山の半生を描く映画の話が持ち上がる。その内容が、これまでの力道山の荒んだ生活と正反対で、散々迷惑をかけてきた玉の海親方や相撲部屋の先輩のほうが悪者で力道山が被害者のような描き方になっていた。二所ノ関部屋から強硬なクレームがつき、日活側は公開前に相撲関係者も呼んで試写会を行った。
「試写が終わると、全員、顔色なかった。
映画全体がまったくのつくりごとであった。…
別室に席が用意されていた。
玉の海は、製作の古賀政男、監督の森永健次郎ら日活側のスタッフが見守るなか、力道山を怒鳴りつけた。
「リキ、お前は、この映画の筋を知っておったのか。お前は、おかしいと思わないか」
力道山はうつむいたままだった。
腫物にさわるようにして映画を撮りおえたスタッフ一同は、小さくかしこまって一言も抗弁できないその姿に驚いた。ほう、日本の英雄中の英雄にも怖い人が一人いたのか…みんな、そんな怪訝な顔つきであった。
NHKでは、力道山と日活の出方次第で両者を名誉毀損で告訴する動きを見せた。…
しかし玉の海は、その告訴をやめてもらった。…はらわたは煮えくり返ったが、そっとしておいてやろうと思った。可哀相な奴だ。…本当は、こんな気の小さい、利口な子はなかった。」
力道山の死因については安部譲二氏の「日本怪死列伝」に詳しい。この安部譲二という人の人脈は想像を絶する。昭和の大事件にはすべて絡んでいるのではないかと思わせるほどだ。またその文体は、息の長い、込み入った独特のもので、知らぬ間に影響を受けてしまう。
この石井代蔵氏の作品は私が本屋で偶然見つけたものだ。本というものは自分の尊敬する作家とか評論家が激賞していたから買うという場合が多いと思うが、この本に関しては立ち読みで見つけた。しいて言えば同書に収められているもうひとつの作品「狂気か天才か 双葉山」の双葉山の69連勝という破天荒の記録に興味があったからかもしれない。石井氏の文体は私にとって非常に魅力的だ。構成が登場人物の回想などが混ざって、やや複雑だが読み返すたびに味わい深い。余談だが、私の好きな文体は萩原朔太郎の随筆、アフォリズム、岡本綺堂の「半七捕物帳」、延原謙訳のホームズ、蕗沢忠枝訳「ねじの回転」、川原栄峰訳「この人を見よ」、安部譲二などである。
力道山が人気絶頂の頃、力道山の半生を描く映画の話が持ち上がる。その内容が、これまでの力道山の荒んだ生活と正反対で、散々迷惑をかけてきた玉の海親方や相撲部屋の先輩のほうが悪者で力道山が被害者のような描き方になっていた。二所ノ関部屋から強硬なクレームがつき、日活側は公開前に相撲関係者も呼んで試写会を行った。
「試写が終わると、全員、顔色なかった。
映画全体がまったくのつくりごとであった。…
別室に席が用意されていた。
玉の海は、製作の古賀政男、監督の森永健次郎ら日活側のスタッフが見守るなか、力道山を怒鳴りつけた。
「リキ、お前は、この映画の筋を知っておったのか。お前は、おかしいと思わないか」
力道山はうつむいたままだった。
腫物にさわるようにして映画を撮りおえたスタッフ一同は、小さくかしこまって一言も抗弁できないその姿に驚いた。ほう、日本の英雄中の英雄にも怖い人が一人いたのか…みんな、そんな怪訝な顔つきであった。
NHKでは、力道山と日活の出方次第で両者を名誉毀損で告訴する動きを見せた。…
しかし玉の海は、その告訴をやめてもらった。…はらわたは煮えくり返ったが、そっとしておいてやろうと思った。可哀相な奴だ。…本当は、こんな気の小さい、利口な子はなかった。」
力道山の死因については安部譲二氏の「日本怪死列伝」に詳しい。この安部譲二という人の人脈は想像を絶する。昭和の大事件にはすべて絡んでいるのではないかと思わせるほどだ。またその文体は、息の長い、込み入った独特のもので、知らぬ間に影響を受けてしまう。