2017年04月24日

誤算・楽観・奢り

北朝鮮情勢が、かなりやっかいなことになって来ました。

現在、中国人民解放軍と、ロシア軍が、北朝鮮の国境線近辺に兵力を集めているという報道がなされています。これは、北朝鮮有事の際に、中国やロシアへと混乱が拡散することを阻止して、難民が大量に流入することを防ぎ、あくまでも自国の安全と安定を維持することを目的としているのでしょう。さらには有事のあとの北朝鮮情勢において、必要な際に必要な範囲で軍事介入を行うことで、自らがある程度主導権を握りたいという意図もあるのかもしれません。ロシアは、太平洋戦争終結間際にも、対日参戦をして、戦後秩序で大きな利益を得ました。

シンガポール出航後の向かった方角について「誤報」が伝えられた米攻撃型空母のカール・ビンソンも、いよいよフィリピン近海に移動して、これから北上して海上自衛隊との共同訓練を含めて、北朝鮮沖にまで到来する見通しです。

私は現段階では、米軍が北朝鮮への軍事攻撃を確実に始める計画を立てているとは思っていません。まさに、言葉通り、「あらゆるオプションをテーブルの上に載せている」のでしょう。その中には、軍事攻撃も含まれており、それは単なるブラフではないと思います。すべては、中国の圧力と、北朝鮮の自制にかかっています。問題は、中国の圧力の限界が明らかとなっていて、北朝鮮の自制も不透明となっていることです。一昨日には北朝鮮政府が明確なかたちで、中国政府を批判する声明を出しているのは、とても不安になります。これは、中国政府の圧力と説得があまり実効的ではないことの結果かも知れないからです。

一つの大きなパラドクスがあります。

北朝鮮が国際社会に敵対しても核兵器を保有しているのは、核兵器を保有していれば米軍は攻撃できないという自信があるからです。北朝鮮は、イラクや、アフガニスタンや、シリアが空爆されたのは、核兵器を持っていないからだと考えています。他方で、自国は核保有国だから、アメリカは絶対に攻撃できないだろう、と甘く見ているのでしょう。だからこそ核実験を繰り返して、アメリカ政府に対して、自らが「核大国」であると明確に伝えたいのでしょう。核兵器があれば自国は攻撃されないという確信があるのであれば、これからもさらに北朝鮮は核開発を続けるはずです。

そして、そのような核開発と、ICBMの保有、そして挑発的な発言は、アメリカから見れば軍事的脅威となります。

それは言い換えれば、そもそも交渉によって北朝鮮の核放棄を迫ることが、最初から不可能であることを意味しています。

北朝鮮指導部の意図が、自国の体制の保存だとすれば、彼らは絶対に核兵器を放棄しないはずです。なぜならば、核兵器さえあれば自国は攻撃されないと考えているからです。私はそれが誤解だと思っています。アメリカが軍事攻撃するか否かは、相手が核を保有しているかいなかではなく、相手がアメリカに対する明確な脅威であるかどうか、そしてその脅威を低いコストで摘み取ることができるかどうかです。

つまりは、ここに二つの「誤算」が生じる可能性があります。北朝鮮は、自らが核大国であることを誇示し、アメリカにそれを伝えるために挑発を続けることが、軍事攻撃を受けない要件だと「誤算」しているかもしれません。他方でアメリカは、アメリカの圧倒的な攻撃能力、ステルス能力、サイバー攻撃能力、ミサイル迎撃能力などを総動員すれば、最小限の損害で北朝鮮という軍事的脅威を早期に無力化できると「誤算」しているかもしれません。

この二つの誤算が組み合わさったときに、北朝鮮はアメリカを挑発しながら核実験を行い、さらにはICBMの発射も行い、アメリカに対して強硬態度にでる。そしてそれを、「レッドラインを越えた」と判断したアメリカが、軍事攻撃開始へと移行する。

もしも、北朝鮮が核保有国であることを理由としてアメリカが軍事攻撃を断念すれば、ますます核保有がアメリカの軍事攻撃を受けないための「保証」だと考える国が増えて、結果として核拡散が加速するかも知れません。アメリカの敵対的な諸国の核拡散とミサイル拡散が進めば、アメリカとその同盟国はよりいっそう脆弱となります。

つまりは、北朝鮮の核保有と「核大国化」をアメリカが今回容認すれば、世界は核拡散へと加速することになりかねません。そして、核兵器を持ったアメリカに対して敵対的な勢力が、今後はよりいっそう、アメリカに対して敵対的で挑発的な行動をとるかも知れません。なぜならば、核兵器を保有すれば、絶対にアメリカは自国を攻撃できないからだと考えるからです。それはアメリカが望む方向性ではありません。

本来的には軍事力行使に至らずに、中国からの圧力で北朝鮮が核保有とICBM保有を断念するのが最も望ましいシナリオだったはずです。しかしながら、北朝鮮はこの二つを保持することがアメリカの軍事攻撃を受けない「保証」と考えているのでしょう。だとすれば、中国政府の圧力で、核開発とりわけ核実験を断念して、ICBM開発と保有を断念することが、きわめて困難であることが分かります。

歴史上、「誤算」と、誤った「奢り」、そして楽観的な見積もりが、しばしば悲劇をもたらしてきました。

これからの一週間が、北東アジアの平和と戦争を分かつ重要な時間となります。中国の真摯な圧力と説得、北朝鮮の自制、そしてアメリカの冷静な対応とがよりいっそう確かなものとなるよう願っています。

和平交渉の成功の見通しがないまま真珠湾への艦隊の移動を始めた戦前の日本軍と、中国の圧力で北朝鮮が自制することの確約がないまま北朝鮮沖に艦隊の移動を始めたトランプ大統領下のアメリカ軍。

さて、アメリカは4月25日前後に北朝鮮の核実験が行われなかった、という「成果」のみで、これらの艦隊を撤退させることが可能かどうか。一度振り上げた拳を、どのように降ろすのか、私には明確なシナリオが見えません。

hosoyayuichi at 00:59|Permalink

2017年04月18日

迷走するイギリス政治

イギリス政治の劣化が止まりません。いろいろな意味で大変な混迷となっています。

まずは、2011年に選挙法を改正して、下院の任期を5年で固定をしたわけですが、十分な根拠もなく、それが変更されてしまいます。下院の3分の2の賛成で総選挙が可能ですが、おそらくは労働党党首のジェレミー・コービンが賛成している以上、総選挙になるでしょう。

第二に、労働党の多数がEU残留派でありながら、ジェレミー・コービンは一貫して、EU残留には消極的な立場ですので、再び労働党の内紛が起きるでしょう。これは、日本における集団的自衛権のときの民主党と似ていて、労働党内も一枚岩ではないので、コービン党首は労働党の分裂を避けるために、あえてこの問題は言及を避けています。この間、全くEU残留について触れていない。おそらくは総選挙で、コービンは国民投票の結果を尊重して、EU離脱の立場を維持するか、あるいは「ソフト・ブレグジット」を主張して「ハード・ブレグジット」を敢行した保守党政権を批判するか、あるいは、これを選挙のアジェンダにしないように隠すでしょう。いずれにせよ、コービン党首のもとで、現在の労働党が主導してEU残留へとリーダーシップを発揮するのはちょっと考えがたいです。

唯一、明確にEU残留を主張しているのは自民党ですが、自民党は議席が現在10しかなく、大幅に増えるのは難しいかも知れません。

他方で、現時点での保守党の支持率が43%で、労働党は25%、自民党は10%で、SNPは5%です。小選挙区制ですので、あまり政党支持率は大きな意味を持ちませんが、労働党は過半数をとることはまず不可能で、自民党との連立でも難しいでしょう。簡単に言えば、日本における民進党の低調と同じく、労働党も左派路線を突進して、幅広い国民の支持を得られずに低迷しています。

この間、保守党はEUを批判したり牽制して、イギリスの主権回復の物語と、偉大な独立の物語を語り、ナショナリズムにアピールしたために、比較的高い支持率を維持しています。

国民世論は、以前よりは残留支持が微増していますが、曖昧な態度の労働党の支持にはなっておらず、むしろ整然と離脱へ向けて仕事を続ける保守党への支持が強いという、ねじれた状況です。

ですので、総選挙では保守党が多少議席を減らすかも知れませんが、労働党を上回る可能性は高いと思います。ただし、まだ選挙まで時間があるので、現時点ではいずれの政党も過半数を取れず、連立政権になる可能性もあります。その際は、その組み方次第で、EU離脱への立場も変わりそうですね。

いずれにせよ、今回の総選挙への決断は、メイ首相がかなり困難な決断と選択をする上で、保守党内でも、国民の中でも、十分な民主的正当性をもっていないことが原因だと思います。3月29日の離脱に至る過程でも、デービス離脱担当相に完全に引きずられて、当初よりもかなり強硬な「ハード・ブレグジット」になってしまいました。

保守党内の離脱強硬派に引きずられて、本来中道的な立場であったプラグマティックな党首が、イデオロギー的に右に寄ってしまうのは、キャメロン首相が国民投票を決断をしたときと同じ構図です。そして、キャメロン同様に、メイも、総選挙(キャメロンは国民投票)によって、自らの権力基盤を強化したいのでして、保守党内で強いリーダーシップを発揮したいのでしょう。結局キャメロンはそれに失敗し、メイも失敗すると思います。

そうなると、保守党はよりいっそう混迷を深め、さらには労働党も本来極左であったコービン党首のもとで、過激な社会主義的な経済政策に回帰して、イギリスのビジネスにダメージを与える可能性があります。イギリスのEU離脱と、コービンの社会主義的な経済政策が結びつけば、かなりのビジネスが国外に移動するでしょう。イギリスの経済的混乱が加速するかもしれません。

保守党も、労働党も、中道派が完全に埋没し、中道的な政党の自民党が低調であることが、イギリス政治の現在の困難の原因です。さらには、EUをめぐって、保守党も労働党も党内対立を抱えているので、強い決断がなかなかできません。そうすれば、政党の亀裂に帰結しかねません。

いずれにせよ、昨年7月にキャメロン首相は自ら生み出した危機(国民投票)から逃走して、メイ首相も自らが生み出した危機(ハード・ブレグジット)から逃走しようとしています。みんなが逃げれば、だれも責任を背負って、国民を正しい方向へと導くことができません。

いったい、イギリス政治はどこに行ってしまうのでしょう?

hosoyayuichi at 22:45|Permalink

2017年04月15日

ニューズウィークコラム「北朝鮮に対する軍事攻撃はじまるのか」

すこしまえにこちらのブログに書いた記事を、加筆修正をして、ニューズウィークのコラムに掲載しました。こちらもご覧頂ければ幸いです。
http://www.newsweekjapan.jp/hosoya/2017/04/post-9.php

hosoyayuichi at 20:25|Permalink

北朝鮮に対する軍事攻撃ははじまるのか

今年の一月にワシントンDCを訪問してから、北朝鮮情勢についてアメリカが従来とは異なるアプローチをとるようになり、軍事力行使もオプションとして視野に入れていることが明確となって、日本国内で朝鮮半島情勢に関する緊張感が欠落していることを、何度となく言及してきました。その緊張は、ようやく今月にはいって日本でもしばしば報道されるようになり、いよいよ米中首脳会談を経て、北朝鮮で太陽節(金日成主席生誕105周年)を向かえる今日となり、米軍の朝鮮戦争周辺への展開をともない、一気に高まっています。

他方で、アメリカのワシントンポスト紙は、4月14日付けで次のように報道しています。このタイミングでのこの報道は、かなり重要なのものであると考えます。

「米紙ワシントン・ポスト(電子版)は14日、トランプ政権が北朝鮮政策について、体制転換を目指すのではなく、核・ミサイル開発を放棄させるために「最大限の圧力」をかける方針を決めたと報じた。/2カ月にわたる包括的な政策見直しを終え、国家安全保障会議(NSC)で今月承認されたという。」

トランプ政権としては、曖昧戦略で軍事力行使の実現可能性を極大化して北朝鮮政府を追い詰めながらも、同時に暴発しないように「体制転換はしない」というメッセージを送ることで後ろからの「逃げ道」を用意する。他方で、中国に対しても、これまでの制裁回避の不誠実な対応に対して怒りをこめて圧力をかける。かなりリスクの大きな賭でありますが、他方でリスクを怖れて放置したことで事態を悪化させたブッシュ政権やオバマ政権とは異なるアプローチを選択することは悪いことではありません。

トランプ政権の対外政策については、私はいまだにかなりの懸念を有していますが、他方でこれまでのところは日米関係や米中関係など、想像以上に柔軟で懸命な行動をとっている印象もあります。


今回のアメリカの北朝鮮政策は、まさに「力による平和」の典型例のようなアプローチです。
おそらくは、戦略の逆説を論じたエドワード・ルトワックの古典的名著『戦略論』や、新刊本『戦争にチャンスを与えよ』で描かれている、有用な戦略論が応用されているのではないでしょうか。

戦略理論家のクラウゼビッツが述べたように、戦争はカメレオンのように変化をしますので、これから北朝鮮の暴発や、偶発的な衝突なども想定できます。しかしながら、もしも中国から北朝鮮政府へと適切な圧力がかけられれば、しばらくは金正恩体制は自制を選択するのではないでしょうか。

ゴールデンウィークが、平和なものとなる可能性が少し高まりました。

とはいえ、これから毎日、新しい報道が入り、想定外の事態も考慮に入れて、柔軟、冷静、適切に対応をしていくことが求められるのでしょう。

hosoyayuichi at 11:33|Permalink

2017年03月30日

運命の日を迎えたイギリス

2017年3月29日。この日はイギリス史にとって、決して欠かすことのできない決定的な日付となりました。イギリス政府が正式に、EUに対してリスボン条約50条に基づく離脱通知を行い、EUがそれを受理したのです。これによって、2019年3月29日にイギリスがEUから離脱することが確定しました。

文面は、2つの点で実に奇妙なものです。

第一に、保守党は1990年代半ば以降、20年近くにわたりEUを罵り、侮蔑し、敵対し、批判を続けてきました。ところがこの書簡では一転して、イギリス政府はEUの成功と繁栄を強く願っていると書いています。それは、国民投票前に、離脱派のリーダーであったボリス・ジョンソン現外相が、EUはナチスと同じだと語っていたことと整合性がとれません。だとすれば、国民投票前にジョンソンは虚偽を語り国民を欺いて離脱に導いたのか、あるいは今の政府が語っている言葉が誠実でないか、あるいはこの一年間でEUが「ナチス」から、そうではなくイギリスにとっての重要な価値を共有するパートナーへと変貌をしたのか、どれかなはずです。

第二に、奇妙なのは、離脱前にメイ首相を含む残留派が、詳細なデータを用いて離脱がイギリスの政治や経済に破滅的な影響を及ぼすと語っていた、その基本的なトーンが消えていることです。1年前には、イギリスのEU離脱が破滅的な選択であったのが、この一年間でそうではなくなったということなのでしょうか。とても奇妙な記述となっています。

言うまでもなく、メイ首相は当初は残留派でEUへのイギリスの加盟の利益を主張していました。国民が国民投票を通じて離脱をしたので、民主主義国であるイギリスの政府は国民の信託を受けているため、メイ首相は「public servant」としてイギリスをEU離脱へと円滑に導く義務がある、という姿勢なのでしょう。そして、そうである以上は、EU離脱をスムーズかつ双方にとっての利益となるように進めたいという決意なのだろうと思います。

問題は、EU側にはそのような意図があまりない、ということです。イギリスが民主主義国であるのと同様に、EU諸国も民主主義国です。したがって、選挙に勝つためには、それらの諸国政府はイギリスを批判するでしょうし、またいずれの政府も自国の利益、自国が加盟しているEUの利益を最優先するのが当然です。そして、そのためには、イギリスの利益を損ねるような決断を行うことも、躊躇をしないでしょう。

現在のイギリス政府の立場は、イギリスは民主主義国として国民の判断に従ってEU離脱をせざるを得ないが、イギリスと良好な関係を築くほうがEUにとっての利益なのだから、EUはイギリスにとって利益となるような離脱協定と貿易協定を結ぶ義務がある、と強く要求するものです。

これは、弱者の恐喝です。

EUの経済規模はイギリスのGDPの約5倍です。5対1の経済力の格差があって、EUが交渉上優位に立つのは、当然のことです。EUは自らにとって有利な貿易協定の締結を模索し、イギリスは必然的にのような圧力に屈することになるでしょう。というのも、EUとの貿易協定が締結できずに困るのは、対外貿易の5割弱が対EUであるイギリスであって、EUではありません。したがって、早期に合意に至るように、イギリス政府が過剰にEUに譲歩せざるを得ないのが、自然な成り行きです。

いうまでもなく、そのような交渉上の弱さを自覚しているからこそ、メイ首相の書簡はいままでになくEUに対して弱いトーンであり、「嘆願」というような性質が感じられます。最近のドイツ政府やフランス政府、そしてEU自体は、これまで以上にイギリスに対して強硬な姿勢を示していまさす。EUがイギリスに対して、過剰は配慮を示す可能性は低いでしょうし、EUはこれ以上の離脱国を生まないように自らの利益を最優先するはずです。

これまでイギリス外交史を専門として、イギリスという国家と国民を愛してきた私にとっては、イギリスが大国の地位を失い、自国経済にきわめて大きな懸念を生み出すことになるこの2017年3月29日の決定を、とても悲しく感じています。

https://www.gov.uk/government/publications/prime-ministers-letter-to-donald-tusk-triggering-article-50

hosoyayuichi at 01:12|Permalink