2010年08月07日
踊るウィーン
昨日すべて引越を終えまして、今日パリから飛行機でウィーンに移動しました。
はじめてのウィーンです。家族そろって、ここ連続の引越作業からぐったりと疲れて、さらにウィーン空港到着後に私の荷物だけ届かずに（あとでホテルまで運んでくれましたが）、なんとなく疲れ気味。
でも、ウィーンの街は、想像以上に魅力的でした。ドイツ的な要素とイタリア的な要素がうまく混ざっており、それにあわせてカトリック的なもの、さらにはかつてのハプスブルク王国を思わせるスペインとオランダの要素も見られます（絵画など）。さらには食事は、ハンガリーやバルカンやイタリア的なものも混ざり、なんとも帝都。「帝国主義は悪」という主張も理解できますが、帝国内で色々な文化が混ざり合うことで、化学反応を起こして偉大な芸術が生まれることも、偉大な食事が生まれることもあったのでしょう。
これまで、大学で西洋外交史を教え、ウィーン会議について話をしながらも、その歴史舞台には来たことがありませんでした。それがずっと引っかかっていたのです。はたしてウィーンはどのような街か。それを知ることで、歴史ももっと深く知ることが出来るのでは。ということで、今回の旅行では、ウィーンとベルリンを回り、その途中にあるプラハにも立ち寄ります。ちょうど、ヒトラーのヨーロッパ支配の始動ともゆかりのある場所です。オーストリアで生まれ、ウィーンの芸術学校に二度受験をして失敗。その後ミュンヘンを経て、ベルリンへ。さらにはいわずとしれた、1938年のズデーテンラントをめぐってのチェコ危機。プラハに激震が訪れます。一方で、優雅な時代錯誤的な王政をとっていたウィーンの悠久の時間を体験し、他方でプラハやベルリンで20世紀の激動を学びたいと思っていました。ベルリンでは、ポツダムにも行き、チャーチルやイーデンが65年前の7月に経験したポツダム会談の舞台を訪れたいと思っています。
4月にはスペインとオランダ・ベルギーにも訪れましたが、この両国はかつてハプスブルク家の最盛期に、自らの支配下に置き、そこから巨万の富を得ていた場所です。またつい先日は、パリを発つ前に再びヴェルサイユ宮殿に家族で行って、マリー・アントワネットが多くの時間を過ごしたプチ・トリアノンで彼女の寝室や居間を見てきました。そのマリー・アントワネットが思い出をつくったのが、ウィーンの王宮であり、リングの外にあるシェーンブルン宮殿です。
イギリスにいるとなかなかわからなかったことでもあるのですが、ヨーロッパの歴史的な深い繋がりには、とても深いものを感じます。色々なところで、色々とつながっている。ですので、一方では巨大な対立をして、他方では奥深い繋がりがある。だからこそ、二度の世界大戦を、ヨーロッパの歴史家の多くは「内戦」と呼ぶのかもしれません。
ヨーロッパは、挫折と、苦悩と、教訓の宝庫ですね。そこから何も学ばないのでは、あまりにももったいない。これこそが、ヨーロッパ外交史を学ぶ面白さです。
特に今回のヨーロッパ滞在では、ヨーロッパの小国のプライドを学ぶことが出来たのは、とても大きいですね。小国というよりは、ミドル・パワーでしょうが、スペイン、イタリア、オランダ、オーストリアなど、かつて世界を支配した国々が、衰退を経験し、歴史の中で超大国の対立に埋もれ、悲劇を味わう。しかしながら、彼らは歴史を大切にすることで、決して自らの誇りを失いません。それが国民の活力でもあるのですね。
同時に、「国」では説明の出来ない、ヨーロッパでの繋がり。例えばカルタゴやマルタ。カタローニャもそうです。ニースやコルシカもそうでした。そこでは、近代国家とは異なる時間が流れている。かといって、近代国家を目指すわけでもない。世界史の中で重要な位置を占めながらも、国を目指すわけでもなく、近代国家の中で埋没するわけでもない。このあたりは、とてもおもしろいところです。アジアでも、香港や沖縄、大連や瀋陽、シンガポール、などなど、独特な歴史を経験し、都市としての深みと、国家の狭間でのアイデンティティに揺れ動く。
ちょうど最近書き終えた、『法学研究』掲載用の論文（来春刊行予定）では、国連成立におけるチャールズ・ウェブスター教授の役割を論じました。そこでは、外交官と外交史家との協力の可能性と限界、そして大国中心主義と小国への配慮の両立の可能性、などなど、興味深いテーマがたくさん隠されていました。このような視点のも、今回の留学で得たものかもしれません。
人生は色々な過ごし方があると思います。私自身も、一生涯、イギリス外交史家としてそれに専念するのであれば、わざわざアメリカに一年、フランスに一年滞在し、文化的にも言語的にもそこまでしんどい思いをすることもなかったのかもしれません。よくわかりません。もちろん、人生には何が正しいのか、唯一の答えがあるわけではありません。東大に行って幸せな人生を過ごす方も、慶應に来て幸せな人生を過ごす方もいらっしゃると思いますし、アメリカに留学して成長される方もイギリスに行って成長される方もいらっしゃるわけですね。外交史に意義を感じる方も、理論的な研究を中心に考える方もいらっしゃる。もちろん、フランスに留学してそこで大きな成長をされる方もいる。色々な方がいることが重要だと思うのです。
もちろん、それを混ぜるのもおもしろいと思うのです。そもそも、外交史とは、国際政治学と歴史学の狭間にある学問ですし、国際政治史となれば、色々な国を総合的に理解することも必要になる。さらには、現代と歴史をともに研究することも、それはそれでおもしろい。私が大学院修士課程に進学する際の入試の面接で、「現代も歴史も両方関心があります」と述べて、「出来れば、歴史も理論も両方とも勉強したいと思います」と欲張りなことを行って、よく慶應は寛大にも私を入れてくれたと思います。普通であれば、「修士課程では、特定のアプローチにフォーカスをあてることが望ましいと思いますよ」と、面接者の教授はおっしゃると思います。私もそういうかもしれません。そのあたりの、独特の寛容さには、今でも感謝しています。
とはいえ、帰国後には時間も限られてくるので、これまで以上に仕事のフォーカスをしっかりしないと、何も生産できなくなるかもしれません。しっかりと計画を立てて、これからの時間を有意義に使っていきたいと感じています。パリを離れて、一年間を総括する中で、ウィーンという独特な文化的な空気もあり、色々なことが頭の中を駆け巡りました。
はじめてのウィーンです。家族そろって、ここ連続の引越作業からぐったりと疲れて、さらにウィーン空港到着後に私の荷物だけ届かずに（あとでホテルまで運んでくれましたが）、なんとなく疲れ気味。
でも、ウィーンの街は、想像以上に魅力的でした。ドイツ的な要素とイタリア的な要素がうまく混ざっており、それにあわせてカトリック的なもの、さらにはかつてのハプスブルク王国を思わせるスペインとオランダの要素も見られます（絵画など）。さらには食事は、ハンガリーやバルカンやイタリア的なものも混ざり、なんとも帝都。「帝国主義は悪」という主張も理解できますが、帝国内で色々な文化が混ざり合うことで、化学反応を起こして偉大な芸術が生まれることも、偉大な食事が生まれることもあったのでしょう。
これまで、大学で西洋外交史を教え、ウィーン会議について話をしながらも、その歴史舞台には来たことがありませんでした。それがずっと引っかかっていたのです。はたしてウィーンはどのような街か。それを知ることで、歴史ももっと深く知ることが出来るのでは。ということで、今回の旅行では、ウィーンとベルリンを回り、その途中にあるプラハにも立ち寄ります。ちょうど、ヒトラーのヨーロッパ支配の始動ともゆかりのある場所です。オーストリアで生まれ、ウィーンの芸術学校に二度受験をして失敗。その後ミュンヘンを経て、ベルリンへ。さらにはいわずとしれた、1938年のズデーテンラントをめぐってのチェコ危機。プラハに激震が訪れます。一方で、優雅な時代錯誤的な王政をとっていたウィーンの悠久の時間を体験し、他方でプラハやベルリンで20世紀の激動を学びたいと思っていました。ベルリンでは、ポツダムにも行き、チャーチルやイーデンが65年前の7月に経験したポツダム会談の舞台を訪れたいと思っています。
4月にはスペインとオランダ・ベルギーにも訪れましたが、この両国はかつてハプスブルク家の最盛期に、自らの支配下に置き、そこから巨万の富を得ていた場所です。またつい先日は、パリを発つ前に再びヴェルサイユ宮殿に家族で行って、マリー・アントワネットが多くの時間を過ごしたプチ・トリアノンで彼女の寝室や居間を見てきました。そのマリー・アントワネットが思い出をつくったのが、ウィーンの王宮であり、リングの外にあるシェーンブルン宮殿です。
イギリスにいるとなかなかわからなかったことでもあるのですが、ヨーロッパの歴史的な深い繋がりには、とても深いものを感じます。色々なところで、色々とつながっている。ですので、一方では巨大な対立をして、他方では奥深い繋がりがある。だからこそ、二度の世界大戦を、ヨーロッパの歴史家の多くは「内戦」と呼ぶのかもしれません。
ヨーロッパは、挫折と、苦悩と、教訓の宝庫ですね。そこから何も学ばないのでは、あまりにももったいない。これこそが、ヨーロッパ外交史を学ぶ面白さです。
特に今回のヨーロッパ滞在では、ヨーロッパの小国のプライドを学ぶことが出来たのは、とても大きいですね。小国というよりは、ミドル・パワーでしょうが、スペイン、イタリア、オランダ、オーストリアなど、かつて世界を支配した国々が、衰退を経験し、歴史の中で超大国の対立に埋もれ、悲劇を味わう。しかしながら、彼らは歴史を大切にすることで、決して自らの誇りを失いません。それが国民の活力でもあるのですね。
同時に、「国」では説明の出来ない、ヨーロッパでの繋がり。例えばカルタゴやマルタ。カタローニャもそうです。ニースやコルシカもそうでした。そこでは、近代国家とは異なる時間が流れている。かといって、近代国家を目指すわけでもない。世界史の中で重要な位置を占めながらも、国を目指すわけでもなく、近代国家の中で埋没するわけでもない。このあたりは、とてもおもしろいところです。アジアでも、香港や沖縄、大連や瀋陽、シンガポール、などなど、独特な歴史を経験し、都市としての深みと、国家の狭間でのアイデンティティに揺れ動く。
ちょうど最近書き終えた、『法学研究』掲載用の論文（来春刊行予定）では、国連成立におけるチャールズ・ウェブスター教授の役割を論じました。そこでは、外交官と外交史家との協力の可能性と限界、そして大国中心主義と小国への配慮の両立の可能性、などなど、興味深いテーマがたくさん隠されていました。このような視点のも、今回の留学で得たものかもしれません。
人生は色々な過ごし方があると思います。私自身も、一生涯、イギリス外交史家としてそれに専念するのであれば、わざわざアメリカに一年、フランスに一年滞在し、文化的にも言語的にもそこまでしんどい思いをすることもなかったのかもしれません。よくわかりません。もちろん、人生には何が正しいのか、唯一の答えがあるわけではありません。東大に行って幸せな人生を過ごす方も、慶應に来て幸せな人生を過ごす方もいらっしゃると思いますし、アメリカに留学して成長される方もイギリスに行って成長される方もいらっしゃるわけですね。外交史に意義を感じる方も、理論的な研究を中心に考える方もいらっしゃる。もちろん、フランスに留学してそこで大きな成長をされる方もいる。色々な方がいることが重要だと思うのです。
もちろん、それを混ぜるのもおもしろいと思うのです。そもそも、外交史とは、国際政治学と歴史学の狭間にある学問ですし、国際政治史となれば、色々な国を総合的に理解することも必要になる。さらには、現代と歴史をともに研究することも、それはそれでおもしろい。私が大学院修士課程に進学する際の入試の面接で、「現代も歴史も両方関心があります」と述べて、「出来れば、歴史も理論も両方とも勉強したいと思います」と欲張りなことを行って、よく慶應は寛大にも私を入れてくれたと思います。普通であれば、「修士課程では、特定のアプローチにフォーカスをあてることが望ましいと思いますよ」と、面接者の教授はおっしゃると思います。私もそういうかもしれません。そのあたりの、独特の寛容さには、今でも感謝しています。
とはいえ、帰国後には時間も限られてくるので、これまで以上に仕事のフォーカスをしっかりしないと、何も生産できなくなるかもしれません。しっかりと計画を立てて、これからの時間を有意義に使っていきたいと感じています。パリを離れて、一年間を総括する中で、ウィーンという独特な文化的な空気もあり、色々なことが頭の中を駆け巡りました。
hosoyayuichi at 07:06｜Permalink
シンポジウムのお知らせ
-----------------------------------------------------------
シンポジウムのご案内
Invitation to a Symposium
(For English, please scroll down.)
----以下転送用メール（転送歓迎）----
国際交流基金（ジャパンファウンデーション）は、コンラッド・アデナウアート財団との共催によるシンポジウム「外交の再考：新たな方法論と挑戦」を開催します。
【趣旨】
「文化外交」、「民間外交」などといった言葉に象徴されるように、21世紀に入り、外交における手法や担い手は多様化の一途を辿っています。その一方で、これまで「外交はどうあるべきか」といった議論は、政府あるいは一部の知識人の間ではなされてきたものの、国民レベルで十分に論じられてきたとは言えません。
翻って世界を見れば、米国のソフト・パワー戦略、中国の語学教育を核とした世界的な中国文化の普及等、各国とも自国のブランド・イメージの確立にしのぎを削っていますが、「戦争の回避」や、「自国の経済成長」といったこれまでの外交の主たる目標が国民の目には色あせたスローガンになりつつある現在、日本は今後の外交にどのような目標を設定し、それをどのように国民レベルでシェアしていけるのでしょうか。
ドイツを中心とした欧州の例に加え、アジア各国（中国、韓国、タイ、シンガポール）の例と比較しながら、外交のあり方を再考します。
●日時： 2010年8月31日 火曜日 18時〜20時
●会場： 国際交流基金（ジャパンファウンデーション） JFICホール[さくら]
http://www.jpf.go.jp/j/about/outline/contact/map.html
●主催： ジャパンファウンデーション、コンラッド・アデナウアー財団（ドイツ）
●言語： 日本語・英語 同時通訳
●パネリスト：
ドイツ - フランク・ウンバッハ (欧州安全保障戦略センター シニア・アソシエイト)
韓国 - 李長熙（韓国外国語大学 教授）
シンガポール - ラン・ペンアール（シンガポール国立大学 東アジア研究所 シニア・リサーチ・フェロー）
中国 - 李明江（南洋理工大学 准教授）
タイ - パヴィン・チャチャヴァルポンプン（シンガポール東南アジア学研究所 研究主任）
日本 - 岩間陽子（政策研究大学院大学 教授）
日本 - 細谷雄一（慶應義塾大学 准教授）
日本 - 飯山雅史（読売新聞東京本社 調査研究本部 主任研究員）
●参加費： 入場無料 *先着100名様
●お申し込み：
ご参加希望の方は、件名を「外交の再考(10/8/31)参加希望」として、8月27日金曜日までに、氏名、住所、職業、連絡先（電話番号、FaxまたはEmail)を明記のうえ、下記メールまたはFaxでお申し込みください。
Eメール:oca(at)jpf.go.jp / Fax: 03-5369-6041
※他のイベントとの区別のため、お手数ですが、件名は必ず上記のものにしてください。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
●お問い合わせ先
国際交流基金 日本研究・知的交流部
「外交の再考」シンポジウム事務局
担当：堀江 Teruyo_Horie@jpf.go.jp
〒160-0004 東京都新宿区四谷4-4-1
T 03-5369-6071
F 03-5369-6041
http://www.jpf.go.jp/j
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
--------------------------------------------------------------------------------
Public Symposium “Rethinking Diplomacy: New Approaches and Domestic Challenges”
--------------------------------------------------------------------------------
As symbolized in the terms “cultural diplomacy” and “public diplomacy,” diplomatic actors and their platform have been steadily diversifying in the 21st century. Meanwhile, the question of what exactly diplomacy should accomplish has never been sufficiently discussed in the public discourse except in a small community of government officials and some intellectuals. Turning our attention to the world at large, countries are fiercely competing to establish their own brand image, as seen in examples such as the US’s soft power strategy and China’s global diffusion of its culture through language education. As the conventional justifications for diplomacy (such as national security and trade promotion) are quickly losing currency among the general public, what kinds of goals should Japan set for its diplomacy, and how can they be shared throughout the nation?
Panelists from Germany and Japan, as well as other Asian countries including China, South Korea, Thailand and Singapore will bring the latest cases on their country’s diplomacy in order to reconsider the visions and directions of diplomacy in the 21st century.
■Date&Time: Tuesday, August 31st, 2010 18:00-20:00
■Venue: JFIC Hall “SAKURA” at the Japan Foundation Head Office,
4-4-1 Yotsuya, Shinjuku-ku Tokyo
http://www.jpf.go.jp/e/about/outline/contact/map.html
■Organizers: The Japan Foundation, Konrad Adenauer Stiftung
■Language: Japanese & English with simultaneous interpretation
■Panelists:
Germany - Frank Umbach (Senior Associate, Centre for European Security Strategies CESS, Germany)
Korea - Lee Jang-Hie (Professor, Hankuk University of Foreign Studies Korea)
Singapore - Lam Peng Er (Senior Research Fellow, East Asian Institute, National University of Singapore)
China - Li Mingjiang (Associate Professor, Nanyang Technological University)
Thailand - Pavin Chachavalpongpun (Lead Researcher, the ISEAS Singapore)
Japan - Yoko Iwama (Professor, National Graduate Institute for Policy Studies)
Japan - Yuichi Hosoya (Associate Professor, Keio University)
Japan - Masashi Iiyama (Senior Research Fellow, Yomiuri Research Institute, The Yomiuri Shimbun)
■Admission: Free
* Seats are limited to 100 seats.
■Registration: Prior registration needed. Please email oca@jpf.go.jp or fax(03-5369-6041) with your name, affiliation and contact information(tel, fax or email). Please fill in the subject line with 'Rethinking Diplomacy(10/8/31)'.
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
●Inquieries
Japanese Studies and Intellectual Exchange Dep.
THE JAPAN FOUNDATION
(Ms. Horie) Teruyo_Horie@jpf.go.jp
4-4-1 Yotsuya, Shinjuku-ku
Tokyo 160-0004 JAPAN
T +81-3-5369-6071
F +81-3-5369-6041
http://www.jpf.go.jp/e
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
シンポジウムのご案内
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国際交流基金（ジャパンファウンデーション）は、コンラッド・アデナウアート財団との共催によるシンポジウム「外交の再考：新たな方法論と挑戦」を開催します。
【趣旨】
「文化外交」、「民間外交」などといった言葉に象徴されるように、21世紀に入り、外交における手法や担い手は多様化の一途を辿っています。その一方で、これまで「外交はどうあるべきか」といった議論は、政府あるいは一部の知識人の間ではなされてきたものの、国民レベルで十分に論じられてきたとは言えません。
翻って世界を見れば、米国のソフト・パワー戦略、中国の語学教育を核とした世界的な中国文化の普及等、各国とも自国のブランド・イメージの確立にしのぎを削っていますが、「戦争の回避」や、「自国の経済成長」といったこれまでの外交の主たる目標が国民の目には色あせたスローガンになりつつある現在、日本は今後の外交にどのような目標を設定し、それをどのように国民レベルでシェアしていけるのでしょうか。
ドイツを中心とした欧州の例に加え、アジア各国（中国、韓国、タイ、シンガポール）の例と比較しながら、外交のあり方を再考します。
●日時： 2010年8月31日 火曜日 18時〜20時
●会場： 国際交流基金（ジャパンファウンデーション） JFICホール[さくら]
http://www.jpf.go.jp/j/about/outline/contact/map.html
●主催： ジャパンファウンデーション、コンラッド・アデナウアー財団（ドイツ）
●言語： 日本語・英語 同時通訳
●パネリスト：
ドイツ - フランク・ウンバッハ (欧州安全保障戦略センター シニア・アソシエイト)
韓国 - 李長熙（韓国外国語大学 教授）
シンガポール - ラン・ペンアール（シンガポール国立大学 東アジア研究所 シニア・リサーチ・フェロー）
中国 - 李明江（南洋理工大学 准教授）
タイ - パヴィン・チャチャヴァルポンプン（シンガポール東南アジア学研究所 研究主任）
日本 - 岩間陽子（政策研究大学院大学 教授）
日本 - 細谷雄一（慶應義塾大学 准教授）
日本 - 飯山雅史（読売新聞東京本社 調査研究本部 主任研究員）
●参加費： 入場無料 *先着100名様
●お申し込み：
ご参加希望の方は、件名を「外交の再考(10/8/31)参加希望」として、8月27日金曜日までに、氏名、住所、職業、連絡先（電話番号、FaxまたはEmail)を明記のうえ、下記メールまたはFaxでお申し込みください。
Eメール:oca(at)jpf.go.jp / Fax: 03-5369-6041
※他のイベントとの区別のため、お手数ですが、件名は必ず上記のものにしてください。
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●お問い合わせ先
国際交流基金 日本研究・知的交流部
「外交の再考」シンポジウム事務局
担当：堀江 Teruyo_Horie@jpf.go.jp
〒160-0004 東京都新宿区四谷4-4-1
T 03-5369-6071
F 03-5369-6041
http://www.jpf.go.jp/j
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As symbolized in the terms “cultural diplomacy” and “public diplomacy,” diplomatic actors and their platform have been steadily diversifying in the 21st century. Meanwhile, the question of what exactly diplomacy should accomplish has never been sufficiently discussed in the public discourse except in a small community of government officials and some intellectuals. Turning our attention to the world at large, countries are fiercely competing to establish their own brand image, as seen in examples such as the US’s soft power strategy and China’s global diffusion of its culture through language education. As the conventional justifications for diplomacy (such as national security and trade promotion) are quickly losing currency among the general public, what kinds of goals should Japan set for its diplomacy, and how can they be shared throughout the nation?
Panelists from Germany and Japan, as well as other Asian countries including China, South Korea, Thailand and Singapore will bring the latest cases on their country’s diplomacy in order to reconsider the visions and directions of diplomacy in the 21st century.
■Date&Time: Tuesday, August 31st, 2010 18:00-20:00
■Venue: JFIC Hall “SAKURA” at the Japan Foundation Head Office,
4-4-1 Yotsuya, Shinjuku-ku Tokyo
http://www.jpf.go.jp/e/about/outline/contact/map.html
■Organizers: The Japan Foundation, Konrad Adenauer Stiftung
■Language: Japanese & English with simultaneous interpretation
■Panelists:
Germany - Frank Umbach (Senior Associate, Centre for European Security Strategies CESS, Germany)
Korea - Lee Jang-Hie (Professor, Hankuk University of Foreign Studies Korea)
Singapore - Lam Peng Er (Senior Research Fellow, East Asian Institute, National University of Singapore)
China - Li Mingjiang (Associate Professor, Nanyang Technological University)
Thailand - Pavin Chachavalpongpun (Lead Researcher, the ISEAS Singapore)
Japan - Yoko Iwama (Professor, National Graduate Institute for Policy Studies)
Japan - Yuichi Hosoya (Associate Professor, Keio University)
Japan - Masashi Iiyama (Senior Research Fellow, Yomiuri Research Institute, The Yomiuri Shimbun)
■Admission: Free
* Seats are limited to 100 seats.
■Registration: Prior registration needed. Please email oca@jpf.go.jp or fax(03-5369-6041) with your name, affiliation and contact information(tel, fax or email). Please fill in the subject line with 'Rethinking Diplomacy(10/8/31)'.
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●Inquieries
Japanese Studies and Intellectual Exchange Dep.
THE JAPAN FOUNDATION
(Ms. Horie) Teruyo_Horie@jpf.go.jp
4-4-1 Yotsuya, Shinjuku-ku
Tokyo 160-0004 JAPAN
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hosoyayuichi at 06:39｜Permalink
2010年07月31日
夕暮れのパリ
いよいよ私のパリでの生活も、残りわずかとなりました。お気に入りの今住んでいるアパートも、あと数日で退去する予定です。それからしばらくはホテル住まいで、ヨーロッパのいくつかの都市をまわってから、８月下旬に日本に帰国する予定です。インターネットも頻繁には接続できなくなりますので、メールの送受信も、このブログの更新も滞ると思いますが、どうぞご容赦下さいませ。また、帰国後はこのブログもおそらくは続けることはないかもしれません。なにせ、「細谷雄一の留学記」というぐらいですから。日本に戻ったら、毎日特にブログに書くような、目新しいことは起こらないでしょうね。ブログで語る前に、そこらじゅうでおしゃべりをして、ストレスを発散させていただく予定です。
自分でもよくまあ、二年間ブログを続けてきたのだと思います。あまりしゃべる相手もいないですから、これも気楽な「独り言」という感じでしょうか。読んで下さっている方々には、毒にも薬にもならない、どうでもよい内容だったと思いますが、おつきあいいただき感謝しています。
二日前にロンドンからパリにユーロスターで戻ってきたのですが、それにしてもロンドンもパリも、この季節はこれぞ観光地といった、観光客であふれています。帰りのユーロスターは運悪く、四人のテーブル席。目の前のフランス人のおにいちゃんとは足がぶつかりますし、横のアフリカ系の女性の方はなぜか私の座席に半分ぐらいはみ出てきますし（ちょっと太っている）、斜め前の韓国人の女性は嬉しそうに隣のフランス人男性と、なにかと話題を見つけて話しかけようといちゃいちゃしていますし、後ろの子供は意味なく悲鳴を上げていますし、静かな読書を楽しむ環境にはありませんでした。このようなこともあると想定し、高性能のBOSEのノイズリダクションヘッドフォンを買ってあるのですが、ノイズリダクションにも限界があります。限界を超えたノイズは、見事に私の脳裏に届くのです。とはいえ、今やパリとロンドンの間は２時間ちょっとですので、あっという間ですね。
ロンドンで最後の日には、外務省に行きまして、歴史局の方に（今は、ＩＴ部と名称変更）、外交記録管理および公開制度についていろいろと聴いてきました。ＤＢＰＯの編集者二人（オフィシャル・ヒストリアン）、外務省の担当官２人、公開審査を担当する退官した大使の外交官の方１人、そしてビデオ会議でハンズレー・パークの別棟の外交記録保管所の担当官２人と、私一人ではぜいたくすぎるほど豪華な方々にお集まりいただき、いろいろと貴重な情報をいただきました。
それにしても、イギリスの史料管理、公開制度は、私が知っているよりも遥かに素晴らしかったです。感動します。これぞ民主主義といったところでしょうか。結局は、外交記録を国民の財産と考え、その保管を歴史への責任と考えるところに、文化の違いがあるのかもしれません。全部で、７０人ぐらい、人がいるのでしょうか。日本では、外交史料館勤務の外務省員の方はいらっしゃいますが、外務省内部にはそのような部署はありません。一人も担当官がいない、ということでしょうか。またヒストリアンで外務省員であるケースもかなり限られます。日本では、歴史家と外交官との連携が、とても細いのですね。それに対して、イギリスの場合は、外交史家が外交官を尊敬し、外交官が外交史家を尊敬する伝統が一部に見られます。ちょうど今、書き終わった新しい論文が、国連創設をめぐる１９４３年の外交官グラッドウィン・ジェブと、外交史家チャールズ・ウェブスターの協力についてのもので、ふとそのようなことが現実と重なりました。
とはいえ、アジア諸国の中では、日本の外交記録公開制度はもっとも成熟しているかもしれません。これは民主主義とも結びつく、とても重要なことでしょうね。それを強化することで、日本の民主主義も、日本の外交の質も向上するのだと思っています。今回のイギリス外務省訪問の成果は（これは私の独自の行動で、自腹で行っていますが）、外務省の外交記録公開促進委員会で生かしたいと思っています。
イギリスでは、悪い油の悪い料理をたくさん食べてしまい、だいぶ胃も疲れていましたので、パリに戻って一昨日は韓国料理、今日はタイ料理を食べて、新鮮な素材と体によい香辛料を吸収してきました。美味でした。イギリス外交は、世界でも卓越した地位にあると今でも思っていますが、フランス料理もまた世界で卓越した地位にあるのでしょうね。ですので、フランスで食べるエスニック料理も、おいしいものが多いです。もちろん、ミシュランではパリよりも東京のほうが星付きレストランが多いことが示すように、東京のレストランのレベルは本当に世界に誇るレベルですね。これぞ、日本の帰国する最大の楽しみの一つです。
自分でもよくまあ、二年間ブログを続けてきたのだと思います。あまりしゃべる相手もいないですから、これも気楽な「独り言」という感じでしょうか。読んで下さっている方々には、毒にも薬にもならない、どうでもよい内容だったと思いますが、おつきあいいただき感謝しています。
二日前にロンドンからパリにユーロスターで戻ってきたのですが、それにしてもロンドンもパリも、この季節はこれぞ観光地といった、観光客であふれています。帰りのユーロスターは運悪く、四人のテーブル席。目の前のフランス人のおにいちゃんとは足がぶつかりますし、横のアフリカ系の女性の方はなぜか私の座席に半分ぐらいはみ出てきますし（ちょっと太っている）、斜め前の韓国人の女性は嬉しそうに隣のフランス人男性と、なにかと話題を見つけて話しかけようといちゃいちゃしていますし、後ろの子供は意味なく悲鳴を上げていますし、静かな読書を楽しむ環境にはありませんでした。このようなこともあると想定し、高性能のBOSEのノイズリダクションヘッドフォンを買ってあるのですが、ノイズリダクションにも限界があります。限界を超えたノイズは、見事に私の脳裏に届くのです。とはいえ、今やパリとロンドンの間は２時間ちょっとですので、あっという間ですね。
ロンドンで最後の日には、外務省に行きまして、歴史局の方に（今は、ＩＴ部と名称変更）、外交記録管理および公開制度についていろいろと聴いてきました。ＤＢＰＯの編集者二人（オフィシャル・ヒストリアン）、外務省の担当官２人、公開審査を担当する退官した大使の外交官の方１人、そしてビデオ会議でハンズレー・パークの別棟の外交記録保管所の担当官２人と、私一人ではぜいたくすぎるほど豪華な方々にお集まりいただき、いろいろと貴重な情報をいただきました。
それにしても、イギリスの史料管理、公開制度は、私が知っているよりも遥かに素晴らしかったです。感動します。これぞ民主主義といったところでしょうか。結局は、外交記録を国民の財産と考え、その保管を歴史への責任と考えるところに、文化の違いがあるのかもしれません。全部で、７０人ぐらい、人がいるのでしょうか。日本では、外交史料館勤務の外務省員の方はいらっしゃいますが、外務省内部にはそのような部署はありません。一人も担当官がいない、ということでしょうか。またヒストリアンで外務省員であるケースもかなり限られます。日本では、歴史家と外交官との連携が、とても細いのですね。それに対して、イギリスの場合は、外交史家が外交官を尊敬し、外交官が外交史家を尊敬する伝統が一部に見られます。ちょうど今、書き終わった新しい論文が、国連創設をめぐる１９４３年の外交官グラッドウィン・ジェブと、外交史家チャールズ・ウェブスターの協力についてのもので、ふとそのようなことが現実と重なりました。
とはいえ、アジア諸国の中では、日本の外交記録公開制度はもっとも成熟しているかもしれません。これは民主主義とも結びつく、とても重要なことでしょうね。それを強化することで、日本の民主主義も、日本の外交の質も向上するのだと思っています。今回のイギリス外務省訪問の成果は（これは私の独自の行動で、自腹で行っていますが）、外務省の外交記録公開促進委員会で生かしたいと思っています。
イギリスでは、悪い油の悪い料理をたくさん食べてしまい、だいぶ胃も疲れていましたので、パリに戻って一昨日は韓国料理、今日はタイ料理を食べて、新鮮な素材と体によい香辛料を吸収してきました。美味でした。イギリス外交は、世界でも卓越した地位にあると今でも思っていますが、フランス料理もまた世界で卓越した地位にあるのでしょうね。ですので、フランスで食べるエスニック料理も、おいしいものが多いです。もちろん、ミシュランではパリよりも東京のほうが星付きレストランが多いことが示すように、東京のレストランのレベルは本当に世界に誇るレベルですね。これぞ、日本の帰国する最大の楽しみの一つです。
hosoyayuichi at 07:59｜Permalink
2010年07月26日
フィッシュアンドチップスは気をつけろ
ロンドンに到着して５日目です。
イギリスに到着して、まずケンブリッジへ。イスラム研究者として高名なＩ氏が今、客員研究員として滞在中ということで、パリ旅行中の同氏にくっついてケンブリッジまで。カレッジに二泊泊めてもらい、たっぷりとビールやサイダーをパブでご一緒しました。Ｉ氏は研究者としてのみならず、「旅行者」として優れた能力をお持ちで、パリやウィーンは相当にお詳しく、またケンブリッジについても滞在３ヶ月で相当に詳しくなっておられました。アンテナが敏感なのか、特殊な情報収集能力を持っておられるのか、色々なことを教えてもらいました。どちらがイギリス研究者か、これではわかりません。かないませんね。ｘともあれ、予想外に美味しいお食事を楽しみ、また夜遅くまで知的な話で盛り上がり（知的でない話も）、かなり楽しい時間を過ごすことが出来ました。感謝感謝。
それから一人ロンドンに上京し、安いＢ＆Ｂに泊まって史料収集です。とはいえ、前回３月に続き、どうもついていません。３月に来たときには、ストがあったこともあり大英図書館の史料室が閉じており、ナショナル・アーカイブズも色々な不便が生じました。今回は、まずケンブリッジのチャーチル・アーカイブズ・センターに行こうと思って数日前にメールで連絡をしたら、どうも私が行く予定の日に、アメリカから大量の観光客だか研究者だかよくわからない人々がサマースクール関係で押し寄せて、史料室を占拠するために机がないとのこと。今までにこんなことはありませんでした。やはり日本人には感覚的によくわかりませんが、７月は欧米の大学などは何かと忙しい季節です。６月に学期が終わり、８月は皆家族でバカンス。それゆえに７月には学会や、シンポジウムや、セミナーなどが組まれることが多いのです。
ケンブリッジでも、キングス・カレッジやトリニティ・カレッジなどの名門、金満カレッジは何もしなくてもロンドンの土地収入などで大量の予算が組めるのですが、中堅カレッジや、新設カレッジなどは、独自に収入の目処を立てないと行けません。従って、日本人や中国人、アメリカ人など、ケンブリッジの空気に圧倒される学生を相手にサマースクールを開いたり、金持ちビジネスマンを相手に、いかがわしい経済学者（だいたい非常勤）を使ったサマー・ビジネス・セミナーを開いたり、努力が欠かせません。ですから、それらのカレッジにとって、夏休みは遊んではいられない、忙しい季節なのですね。チャーチル・カレッジも、それにあたるのかもしれません。ともあれ、ケンブリッジでは予定の史料収集が出来ずに、Ｉ氏とゆっくりとブックショッピング、および、カレッジのホールでの昼食。これもまた、悪くありません。ちょっとリラックス。Ｉさんに案内されて見た、クレア・カレッジ（白洲次郎がかつて学んだカレッジです）のガーデンには、本当に癒されました。花が咲いていて、手入れもよく、天国のような景色。閑かで美しいこのガーデンのベンチに座って、昼下がりの午後にＩさんと色々な談義に花を咲かせて、遠くにクレア・カレッジを眺めるのは、本当に幸せな時間でした。こんな幸せな場所と環境で学生生活を送る、白洲次郎をはじめとするクレア・カレッジの面々には腹が立ってきます。
ロンドンでもうまくいきません。現在ナショナル・アーカイブズは木曜日と火曜日が夜遅くまで開いているのですが、この２日はちょうど、こちらの研究者の方とお会いする予定。いずれも是非ともお会いしたい素晴らしい尊敬する方ですので、最優先。先週の木曜日は、私の大変に尊敬するイアン・ニッシュ先生とお昼にお会いして頂けることになったので、その前後はＬＳＥ図書館で、チャールズ・ウェブスター文書を見ることに。これは大当たりで、とても良い史料を見つけることが出来ました。しかし、日記にはかないません。彼の字はとても読みにくく、何が書いてあるのかわかりません。午前中に、３時間ぐらい、日記の彼の手書き文書とにらめっこ。これはイーデンの日記の時もそうですが、アーキビストにわからない単語を聞きに行くと、だいたいわからないのですね。イギリス人が読もうが、日本人が読もうが、わからないものはわからない。そもそも、日記は、他の人に読まれないためにも、汚い字で書いてあったり、人名がイニシャルで書いてあったりします。逆に、あまりにもきれいな字で書いてあったり、丁寧すぎる説明がある場合は、後に読まれることを前提にした恣意性が高いということになります。最近、完全版が刊行された、ブレア首相の報道官であったアリステア・キャンベルの日記などはその典型例でしょうね。しかし、シアンスポの期末試験の採点で、かなりひどい学生の手書き文書を大量に読み込んだので、少しばかり「マニュスクリプト」の読解には慣れたはずです。
ということで、半ば喜び、半ば苦しみ。金曜日と土曜日は丸まる１日、キューの公文書館へ。３月に使って大分なれたので、すいすいとデジカメに記録、よしよし。ちょうど土曜日は、夕方に区切りがよいように史料を読んでいたのですが、最後に最も重要な二つのファイルを頼んだら、なんと違うファイルが。今まであまりこのようなミスはなかったのですが。文句を言ってももう閉館まで２０分なので、もう変更が出来ませんからあきらめることに。８月に日本に帰る前の最後の訪英の、最後の史料を読む日だったのに、残念です。
今年に入ってから、ナショナル・アーカイブズは、毎週月曜日は閉館日となっています。ですので、史料を読むことは出来ません。すっかり忘れていて、火曜日夜のロンドンに戻るのですが、意味ないですね。月曜日にはキューには行けなくなりました。月曜日は一日空いてしまいますので、どうしようか迷って、結局イーデン文書を読みに急遽バーミンガムに行くことにしました。日帰りです。ずいぶんと久しぶりですね。郷愁を感じます。キャンパスも大分新しい建物が出来たかもしれません。国際関係学部が入っていた建物は、当時崩壊が噂されるほどの醜くへんなかたちのビルだったのですが、補強されて大分醜さが減ったようです。インターネットに載っていました。この建物の地下に、特別史料室が入っていて、ここで月曜日はイーデンの日記を読もうと思っています。これまた楽しみ。しかし、イーデンの日記も、これまた読みにくくて有名なので、苦戦しそうです。それよりも、久しぶりのバーミンガムが楽しみです。先週木曜日と、今週月曜日の二日が、ナショナル・アーカイブズで史料を読むことができなくなったのですが、その代わりにウェブスター文書とイーデン文書を読めるので、よしとしましょう。
それで、火曜日は午後に、外務省でオフィシャル・ヒストリアンの方にお会いして（ＤＢＰＯを編纂している人々です）、色々と史料公開制度について聞きに行く予定です。ですので火曜日も、ユーロスターに乗るのを夜にしたのですが、ゆっくりとキューで史料を読むことはちょと難しそうです。
イギリスの史料保存の制度は、世界でも最も優れていると思いますので、色々と学ぶことが出来ればと願っています。先週ニッシュ先生にお会いしたときも、日本とイギリスとの史料公開制度の違いや問題点などについて、色々とご教示頂きました。ニッシュ先生は、かなりのご高齢になられておられるのですが、いつお会いしてもシャープで、親切で、パワフルで、ほんとうにすごいですね。しかも、私の研究について相談すると、期待を遙かに上回る的確なアドバイスを頂けます。このような、優しくてシャープな先生になりたいものです。
さて、前回３月にロンドンに来たときには、大好きな（？）フィッシュアンドチップスを、嬉しくて三日連続食べたら、胃腸を痛めて体調を崩してしまいました。さすがに三日連続は、無謀でした。パブのフィッシュアンドチップスは、相当に悪い油を使っているのでしょう。今回は、二日連続で止めて、三日目はパブでハンバーガーを注文。はたしてこれでいいのでしょうか。前回は色々と忙しかったこともあるのかもしれませんが、今回はあまり予定を入れていないので、史料収集以外は早めにホテルに戻って、ゆっくりとくつろいで、睡眠もたっぷりととっているのがよいのかもしれません。ロンドンでフレンチやイタリアンを食べると、たいてい値段にまったく釣り合わないかなりひどい代物が出てきますが、インド料理や中華はなかなかのものです。ただ、美味しいインド料理や中華は日本でも食べられるので、日本で食べられないものといえば、なといってもパブの料理。とりわけ、日本ではまずフィッシュアンドチップスは食べられませんから（あっても違うものがでてくる）、ロンドンで食べられるのは貴重です。食べなくてもいいんですが。しかし、フランスに一年いると、イギリスのコーヒーはひどいですね。お料理は当たり外れがありますが。ロンドンでこれほどスターバックスが普及するのも、わからないでもありません。これまでイギリス人が飲んでいたのは、コーヒーのような液体であって、コーヒーではなかったのです。私の滞在するＢ＆Ｂで朝に出てくるコーヒーは、衝撃的なまずさでした。他方で、ナショナル・アーカイブズにあたらしく入っているコーヒーショップのコーヒーは、なかなか美味です。嬉しいですね。
それにしても、ロンドンに来て、ディストリクトラインに乗ってキューガーデンズで降りて、史料館で朝から晩まで好きな史料を読んでいると、「写経」をしているような、心が無になって、落ち着いてきます。むかしはそれこそ、パソコンで史料をそのまま入力することが多かったので、かなりの程度「写経」的な要素が強かったのですが、今は中腰でデジカメに大量に史料を収めるので、「写経」というよりは、スパイ的な作業です。私のＵＳＢメモリーに、ぱんぱんに史料を放り込んでいるのですが、果たしてこれをプリントアウトして、ファイリングして、読み込むのはいつになるのでしょう。ちなみに、今、『法学研究』に乗せている国連起源についての論文は、五年前にロンドンで集めた史料を使っています。二年の留学が終わる頃にこれでは、良くないのかもしれませんが。
とはいえ、こうやって史料を読んでいると、自分の職業がなんなのか、思い出してきます。外交史家とは、何よりも、史料を読み、外交史の研究を書かないと行けません。とはいえ、今後十年は、日本で忙しい時間を過ごすでしょうから、しばらくは「休業」となってしまうかもしれません。とりあえずは、あと一年間のうちに、一つ目の「国連の成立」についての単著、そしてもう一つの日米同盟の起源についての単著はまとめたいと思っています。もちろん、タフな作業となりそうですが。
イギリスに到着して、まずケンブリッジへ。イスラム研究者として高名なＩ氏が今、客員研究員として滞在中ということで、パリ旅行中の同氏にくっついてケンブリッジまで。カレッジに二泊泊めてもらい、たっぷりとビールやサイダーをパブでご一緒しました。Ｉ氏は研究者としてのみならず、「旅行者」として優れた能力をお持ちで、パリやウィーンは相当にお詳しく、またケンブリッジについても滞在３ヶ月で相当に詳しくなっておられました。アンテナが敏感なのか、特殊な情報収集能力を持っておられるのか、色々なことを教えてもらいました。どちらがイギリス研究者か、これではわかりません。かないませんね。ｘともあれ、予想外に美味しいお食事を楽しみ、また夜遅くまで知的な話で盛り上がり（知的でない話も）、かなり楽しい時間を過ごすことが出来ました。感謝感謝。
それから一人ロンドンに上京し、安いＢ＆Ｂに泊まって史料収集です。とはいえ、前回３月に続き、どうもついていません。３月に来たときには、ストがあったこともあり大英図書館の史料室が閉じており、ナショナル・アーカイブズも色々な不便が生じました。今回は、まずケンブリッジのチャーチル・アーカイブズ・センターに行こうと思って数日前にメールで連絡をしたら、どうも私が行く予定の日に、アメリカから大量の観光客だか研究者だかよくわからない人々がサマースクール関係で押し寄せて、史料室を占拠するために机がないとのこと。今までにこんなことはありませんでした。やはり日本人には感覚的によくわかりませんが、７月は欧米の大学などは何かと忙しい季節です。６月に学期が終わり、８月は皆家族でバカンス。それゆえに７月には学会や、シンポジウムや、セミナーなどが組まれることが多いのです。
ケンブリッジでも、キングス・カレッジやトリニティ・カレッジなどの名門、金満カレッジは何もしなくてもロンドンの土地収入などで大量の予算が組めるのですが、中堅カレッジや、新設カレッジなどは、独自に収入の目処を立てないと行けません。従って、日本人や中国人、アメリカ人など、ケンブリッジの空気に圧倒される学生を相手にサマースクールを開いたり、金持ちビジネスマンを相手に、いかがわしい経済学者（だいたい非常勤）を使ったサマー・ビジネス・セミナーを開いたり、努力が欠かせません。ですから、それらのカレッジにとって、夏休みは遊んではいられない、忙しい季節なのですね。チャーチル・カレッジも、それにあたるのかもしれません。ともあれ、ケンブリッジでは予定の史料収集が出来ずに、Ｉ氏とゆっくりとブックショッピング、および、カレッジのホールでの昼食。これもまた、悪くありません。ちょっとリラックス。Ｉさんに案内されて見た、クレア・カレッジ（白洲次郎がかつて学んだカレッジです）のガーデンには、本当に癒されました。花が咲いていて、手入れもよく、天国のような景色。閑かで美しいこのガーデンのベンチに座って、昼下がりの午後にＩさんと色々な談義に花を咲かせて、遠くにクレア・カレッジを眺めるのは、本当に幸せな時間でした。こんな幸せな場所と環境で学生生活を送る、白洲次郎をはじめとするクレア・カレッジの面々には腹が立ってきます。
ロンドンでもうまくいきません。現在ナショナル・アーカイブズは木曜日と火曜日が夜遅くまで開いているのですが、この２日はちょうど、こちらの研究者の方とお会いする予定。いずれも是非ともお会いしたい素晴らしい尊敬する方ですので、最優先。先週の木曜日は、私の大変に尊敬するイアン・ニッシュ先生とお昼にお会いして頂けることになったので、その前後はＬＳＥ図書館で、チャールズ・ウェブスター文書を見ることに。これは大当たりで、とても良い史料を見つけることが出来ました。しかし、日記にはかないません。彼の字はとても読みにくく、何が書いてあるのかわかりません。午前中に、３時間ぐらい、日記の彼の手書き文書とにらめっこ。これはイーデンの日記の時もそうですが、アーキビストにわからない単語を聞きに行くと、だいたいわからないのですね。イギリス人が読もうが、日本人が読もうが、わからないものはわからない。そもそも、日記は、他の人に読まれないためにも、汚い字で書いてあったり、人名がイニシャルで書いてあったりします。逆に、あまりにもきれいな字で書いてあったり、丁寧すぎる説明がある場合は、後に読まれることを前提にした恣意性が高いということになります。最近、完全版が刊行された、ブレア首相の報道官であったアリステア・キャンベルの日記などはその典型例でしょうね。しかし、シアンスポの期末試験の採点で、かなりひどい学生の手書き文書を大量に読み込んだので、少しばかり「マニュスクリプト」の読解には慣れたはずです。
ということで、半ば喜び、半ば苦しみ。金曜日と土曜日は丸まる１日、キューの公文書館へ。３月に使って大分なれたので、すいすいとデジカメに記録、よしよし。ちょうど土曜日は、夕方に区切りがよいように史料を読んでいたのですが、最後に最も重要な二つのファイルを頼んだら、なんと違うファイルが。今まであまりこのようなミスはなかったのですが。文句を言ってももう閉館まで２０分なので、もう変更が出来ませんからあきらめることに。８月に日本に帰る前の最後の訪英の、最後の史料を読む日だったのに、残念です。
今年に入ってから、ナショナル・アーカイブズは、毎週月曜日は閉館日となっています。ですので、史料を読むことは出来ません。すっかり忘れていて、火曜日夜のロンドンに戻るのですが、意味ないですね。月曜日にはキューには行けなくなりました。月曜日は一日空いてしまいますので、どうしようか迷って、結局イーデン文書を読みに急遽バーミンガムに行くことにしました。日帰りです。ずいぶんと久しぶりですね。郷愁を感じます。キャンパスも大分新しい建物が出来たかもしれません。国際関係学部が入っていた建物は、当時崩壊が噂されるほどの醜くへんなかたちのビルだったのですが、補強されて大分醜さが減ったようです。インターネットに載っていました。この建物の地下に、特別史料室が入っていて、ここで月曜日はイーデンの日記を読もうと思っています。これまた楽しみ。しかし、イーデンの日記も、これまた読みにくくて有名なので、苦戦しそうです。それよりも、久しぶりのバーミンガムが楽しみです。先週木曜日と、今週月曜日の二日が、ナショナル・アーカイブズで史料を読むことができなくなったのですが、その代わりにウェブスター文書とイーデン文書を読めるので、よしとしましょう。
それで、火曜日は午後に、外務省でオフィシャル・ヒストリアンの方にお会いして（ＤＢＰＯを編纂している人々です）、色々と史料公開制度について聞きに行く予定です。ですので火曜日も、ユーロスターに乗るのを夜にしたのですが、ゆっくりとキューで史料を読むことはちょと難しそうです。
イギリスの史料保存の制度は、世界でも最も優れていると思いますので、色々と学ぶことが出来ればと願っています。先週ニッシュ先生にお会いしたときも、日本とイギリスとの史料公開制度の違いや問題点などについて、色々とご教示頂きました。ニッシュ先生は、かなりのご高齢になられておられるのですが、いつお会いしてもシャープで、親切で、パワフルで、ほんとうにすごいですね。しかも、私の研究について相談すると、期待を遙かに上回る的確なアドバイスを頂けます。このような、優しくてシャープな先生になりたいものです。
さて、前回３月にロンドンに来たときには、大好きな（？）フィッシュアンドチップスを、嬉しくて三日連続食べたら、胃腸を痛めて体調を崩してしまいました。さすがに三日連続は、無謀でした。パブのフィッシュアンドチップスは、相当に悪い油を使っているのでしょう。今回は、二日連続で止めて、三日目はパブでハンバーガーを注文。はたしてこれでいいのでしょうか。前回は色々と忙しかったこともあるのかもしれませんが、今回はあまり予定を入れていないので、史料収集以外は早めにホテルに戻って、ゆっくりとくつろいで、睡眠もたっぷりととっているのがよいのかもしれません。ロンドンでフレンチやイタリアンを食べると、たいてい値段にまったく釣り合わないかなりひどい代物が出てきますが、インド料理や中華はなかなかのものです。ただ、美味しいインド料理や中華は日本でも食べられるので、日本で食べられないものといえば、なといってもパブの料理。とりわけ、日本ではまずフィッシュアンドチップスは食べられませんから（あっても違うものがでてくる）、ロンドンで食べられるのは貴重です。食べなくてもいいんですが。しかし、フランスに一年いると、イギリスのコーヒーはひどいですね。お料理は当たり外れがありますが。ロンドンでこれほどスターバックスが普及するのも、わからないでもありません。これまでイギリス人が飲んでいたのは、コーヒーのような液体であって、コーヒーではなかったのです。私の滞在するＢ＆Ｂで朝に出てくるコーヒーは、衝撃的なまずさでした。他方で、ナショナル・アーカイブズにあたらしく入っているコーヒーショップのコーヒーは、なかなか美味です。嬉しいですね。
それにしても、ロンドンに来て、ディストリクトラインに乗ってキューガーデンズで降りて、史料館で朝から晩まで好きな史料を読んでいると、「写経」をしているような、心が無になって、落ち着いてきます。むかしはそれこそ、パソコンで史料をそのまま入力することが多かったので、かなりの程度「写経」的な要素が強かったのですが、今は中腰でデジカメに大量に史料を収めるので、「写経」というよりは、スパイ的な作業です。私のＵＳＢメモリーに、ぱんぱんに史料を放り込んでいるのですが、果たしてこれをプリントアウトして、ファイリングして、読み込むのはいつになるのでしょう。ちなみに、今、『法学研究』に乗せている国連起源についての論文は、五年前にロンドンで集めた史料を使っています。二年の留学が終わる頃にこれでは、良くないのかもしれませんが。
とはいえ、こうやって史料を読んでいると、自分の職業がなんなのか、思い出してきます。外交史家とは、何よりも、史料を読み、外交史の研究を書かないと行けません。とはいえ、今後十年は、日本で忙しい時間を過ごすでしょうから、しばらくは「休業」となってしまうかもしれません。とりあえずは、あと一年間のうちに、一つ目の「国連の成立」についての単著、そしてもう一つの日米同盟の起源についての単著はまとめたいと思っています。もちろん、タフな作業となりそうですが。
hosoyayuichi at 04:41｜Permalink
2010年07月18日
ユンディリのショパン
今、ユンディ・リのショパン・ベストを聴きながら、このブログを書いています。中国人の天才ピアニスト、ユンディ・リ。彼の中でも、やはりショパンはいいですね。すでにいくつものショパンのCDを録音していますが、このベスト盤はなかなかのお薦めです。ポピュラーな夜想曲や幻想即興曲などから始まる出だしもとてもいいです。さて、一昨日に東京からパリ戻ってきました。東京は思いの外、湿度も高く人も多く、少々疲れ気味でパリに戻ってくると、人間にとって最良の湿度と気温に包まれ、いっきに疲れがとれました。東京も嫌いではありませんが、一年でこの季節だけはなんともいえない気候に、からだがこたえてしまいます。他方でパリの気温と湿度は、人間を幸福にさせる最良のものです。
とはいえ、滞在中は多くの方にお会いし、素晴らしい授賞式と二次会に参加し、なんともいえぬ幸福感を得られました。7月10日の院生の皆さんとの夕食会、12日の親しい先生方や編集者の方との夕食会、そして13日の授賞式と二次会と、実にたくさんの方とお会いしました。一人一人ゆっくりとお話しできる時間がなかったのが残念ですが、本当に有り難く感じ、嬉しく感じ、幸運に感じました。
授賞式には、250名もの方にいらっしゃっていただきました。お忙しい皆さんに、このようにお集まりいただいたことは、本当に幸せなことです。事務局の方にも、「これほどまで多くの方が出席し、盛況だった会もありませんでした」と何人もの方におっしゃっていただきました。これも、とりわけ、ゼミの卒業生の皆さんに来ていただいたのがとても大きいです。明るく若く、エネルギッシュで、会場の雰囲気がすがすがしさであふれました。私のような中年男性ばかりですと、もうすこし脂ぎってしまいます。
受賞については、幸運と偶然との重なり合いだと感じますが、それでもこのようなかたちで多くの方にお会いできて、また交流の機会をつくれましたことは、本当に嬉しいことです。二年間の留学は、とても地味で、静かで、目だたぬものでしたが、夏の終わりの花火のような、二年間の留学の終わりを飾る素晴らしい機会だったと思っています。あとは一ヶ月、しっかりとパリで研究をして、8月末に帰国したいと思います。
明後日からはロンドン。ケンブリッジとロンドンでの史料収集です。同時にホワイトホールの外務省で、オフィシャル・ヒストリアンの方とお会いして、イギリスの史料公開制度についてお話しをおうかがいする予定です。日本の外務省で、外交記録公開促進委員会の委員となっておりますゆえに、フランスとイギリスで同様の歴史家で公開審査などを担当されている先生にお会いして、いろいろと学ぶことができればと感じています。
そういえば、成田からパリに飛行機で戻る機内で、日本で購入した新潮社の季刊『考える人』「特集・村上春樹ロングインタビュー」を読みました。これを読んで、長年村上春樹ファンだった私は、さらに彼への尊敬の念を募らせています。彼の最近の本を読むと、やや読者に親切すぎたり、サービスしすぎと言われたりしていますが、それでもその陰に隠れた彼のすごさがにじみでてきます。
村上氏はインタビューの中で、「小説家の資質として必要なのは、文体と内容とストラクチャーです。この三つがそろわないと、大きな小説を書くことができない。」と述べています。サリンジャーが途中から小説を書けなくなり、そして晩年にいたるまで精神的にやや行き詰まってしまったのも、村上氏の分析では「ストラクチャー」の問題で明らかにできる。つまりは、大きな小説を入れるには大きな「容器」が必要だが、それをつくれる小説家は限られています。その例として、19世紀型の総合小説、たとえばドストエフスキーを挙げているのですね。
初期の村上氏の小説は、そのような大きな「ストラクチャー」がなかった。だから、小さな、プライベートな、狭い世界の物語だった。それが、大きなストラクチャーを手に入れ、それを支える体力を手に入れて、彼は『ねじまき鳥クロニクル』や『１Q84』のような巨大な小説を確立した。素晴らしいことです。
彼の文学理論は、本当に優れている。大学教授でも彼に匹敵する文学理論を持つものは少ないのでは。強烈な個性を持っている故に、彼ならではの独特な解釈ともいえますが、それでもその迫力とすごさは圧倒的です。ですので、村上氏は夏目漱石や三島由紀夫のような小説家を、一定程度以上は評価しません（後者より前者の評価が高い）。私は前から、村上氏の小説家としての能力は、夏目漱石を上回ると思っていたのですが、なるほどと、納得します。
これは小説家だけではなくて、研究者にもいえます。30代から40代にうつる中で、どのようにより大きな「ストラクチャ」をつくれるか。それがなければ、結局は、同じようなストーリーになってしまう。村上氏のすごさは、「文体」だと思っていたのですが、むしろ「ストラクチャ」の強さと大きさこそが、彼の小説を偉大ならしめているのでしょう。彼のポップな文体で、その「ストラクチャ」の強さと大きさが見えにくいのですが、その総合性は、小説家として見事なものです。
うらやましい。同じ文章を書く人間というのも恥ずかしいのですが、彼の強さと大きさこそが、私の憧れでもあります。しかも村上氏はそれを、長年の時間をかけて、じっくりと熟成させてきた。それは、才覚ある芥川や三島との大きな違いですね。天才は、いずれ摩耗し、新しい大きなストラクチャを作れずに亡びる。その理由が少し分かりました。
そのような村上氏の内面性、文学理論、ささやかな感情や想いを文章にした『考える人』は、本当に素晴らしい貢献だと思っています。堅い信頼関係があって初めて、このような企画が成功する。帰りのフライトの半分以上は疲れて寝ていましたが、とても貴重な時間を体験できました。
hosoyayuichi at 00:03｜Permalink
