第５１講再生計画の履行が困難になった場合
何とか再生計画を認可されたのですが、依頼者が会社をリストラされて、これ
以上どうにも支払えなくなりました。現在、転職先を探していますが、もう破産
しかないのでしょうか。
１ 再生計画の履行が困難になった場合
⑴ 計画遂行中に減給・失業等で減収になり、計画通りの履行が困難になることが
しばしばあります。
申立代理人は、再生計画の認可で任務が終了したと思わず、（特に弁済代行をし
ない場合には）依頼者にＳＯＳは早めに申し出るよう十分に説示をして下さい。
⑵ 再生計画の履行が困難になった場合、�〆得厳弉茲鯤儿垢靴栃�割弁済期澗を延
長してもらい（民再法234 条）、�△修慮紊諒杠僂鯊任狙擇辰凸叛佞鯑世襦屮蓮璽�
シップ免責」（同法235 条）、��自己破産に方針を切り替えることが考えられます。
また、こうした法的手続によって解決を図る他、�ず銚⊆圓箸隆屬旅膂佞砲茲�
て再生計画を事実上変更する方法もあります。
２ 再生計画の変更
再生計画の変更には「やむを得ない事由」が一応要求されていますが、計画通
りの履行が困難になったことに相当な理由があれば、「やむを得ない事由」は認め
られるでしょう。
変更計画案の決議・認可の要件は当初の計画案の場合と同様です（民再法234
条２項）。
３ 「ハードシップ免責」
⑴ 再生計画の変更では対処できないような場合、すなわち、�〃弉茲陵�行が極め
て困難になった場合で、�△修慮彊�について債務者に帰責事由がなく、�７弉茲�
４分の３の履行が済んでいて、かつ、�ず得厳弉菁Р鳥�点での清算価値（民再法2
30 条･174 条２項４号･241 条２項２号）を超える弁済もしていれば、免責の申立を
することができます（民再法235 条）。
� 銑い陵弖錣�満たされた場合、ハードシップ免責の決定は当然に（必要的
-277-
に）発令されるのか、裁判所に裁量的判断の余地があるかについては講学上の議
論があるようですが、実際にはこれだけの要件が満たされれば、普通は免責決定
は発令されると考えていいでしょう。
⑵ この申立があると、裁判所は、債権者の意見を聴取した上で免責の可否につい
ての判断をすることになります。免責決定は確定によって効力を生じ、債務者は、
再生債権について支払責任を免れることになります。
ただ、悪意の不法行為に基づく債権、手続前の罰金等やそもそも再生債権では
ない租税債権・給料債権の一般先取特権部分は免責を受けられず、担保権や保証
人にも影響を及ぼしません。
一方、破産免責から除外されている雇人の預り金・身元保証金にかかる請求権
や故意に債権者一覧表に記載しなかった請求権等についてもハードシップ免責の
効果は及びます。
４ 自己破産への方針変更
⑴ 再生計画の履行が困難になった場合に最も多い対処方法は、恐らくは自己破産
手続に方針を変更することでしょう。
依頼者は、再生計画が認可され、毎月の負担が相当に軽減されたにもかかわら
ず、履行ができなかったことについて一種の「負い目」をもっていますから弁護
士が方針変更を勧奨すると比較的素直にこれに応じることが多いようです（むし
ろ、弁護士の方がせっかくの依頼者の努力が無になったことでガッカリします）。
⑵ 自己破産に移行した場合、（旧時の一部弁済・任意配当と同様、免責不許可事由
があっても裁量免責相当な事情があるわけですから）当然に同時廃止が認められ
てもよさそうですが、東京地裁の現在の運用では、原則として管財事件とされて
います。
ただ、個人再生委員がそのまま管財人に「横滑り」的に選任されることが多く、
改めて20 万円全額の引継ぎ予納金を財団に組み入れることは要求されない扱いが
取られています（もっとも、再生手続の終了から間がないか、大分経過している
かによっても、違いはあると思われます）。
５ 債権者との間の計画変更の合意
⑴ 再生計画の履行を怠ると、債権者の申立によって再生計画は取り消されること
があります（民再法189 条１項２号）。
この申立があると、東京地裁では数か月程度の履行懈怠があれば計画を取り消
す運用のようです。
⑵ ただ、一旦、再生計画が認可されると、債権者の側でもその履行に期待をもち、
-278-
多少の履行遅滞が生じても、直ぐに計画の取消を申し立てることがないのが普通
です（また、よほどのことがない限り、裁判所が、民再法250 条１項に基づいて、
職権で牽連破産の開始決定をすることも普通は考えられません）。
そこで、再生債権者が少ない場合には、各債権者に再生計画を緩和するについ
ての同意（条件付の計画の取消申立権の放棄）を求めることが考えられます。
例えば、転職後の３か月後から計画弁済を再開し、最終弁済期の３か月後に計
画を完了させる旨を申し出、全債権者（あるいは、住宅ローン債権を除く未履行
の再生債権総額の10 分の９を超える債権を有する再生債権者。民再法189 条３
項）が同意をしたことを確認した上で、実際に履行を再開することは一応の検討
に値します。
⑶ なお、余り実例はないでしょうが、再生計画の比較的初期段階で計画が取り消
されたときは、再度の再生申立を行うことももちろん可能です。
６ 住宅資金特別条項を定めた再生計画の取消
住宅資金特別条項によって権利変更を受けた住宅ローン債権者は、再生計画の
取消を申し立てることはできません（民再法206 条１項）。
ただ、一般再生債権者の申立によって再生計画が取り消された場合、住宅ロー
ン債権も、権利変更を受けなかったことになって、原状に復することになります
（民再法189 条）。
-279-
第５２講個人再生に関する諸問題
�� 住宅資金特別条項を利用した個人再生を申し立てようとしたら、寸前に自宅
に商工ローンの担保権を設定されてしまいました。
�� 依頼者が所有権留保付の自動車に愛着があり、再生手続を逡巡しています。
�� 父親から相続したマンションがあり、共有の母親・兄弟に迷惑をかけたくな
くて、なかなか個人再生に踏み切れません。
�� 債権者の中に商工ローン業者がいます。何か注意すべきことはありますか。
１ 住宅資金特別条項と後順位担保権
⑴ 住宅に非住宅ローン債権の担保権が設定されていると、住宅資金特別条項は使
えません（民再法198 条１項）。なお、住宅の敷地部分の非住宅ローンについては、
後順位である場合に限って住宅資金特別条項が利用できません。
⑵ 東京地裁では、認可決定までにその担保権を消滅させることが相当の確度を持
って見込まれるなどの事情があり、個人再生委員が開始相当の意見書を提出する
場合には、手続開始決定をして手続を進める扱いです（その見込みがないことが
判明したときは手続は廃止されます。民再法191 条１号･243 条１号）。
住宅ローン以外の貸付についての担保権者が自宅の競売手続で配当を受ける可
能性がある場合であれば格別、明らかなオーバーローン物件であれば、住宅ロー
ン以外の貸付のための担保権者の側にも（自己破産ではなく）個人再生手続が開
始されることには明らかなメリットがあります。
そこで、このような担保権者に対しては、利益状況を説明した上、担保権の消
除を交渉する余地があります。
⑶ 口で言っても分からない業者（商工ローン業者等）には、一か八か担保権の設
定登記の抹消登記手続を求める訴訟を提起することが考えられます。
商工ローン業者の担保権設定登記は設定者の意思に基づかないことがままあり、
一方、業者側も買っても負けても利益のない訴訟に応訴する煩から確定判決によ
って登記を抹消することが期待できます。また、理解のある裁判官が担当すれば、
有利な和解の成立の余地がないわけではありません。
⑷ 以上のような交渉・訴訟が無理な場合には、家族・親戚等から弁済資金を借り
受けて、こうした担保権者に借入金の一部を支払い、あるいは自宅を購入しても
-280-
らう中で「ハンコ代」を支払って抹消を交渉することになります。
その他、家族・親族等が住宅ローンについて連帯債務を負担して、住宅ローン
は、連帯債務者から支払ってもらうこともあり得ます。
⑸ 保証会社付の借入の場合、住宅資金特別条項の利用は、保証会社が保証債務を
履行した時から６か月以内に行う必要があり（民再法198 条２項）、そこで、後順
位担保権の抹消は、この期間内に行う必要があります。
以上のように、非住宅ローンのための担保権に対処する方法はいくつかありま
すが、何れも決定的ではありません。また、もともとオーバーローン物件につい
ての問題であり、時間が差し迫った中で焦って、依頼者に余りに不利・無理な交
渉をしたり、家族・親戚に無理な援助を求めることは考え物です。
交渉・訴訟も無理のない援助の受入もできない場合には、タイミングを見計ら
って、依頼者に対し、自己破産に方針変更することを勧めざるを得ません。
２ 自動車の確保について
⑴ 一般に、自動車ローン債権は再生債権であり、所有権留保は別除権と解するの
が通常と思われます。そうすると、再生手続開始申立をすると、約款上期限の利
益は失われ、自動車ローン債権者から、一括弁済と担保自動車の引上要求がある
のが普通です。
もし、自動車の利用を継続することがどうしても必要な場合には、親戚・友人
の中に一定の資力のある人を見つけてもらい、自動車ローン債権者との話し合い
により、その親戚・友人が自動車を時価で買い取り、債務者は買受人から自動車
を賃借または使用貸借して、引き続き自動車を使用させることを考えます。
また、交渉が不調でも、事業継続に不可欠ということならば、民再法148 条の
担保権消滅許可制度の利用が可能なように思われます。
そういった資力のある人がいない場合、債務者は自動車ローン債権者と、例え
ば「ローンの支払はできないが、賃借に切り換えれば賃借料程度は払える」と交
渉し、交渉が決着するまで自動車の引上に事実応じない姿勢で交渉を続けていく
ことが考えられます（交渉が難航するうちに再生手続が終了し、終了後は、当事
者間の自由交渉で落着するということも考えられないではありません）。
⑵ しかし、自動車を使用することが再生債務者の業務や生活に必要不可欠な場合
は、自動車ローン債権は共益債権に該当することも考えられます。そのように解
することができれば、再生手続中に、再生計画によることなく引き続き自動車ロ
ーンを支払い続けることが可能であり、権利変更も受けないことになります。
東京地裁でもそのような処理がされた実例があるようですが、再生委員がどの
ような意見を再生裁判所に申述するかがポイントとなり、再生委員の考え方や申
-281-
立代理人がどこまで疎明・説得をできるかで扱いが変わってくるようです。
３ 清算価値保障条項
⑴ 再生債務者が所有する住宅は、清算価値（民再法230 条･174 条２項４号･241 条
２項２号）に計上すれば、そのまま個人再生の申立をすることができます。
清算価値は、破産が開始された場合、再生債権者が配当を受けられるであろう
資産の時価総額です。
⑵ 従って、不動産について、�〇�分権は単純に単独所有の場合の時価額に持分割
合を乗じて算出されるわけではありません。マンションの区分所有権等のように
分割が不可能な共有持分の他、接道の関係で分割困難な物件もあります。その他、
分割可能であっても相応の手間と費用を要する以上、時価評価は安めになります。
��第三者が居住していれば、立退料・引越費用の負担が予想され、その限りで
時価評価は減額されるべきでしょう。
�Ｇ醒呂蓮⊂�渡・転用の制限があり（農地法３･４条）、実際に換価するまでの
時間・経費や買い主の資格制限があること（いわよる「買い手市場」になること
を考慮すると簡易鑑定の結果よりも低い評価をすることも許されます）。
⑶ 以上を前提に、不動産を所有する債務者の再生手続においては、再生計画案を
策定し、あるいは、再生申立前に、以上のような評価額で第三者（親族・知人）
に売却・換価し、売却代金を清算価値に計上した上で再生申立をする余地がない
かを考えてみることになります。
４ 商工ローン業者
⑴ 商工ローン業者が再生債権者（貸金債権・保証債務履行請求権）にいる場合で
も特別な注意事項はあまりありません。
強いて言えば、小規模個人再生手続を利用した場合に積極的不同意があるかも
しれないことをチョット頭に入れておく必要がある程度です（ただ、無理に給与
所得者等再生を選択すべきほどではありません）。
また、住宅に根抵当権設定仮登記手続を突然に行い、そのために、住宅資金特
別条項を利用できなくなる場合があることもあります。
⑵ その他、商工ローン業者は、公正証書（執行力ある債務名義）を作成している
場合が多く、債権者一覧表に業者の請求額をそのまま記載すると、その後に（留
保をした）異議を述べても、評価申立をしない限り、債権者一覧表に記載した債
権額がそのまま無異議債権として扱われることになります（民再法227 条１項但
書）。
そこで、商工ローン業者は例外なく公正証書を保有しているとの前提で、当初
-282-
から債権者一覧表には制限利率に引き直した場合の推定債権額を記載すべきこと
になります（あるいは、債務者側から全件評価申立をする必要があります。民再
法221 条５項･87 条１項３号）。
何とか再生計画を認可されたのですが、依頼者が会社をリストラされて、これ
以上どうにも支払えなくなりました。現在、転職先を探していますが、もう破産
しかないのでしょうか。
１ 再生計画の履行が困難になった場合
⑴ 計画遂行中に減給・失業等で減収になり、計画通りの履行が困難になることが
しばしばあります。
申立代理人は、再生計画の認可で任務が終了したと思わず、（特に弁済代行をし
ない場合には）依頼者にＳＯＳは早めに申し出るよう十分に説示をして下さい。
⑵ 再生計画の履行が困難になった場合、�〆得厳弉茲鯤儿垢靴栃�割弁済期澗を延
長してもらい（民再法234 条）、�△修慮紊諒杠僂鯊任狙擇辰凸叛佞鯑世襦屮蓮璽�
シップ免責」（同法235 条）、��自己破産に方針を切り替えることが考えられます。
また、こうした法的手続によって解決を図る他、�ず銚⊆圓箸隆屬旅膂佞砲茲�
て再生計画を事実上変更する方法もあります。
２ 再生計画の変更
再生計画の変更には「やむを得ない事由」が一応要求されていますが、計画通
りの履行が困難になったことに相当な理由があれば、「やむを得ない事由」は認め
られるでしょう。
変更計画案の決議・認可の要件は当初の計画案の場合と同様です（民再法234
条２項）。
３ 「ハードシップ免責」
⑴ 再生計画の変更では対処できないような場合、すなわち、�〃弉茲陵�行が極め
て困難になった場合で、�△修慮彊�について債務者に帰責事由がなく、�７弉茲�
４分の３の履行が済んでいて、かつ、�ず得厳弉菁Р鳥�点での清算価値（民再法2
30 条･174 条２項４号･241 条２項２号）を超える弁済もしていれば、免責の申立を
することができます（民再法235 条）。
� 銑い陵弖錣�満たされた場合、ハードシップ免責の決定は当然に（必要的
-277-
に）発令されるのか、裁判所に裁量的判断の余地があるかについては講学上の議
論があるようですが、実際にはこれだけの要件が満たされれば、普通は免責決定
は発令されると考えていいでしょう。
⑵ この申立があると、裁判所は、債権者の意見を聴取した上で免責の可否につい
ての判断をすることになります。免責決定は確定によって効力を生じ、債務者は、
再生債権について支払責任を免れることになります。
ただ、悪意の不法行為に基づく債権、手続前の罰金等やそもそも再生債権では
ない租税債権・給料債権の一般先取特権部分は免責を受けられず、担保権や保証
人にも影響を及ぼしません。
一方、破産免責から除外されている雇人の預り金・身元保証金にかかる請求権
や故意に債権者一覧表に記載しなかった請求権等についてもハードシップ免責の
効果は及びます。
４ 自己破産への方針変更
⑴ 再生計画の履行が困難になった場合に最も多い対処方法は、恐らくは自己破産
手続に方針を変更することでしょう。
依頼者は、再生計画が認可され、毎月の負担が相当に軽減されたにもかかわら
ず、履行ができなかったことについて一種の「負い目」をもっていますから弁護
士が方針変更を勧奨すると比較的素直にこれに応じることが多いようです（むし
ろ、弁護士の方がせっかくの依頼者の努力が無になったことでガッカリします）。
⑵ 自己破産に移行した場合、（旧時の一部弁済・任意配当と同様、免責不許可事由
があっても裁量免責相当な事情があるわけですから）当然に同時廃止が認められ
てもよさそうですが、東京地裁の現在の運用では、原則として管財事件とされて
います。
ただ、個人再生委員がそのまま管財人に「横滑り」的に選任されることが多く、
改めて20 万円全額の引継ぎ予納金を財団に組み入れることは要求されない扱いが
取られています（もっとも、再生手続の終了から間がないか、大分経過している
かによっても、違いはあると思われます）。
５ 債権者との間の計画変更の合意
⑴ 再生計画の履行を怠ると、債権者の申立によって再生計画は取り消されること
があります（民再法189 条１項２号）。
この申立があると、東京地裁では数か月程度の履行懈怠があれば計画を取り消
す運用のようです。
⑵ ただ、一旦、再生計画が認可されると、債権者の側でもその履行に期待をもち、
-278-
多少の履行遅滞が生じても、直ぐに計画の取消を申し立てることがないのが普通
です（また、よほどのことがない限り、裁判所が、民再法250 条１項に基づいて、
職権で牽連破産の開始決定をすることも普通は考えられません）。
そこで、再生債権者が少ない場合には、各債権者に再生計画を緩和するについ
ての同意（条件付の計画の取消申立権の放棄）を求めることが考えられます。
例えば、転職後の３か月後から計画弁済を再開し、最終弁済期の３か月後に計
画を完了させる旨を申し出、全債権者（あるいは、住宅ローン債権を除く未履行
の再生債権総額の10 分の９を超える債権を有する再生債権者。民再法189 条３
項）が同意をしたことを確認した上で、実際に履行を再開することは一応の検討
に値します。
⑶ なお、余り実例はないでしょうが、再生計画の比較的初期段階で計画が取り消
されたときは、再度の再生申立を行うことももちろん可能です。
６ 住宅資金特別条項を定めた再生計画の取消
住宅資金特別条項によって権利変更を受けた住宅ローン債権者は、再生計画の
取消を申し立てることはできません（民再法206 条１項）。
ただ、一般再生債権者の申立によって再生計画が取り消された場合、住宅ロー
ン債権も、権利変更を受けなかったことになって、原状に復することになります
（民再法189 条）。
-279-
第５２講個人再生に関する諸問題
�� 住宅資金特別条項を利用した個人再生を申し立てようとしたら、寸前に自宅
に商工ローンの担保権を設定されてしまいました。
�� 依頼者が所有権留保付の自動車に愛着があり、再生手続を逡巡しています。
�� 父親から相続したマンションがあり、共有の母親・兄弟に迷惑をかけたくな
くて、なかなか個人再生に踏み切れません。
�� 債権者の中に商工ローン業者がいます。何か注意すべきことはありますか。
１ 住宅資金特別条項と後順位担保権
⑴ 住宅に非住宅ローン債権の担保権が設定されていると、住宅資金特別条項は使
えません（民再法198 条１項）。なお、住宅の敷地部分の非住宅ローンについては、
後順位である場合に限って住宅資金特別条項が利用できません。
⑵ 東京地裁では、認可決定までにその担保権を消滅させることが相当の確度を持
って見込まれるなどの事情があり、個人再生委員が開始相当の意見書を提出する
場合には、手続開始決定をして手続を進める扱いです（その見込みがないことが
判明したときは手続は廃止されます。民再法191 条１号･243 条１号）。
住宅ローン以外の貸付についての担保権者が自宅の競売手続で配当を受ける可
能性がある場合であれば格別、明らかなオーバーローン物件であれば、住宅ロー
ン以外の貸付のための担保権者の側にも（自己破産ではなく）個人再生手続が開
始されることには明らかなメリットがあります。
そこで、このような担保権者に対しては、利益状況を説明した上、担保権の消
除を交渉する余地があります。
⑶ 口で言っても分からない業者（商工ローン業者等）には、一か八か担保権の設
定登記の抹消登記手続を求める訴訟を提起することが考えられます。
商工ローン業者の担保権設定登記は設定者の意思に基づかないことがままあり、
一方、業者側も買っても負けても利益のない訴訟に応訴する煩から確定判決によ
って登記を抹消することが期待できます。また、理解のある裁判官が担当すれば、
有利な和解の成立の余地がないわけではありません。
⑷ 以上のような交渉・訴訟が無理な場合には、家族・親戚等から弁済資金を借り
受けて、こうした担保権者に借入金の一部を支払い、あるいは自宅を購入しても
-280-
らう中で「ハンコ代」を支払って抹消を交渉することになります。
その他、家族・親族等が住宅ローンについて連帯債務を負担して、住宅ローン
は、連帯債務者から支払ってもらうこともあり得ます。
⑸ 保証会社付の借入の場合、住宅資金特別条項の利用は、保証会社が保証債務を
履行した時から６か月以内に行う必要があり（民再法198 条２項）、そこで、後順
位担保権の抹消は、この期間内に行う必要があります。
以上のように、非住宅ローンのための担保権に対処する方法はいくつかありま
すが、何れも決定的ではありません。また、もともとオーバーローン物件につい
ての問題であり、時間が差し迫った中で焦って、依頼者に余りに不利・無理な交
渉をしたり、家族・親戚に無理な援助を求めることは考え物です。
交渉・訴訟も無理のない援助の受入もできない場合には、タイミングを見計ら
って、依頼者に対し、自己破産に方針変更することを勧めざるを得ません。
２ 自動車の確保について
⑴ 一般に、自動車ローン債権は再生債権であり、所有権留保は別除権と解するの
が通常と思われます。そうすると、再生手続開始申立をすると、約款上期限の利
益は失われ、自動車ローン債権者から、一括弁済と担保自動車の引上要求がある
のが普通です。
もし、自動車の利用を継続することがどうしても必要な場合には、親戚・友人
の中に一定の資力のある人を見つけてもらい、自動車ローン債権者との話し合い
により、その親戚・友人が自動車を時価で買い取り、債務者は買受人から自動車
を賃借または使用貸借して、引き続き自動車を使用させることを考えます。
また、交渉が不調でも、事業継続に不可欠ということならば、民再法148 条の
担保権消滅許可制度の利用が可能なように思われます。
そういった資力のある人がいない場合、債務者は自動車ローン債権者と、例え
ば「ローンの支払はできないが、賃借に切り換えれば賃借料程度は払える」と交
渉し、交渉が決着するまで自動車の引上に事実応じない姿勢で交渉を続けていく
ことが考えられます（交渉が難航するうちに再生手続が終了し、終了後は、当事
者間の自由交渉で落着するということも考えられないではありません）。
⑵ しかし、自動車を使用することが再生債務者の業務や生活に必要不可欠な場合
は、自動車ローン債権は共益債権に該当することも考えられます。そのように解
することができれば、再生手続中に、再生計画によることなく引き続き自動車ロ
ーンを支払い続けることが可能であり、権利変更も受けないことになります。
東京地裁でもそのような処理がされた実例があるようですが、再生委員がどの
ような意見を再生裁判所に申述するかがポイントとなり、再生委員の考え方や申
-281-
立代理人がどこまで疎明・説得をできるかで扱いが変わってくるようです。
３ 清算価値保障条項
⑴ 再生債務者が所有する住宅は、清算価値（民再法230 条･174 条２項４号･241 条
２項２号）に計上すれば、そのまま個人再生の申立をすることができます。
清算価値は、破産が開始された場合、再生債権者が配当を受けられるであろう
資産の時価総額です。
⑵ 従って、不動産について、�〇�分権は単純に単独所有の場合の時価額に持分割
合を乗じて算出されるわけではありません。マンションの区分所有権等のように
分割が不可能な共有持分の他、接道の関係で分割困難な物件もあります。その他、
分割可能であっても相応の手間と費用を要する以上、時価評価は安めになります。
��第三者が居住していれば、立退料・引越費用の負担が予想され、その限りで
時価評価は減額されるべきでしょう。
�Ｇ醒呂蓮⊂�渡・転用の制限があり（農地法３･４条）、実際に換価するまでの
時間・経費や買い主の資格制限があること（いわよる「買い手市場」になること
を考慮すると簡易鑑定の結果よりも低い評価をすることも許されます）。
⑶ 以上を前提に、不動産を所有する債務者の再生手続においては、再生計画案を
策定し、あるいは、再生申立前に、以上のような評価額で第三者（親族・知人）
に売却・換価し、売却代金を清算価値に計上した上で再生申立をする余地がない
かを考えてみることになります。
４ 商工ローン業者
⑴ 商工ローン業者が再生債権者（貸金債権・保証債務履行請求権）にいる場合で
も特別な注意事項はあまりありません。
強いて言えば、小規模個人再生手続を利用した場合に積極的不同意があるかも
しれないことをチョット頭に入れておく必要がある程度です（ただ、無理に給与
所得者等再生を選択すべきほどではありません）。
また、住宅に根抵当権設定仮登記手続を突然に行い、そのために、住宅資金特
別条項を利用できなくなる場合があることもあります。
⑵ その他、商工ローン業者は、公正証書（執行力ある債務名義）を作成している
場合が多く、債権者一覧表に業者の請求額をそのまま記載すると、その後に（留
保をした）異議を述べても、評価申立をしない限り、債権者一覧表に記載した債
権額がそのまま無異議債権として扱われることになります（民再法227 条１項但
書）。
そこで、商工ローン業者は例外なく公正証書を保有しているとの前提で、当初
-282-
から債権者一覧表には制限利率に引き直した場合の推定債権額を記載すべきこと
になります（あるいは、債務者側から全件評価申立をする必要があります。民再
法221 条５項･87 条１項３号）。
