April 08, 2005

ローラ・ニーロ Laura Nyro - A Woman Of The World

ece2a4b5.JPG前回のマリオット先生と違って、今回はちょっとだけ真面目です。

むかーしむかし、ニューヨークのブロンクスに、ローラという名前の、ちょっぴり暗い眼をした女の子が住んでいました。

彼女は特別美人でもなく、どちらかというと『ガラスの動物園』のローラのように地味で目立たない存在でしたが、彼女にはすばらしい音楽の才能がありました。

♪ あ〜アタシが死んでも
♪ きっと子供とか生まれてて
♪ どっこい世界は動いてくのよね〜

そんな身もフタもないアイロニーのようでありながら、どこかヒューマラスな微笑みを湛えた歌をうたって、18歳の女の子はじわじわと人気者になりました。

初期の代表作にして彼女の最高傑作(と僕は思う)『イーライと13番目のザンゲ』Eli and the Thirteenth Confessionでは、緻密な作曲とユニークな歌詞、そしてシャーマニックな歌いっぷりでファンを魅了、60年代から70年代を代表する女性シンガーのひとりへと成長しました。

しかし、なんというか根が『ガラスの動物園』なもんで・・・どーしてもメジャーになりきれない彼女。先の"And When I Die"にしても、音楽ファンにはむしろブラッド・スウェット・アンド・ティアーズの曲として知られています(本当はカバー)。ローラは、どうしてもキャロル・キングにはなりきれませんでした。

それでもキング同様、多くの同業者からいわゆる「ミュージシャンのミュージシャン」として愛された彼女の曲は、他の人々のカバーを通じて、現在も広く世に知られています。

大学生の頃『イーライ』を聴かせたら「あ、これフィフス・ディメンションのカヴァーやろ〜」と言った友人がいましたが・・・違う! 逆! Stoned-Soul PicnicだとかSweet Blindnessだとか、ぜんぶ彼女の曲なんですよ。ええ、そうですとも。

いわゆる「ダンサンブルなソウル・ミュージック」とはあまり縁がなさそうな『ガラスの動物園』なローラ(しつこいね俺も)。特に中期以降、おそらくは個人的経験などが理由で、だんだんとピアノだけを相手にひとりぼっちで歌うパタンが増えているし(たぶん、ちょっと人嫌いになった時期があるみたいですね)・・・このあたりの曲で「はまった」人には、あの5th Dimensionの原曲がローラというのはもうひとつピンとこないかも。でも、本来ローラの音楽的ルーツはドクター・ジョンばりに多面鏡的なのでありまして、例えばGonna Take A Miracleなんていうまさにソウルそのもののカバーアルバムもあるんですよ。

いやいやもっと大事なことは、フィフスが歌えばひたすらにポップな上記2曲("Stoned-Soul Picnic"と"Sweet Blindness")も、『イーライと13番目のザンゲ』全13曲のブンミャクの中で聴いてみると、大いに違って聞こえるはずだということ。まあ昔で言うコンセプト・アルバムみたいな感じですが、やはりこの音盤は全曲を「通し」で聴いてもらいたいわけで。あたかも小説を読むように・・・。

ちかごろ僕もiPod一色なんですが、ローラの音楽をこれから聴いてみようという人は、是非ともまずこのアルバムを「読んで」みてほしいですね。

「音楽家」としての彼女を僕なりにまとめてみると、自分がかかえこんだソウルやブルース、はたまたジャズなんていう幅広い音楽的ルーツ(彼女の家はミュージシャン一家だったみたいです)を、あれこれ試行錯誤しながら「コンポーズし直す」ことに専念した音楽家のひとりであった、と言えるんじゃないでしょうか。ちなみに『ニューヨーク・テンダベリー』New York Tendaberry 収録の際、弱冠21歳の彼女はあのマイルス・デイヴィスをまねいて編曲にかんするアドバイスを求めたそうですが、ひょっとすると彼女は、この「リコンポーズ」という自分と同じ目標を、だれよりもこのジャズの改革者のなかに見出していたのかもしれません。

ちなみに嘘だかほんとだか、『ニューヨーク』のデモテープを聴いたマイルス先生は、目の前の女の子に向かって最後にこうつぶやいたらしい。「オレがやるべきことは、みんな君がやってしまったよ・・・」。うーむ。す、すごいぜローラ!

マイルスから嫌われたというか、駄目出しを食らったミュージシャンが山ほどいるのはご存じの通りですが、帝王がこういう「褒め方」をしたのは僕の知る限りあとはジミ・ヘンドリックスだけですな。たしかSwitchかなんかの雑誌に載った、亡くなる直前のインタビュー(死後掲載)で、ジミは本当に天才だったけど、モンクは糞だった、あいつは弾くべきところで弾かず、弾いてほしくないところ弾くんだよな・・・とかなんとか。まあこれはこれで、二つの才能の相克なんでしょうが。

個人的な出会いについて触れさせて頂くと、僕がローラを知ったのは比較的遅く、大学生になってからでした。友人数名と、蒲田のエロ本とかが置いてある駅前のあやしい古本屋(まだあるかなー)を物色していた際、ぐうぜん段ボール箱の「都はるみ」とか、そういう歌謡曲がてんこ盛りになっているなかに埋もれていたのが彼女の『イーライと十三番目の懺悔』だったのです。

ん?なんだこれ、と思ってなんとなく買ったのですが・・・聞き始めると、たちまち夢中になってしまった。ちなみにそのとき一緒に買ったのは忘れもしない、エロ本ならぬウィリアム・スタイロン『ソフィーの選択』のペーパーバックでした。なんだか青春ですが、いまやあの小説の映画版で主人公を演じていた青年も、『アリーMYラヴ』の中年弁護士ですからね。光陰矢のごとしとは、このことか。はぁ。

最後に年譜を少々。ローラ・ニーロは1947年、ニューヨークはブロンクスの、とあるイタリア系ユダヤ人家庭に生を受けました。日本で言う「団塊の世代」。マンハッタンの音楽学校を出てからすぐにヴァーヴと契約、1966年にシングル・デビューした彼女は、その翌年アルバム More Than A New Discovery を発表し、ジョニ・ミッチェルらとともにメディアの注目を集めます(このアルバムは現在First Songsと題され再販されています)。68年にCBSに移籍してからは、Eli and the Thirteenth Confession(1968)と New York Tendaberry(1969)をたてつづけに発表、これら2枚のアルバムは彼女の代表作となったばかりでなく、60年代後半を代表するロック&ポップの名作となりました。

ちょっぴり個人的意見を付け加えると、とりわけ68年の『イーライと13番目のザンゲ』は、ローラの幅広い音楽性が存分にあらわれた傑作で、けっきょく彼女は、音楽的にというか少なくともコンポーザーとしては、以後このアルバムを大きく越えることはなかったのだと僕は思います。しかし、どのアルバムも彼女の個性がぎっしりつまっていて、じっくり聞き込めないものはひとつもありません。

その後も6枚のすぐれたアルバムを発表した彼女は、1997年年4月8日、数年間にわたる闘病生活の末、この世を去りました。

そう、今日が彼女の命日です。

最近もアルバムは出ていて、最晩年のライブを収録した二枚組 The Loom's Desire や、初期のフィルモアのライブを収録したSpread Your Wings And Flyなど、どれも素晴らしいものばかり。いや素晴らしいんだよ、本当に。

誰よりも同じミュージシャン仲間に愛された彼女の音楽。いつまでも歌い継がれることを祈りつつ、今日はこの辺でペンを置く、いやもといパワーブックの蓋を閉じることにしますか。

より詳しい情報は以下の素晴らしいサイトをどうぞ。

Time And Love
日本語で作られたたぶん唯一の総合的サイト。必見。

LauraNyro.net
かなり以前からあるファンサイト。貴重な資料がいっぱいで、特にドクター・ジョンのカヴァー「ママ・ルー」は必聴(と言いつつ無断リンク、リアルオーディオ・ファイルです)。

Nyromania
[4/9/2005追記]この記事にコメントを下さったchantaoさんのページ。とにかくすごい、超必見!



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ボビー・ダーリンをご存知だろうか? 恥ずかしながら、私はきちんと聴いたことがなか
BEYOND the SEA<br>ボビー・ダーリンとローラ・ニーロ【nyromania】at April 09, 2005 21:38
この記事へのコメント
はじめまして。
当方、ローラ・ニーロ関連のブログなんぞをほそぼそとやっているものです。
命日だっていうのに盛り上がらないなーと思ってたところ、こちらのブログを拝見してとても感激いたしました。
興奮のあまりずうずうしくもトラックバックしてしまいました。
ご迷惑でしたら削除して下さいませ。
たいへん失礼いたしました。
Posted by ちゃんた at April 09, 2005 21:49
はじめまして。
拝見しながらふむふむふむ・・とうなずきながら読んでおりました。
アルバム「イーライ・・」は傑作ですねぇ。
私が彼女のアルバムで一番よく聴いたのはこれかもしれません・・。ファーストもいいですね。3rdの「ニューヨーク・・」はかなり緊張します(笑

ちゃんたさんもこちらにおいでですね。
ちゃんたさんはすごいです。彼女のカバーなどに関してはちゃんたさんのところがとっても参考になりますよ。
ではでは・・また。
Posted by Ryo at April 10, 2005 19:08
おふたりともコメントありがとうございます。忙しくてなかなか更新できませんが、細々と書いていくつもりですので今後もどうかよろしく!
Posted by how_say (tomonao) at April 15, 2005 03:50
ローラ・ニーロか。う〜ん…
俺が始めて彼女のLPを買ったのは、
大学に入ってからだな。当時まだ東急ハンズの
向かいにあったタワレコで、1stを。(これも
今実家だ)
やっぱり、「私が死んだら」を聞いて、
何とも難儀な人だなぁと思ったのを思い出す。
あれを聞くと、血と汗と涙のヴァージョンが
牧歌的に聞こえるね。
後は去年、ディスクユニオンのハンコが
貯まったので(この制度も今は廃止されてしまった)、「ゴナ・テイク・ア・ミラクル」にかえて貰ったのがボキのニーロ全体験。それはごめん、
あんまし聞いてない。でもパティ・ラベルを
引っ張り出した眼力(耳力?)はスゴイと思うよ。
これから色々聴いてみよう。
Posted by 健太郎 at May 01, 2005 08:56