2005年06月26日

同人音楽感想「蒼天」

SideProtea Energy
蒼天
Little Wing

比較的マイナーどころを中心に選曲された複数PCゲームのアレンジアルバム。
1枚組11トラック、フルカラー小冊子とNScripterによる隠しライナーあり、ボーカル曲2曲。

01 蒼天 (Vo)
02 Segmental Days
03 Hot Coffee
04 ないしょ話
05 あの日、見た空
06 Interlude -Home Town-
07 Innocence
08 さよならは、いえない
09 Interlude -勿忘草-
10 nikoensis
11 蒼天 -Reprise- (Vo)


ボーカル:片霧烈火


 評価:★★★★★

 感想

 同人音楽の大御所・Little Wingの製作した、複数のPC18禁ギャルゲーをオリジナルとしたBGMアレンジアルバム。ギャルゲー曲のアレンジCDといえば大抵は「Key」「Leaf」「TYPE-MOON」のいずれかのメーカーの作品が対象と相場が決まっている中で、あえて流行りどころを外し「カナリア」「フォークソング」「果てしなく青い、この空の下で…。」という少し知名度の落ちる三つのタイトルから選曲されている。

 まず最初に断っておくが、筆者は上記のどのゲームもプレイしたことがない。従って原曲も知らないし思い入れも何もない。

 だが、筆者はこのCDが大好きだ。完成度はもちろんのこと、作品から発せられる独特の空気が堪らないのだ。強いて言うなら「卒業式の帰り道、これまでの学校生活を回想する感じ」とでも言おうか。アルバム全体がそういったコンセプトの元に纏められているので、雰囲気作りは抜群である。原曲を知っているか否かに関係なく、こういった少し切ない空気が好きな人には堪らない作品だろう。

 アレンジとしては、どのトラックもごく大人しめに留められている。この中では一番元気なトラック3やトラック7にしたところで、せいぜい「小洒落た喫茶店にかかっていそうなBGM」といった程度のテンポである。アッパーアレンジや原曲破壊といったノリの良い曲はなく、かといって聞いているだけで暗く沈んでしまうような重く圧し掛かるような曲もない。全ての収録曲がほどほどに落ち着いた雰囲気に仕上がっているので、文字通り、バックグラウンドで流す音楽(BGM)としては最適である。

 そのBGMに徹底した姿勢は二曲あるボーカルトラックにも良く表れている。最初のトラック「蒼天」とそのリアレンジとなる最後のトラック「蒼天 -Reprise-」には片霧烈火氏のボーカルが入っているのだが、そのどちらも歌詞が存在しないのだ。最初から最後まで、ただ「ラララ」という歌声が続くのみである。だが、歌詞がないという事実が、切なくも明るい綺麗なメロディを一層強調し、より強い効果を上げているように筆者には感じられる。おそらくそれも計算の内なのだろう。決して単に歌詞を考えるのが面倒だったからとかそういった理由ではないはずだ(たぶん)(いや、本当に)。

 とまぁ、ここまでベタ褒めが続いてしまったが、正直な話、筆者にはこのアルバムに対してケチをつけようという気がしないのだ。完璧……とまではいかなくとも欠点が見えない。強いて言うなら、多分に「雰囲気」を重視しどの曲も同じ方向を向いているせいでアレンジのバリエーションには著しく欠けるので、その雰囲気を好むかどうかで、人によって大きく評価が変動する……と思われることくらいだろうか(だからこのアルバムを退屈に感じる人も少なくないはずだ)。完成度は高いが指向性が強いので、聞き手によって評価が割れるような気がする。だが、落ち着いた感じの曲を好む人や、切ない空気に良く染まりやすいような人なら聞いて損はないだろう。

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