オーケストラの管楽器は1パート1人で演奏するのが基本ですが、場合によって1パート2人かそれ以上で演奏することがあります。追加の奏者は正規の奏者に対して助っ人の意味でアシスタントと言い、1番のアシスタントなら「1アシ」と省略して呼びます。また「1裏」と呼ぶこともあります。オケの弦楽器は2人で1つの譜面台(ドイツ語でプルト)を共有し、指揮者に近い方から1プルト、2プルトと数えます。また各プルトの客席に近い人を表、遠い人を裏と言い、例えば、2プルトの裏の人を「2裏」と呼びます。管楽器のアシスタントを裏と呼ぶのは、この弦楽器の呼び方に倣ったものでしょう。

アシスタントは結構、古い時代から行われていたと思われます。1700年代にヘンデルが作曲した水上の音楽や王宮の花火の音楽は、屋外で100人程の大編成で演奏されたようですが、オーボエ、ファゴット、ホルン、トランペットの管楽器は2〜3管編成で書かれています(残念ながらクラリネットは未発明)。当時の木管楽器の性能を考えると、倍管で演奏されたと推測されます。編成の記録が残っているものとして、ベートーヴェンの交響曲第8番が初演された1814年の演奏会で、一緒に演奏された交響曲第7番は、木管楽器が倍、弦楽器はヴァイオリン各18、ヴィオラ14、チェロ12、コントラバス7、さらに出版譜に無いコントラファゴットも2本加わるという当時としては巨大な編成で演奏されたようです。ベートーヴェンの時代でも、マーラーやリヒャルト・シュトラウスの4管編成に匹敵する大編成オケで演奏されていたり、そのために作曲者自身がコントラFgの楽譜を提供したり、アシスタントを付けたり、結構、柔軟に対応していたことが分かります。

私がオケを始めた1980年頃はカラヤン/ベルリンやショルティ/シカゴが一世風靡していた時代で、ベートーヴェンを演奏するのに、倍管、弦大編成が当たり前で、豪華絢爛な響きが求められていた時代でした。アマオケでも倍管が普通でした。それから90年代に入って、ピリオド楽器を使った原典主義やベーレンライター等の新版楽譜の影響があって、シャープな響きが求められるようになり、倍管は眉を顰められるようになりました。ちょうど、バブルがはじけてデフレが浸透した時代背景とぴったり一致するような気がします。その後、2000年代半ばから、ゆるやかにオケ編成が拡大されつつあり、曲目によってアシスタントが容認されるようになりました。

アシスタントはパートにより状況が若干異なります。フルートは元々音量が出ないこと、ピッコロが「運命」以降、オケの最高音域を担う準レギュラー扱いとなって3管編成が一般化されたこともあり、アシスタントは容認されます。オーボエは、独特の音色が尊重されるが、音量については期待されておらず、独特の音色のコールアングレ以外のアシスタントはどうでもいい扱いです。ファゴットは元々音量が出なくて、初期ロマン派のベルリオーズ「幻想交響曲」では元から4管編成(フランス式のバソンであるが)である歴史もあり、アシスタントが容認されます。ホルンは「英雄」で3管編成、第九で4管編成に拡大した歴史もあって、多管化の効果が著しく、他の管楽器が2管編成でもホルンだけは常に倍管の4管編成が標準です。トランペット、トロンボーンは出番が少ない割に音量は十分で、アシスタントを必要としません。

さて、あえて外したクラリネットはどうかというと、木管の中では音量の幅が広いが連続演奏で疲れやすいので、倍管で重ねて吹くというよりは、正規奏者がソロや弱音を主に吹いて、アシスタントがフォルテシモ以上を吹くというような役割分担が有効です。私の場合、正規の時は弱音でよく響く柔らかめのリードを用い、アシスタントではフォルテシモでよく響く硬めのリードを使います。ソロを吹くのはもちろんやりがいがありますが、アシスタントを吹くのも結構楽しめます。注意点としては、吹きすぎて音が汚くならないようにすること、他の木管楽器とのバランスを崩さないようにすることです。クラリネットにアシスタントをつけるときには、他の木管楽器にもアシスタントをつけるべきです。