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【経済コラム】今週の日銀会合、経済学とは関係薄−W・ペセック
2月20日(ブルームバーグ):利上げはあるのかないのか−。今週の日銀の金融政策決定会合で高まっているこの議論は的外れだ。本当の問題は、日本がわなに陥っているかどうかにある。

日銀が21日に政策金利である翌日物金利の誘導目標を0.25%から0.50%に引き上げる確率は50%を超えている。昨年10−12月期の国内総生産(GDP)が前期比年率4.8%増と、前期(0.3%増)を上回る成長になったことで、福井俊彦日銀総裁は利上げの大義名分を与えられた。

もしわたしが福井総裁なら、利上げを粛々と行い、20、21日の会合を終える。そうすれば日銀に対する圧力はなくなるし、円キャリートレード(ほぼゼロ金利の円で資金を調達し、より高金利の資産に投資する売買手法)の勢いも若干衰えることだろう。

それでも実際に利上げが実施されれば、日銀の長期的な選択肢はさらに狭められる可能性が高い。その理由は、日本がわなに陥っているからだ。

ここ数年間日本にとってのわなは、流動性のわなを意味していた。プリンストン大学のポール・クルーグマン教授をはじめとするエコノミストは、ゼロ金利にもかかわらず日本の信用システムが機能していないと説明。日銀が通貨の供給量を増やしても、銀行の貸し出しや企業の借り入れにつながっていないと指摘した。

日銀はこうした日々が終わったとの見方から、5年間続けた「量的緩和政策」を昨年3月に解除。その4カ月後には2000年8月以来初めての利上げに踏み切った。

インフレとは?

しかしその後は音無しだ。今年1月の政策決定会合で日銀は、政治的圧力に屈し、利上げを見送った。そして今、金融政策の正常化に向けた取り組みで、日銀はもう1つの障害に直面している。インフレ圧力が明らかに不在なことだ。

一見すると、10−12月期のGDP統計は、福井総裁の利上げの意向を支持しているようだ。項目別では個人消費が前期比1.1%増と、前期(同1.1%減)からプラスに転換。民間設備投資も同2.2%増と、前期(同0.8%増)を上回る伸びだった。下方改定がなければ、現在の日本の景気拡大期は、第2次世界大戦後最長となる。

それでも物価上昇ペースは減速している。原油相場の下落を受け、12月の消費者物価指数(全国、生鮮食品除く)は前年同月比0.1%の上昇にとどまった。燃料価格の低下により、今後は横ばいまたは低下となる可能性もある。

日銀は苦境に

日銀は苦境に置かれている。借り入れ金利の正常化の重要性を指摘する福井総裁の考えには一理ある。ゼロ金利政策をとった先進国などこれまでどこにもなかった。G7諸国となれば言うまでもない。それでも政府はこうした議論に耳を貸さない。政治家は日本には引き続き超低金利が必要だと主張している。

このため日銀は、利上げの別の根拠を指摘する。悪性インフレのリスクだ。日本はデフレ終えんに伴い、水中で抑えていたビーチボールが手を放したとたんに突然空中に飛び上がるような制御不能のインフレに見舞われる可能性があるという考え方である。ただ実際は信用システムが改善しているにもかかわらず、現実のものにはなっていない。日本にとってのわなは、流動性のわなから経済のわなに変わったのだろうか。

福井総裁は今月1日、拡大する企業利益について衆院予算委員会で「家計部門への波及の動きも、さまざまなルートを通じて、よりしっかりとした動きになるとみている」と語った。しかし前日の1月31日に発表された12月の1人当たりの現金給与総額は前年同月比0.6%減だった。

その理由は、グローバル化だろう。中国やインド、旧ソ連諸国から大量の低賃金労働者が雇用市場に流れ込んだことが、企業の決定に影響を与えている。これまでは、日本企業の利益が上がると賃金や賞与も上昇するという因果関係がはっきりしていたが、そうした単純な図式はもはや見られなくなった。

公的年金制度の長期的な存続性に対する懸念も、貯蓄が消費に回るペースが伸び悩んでいる理由の1つだ。終身雇用制度の段階的な崩壊もそうだろう。過去15年間の停滞が消費者心理に悪影響を与えているのかもしれない。

グローバル化により選択肢を制限された日本は、超低金利や政府債務との不健全で、そして持続不可能な関係に陥っている。

            期待のわな

賃上げやインフレ加速の不在は、福井総裁の政策のかじ取りが非常に慎重になることを意味する。財政支出の削減も、政治的な魅力に欠けるものだ。日本のGDPに占める債務の割合は、先進国で断トツの首位。こうした公的債務が日本の成長を支えている。

日本は過度の借り入れに依存しない方法を学ぶ必要がある。緩慢な財政・金融政策は、日本を経済のわなに陥らせる。それを脱却するには、高い生活水準や企業の賃上げを持続するため、労働生産性の向上が必要だ。日本は非生産的な雇用の保護ではなく、起業家の育成を通じて新たな雇用を創出することが必要とされている。円安に依存した経済成長とも決別しなければならない。

これらすべてが、経済学の基礎講座のように日本の景気回復が進んでいない理由を説明している。日銀の大胆な政策を予想している向きは、大胆な期待のわなに陥らないようにすべきだ。(ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Economics 101 Is of Little Help to BOJ This Week: William Pesek

(抜粋) {NXTW NSN JDQBHN076GHT}

更新日時 : 2007/02/20 11:45 JST