テーマ「構造化知識と製造業の社会的な位置づけ」
筆者:製造研究所

日本において、製造業の社会的な位置づけをさらに高めることが大切だと考えています。そのカギを握るのが、構造化知識です。

産業革命の量産効果


イギリスは産業革命で大量生産して量産効果を出すことによって国民経済が大きくなっていきました。

当時は量産効果という考え方が何もなかったところだから、つくれば売れました。

技術製品を使うシステムをつくることは一切やらずに、ともかく売ってその儲けで国を興していこうというのがあったような感じがします。

戦後ドイツと日本の違い


一方、第二次世界大戦後の20世紀後半以降のドイツでは、技術とか製造業は社会の中の一つの機能(ファンクション)であるという考え方が強くなりました。

社会生活を豊かにするというのが根底にあります。教育もそういうふうにある程度きちんとやられています。

ところが、日本の場合、使い方の技術に熱心ではありませんでした。

それは工学教育の問題があるといえるでしょう。

日本型工学教育


日本型工学教育では「部品」としてのエンジニアをつくります。

彼らが学ぶ技術は、社会がどう使うとか、そんなことはあまり考えない教育を施される傾向がありました。

たとえば設計学だったら設計学、機構学だったら機構学。

その結果、エンジニアそのものが製造業の内部の組織人間になりがちでした。

合理主義、効率主義


彼らの考え方は完全な合理主義、効率主義だから必然的にモノを量産してたくさんつくるにはどうしたらいいかという発想になってしまいがちです。

社会でそれがどういうふうに使われるかということを考える余裕が、十分に与えられてこなかったともいえます。


技術者、開発者が報われているか


日本ではモノづくりが大事だというのに、モノづくりをやって、技術者なり開発者がきちんと報われているのかというと、まだ十分ではありません。

モノづくりが割に合わないという状況になりがちです。

モノをつくる、生産をするということは、地球環境とかエネルギーの問題、公害の問題その他、環境問題も含めて多くの影響を受ける要素があります。

社会で大きな役割を担っています。


消費者にとってのウエルフェア


一方、消費者からすれば、良いものを安く買えることが、豊かさを与えてくれて、それこそがウエルフェアだと考えがちです。

しかし、それがすべてではありません。

われわれが求めているウエルフェア、技術から受けるウエルフェアというのは、一つ一つの品物の良さや安さだけではありません。

安全技術と構造化知識


たとえば、安全技術がそうです。

ここでいう安全とは、社会的な安全を保証する下水道、交通といったところまで含んでいます。

安全技術を高めるには、構造化知識がカギを握ります

構造化知識への理解を深め、教育に取り入れることが大切だと考えます。


ものづくりの品質管理


2000年末に小渕恵三首相(当時)が設置した私的諮問機関「ものづくり懇談会」は、次のように指摘しました。

「日本が得意としてきた品質管理を含む『ものづくり』能力に深刻な問題があり、国民の安心・安全の確保のみならず、国際競争力の観点からも放置できない」

QCD(質、価格、配達時間)


製造業では、QCD(質、価格、配達時間)が基本とされています。1980年代までの日本製造業はQCDを地道に磨き上げて世界のトップに上り詰めました。

しかし、中国の人件費の安さ、米国発の新しい管理手法やビジネスモデルに追い上げられる一方で、国内では熟練工の高齢化や賃金の高止まりが起こり、その優位性は薄れています。

製造現場の自信


日本の製造業を見つめ直したとき、強みとなるのは「信頼」です。

品質管理、生産管理の徹底で、消費者の信頼と製造現場の自信を取り戻すことが製造業再生の第一歩となるのではないでしょうか。