2007年11月18日

暫定版よくばりスクランブル

プロローグの前編です。
というか暫定版です。
用語的にわけわかんない部分とかあると思います。
主人公が誰かわかんないとかあると思います。
このプロローグの前編は後でまた修正かけます。
今回公開部分で語られた話が後になって反故にされる可能性は高いです。
途中に2ch風の掲示板の描写がありますが、IDとか日付とか中途半端なままになってます。


それでもいい、気にしないというヒトは


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≪20**/05/12 太平洋中央部 フロンティア諸島近海上空≫

『機長からキャビンへ。当機は現在進路を南南西に取り順調に飛行中。先ほど低気圧も抜け、あと30分程で予定通りにフロンティア諸島ブラジオ島飛行場へ帰着します』
 もう低気圧の勢力圏を抜けた?
 機長のアナウンスを聞いてUNAS学政執行部会長、西院祭子は手元の書類――ちょうど今目を通し終えた書類――に落としていた視線を上げた。
 上げた視線をそのまま窓から機外へ向けようとして、苦笑。
 国連所有の超音速小型輸送機【CC-210 ガルーダ】、機体全長40m、対して全幅が70m。このサイズにしては珍しい全翼機は、もともとステルス爆撃機として設計されていたらしい。その兵装庫を潰して作ったこのキャビンには窓がない。祭子はそのことを忘れていた。
 まあ別にそのことはいい。祭子は今年で17歳になるが、彼女の育ったフロンティア諸島では島々の間を移動するのに舟艇以外にもヘリを利用することも多い。今更航空機のキャビンに窓がないことに文句をつけるほど、空からの景色に飢えてはいないのだ。
 しかし、と祭子は視線を対面に向けた。
 向かい合わせに並んだ席、祭子の正面にはシートに深く身体を預けて一人の少女が眠っていた。年のころは10をようやく数えたくらいだろう。聞けば飛行機に乗るのはこれが初めての経験だったという彼女、ルクレツィア・セーラン――この子にはやはり退屈をさせてしまったかもしれないと、祭子は今更ながらに思った。
 もうすぐフロンティア諸島に着く。
 国連青少年教育機構と国連難民委員会が共同で設立した国際孤児院こと【国連先進教育学校】、通称【UNAS】。
 戦争や紛争、内戦、或いは不可避の震災など、世界中で、様々な理由で生まれる孤児たちを一手に引き受け、大学教育までを施すことがUNASの設立目的だ。そこに行けばルクレツィアも自分と“ごく近い”身の上の仲間たちに暖かく受け入れられることだろう。
 同じ身の上ではない。それは人それぞれ事情が異なるとかそんな一般論めいたことではなく、彼女の極めて希少な才能、個人的特質から来るものだ。そしてルクレツィアは自分と“ごく近い”身の上の孤児仲間たちに、その特性を隠しながら生活していかなければならない。心の底から心を開くということが許されない立場なのだ。
 祭子はそのことに同情する。
 UNASの一員であるからには、祭子も孤児である。孤児同士の連帯感というのは確かにあって、ルクレツィアもきっとそれに触れるだろう。だからこそその連帯感に対して一部背を向けなくてはならない彼女のことを思うと、やはり不憫だ。
 眉間に皺を寄せて眠るルクレツィアにそっと手を伸ばした。頬に触れると子供らしいふくふくとした感触がして微笑んでしまう。そして眠るルクレツィアも、自らの頬に触れる暖かな手のひらの感触に何かの安堵を得たのか、眉間の皺がとれ、子供らしい安らかな寝顔に変わる。
 この寝顔だけでも守ってやりたいものだ、と祭子は真摯に思った。
 伝え聞く彼女の才能――米国人間研究会でさえ手に余るとして放り出したという彼女の【異才】、それをこそ買ってUNASに招いたのは祭子の打算から来るものだ。だがこの寝顔を見ていると、それだけの、打算だけの気持ちではいられなくなる。
 学園運営に際してその冷徹とも言える合理主義から【氷柱女】と揶揄されることもある祭子だが、彼女もやはり幼い頃からの孤児で、幼い頃は今自分がこの幼いルクレツィアにこうしているように、年上の孤児仲間から優しく触れてもらっていた。
 その記憶が忘れえぬ大切な思い出として胸にあるから、自分もこの幼く哀れな異才の少女に優しくしてあげたくなる。
 祭子は席を立って対面右の席、ルクレツィアの隣の座席に腰を下ろした。少女が肘を預けていたレストをそっと上げると、ルクレツィアの身体がずれて祭子の方へと倒れこんでくる。それを優しく受け止め、膝枕をしてあげた。
 起きる気配のないルクレツィアはむずがるように甘えて、祭子のスカートを小さく握る。
 そんな様子に祭子がまた氷柱女らしからぬ暖かな笑みを浮かべた頃、
『機長からキャビン。当機は間もなく着陸態勢に入ります。座席へ戻りシートベルトをしてください』
 小さく舌打ちをする。
「気の利かん機長だな、全く……」
 スケジュール通りの運行は輸送機の操縦士として真面目に職務に当たっている証拠だろうが、祭子は酷い物言いをした。とはいえせっかく膝枕をしてあげているのに、始めて二分も経っていないのだから、そういう悪態が出てしまうのも仕方ないだろう。誰に対してというわけでもないが、格好がつかないのだ。
 ふぅ、と一つ嘆息して、先ほど守ってやりたいと思ったこの寝顔をどう起こしたものか、と祭子はしばし悩むことになった。


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≪UNAS/Sa3Jh――サルマータ島第三中学校 少女たちの噂話≫

「ねぇねぇ。聞いた?」
「聞いたって、なに?」
「あのね、また出たんだって!」
「出たって、なにが?」
「馬鹿ね、出るって言ったらアレに決まってるでしょ?」
「……ひょっとして、コレ?」
「お化けなんかじゃないって、もう! ここ最近で、出るって言ったらアレしかないでしょ、ア・レ!」
「もしかして、アレ?」
「そうそう、アレ」
「「魔法少女!」」


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≪フロンティア諸島、ブラジオ島のとある建物、とある部屋≫

 薄暗い室内に30人からの男たちがすし詰めになっていた。
 五月も半ばのこの時期に、窓を閉め切っておまけに暗幕まで垂らしていたら蒸し暑いことこの上ない。
 しかしそこにいる男たち……より詳しく言えば少年たちの視線は正面、大型スクリーンに釘付けだった。
 スクリーンには、海中から砂浜――地形的特長からブラジオ島と同じくフロンティア諸島に属するカミュセイル島、そのイーストコーストだと思われる――に上陸しようとする無数の巨大生物の姿が映されている。
 それらの巨大生物の姿は明らかに地球上のあらゆる生物とは異なったフォルムをしていた。似たような特徴を持っている生物なら他にもいるかもしれないが、あくまで似ているだけで全く別物である。
 スキッド――誰が命名したかは不明だが、この巨大生物たちはそう呼ばれている。
 スキッドたちの平均的な体高は5〜6mといったところだろうか。エナメル質のようなつるりとした表皮、四足、或いは六足、頭部と思しき部位に空いた無数の小さな穴は恐らく目なのだろうと言われている。全体的な特徴から【捕獲屋】と呼ばれる種別のスキッドであると推定される。
 数はおおよそ30体ほど。
 突然の襲来には砂浜でビーチバレーを楽しんでいた人たちが慌てて逃げ出していく。その背中に向かって、スキッドの前腕から白い粘性の液体が放たれた。粘性の液体はトリモチのようなもので、それに絡め取られるとまず自力での脱出は難しい。
 スキッドは人を襲い、人を浚う。浚われた人間は彼らの巣に連れ帰られ、そこでじわじわと全身を溶解されて歯を持たない彼らの栄養源となるのだ。
 海岸にいた人間たちが、一人、また一人とトリモチに絡め取られていく。スクリーンを睨み付けるようにしていた少年の一人がグッと歯噛みした。そしてその後頭部を別の少年が叩く。叩かれた少年がキッと叩いた少年を睨み付けるが、叩いた少年の眼差しは冷たく静かに「落ち着け」と口ほどに言っていた。
 映像は続く。
 海岸にいた人間の大方がトリモチに捕まり、その砂浜で動くものが異形の怪物、スキッドたち以外にいなくなりかけた頃、突然に一体のスキッドの頭部が弾け飛んだ。
 長距離からの狙撃。弾頭は炸裂徹甲弾と思われる。
 同時に別のスキッドの頭上に影が現れた。それは全高だけならスキッドよりも大きな“何か”の影だ。
 そしてその影の主はスキッドを踏み潰して着地。足蹴にしたスキッドに至近距離から30mm機関砲を叩き込む。
 スキッドの体表は硬いが、それでも現代兵器が通じないと言うほどでもない。歩兵用の小銃や機関銃では効果が薄いが、大口径の対物ライフルや携行ロケット砲、グレネードでならある程度ダメージを与えることが出来る。
 それでも決定打には遠い。
 ならばスキッドたちに決定打を与える物はなんなのか?
 それが先ほどの巨大な影、UNAS治安委員会自警隊所有の高機動人型陸上機【パラディオン】である。
 戦線に投入されたパラディオンは【TYPE-06 ナイヴ】の四機編隊だった。【UNAS/CeSPU/7Para】と装甲に刻印されたパラディオン部隊は、両腕に突撃銃を装備した機体が二機、30mm機関砲と破壊斧を装備した機体が一機、刺突盾とショットガンを装備した機体が一機。
 四機は降下直後のみ独自の判断で行動したが、戦線に橋頭堡――というよりも足がかりとなる一定のスペースを確保すると、そこからは連携戦闘に突入した。
 積極的に攻撃を加えるのは突撃銃二挺を装備した二機だ。常にお互いに背を預けあう形で行動し、それぞれが異なる標的に銃撃を浴びせている。パラディオンの特徴である筋模倣駆動系の恩恵を受けたその挙動は軽快だ。二機はスキッドの四肢に集中して弾丸を浴びせ、目標の無力化を図っているようである。
 残る二機は突撃銃装備機の援護に回っている。二機の攻撃で行動不能に陥ったスキッドへ破壊斧の一撃で止めを刺したり、僚機が敵の接近を許したなら刺突盾を装備した機体がそれを庇う。そして至近距離からのショットガンの一撃で敵を潰すのだ。
 パラディオン部隊は寡兵ながらよく善戦している。しかし戦線介入から15分、部隊の戦闘効果半径(戦闘行動が敵勢力に効果を及ぼす範囲のこと)は徐々に狭められつつあるようだった。
 部隊の装備のバランスはよく錬度も高いが、戦場となった砂浜には未だトリモチに絡め取られたままの人々が残されている。多勢に無勢というだけでなく、彼らの存在がパラディオン部隊に思い切った行動を取らせてくれないらしい。歩兵科部隊が囚われの人々の救出作業を行っているようだが、その進捗も果々しくないようである。
 このままではジリ貧になる……映像を見つめる少年たちの誰もがそう思い始めた頃、突撃銃の弾幕を突破して一体のスキッドがパラディオン部隊の一機に接近した。前腕を大きく振り上げ、その強力な一撃を見舞おうとする。
 かわせない――!
 スキッドの恐ろしさはその強力な筋力にある。見た目以上に柔軟で強靭な彼らの筋肉が十分に力を溜め込んだ上で繰り出す一撃は、戦車を瞬時に破壊し、パラディオンすら無警戒では弾き飛ばされ戦闘不能に陥らされる。
 その一撃が突撃銃を装備した一機に見舞われようとした瞬間、そこに刺突盾を装備した機体が割り込んだ。盾を構えて味方機を守る、それが彼の役割であり、彼は自分の役割に忠実だった。
 ――ゴッ!!
 スキッドの一撃が複合装甲で形成される刺突盾をひしゃげさせる。一撃が生み出した衝撃は刺突盾を原型を留めないほどに歪ませただけに飽き足らず、その余勢だけで盾を装備した左腕をTYPE-06からもぎ取っていった。
 腕を吹き飛ばされた一機は体勢を完全に崩し、仰向けに転倒する。パラディオン部隊の連携に穴が生まれた。そしてスキッドたちの攻撃本能はその穴を見過ごさない。倒れた一機に向けて敵が殺到する。その数――、七体!
 まずい、とスクリーンを睨む少年たちが息を呑んだ瞬間。
 転倒したTYPE-06に殺到したスキッドたちが、洋上から飛来した光線に打ち抜かれた――!
 胴体中央や頭部など、およそ急所と思しき場所を貫かれたスキッドたちは着弾点から炎上し、ぐらりと揺れて倒れる。そしてもう、動かない。圧倒的な威力の一撃……いや、七体を同時に貫いたから七撃と言うべきだろうか?
 何の前触れもなく訪れた突然の“横槍”に戦場の時が一瞬止まる。パラディオン部隊はおろか、スキッドたちさえ動きを止めて、光線の飛来した洋上を目で追った。
 スキッドたちが撃ち抜かれた決定的な瞬間を収めたカメラもまた、光線の飛来した方向、洋上へと向けられる。そして洋上、空中に浮かぶ小さな影を確かに捉えた。
 その小さな影を追ってカメラはズーム。その影が、宙に浮かぶ背中から光の羽を生やした黒髪の少女であることを映し出した。
 青と黒を基調とした奇抜なデザインの衣装は、フリルをたっぷりあしらって可愛らしいのに、どこか鋭角的な印象を与える。
 背中から生えるのは光の翼。どういう原理なのか分からないが、あれで浮力を得ているのだろうか。
 その手に持ったのは一見すると槍にも見える長い杖。先端に行くほど太くなる奇妙なフォルムをしており、先端に近い部分には翼の骨格そのものに見える張り出しがある。
 透き通るような白い肌、美しく整った顔立ちに、見る者に血を想像させるような黄金色の瞳。
 そしてその頬は、瞳のそれに負けず劣らず真っ赤になっていた。
 なぜ真っ赤に? という疑問を少年たちが覚えるよりも早く、その謎の少女は羞恥のあまり掠れる声で、或いはむしろやけくそにも感じられる響きで口火を切った。

『――が、学園の平和を、み、乱す悪を許さない……あ、愛と勇気の戦術級魔法少女天使、た、たくてぃかる☆パンドラ、推参……!』

 戦術級魔法少女天使、たくてぃかる☆パンドラ。
 その名乗り上げと共に戦場、いや、その映像を注視していた室内すらも凍りついたような静寂が訪れ、そして僅かに遅れて、
「ふっ、ふざけんなぁーーー!!」
「馬鹿にしてんのか!」
「真っ赤になるほど恥ずかしいなら名乗ってんじゃねーよ!!」
「ていうかネット見てんじゃねぇよ!」
「なんなんだテメーはぁーーー!!」
 怒号に包まれたのだった。


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 国連がフロンティア諸島に設立した巨大孤児育成組織、UNAS。
 その運営の主体はそこに属する孤児、学生であり、学内の治安維持も学生によって行われている。学内においては学政執行部がその統制を行い、実際の治安行動は【治安委員会】がその任を負うという形態を取っていた。これもまた文民統制の一形態と言えるかも知れない。
 さておき、その治安委員会の任務は学内の治安維持なのであるが、設立以来その治安行動の主たる標的は謎の巨大生物、スキッドに向けられていた。
 UNAS設立に前後して太平洋地域を中心に出没するようになったスキッドたちの正体は、初めて彼らの姿が確認されて早半世紀が過ぎようとしているが、未だ多くが謎に包まれている。
 公に明らかにされていることと言えば、彼らが人類を浚ってじわじわと溶解するという方法で捕食しているらしいこと、そして神出鬼没でどこから現れるのかすらよく分からないということくらいだ。公開されていない情報も数多くあると言われているが、公開されていない以上その情報は、結局のところ学生自警隊でしかない治安委員会の面々には知らされていない。
 そのため治安委員会の面々はスキッドとの戦闘が行われる度、戦闘後に会議を開いて戦闘の様子を収めたVTRを分析しているのだが――ここ最近、その会議の様子はそれまでとは違うものになっていた。
 先ほどまで戦闘VTR上映のために薄暗くしていた室内も、上映が終わった今では暗幕を取り払い、照明も点けられ、明るい光に満ちていた。しかしその光に照らされる30人あまりの表情は決して明るくない。
 そんな彼らの視線を浴びて一人の青年が壇上に上がった。引き締まった体躯に短く刈り上げた金髪。UNAS大学部の軍事専門コースの学生であり、治安委員会ブラジオ島駐留自警隊隊長、カメロ・ストックソンだ。
 壇上に上がったカメロは震える声で言う。
「そ、それでは……戦闘分析会を開始する。こ、今回の議題は、先の、VTRにも登場した謎の人物――今回初めてやつの呼称があ、明らかになったわけだが……ウッ、くぅ――せ、戦術級魔法少女天使、たくてぃかる☆パンドラに、ついてだ……」
 震える声というより、もはやそれは泣き声だった。嗚咽交じりである。
 それを見た治安委員会の面々は「なにも泣かんでも」と思ったが、そんなカメロの気持ちが分からないわけではない。治安委員会の面々にとって、スキッドとの戦場は聖域なのだ。
 UNAS学政執行部会直属治安委員会。その職務たる治安行動の主な対象が謎の巨大生物群、通称スキッドであることは先述のとおりだが、対スキッド戦を想定して整えられた国家軍隊にも比肩する装備、そして訓練を積んだ自警隊隊員たちの任務の矛先は、しばしば彼らが守るべきUNAS生徒たちに向けられることもある。
 それは例えば体育祭や学校祭で羽目を外しすぎた生徒たちの抑止という形であったり、或いは待遇改善を訴える一部学生団体のデモの鎮定であったりと、状況に応じて色々だ。便利使いされていると言ってもいい。言い表す言葉どうであれ一つだけ確実なのは、治安委員会という組織の性質上その行動目的が抑止であれ鎮定であれ、その方法は武力を背景とした威嚇以外にないということである。
 そんな彼らだから、一般の学生たちの治安委員会の面々に対する評価は好意的ではない。ともすれば嫌われている場合さえある。治安委員会の対スキッド戦用の主兵装である高機動人型陸上機パラディオン、これのTYPE-6一機あたりの購入を節約すれば、食堂のメニューを普段なら月に一度の豪華ディナーを向こう一年間毎日にしてもお釣りが来ると聞かされればそういう意見が出てくるのも仕方ないかもしれない。
 だからこそ、自分たちの働きが正当に、肯定的に評価されるスキッドとの戦場は彼らにとって聖域なのだ。
 だというのに、ここ一ヶ月というもの、自分たちの聖域を無分別に踏み荒らす馬鹿がいる。
 その馬鹿は治安委員会のパラディオン部隊がスキッドと戦闘している所に何の前触れもなく現れて、正体不明な未知の技術による未知の力を振るって、スキッドたちを相手に絶大な戦果を上げていた。治安委員会の存在が薄れるほどに圧倒的な存在感をもって登場し、治安委員会の活躍が忘れ去られかねないほどの圧倒的な戦果をあげる謎の存在――謎の、【魔法少女】。
 初めて彼女が姿を現したのは先月のことだ。以来このフロンティア諸島でスキッドが現れ、治安委員会がその迎撃に当たる際には必ず戦場に現れ、大暴れしていく。先日のキャミセイル島襲撃で実に三回目、三戦連続の出現ということになる。
「しかしまあ……はじめに現れたときは何の冗談かと思ったもんだが」
 そう嘯いたのはブラジオ島駐留自警隊でパラディオン部隊の指揮を執っているカーク・スレイターだ。アメリカ出身で、コロラドを襲ったハリケーン【スザンナ】で孤児になった。
「実際性質の悪い冗談みたいなもんだ。本当になんなんだ、何者なんだ、あれは。何が目的で戦場に現れる?」
 カークの発言を継いだのは歩兵科の新人、ユージン・メディオ。190cmを超える長身にスキンヘッドというその容姿はとても16歳の少年には見えない。ロシア系の米移民で、彼もスザンナに家族を奪われた。
 カークもユージンも、UNASでは【スザンナ組】とひと括りにされることが多い。ハリケーン【スザンナ】ではそれだけ多くの人が死んだのだ。
「何が目的って、そりゃ学園の平和を乱す悪をやっつける為だろ? 本人がそう言ってたじゃないか」
「やつが自分でそう言ってるだけじゃないか」
「そうだけどな。じゃあユージンは何が理由であの魔法少女があんなことしてると思う?」
「知らん」
 いかめしく腕を組んで鼻を鳴らす四つ年下の同郷者にカークは苦笑する。
「人には聞いて自分の考えは述べないってのは不公平じゃないか?」
「……」
「だんまりか。お前らしいけどな」
 ユージンはもともと寡黙な少年だ。
 しかしその点を差し引いたとしても、ユージンもこの魔法少女については腹に据えかねるものがあるのだろう。
 魔法少女の活躍は余人ならずとも目を見張るほどだ。
 その動きはまるでピンボール。飛び跳ねるように宙を踊り、治安委員会の自警隊が四苦八苦して倒すスキッドたちをごくあっさりと倒してしまう。光線で撃ち抜いたり、杖から伸びる光の剣で斬り捨てたり……。
 その強さはまるで、散々苦労してスキッドと戦っている治安委員会の面々を馬鹿にしているかのようでさえある。実際、学内のネット上の掲示板では、魔法少女の活躍と治安委員会の活躍を秤にかけて、治安委員会を無能とあざ笑う意見も多い。
 治安委員会がスキッドに対して苦戦してしまうのは仕方ない。それでも彼らは彼らでキチンと戦いキチンとスキッド撃退して、ちゃんと成果を上げている。
 ユージンにはきっと、そんな自分たちの働きが正当に評価されないのが悔しいのだろう。それもあんないかにもな“色物”キャラのせいで。
 カークは肩を竦めてユージンから視線を外した。この少年がだんまりを決めた以上、これ以上はなにも喋ってはくれないだろう。
「シオ、お前はどうだ? 日本出身だろ、あの魔法少女について何か意見はあるか?」
 そう意見を振った先はユージンの一学年年下になる16歳、ブラジオ島駐留自警隊最年少のパラディオン操縦士、諏訪部志雄。
 ユージンとは違って程ほどに社交的な志雄だが、今回に限っては彼もむっつりと不機嫌そうにしていた。
「なんだシオ、お前も不機嫌組か?」
「別に、不機嫌ってわけじゃないですけど」
「ならどうした」
「日本人だからって魔法少女について意見求められても困るって話です」
 ぶすっとした表情でそう言う。
「なに言ってんだ。日本と言えば魔法少女のメッカだろう」
「カークさんの日本観には一言苦言を申し上げたいな」
「乳幼児時代からの真正UNAS育ちが何寝言抜かしてやがる。日本行ったこともないんじゃないの?」
「行きましたよ! 去年の故国体験旅行で!」
「ほう、その旅行中に魔法少女には出会わなかったのか?」
「出会うわけが――」
 ないじゃないですかと、答えかけて、故国体験旅行で同じ班になった大芝というのに連れられて行った秋葉原を思い出した。休日なせいか路上のそこかしこでコスプレに興じる人々の姿が強烈な印象として思い出に残っている。その中に、魔法少女のコスプレをした女の子が……。
「――ないじゃないですか!?」
 コスプレはコスプレであってテーマが魔法少女であったとしても魔法少女そのものではない、と結論づける志雄。そのごく当たり前の結論に達するまでに奇妙な時間が掛かった。魔法少女のコスプレは過激で、15歳の少年の煩悩にはエロすぎたのである。
 そうかいそうかい、とカークは笑った。
「まあ今の奇妙な間についての追求はあとでするとして……」
 その一言にぎくっとしてぶすっとする志雄である。僕自身に疚しいところはない、疚しいのあのコスプレ少女の格好だ、というのが志雄内心の主張である。
「まじめな話だが、あの魔法少女について何か意見はないのか? わかったこととか」
「まじめな話ですか」
「そうそう」
「……まあ、今更かもですけど、どうもあの魔法少女の正体はUNASの生徒らしいってことくらいですかね」
 ごく当たり前のように言う志雄の言葉にカークは目を丸くした。
「まるで確定事項みたいに言うんだな?」
 魔法少女がUNASの生徒ではないか、ということは元々言われていたことだ。何しろUNASが置かれているここフロンティア諸島は太平洋のほぼ中央に位置している。最寄の陸地はハワイ諸島だが、それでも2000kmは離れている。外部の人間がスキッドが出現する都度来訪するには便利が悪すぎる。
 もっともその見解にしても常識的な範囲の意見であるから、魔法少女だなんて非常識な存在に当てはめていい意見かどうかについては議論の余地が残されている。
「あれがUNASの人間だって証拠はあるのか?」
「証拠っていうか状況証拠ですけど」
「言ってみな」
「はい、まあなんていうか、今回あいつ名乗ったじゃないですか、名前」
「そうだな」
 不思議な話だが、今まであの魔法少女は一切名乗り上げをしたことはなかった。謎の魔法少女、という通称のままに振舞っていたのだが、それが今回突然あの奇妙な名乗りをしたのである。
「あいつの名乗った名前って、学内の閉鎖系ネットワークにある掲示板で出た名前なんですよね。魔法少女フリークたちが勝手につけたあだ名なんです。だから、少なくともあの学内ネットの掲示板を見れる立場にある人間だってことは確実だと思うんですけど」
「ああなるほど、そういうことか」
 でかした、と志雄の髪をぐちゃぐちゃと撫でる。
「それにしてもお前、魔法少女なんて興味ありませんって面しといて、きっちりチェックするところはチェックしてるんじゃないか」
「な、べ、別にチェックとかそんなんじゃないですよ。僕だって治安委員会の一員なんですから、敵のことは調べますって」
「はいはい、そうだな。でもまだ敵って決まったわけじゃないんだから、行き過ぎな敵愾心は捨てろよ?」
 お前もだぞユージン、と腕を組んだままむっつりと目を閉じていた同郷仲間にも言っておく。
「……」
 が、ノーリアクション。
 まあ別に構わない。聞いていないようでも聞いているのがユージンだし、なんだかんだ目上の人間の言うことは聞く素直な少年だと判っている。
「聞・い・て・ん・の・かっ!」
 判った上でユージンのスキンヘッドを引っぱたく。
「……聞いている」
「そうならそうって言えよ? 世の中言葉にしなきゃ通じないことばっかりなんだからな」
 魔法少女――自称なのか多少なのか【たくてぃかる☆パンドラ】と言うらしいが、彼女の正体が不明なのも、対部分は彼女が自身について何も語らないことに原因がある。あれが自ら正体を明かして自己紹介してくれれば、こうやって大の男が雁首そろえて話をしなくても済む話なのだ。
「カメロ隊長! ちょっといいか?」
 カークが声をかけた先は、相変わらず半泣きで会議を進める自警隊隊長のカメロ・ストックソンだ。
 ブラジオ島駐留の自警隊の長として特に歩兵部隊を統率し、充分以上に務めを果たしてはいるがプライドが高すぎるのか精神面で弱いのか――、カークとしては苦笑せざるを得ない。
「う、うぅっ……な、なんだカーク?」
「まずは落ち着け。そして泣き止め」
「す、すまん」
 咳払いをして深呼吸を数度。
 大したもので、カメロはそれだけで落ち着きを取り戻した。
「すまなかった。醜態を晒してしまったな」
 本当にそうだ、と思うが口にはしないカーク。
「まあ気にするな。腹に据えかねてるのはみんな同じだ」
「ありがとう」
「いいって。それでだな、さっきちょっとシオが気になる事を言ってたんだが」
「気になる事?」
 カメロの視線が志雄に向けられる。
 志雄は突然のことに驚いた顔でカークを見、ついで恐縮した顔でカメロに頭を下げる。志雄の自警隊への入隊はユージンと同じくこの四月、つい先月のことだ。歩兵科になってカメロから直接指導を受けているユージンと違い、パラディオン部隊に配属された志雄はカメロとの接点が少ないのだ。
「シオ、さっきのカメロに言ってやってくれ」
「ネットのアレですか?」
「そうそれ」
 促されて立ち上がると、カメロだけでなく室内にいた全員の視線が志雄に集まる。
 緊張する。こういう風に視線が集まる状況には慣れていない。
 時折つっかえたりしながらもどうにか自分の気づいたことを説明すると、室内にいた人間の半分からは納得の声、もう半分からは自分も気づいていたという意見が出た。
「なるほど、それは気づいていなかったな」
 そしてカメロは気づいていない側だったらしい。
「今シオが言ってくれたことについて気づいていたやつも多いみたいだが、他にも何か気づいてることがあるならお前達、何でも言ってくれ。お前達の中では当たり前と思ってることでも他の誰かが気づいていない事というのはあるかもしれない」
 カメロがそう続ければ、何名かが挙手して発言を行った。
 歩兵科の人間、パラディオン整備を担当する機械科の者、様々だが総括するとこうなる。
1.魔法少女はUNASの人間である可能性が高い。
2.魔法少女はUNASのイントラネットを見ているようだ。
3.イントラネットのアクセス履歴を辿ればログから正体を解明できるかもしれない。
4.そもそも映像が鮮明に残っているのだから、この映像から本人を特定することはできないか。
「――なるほど」
 カメロは上記四点の意見をホワイトボードに書き上げた。
「今後突き詰めて調査する必要がありそうなのは3と4についてだな。もっとも調査自体は自警隊の担当にはならなそうだが」
「ログ漁りは通信管理委員会、顔からの特定は総務課学生係の担当ってことか?」
 カークの突っ込みは別の意図を隠して行われた。
 カメロはその突っ込みの裏の意図を容易に察する。
「通管にも総務にも話は通すだろうが、【学調】が捜査の中心になるだろう」
 カークを始め、場の全員が顔をしかめた。
 学調とは【治安委員会学生調査室】の略称だ。自警隊と同じく治安委員会の所属ではあるが、この二つの組織の中は極めて悪い。
 UNAS所属の学生が学政執行部会になんらかの要求を行う際に、学生総会を通さずに主張を行うことがある。所謂デモとかスト(授業ボイコット)とかいう類のものだが、学調ではそういった運動に参加した学生を全てチェックしリスト化している。一度リストに名前が載った生徒はその行動を学調によって常にマークされることになるのだ。
 体育祭や学校祭、各種イベントはもちろんのこと、普段の生活においても交友関係をチェックされることになる。特にデモのような集会に参加した生徒に対する監視の目は厳しく、そうした生徒が他の誰かを集会に誘うような兆候があれば、その交友関係を是正しようとするのだ。
 実際のところ、交友関係のチェックまではやっているが、交友関係の是正といったことまではいかに学調といえどしていない。しかし問題はなのはそういうイメージを持たれるような事を学調がやっていて、そういうイメージに基づく偏見の矛先は学調だけでなく、治安委員会全体、引いては自警隊にまで向けられることである。そういった理由で自警隊の面々は学調を嫌い、そして学調にしてみれば同じ穴の狢の癖に潔癖ぶるとして自警隊を嫌っているのだ。
 カークは鼻を鳴らした。
「巷で人気の魔法少女さまだぞ? 学調なんかに調査させたらまた治安委員会が槍玉に挙げられるんじゃないか?」
「その可能性はある。いや、その可能性は高いだろう」
「だったら連中を話に噛ませるなよ」
「そんな権限が俺にあると思うか? 判断をして結論を下すのは委員長と会長だよ」
「委員長と会長さん、ねぇ……」
 ため息が漏れた。
 現在の治安委員長、黄礼清は学調出身だ。間違いなく学調に調査を委ねるだろう。
 そして学政執行部会会長の西院祭子……こちらはどうだろうか。優秀だが徹底的な合理主義の人間として知られている彼女がどういう判断をするか、カークには想像がつかなかった。
 魔法少女【パンドラ】の調査に学調を投入すれば間違いなく治安委員会の評判は下がるだろう。これ以上治安委員会が嫌われれば、通常の学校運営にも影響を及ぼしかねない。それどころか学調投入の判断に会長が判を押したことが知られれば、会長の支持率そのものにも影響が出るかもしれない。
 かといって学調に調査をさせないというのも不安が残る。なんだかんだ言って学調は学内の情報の扱いに関しては専門職、エキスパートなのだ。その仕事ぶりは早くて確実。通管や総務に任せても仕事自体は出来るかもしれないが、彼らには彼らで通常業務があり、それをこなさなくてはならない。通常業務と平行して行えば仕事は遅れるだろう。
 この場合、どちらがより合理的なのか。
 うむむ、とカークは唸った。
「……会長なら、学調を使うんじゃないですかね」
 その声は隣の席から聞こえた。
 諏訪部志雄。パラディオン部隊の新米で、自分の直属の部下である少年が妙に真面目な顔で呟いたその声は、カークにしか届いていないようだった。




humikiwemonsai at 23:01コメント(1)雑文  この記事をクリップ!

コメント一欄

1. Posted by ALORC   2007年11月19日 09:38

・30mm機関砲(薬莢ばらまくザクマシンガンwithドラムマガジン)
・破壊斧(熱き魂の咆哮ヒートホーク。いや超振動刃かな、かな?)
・刺突盾(スパイクがイカすショルダーシールド。え、手持ちタワー楯?)

――なんというZK大気圏仕様。ショットガンは敢えて脳内から除外。狙撃はマゼラトップ砲装備に任せろ(妄想は既に現実の記述を凸凹×した)!
だが筋模倣駆動だというなら、むしろ「フルメタ」の第三世代アームスレイブか。いやしかしあれらのメイン動力は(切断)


 何はともあれ名乗りに恥らう八神なのフェイ(仮称)にサムアップ。

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