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★『なぜ僕は「悪魔」と呼ばれた少年を助けようとしたのか』 今枝仁

「魔界転生」「復活の儀式」等の荒唐無稽な新供述に、日本中が牙を剥いた光市母子殺害事件の差し戻し控訴審。その弁護団を途中解任された今枝仁弁護士が、この事件と大弁護団、そして加害者の元少年とどう関わり、何を見てきたかについて自ら書き綴ったのが本書である。

この陰惨な事件の加害者を守るという職務に、著者は終始悩み、葛藤しながらも、元少年と接見を重ね、同じ人間としての立場でその声に耳を傾けてきた。父親からの凄まじい暴力と、それに生涯脅かされて自殺した母親との、性愛関係すれすれの結束とにがんじがらめにされた彼の生育環境がつまびらかにされ、「不遇な生い立ち」という平板な表現から想像されるレベルをはるかに凌ぐその悲惨さに、震えが走る。

何が真相かは、本書を読んでも認定できるとは言えない。しかし一連の報道を通じて私達はすでに全ての事実を把握しているかのような錯覚に陥ったまま、すんなりと被害者側に自分を同一視し、怒り、吠えた。そのことの奇妙さが、読むごとに浮き彫りになってくる。

仮に、元少年が被害者宅を訪れた目的は「人と話がしたかった」からだ、という新供述の中にも真実の断片があるとするならば、虐待に晒された子供が、健康な精神的成熟も為されないまま、人恋しさを
引き金に二人の命を奪うという蛮行に至るまで、何の手を打つこともできないような社会を支えている私達は、一体何者だろう。私達が自分を重ねるべきは「怒れる被害者遺族」の側ばかりではなかったかもしれない。

4月22日、広島高裁は新供述を「信用できない」とし、死刑判決を下した。職務とはいえ結果として遺族の心を傷つけてしまったことへの謝罪を繰り返しながら、今後も全力で元少年を支えると誓った著者の決意は揺らいではいないだろう。いつの間にか「私」を見失い、非のない立場に乗り移ってやりすごそうとしていた自らの欺瞞と危険性に気づかされる一冊だ。評・西川美和(映画監督)

◇いまえだ・じん=1970年、山口県生まれ。広島弁護士会刑事弁護センター副委員長。

(2008年6月2日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20080602bk03.htm

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