1.男と女のパーソナル・スペース
(1)アメリカのある病院のスタッフと患者を対象にして、部屋のなかにいる人(実験のためのさくら)と話をするという実験が行をわれた。
➔その結果、女性では、同性のさくらに対してテーブルの角に座ったり、並んで座ったりする人が多かった。男性では、さくらの性にかかわらず向かい合って座る人が多かった。

(2)アメリカ人の大学生で同性の三人グループを構成し、その三人が、男性あるいは女性のリーダーのもとで、「流産などに関する社会問題」を話し合うときの距離の使い方が調べられた。
➔その結果、女性は同性同士であるときに、お互いに接近した距離に座った。男女いずれの学生も、男性リーダーよりも女性リーダーに対して、より接近して座った。
※その他の様々な実験結果から、一般に成人の男性は、相手の性にかかわらずほぼ一定の距離を保つが、女性は男性との間に、より大きな距離をとる傾向があるといわれている。
 以上のような研究から、一般に、女性は同性に接近する傾向があるといえそう。町のなかで、女性同士が手をつないだり、腕を組んだりして歩いている姿をしばしば見かけるが、こうした我々の経験と研究結果とは一致しているといえそうである。縮小することで、不快な状況に耐えようとしていると考えられる。

(3)動物園で動物を見ているペア間の距離を観察した研究によると、異性同士、女性同士、男性同士のペアの順に距離が大きくなった。つまり、恋人のような親しい異性に対する距離が最も短かったというわけである。これは私たちの経験と一致する結果である。
※なお、渋谷の研究(ある大学の大学祭の折に、遊びにやって来た大学生ペアを、望遠レンズ付きカメラで、写真に撮って分析したというもの)によると、2人連れの体の中心間の距離は、男女ペアで約60cm、同性ペアで約64cmだったという。つまり、男女ペアがやや狭いものの、ペアの組み合せによる差ははっきり見られなかった。動物園の研究は、動物のおりの前に立ち止まっているペアの距離を調べたものであり、渋谷の場合は、歩行中のペアの距離を調べたものである。歩いているときの二人連れの距離は、二人の関係によるというより、むしろ「話しながら歩きやすい距離」であったとも考えられる(渋谷談)。

【カップルの空間】
 歩道を歩いているとき正面からアベックがヤって来たらあなたはどうするだろう。アベックとの距離が縮まってくるにつれて、何とも言えない対人的な圧力を感じることはないだろうか。これは一人だけの通行人とすれ違うときにも、グループをなしている通行人とすれ違うときにも感じる圧力である。逆に、自分がカップルであったり、グループの一員で遭ったりする時には、他の通行人からの圧力というものをほとんど感じなかったりする。
①廊下で立ち話をしている場合と、話をしないでなんとなく階下を見下ろしている場合に、通行人がそのペアの間を通過する割合を調べた研究がある。ペア間の距離は約102cm、自由に通れる空間は約83cmに設定された。通行人がペアの左右を迂回して行った回避率は、表Ⅲ-2のようにであった。つまりペアを回避する通行人は、2人が立ち話をしている場合や、立ち話をするしないにかかわらず、男女のペアが立っている場合に多くなったといえる。
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➔この実験では、二人が話をしているとき、また、男女のペアである場合に、より強力な社会空間ができ上がっていたと想定することができる。
 二人の人間がいると、そこには社会空間と呼べる特別な空間領域が存在すると考えられている。社会空間は、二人のパーソナル・スペースが単に重なり合っているだけの空間ではなく、二人が共有している、よりパワフルな空間だと考えられる。
☛社会空間は、二人以上の人たちが社会的な相互作用を行なう際にみられるなわばりである。
 社会空間を作ることによって、メンバー同士の結び付きを強めることができるし、メンバー以外の他人がそのグループに参加することを拒否することもできる。すなわち社会空間は我々意識で成り立つなわばりだといえる。

②①とは逆に、他人に接近されたときペアはどうするだろうか。歩道を歩いているペアを見つけて、実験者がその間をわざと通り抜けようとしたときのペアの行動を観察する、という侵入実験が行なわれている。
➔結果によると、すべてのペアの61%で、通行人が侵入するのを避けようとする行動がみられた。※2人が左右に別れてその間を通過させるのではなく、2人並んで左右のいずれかに移動し、無作法な通行人をやり過ごした。こうした回避行動は、男女ペアの83%、女性ペアの62%、男性ペアの38%に観察された。回避行動は男女のペアで最も頻繁にみられたことになる。
 以上からすると、男女のペアの作る社会空間が最も堅牢であり、女性同士、男性同士となるに従って壊れやすくなるといえる。アベックの社会空間が簡単に壊されないのは、それだけ二人の人間関係が緊密であることを示していると考えることができる。また、男性同士の社会空間が女性同士の社会空間より壊されやすいのは、男性同士と女性同士では、その人間関係の特性が違っているからだと思われる。
 ペアで歩いているとき、正面から来た通行人をよけるために、あなたのパートナーがあなたからさっと遠くに離れたとしたら、あなたがたの社会空間、ひいては人間関係は脆弱なものだといえるかもしれない。
 逆に、あなたのパートナーがあなたの体を押しやるように近づいてきたら、それはあなたがたの社会空間を守りたいと願っている行動であり、二人の関係は密接なものか、あるいは、そうしたいと願っていると考えることができるだろう。

【美人のまえを迂回する行動】
 待ち合わせのために街角に立っているようなとき、近くを通りすぎていく人の行動を観察すると、意外なことがわかったりする。ある人は体が触れそうなほど近くを通りすぎていくし、他の人は遠回りするようにして通りすぎていく。雑踏のなかで他人とすれ違うときにも、これと同じような経験をすることがある。こうした通行人の行動を分析した研究がある。
 ある実験で、誰かを待っている様子の1人の男性(あるいは女性)が歩道に立っている条件と、2人の男性が立ち話をしている条件、2人の男女が立ち話をしている条件という3つの条件で、その近くを通りすぎて行く通行人の行動が観察された。
➔その結果、①歩道に立っているのが、女性である場合より男性である場合、②歩道に立っている人が1人より2人の場合、③1人で立っている女性がより魅力的である場合、に通行人はより遠くを通りすぎていった。
男性がより遠く迂回されることから、女性より男性のパーソナル・スペースのほうが大きいとみなされているらしいことがわかる。また、一人より二人いるときのほうがより遠くを迂回されることから、単一のパーソナル・スペースより社会空間のほうが大きいとみなされているといえる。
 さらに、魅力的な人のほうがより遠くを迂回されることから、人々は美人に対してより大きをパーソナル・スペースを用意していると考えられる。魅力や美しさも他人を遠ざけるパワーを持っていると考えられる。著名人や美人女優と偶然出会ったとき、思わず遠くで足を止めてしまうことがある。近づいてはいけない理由はないはずなのに、近づけなくなるというのは、実に不思議な力だといわざるをえない。

【女性特有のパーソナル・スペースの変化】
 アメリカの心理学者サンダースは、成人の女性に特有のパーソナル・スペースの変化を見いだしている。これは、女性は、生理の周期の終りよりも中ほどで、男性により接近するというものである。 
 妊娠する可能性がピークになる時期に男性に対するパーソナル・スペースが小さくなるのは、この時期に男性に接近しようとする生物学的な理由によるのだろうと解釈されている。
 この解釈の真偽のほどは明らかではないが、こうした研究は私たちにパーソナル・スペースが、単純な解釈では割り切れない、多義的な性質を持っているものであることを教えてくれる。

2.パーソナル・スペースの発達
 先に見たように、大人のパーソナル・スペースは、女性より男性のほうが大きいという傾向がある。これは、それぞれの社会のなかにある性規範の影響を受けているのではないかと解釈されている。ところで、こうしたパーソナル・スペースは何歳ごろからできあがってくるのだろうか。
(1)何歳頃から出現するか
✚パーソナル・スペースは、少なくとも成人のはじめまでは、年齢とともに拡大する。
18か月になる頃には、子ども達は相手と状況によって異なる対人距離を選択するようになり、
12歳になる頃には子ども達は概ね大人たちと同じようにパーソナル・スペースを使うようになると
いう。 
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✚ある研究で、5歳~18歳の男子と女子のパーソナル・スペースが測定された。その結果、①年長の子どもたちはより年少の子どもたちよりも大きな対人距離を示す、②年長の男の子たちは年長の女の子たちよりも大きな距離を選ぶが、年少の男の子たちと女の子たちではパーソナル・スペースの大きさに違いは見られない、ことがわかった。
✚文化の違いは、パーソナル・スペースと年齢の関係に影響するもう1つの要因である。たとえば、プエルトリコの子どもたちは、ニューヨークに住んでいるプエルトリコ人の子どもたちよりも、より成長してから対人距離を広げる。

(2)異性との距離
 日本の研究:小学校3年生、5年生、中学校2年生、大学生を対象にした研究によると、異性に対する距離は思春期前ともいえる5年生で急激に大きくなり、思春期(中学2年生)で最大になり、大学生になると同性と異性の差がなくなってくるという。つまり、異性に対する距離は曲線的に変化することが明らかにされている。
 アメリカの研究:同性に対するパーソナル・スペースは年齢によらず比較的一定であったが、異性に対するパーソナル・スペースは青年期(高校生)を谷としてU字形の曲線を描いていた。  
➔このことから、青年期では同性同士より異性間のパーソナル・スペースのほうがきわめて小さくなるとされた。
※別の研究では、思春期(小学校6~10年生)には、同性に対するパーソナル・スペースの増大と、異性に対するパーソナル・スペースの縮小が同時に起こっていることが見いだされている。
☛これらの研究では、思春期の子供達は、異性に強い関心を持ち始めると同時に、同性愛的な関係は避けようとするので、異性に対するパーソナル・スペースは小さくなり、逆に、同性に対するパーソナル・スペースほ大きくなるのだと解釈されている。

【日米の比較】日本で行なわれた研究では、中学校2年生あたりで異性に対するパーソナル・スペースが最大になるが、アメリカでは思春期、あるいは青年期(高校生)で最小になることがわかった。この矛盾した結果は、日米の文化的風土の違いに起因するものなのだろうか。日米の比較研究を行なっているバーンランドは、アメリカには異性への関心を直接的に表出する文化的風土があるのに対し、日本には関心があってもそれを抑圧するという文化的風土があると述べている。これが、異性に対する日米のパーソナル・スペースの相違を生み出しているというわけである。日本の研究では、大学生になると、異性間と同性同士の距離には差が見られなくなっている。異性に対する距離の縮小化は、日本ではアメリカより後年になって起こるといえそうである。ただ、現在、これを確認した資料はないと思われる。しかし、こうしたことを通して異性に対するパーソナル・スペースを通して、日本人の思春期と青年期の特徴を知ることも可能だといえる。
 
(3)パーソナル・スペースの発達的意味
【青年期以降のパーソナル・スペースの変化】
 青年期以降のパーソナル・スペースはどのように変化するのだろうか。
✚街頭で話し合っている19歳から76歳までのペア間の距離を観察した研究によると、ペア間の距離は年齢とともに増加し、40歳頃でピークに達し、それ以降は減少していくことが見いだされている。 
✚別の研究によれば、パーソナル・スペースは20歳くらいまでは少しずつ増加すること、年配者は他人と接近した状況を若者ほどには嫌がらないことが知られている。
↓  
 この結果から、年齢とパーソナル・スペースとの関係は次のように解釈されている。
①子供達は様々な人間関係を通して、他人との間に維持されるべき望ましい距離を学習していく。その結果、それぞれの年齢にふさわしい距離が身につけられることになる。
②子供達は成長するにつれ、大人に対する依存的行動(しがみつく、ひざに乗るなどの行為)を自ら抑制するようになる。それと同時に周囲の大人たちから独立的な行動が期待される。つまり、依存的な行動から脱却し、自立心を獲得する過程でパーソナル・スペースが大きくなってくる。
③こうしてパーソナル・スペースは年齢とともに増大するが、最も独立性を要求される40歳頃でピークを迎える。その後、再びパーソナル・スペースが小さくなるのは、初老期に入ると身体的な衰えから、他人への依存行動が再び増加し始めるためであるという。聴力は?
 青年期に親に対する依存から脱却し、自我が確立してくる過程を、乳児の乳離れに類比させて心理的離乳と呼ぶことがある。この心理的離乳は親(あるいは他の大人や仲間)との間により大きな距離(パーソナル・スペース)を取ることによって具体化されているといえそうである。しかし実際には、これまで述べてきたように、パーソナル・スペースが年齢とともに単調に大きくなるとは言い切れない面がある。また、40歳という「不惑」の年代で独立性が最も要求され、それ以後は以前ほど独立性が求められないと考えるのも現実にそぐわない感がある。子どもが大きくなるにつれ親元を離れて一人で遊ぶようになるのも、逆に、老年になると心身ともに他人に頼ろうとするようになるのも事実であろう。確かに、このような現実の行動を配慮すると、パーソナル・スペースが依存性や独立性と何らかの関係を持っていると言えそうである。
 以上であるが、パーソナル・スペースの使い方がどのように変化するかについては、あいまいな点も多い。しかし、総じて言えることは、単にパーソナル・スペースの大きさや他人との距離そのものだけに注目するのではなく、むしろ、それぞれの年代でのパーソナル・スペースや距離の持つ意義を明らかにしていく必要があるということであろう。

(4)からだの成長とパーソナル・スペース
 年齢とともに体が大きくなるので、それに伴ってパーソナル・スペースも大きくなるのではないかという観点からの研究も行われている。
①身長の高低による影響を除くため、腕の長さを基準にしてパーソナル・スペースを測定した研究では、その比率からすると、年齢とともにパーソナル・スペースが大きくなるということはなかった。

②対人距離の身長比(距離/身長)を求めた日本の研究によると、同性同士の距離の身長比は、中学2年生を除いて、ほぼ一定であることがわかった。つまり同性同士の距離は一見すると年齢とともに大きくなっているようにみえるが、身長が大きくなることも原因の一つであるといえる。なお、異性間の距離ではこうした傾向は見いだされていない。

③アメリカで、背が高く体重の重い人(約190cmで約82キロ)か、背が低くて体重の軽い人(約163cmで約59キロ)に接近して行き、適当な距離で立ち止まるという実験が行なわれている。
☛その結果、背が高く体重の重い人に対して接近する場合には、背が低く体重の軽い人に接近する場合より遠くで立ち止まる人が多かった。この実験は大人を対象としたものだが、体の大きな人に対して、より大きな距離をとっていることがわかる。
☛この結果を子どもにもあてはめ、子どもは年齢とともに身長が高くなり、体重も重くなる。従って、身体的な変化が原因で、子どものパーソナル・スペースが年齢とともに大きくなるようにみえるのだと説明することも可能。しかし、こうした研究でも、異性間の距離は身長と関係がみられなかったことや、40歳以降になると再び距離が短くなる(通常、急激に身長が低くなり、体重が軽くはならない)との研究からすると、パーソナル・スペースが単に身長や体重だけに左右されるものだと断言できないという(渋谷解説)。

3.パーソナル・スペースに影響する要因
 パーソナル・スペースとは何の大きさなのだろうか。この素朴な問いは、1959年に人間のパーソナル・スペースに関する最初の研究がロバート・ソマ一によって発表されて以来、多くの研究において着目されている点である。
(1)パーソナリティ
✚外向的で親しげ、あるいは人にあたたかく接する人ほどパーソナル・スペース領域は小さい。
✚従属的であるように育てられた(判断を他からの指示に頼る)人は、温かく友好的な傾向があり、やはり小さな対人距離を選ぶ。
✚対人的行動の研究で最も強い相関が見られたのは、外向性・社交性と小さめのパーソナル・スペース、そして冷淡さ・けんかっ早さと大きめのパーソナル・スペースであった。いつも他人の目を気にしているような人は大きな距離を保とうとする。
✚気質の1つである心配性は(短期的あるいは一時的な不安状態とは対照的に)一貫して大きなパーソナル・スペース領域につながっている。タイプAパーソナリティ(せっかちで競争心旺盛な人)の人もパーソナル・スペースが大きい傾向にある。

(2)障害
【心理的障害】
 何らかの情緒的な問題を抱えている人は、普通の人と異なるパーソナル・スペース領域を持っていることが多い。たいていの心理的な障害が、不安やコミュニケーション、対人関係、知覚過程の能力の問題を伴うことを考えれば、驚くようなことではない。
✚病院の職員や統合失調症でない患者と比較すると、統合失調症患者は、時に非常に大きな座席間隔を選んだり、また時には非常に小さな間隔を選んだりした。その後の研究によれば、統合失調症患者はより大きな距離を選ぶとされている。
✚障害の程度とパーソナル・スペースの大きさの関係に関する興味深い研究がある。
➔新たに入院した、障害の程度が重いと推定される統合失調症患者のパーソナル・スペースは非常に大きかったが、統合失調症が改善すると、彼らのパーソナル・スペースは、患者でない人のそれにずっと近くなった。下図は『環境認知の発達心理学』

【身体障害】 
 身体障害を持つ人々の対人距離について調べた研究は少ない。しかし、聴覚障害を持つ子ども同士は、聴覚障害のない子ども同士よりも大きな距離を用いることを示した研究がある。また別の研究では、完全な自閉症症候群をもつ子どもたちは、不活発な自閉症、活動過多症や知的障害の子どもたちよりも大人たちの近くにいようとすることが見いだされた。
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(3)暴力
 囚人を対象とした初期の研究では、暴力をふるった履歴のある囚人の対人距離は、暴力をふるわない囚人に比べ大きいことがわかった。他人と衝突したことのある人たちは、安全上の理由からより大きな「身体緩衝域(body buffer zone)」を必要とするようである。もう少し最近の研究では、暴力的な囚人のうち、非言語的行為の理解力が乏しく精神病的な傾向のある囚人のみが大きな対人距離を必要とすること、また暴力的な囚人は対人距離の選択過程が自分に主導権があるときのみ、ずっと小さな距離を選択することが示された。
 精神科医であるキンツェルは、刑務所の収容者のなかに、多くの人にとってはごく普通と思われる程度の身体的な接近なのに、それを脅迫や窃盗と同じような挑発的行為だと受け取る者がいることに注目した。
 これらの収容者は、両性的であったり、過度に性的な行動をしたりする傾向がみられ、自分の名前を呼ばれることにきわめて敏感であるという特徴を持っていた。自分の両親の問でも、しばしば暴力がふるわれていたとの訴えもしていた。一方、非暴力的な囚人たちは、これらの特徴を持っていなかった。
☛精神科医のキンツェルは、暴力的な囚人と非暴力的な囚人のパーソナル・スペースを測定している。囚人を何もない部屋の真ん中に立たせておき、実験者が囚人に接近して行き、囚人本人が「近づきすぎた」と感じたところで「止まれ」と言わせた(この位置をパーソナル・スペースの境界と考え、8つの異なった方向から同じ実験を繰り返した)。

【結果】:
①パーソナル・スペースの平均面積は、暴力的な囚人で約2.6㎡、非暴力的な囚人で約0.6㎡であった。暴力的な囚人は非暴力的な囚人の4倍も大きかった。
②非暴力的な囚人のパーソナル・スペースは前方のほうが大きい(これは一般人と同じ傾向)が、暴力的な囚人のパーソナル・スペースは後方のほうが大きいことがわかった。
 このような結果から、キンゼルは、暴力的な人は自分の空間への侵入を潜在的な攻撃ととったり、自分自身の身体への侵入だとみなしたりする傾向があるのだろうと解釈している。さらに暴力犯罪者が身体的な接近を嫌うのは、発達過程で生じた極端を人見知り不安に、うまく対処することができなかったためではないかと考えている。従って、このような犯罪者を隔離することは、却ってこうした不安を悪化させるだけではないかと忠告している。こうした面から見ると、他人が接近するような人込みは、暴力的な傾向を持っている人たちにとっては、自分の身が脅かされる深刻な状況だといえる。逆に、人込みのなかで他人を威嚇するような服装をしたり、言動を示したりするのは自分のパーソナル・スペースに他人が侵入する脅威をできるだけ減らしたいとの先制攻撃だとも考えられる。
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(4)魅力  
 個人間の類似性と気持ちのよい態度という、いずれも魅力として作用すると考えられる2つの影響要素に関する研究も行われており、類似性や態度の気持ちよさが増せば、パーソナル・スペースは小さくなるということがわかった。

(5)感情
 感情の表出もまたパーソナル・スペースに影響を与える。幸せあるいは悲しみの表情を浮かべた人を見ると、女性はそうでない場合よりも近づく。男性の場合は悲しそうな人よりも幸せそうな人により近づく。男性も女性も恐れの表情を見ると、より離れた距離を保つ。2人の人間が感情的に激しい議論を戦わせている時には、そうでない時に比べその2人の間を通り抜けようとする人は少なくなる。 
➔ある研究で、男子大学生達は実験に遅れたとして叱られた。実は誰も遅れていなかった実験参加者たちは、実験者に「登録用紙に時間通りに来るよう書いてあるだろう、どうしたんだ、字が読めないのか?」と言われた。
➪侮辱を受けた被験者は、侮辱されなかった被験者よりも大きなパーソナル・スペースを選択した。
批判や侮辱は嫌悪に結びつき、距離の増加につながる。この大きなパーソナル・スペースは侮辱を行った人が相手である場合にのみ示され、他の人が相手である場合には被験者たちは大きな範囲を示すことはなかった。





(6)恐れと安全
 人々は安全であると感じているときには近い距離を選択し、安全でないあるいは怖いと感じるときには大きな距離を選択する。
➔例えば、知らない相手について、非犯罪者、暴力的でない犯罪者、暴力的な犯罪者であると聞かされると、その順に、より大きな距離を選択するようになった。
➔身体の障害や他の目に見える傷あとは、他者からより大きな距離を保たれることにつながっている。被験者は、相手が精神障害患者、切断手術を受けた人、麻薬常習者、身体障害者(草イス使用者)、白杖使用者(視覚障害者)、同性愛者、そして太った人の場合に、より大きな距離を選択した。この大きな距離は、一部は不慣れなものに対する恐れに基づくのかもしれないし、一部は社会が望ましいものとする固定観念との違いに基づくのかもしれない。このような特徴をもつ人々は対人距離の増加に敏感である。彼らは、他者が親切に、たとえば道を聞かれて方向を示してくれていたとしても、大きな対人距離が選択されていれば、それを実は好意的でない態度の証拠として理解する。

(6)力と地位 
 一般に、地位が高い、あるいは低いと感じる相手に対し、大きな距離をとる(あるいは離れさせる)ことはあたりまえのこととなっている。
 例えば、キヤンパスの水飲み場のそばに高い地位の人物が立っているとき、そこに誰もいないときと比べ、通りかかった人がそれを使うことは少なくなるお。他の研究によれば、学生たちは仲間の学生とより近くに座り、より地位の高い人(教授たち)や地位の低い人(落第したと聞かされた学生)の両者からはより離れて座った。このようにパーソナル・スペースは地位の絶対値というよりも地位の違いに関係している。違いが大きければ、対人距離も大きくなる。
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